不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第七章 かの地に導かれて

魔石のネックレス



魔石を食らった生き物は、魔石に思考を奪われ、本来の姿を失い異形となる。つまり、魔石はそれほどまでに凶悪で、人体に影響を及ぼすということだ。


セラフィス枢機卿はネックレスにして、邪気を魔法に纏わせて攻撃している。人体に取り込むより影響は少ないだろうが、決して無傷ではないだそう。

今も外傷はないが、体内はどうなっているのか分からない。現に、セラフィス枢機卿の記憶は、こうして涙のように零れ落ちてしまっている。


『……コマ、ヒスイ、聞こえるか?』

『きこえるー!ミカゲ!』

『ぷにゃ』

試しに2人に声を掛ける。魔法は使えないが、無事に念話が出来てほっと息を吐く。俺は2人にある頼み事をした。


パーティーメンバー5人とセラフィス枢機卿の戦闘は、膠着状態だ。5人で連携して魔法や剣術を駆使しても、巧みな魔法で阻まれる。

なにより、くり出される魔法の1撃の威力が大きい。このまま魔法を回避し続け、相手の魔力枯渇を促す方法もあるが、セラフィス枢機卿の魔力が一向に減る様子がないのだ。
こちらが先に魔力枯渇になるだろう。


じりじりと間合いを縮めながら、5人が近づいていく。セラフィス枢機卿は5人を近づけさせまいと、赤黒い剣で斬撃を飛ばしていた。

斬撃は鞭のようにしなり、四方八方へと飛び交う。石の床が切り刻まれ、粉塵が舞った。


「……??」

突然、セラフィス枢機卿が訝し気に眉を寄せた。魔法で攻撃をしながら、周囲を見遣り注意深く探っている様子だ。

セラフィス枢機卿は一時だけ動きを止めると、瞬時に左肩辺りを右手で払う。


『うわぁあっ!』

何もない空間から、子犬になったコマが突然現れて、セラフィス枢機卿に飛びかかっていた。セラフィス枢機卿に右手で払われ、コマはキャンっ!と小さな悲鳴を上げ地面に放り出される。

コマが手で払われた瞬間、小さな白い何かがヒュンっ!と音を立ててコマから離れる。


『ぷにゃっ!!』


白いふわりとした体躯の生き物が、セラフィス枢機卿の項辺りを疾風のごとく通り過ぎた。
ピーンっと、張りつめたチェーンが切れる音が微かに聞こえ、銀色のチェーンが宙に舞う。


ヒスイがセラフィス枢機卿のネックレスを咥えこみ、チェーンを引き千切った。そのままネックレスを咥えこんで、スフェンのほうへと一目散に飛んでいく。


「…ぐっ、うぅっ……!。」

魔石の付いたネックレスを取られた瞬間、セラフィス枢機卿は胸を押さえて倒れ込むように蹲った。
穏やかな顔は苦悶の表情に変わり、顔色が急激に青ざめる。
はぁ、はぁと短く荒い呼吸を何度も繰り返していた。

やはり、魔石を使って身体を蝕まれているようだ。


ヒスイから魔石を受け取ったスフェンが、地面に魔石を置いた。長剣の切っ先を下に向け、魔石に一気振り下ろす。

キンッ、と空気が張りつめたような音が響き、赤黒い魔石に亀裂が入る。魔石の亀裂に、刃から出る白色の光が流れ込んでいく。魔石の中で白い光が邪気を絡めとり、透明になる。

 
パキンッ!

白色の光が収束していき、透明になった石は小さな音を立て粉々に砕けた。魔石が砕けると同時に、大広間にいた鎧騎士も砂となってサラサラと消えていく。


俺を囲っていた鳥籠が、パキパキと音を立てて壊れ始める。天井からはそのまま床に落ちそうになるところを、大きな黒狼になったコマが、背中に乗せて受け止めてくれた。


『うわーん!いたかったよー!!あとでいっぱいなでてー!』

コマが念話であとで甘えさせろとか、ゴハン美味しいのにして!とか、色々訴えてくる。その声に苦笑しながら、俺はコマの背中に頬擦りをした。

『痛い思いをさせてごめんな。ありがとう、コマ。……ヒスイもありがとうな。』

ヒスイは俺の声に『ぷにゃ』と反応した。今回はこの二人が頑張ってくれたお陰で、セラフィス枢機卿を傷付けることなく捕らえられた。

コマが闇魔法で、ヒスイとコマの存在を隠蔽。
元々二人は精獣のため人間には視えないし、気配も分からない。しかし、邪気を纏った魔石を持つセラフィス枢機卿には、感知される可能性があった。


そのため、コマの高度な闇魔法でより存在を消した。
そして、セラフィス枢機卿に近づき、ネックレスを奪ったのだ。


俺が二人にお願いしたのは、『セラフィス枢機卿のネックレスを奪い取る』こと。


このまま、セラフィス枢機卿との戦闘が続けば、どちらかに必ず被害が出る。誰かが命を落とすかも知れなかった。


変幻自在に大きさを変えれる二人なら、セラフィス枢機卿の魔法を掻い潜れると信じたのだ。危険なことだったが、二人は二つ返事で答えてくれた。
本当に頼もしくて、ありがたい。


蹲ったままでいるセラフィス枢機卿が、騎士団員に捕らえていた。ケホケホと咳をしたセラフィス枢機卿は、口から血を吐いている。両手には魔法封じの枷をかけられ拘束されていた。


「……重度の魔力枯渇か。あんなに高度な魔法を連発出来たのも、魔石の力があったからだな。」

スフェンがヒューズに肩を支えられながら、セラフィス枢機卿を見下ろし呟いた。そして、セラフィス枢機卿に尋ねる。


「……邪神シユウは何者だ。どこにいる……?」


セラフィス枢機卿は、俯いていた顔を上げた。その顔は、全てを悟ったような、落ち着いた表情だった。そして、おもむろに口を開く。

ゴホッと、咳をしながら、スフェンの問いにセラフィス枢機卿は答えた。


「……邪神シユウは……、教皇です。」



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