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第七章 かの地に導かれて
神官の記憶、真珠
セラフィス枢機卿は地面に手を翳すと、周辺に強固な赤黒い茨が渦を巻いて生える。
鋭利な棘を持ったそれは、敵を近づけさせない。
「燃やせ!」
フレイが大剣を茨に振り降ろす。振り下ろしたと同時に、燃える太陽のような赤い炎が迸る。
炎は赤黒い茨を燃やし尽くし炭にした。そのままセラフィス枢機卿に突進していく。フレイに燃やされるのを予想していたのだろう。
セラフィス枢機卿は、赤黒くも繊細な装飾が施された光の盾で、フレイの攻撃を弾き返す。文字通り攻撃を反射し、フレイの身体が大きく後ろに後退した。
先ほどから思っていたが、セラフィス枢機卿の魔法の実力が高い。魔法を作り出す速度が速く、どれも間髪入れずに発動する。魔法の組み合わせも絶妙で、次々と此方が嫌な攻撃をしてくる。
鎧騎士を単独で行動させていることと言い、魔力量も多いようだ。
フレイの攻撃が弾き返されているのを見ながら、ヒューズが左からセラフィス枢機卿に切り掛かる。セラフィス枢機卿はひょいッと微かに後ろに飛び去ると呟いた。
「霧」
セラフィス枢機卿の近くにいたヒューズが、後方へと大きく飛んだ。ヒューズがいた場所には、赤黒い粉の粒子が霧となって漂っている。いつも冷静なヒューズが、チッと舌打ちをしながら呟いた。
「……眠りの霧ですか。瞬時に出すとは、さすがですね。……小さい頃を思い出しますよ。」
ヒューズの言葉に、セラフィス枢機卿は一瞬だけ、目元に笑みを浮かべた。瞬き一つの瞬間には、表情が変わり地面から赤黒い衝撃波が円状に広がる。
「っ!クソ!」
「……やはり、バレていましたか。」
いつの間にかセラフィス枢機卿の背後にいた、ツェルとヴェスターの姿が現れる。闇魔法で姿を消して、ヴェスターが光のツタでセラフィス枢機卿を拘束しようとしたのだろう。
光のツタは先ほどの赤黒い衝撃波によって、見事に朽ちて光の粒となって消えた。
「……ヴェスター、貴方に光魔法を教えたのは私ですよ?隠れても魔力の動きは読み取れる。……流星群。」
天井から赤黒い光を纏った隕石が、スフェンたちの頭上にいくつも降り注ぐ。落ちてくるスピードも速く、まるで矢が降り注いでいるようだ。
スフェンが隕石の雨を風で吹き飛ばしながら、地面を蹴る。跳躍しながら、セラフィス枢機卿に剣を降り降ろした。
セラフィス枢機卿は、瞬時に赤黒い光の長剣を作り出し、カキンッ!とスフェンの長剣を受け止めた。
そのまま、刃を滑らせ攻撃を流すと、間合いを取ってスフェンと対峙する。
「……相変わらず、見事な魔法ですね。」
スフェンが苦々し気に口にした。その言葉を聞いたセラフィス枢機卿は、赤黒い剣を光に変えながら答えた。
「……スフェレライト殿下。貴方とは、戦いたくありませんでした……。こんな醜い姿を見せたくなかった……もし、ミカゲを渡してくれるのなら、命の保証はします。外に出すことはできませんが、この神殿で不自由なく生活を送れると約束しましょう。」
「……ミカゲをどうするつもりだ?」
「……そればかりは、私にも分かりません。邪神シユウの望みですから。」
そのセラフィス枢機卿の言葉に、スフェンの殺気が一気に鋭利さを増した。怒気を含んだ低い声は、猛獣が威嚇し牙を剥いて唸っているように感じる。
「誰が、最愛の人を差し出すか。ミカゲは、誰にも渡さない。」
「……何にも心が動じず、無表情だったあなたにも、大切な人ができたのですね……。こんな状況でなければ……。」
とても喜ばしく、嬉しいことなのに。
そんな言葉が聞こえてきそうだ。セラフィス枢機卿は、意を決したようにスフェンを見据えた。
「……残念でなりません。」
短い一言を言うと、セラフィス枢機卿が右手を正面に向けた。複数の赤黒い雷を帯びた球体が出現する。そのまま、右手を横に薙ぎ払うと、球体が弧を描いて放たれる。
球体は宙にふわりと浮かび、時間差でバチバチっと弾けた。ヴェスターが全員に結界を張って、赤黒い雷から身を守る。
俺は檻に背中を預け、体育座りのような体制をとる。
この姿勢であれば、皆のことがよく見える。
ふと、俺の視界を小さな白色の何かが落ちていった。
それは、上品な艶の宝玉。真珠だった。
一体、どこから?
純白の真珠は俺の胸の辺りに落ちた。
俺は真珠の落ちてきた、金色の鳥籠の天井を見上げた。天井からは、涙のように純白の宝玉が、ポタリ、ポタリと落ちて来ていた。
俺の胸に落ちた真珠が、白金色の粒子になって消えていく。その瞬間、自分の身体にピチャンッと、水滴が落ちたように、波紋が広がった。
波紋が広がって水面が落ち着くと、自分の頭の中に、何かの映像が入り込んでくる。
『こんな酷いことになるなら、あの子を行かせなければ良かった……。』
小さな棺を前に、泣き崩れる神官と子供たち。
可愛い彼女は、その賢さが貴族の目に止まった。
王都にある貴族の邸宅で侍女見習いになった。確かな血筋の、評判も至って真面目な貴族。
孤児院の皆で祝福して送り出した。
しかし、彼女は1年後に帰ってきた。
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当主の息子に乱暴をされ、辱しめを受けて。
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元々、身寄りのない孤児を侍女見習いにしたのは、後々の厄介事を回避するため。
貴族息子の性欲の捌け口にするため。
どうして、私は彼女をそのような地獄に、送ってしまったのか。
どうして、何も罪のない彼女が、こんな目に合わなければならないのか。
ピチャンッ。
また1つ、真珠が消えて、俺の中に水滴が落ちる。
『孤児の働き口なんて、探してもろくに無いんだよ。俺たちが態々、衣食住整った場所を斡旋したのさ。感謝されてもいいくらいだ。』
神官服を着た男達が、下卑た笑い声を上げながら話をしている。娼館から連れ戻した男の子は、精神的に崩壊していた。その数か月後、神殿で短い一生を終えた。
神官達の懐には、金貨の入った皮袋が見えた。
黙れ。あの子達を売って私腹を肥やした、
腐った大人たちが。
彼が何をしたというのだ。
孤児になったというだけで、辛いのに。
何で、こんな仕打ちを受けなければならない。
ピチャンッ。
『きつく躾けてやっただけだ。見習いは寝る間を惜しんで働くもんだろ。それで死んじまったんじゃ、そいつが元々弱かったのさ。』
筋骨隆々の男は、まるで他人事のように話をする。
違う。彼はよく笑う、年下思いの良い子だった。
こんなに痩せ細って、傷だらけになって。
ボロボロになるまで働かされたのか。
どうして。
幼い彼ら、彼女たちが何をしたというんだ?
彼らは何も悪いことをしていない。
ピチャンッ。
『少し女癖が悪いからって、こんな片田舎の神殿に追いやりやがって!平民が貴族に奉仕するのは当たり前だろーが!俺の御手付きになって女どもは感謝しろよな!』
癇癪を起こした、少年が地団駄を踏みながら叫んでいる。
片や罪を重ねたこの貴族の息子は、
傷1つ付かず、飢餓にも耐えることなく、
本当の苦しみも知らないまま。
のうのうと生き残っているというのに。
生まれが違うというだけで、こんなにも蔑ろにされるのか?
この世界は神などいない。
いるのなら、どうして。
何の罪のない人間に、枷をするのだ?
罪ある人間に、自由を与えるのだ?
白い真珠は、セラフィス枢機卿が赤黒い魔法を発する度に、1つ、また1つと落ちてくる。
これは、セラフィス枢機卿の記憶だ。
哀しみと後悔、深い懺悔の涙。
例えようのない、世界への怒り。
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