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第五章 それぞれの想い

動き出している世界

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僕たち遺跡の壊れた石柱を椅子代わりにして座った。全員が腰かけたのを見て、セルカ殿下が話し始める。


「……まずは、世界情勢の話をしよう。我が国は、ロイラック王国への侵攻を決定した。」

その言葉に、僕は息を飲んだ。ロイラック王国とラディウス国はお互い敵対していることは理解していたが、もはや戦闘は避けられないと言う事だ。


「……ロイラック王国からの亡命者はかなりの人数になった。国外への逃亡禁止命令が出ているが、それでも逃げ出す人が後を絶たない……あの国は、どのみち限界だ。」


僕は王宮の中でしか過ごしたことが無いから、ロイラック王国の生活の様子が一切分からなかった。


レイル曰く、鉱山資源が底を尽きてしまったロイラック王国は、国民への重税が凄まじいそうだ。国民は税を払えず土地は没収され、さらに休みなく働かされる。

貴族と王族だけが、国民の血税で贅沢な暮らしをしているのだ。


「ちょうど、我が国には王の圧政に反対した第三王子が亡命している。……その王子を新たな王にして、国を建て直させる予定だ。」

幸い、第三王子は聡明で人格者。第三王子を慕うロイラック王国の同士たちも一緒に亡命し、反旗を翻す準備をしているそうだ。


「……では、サエのことも私に教えてくれないか?サエは、ロイラック王国でどんな扱いを受けていたんだ?」


セルカ殿下の言葉に、僕はこの世界に来てからの経緯を全て話した。

自分は、ロイラック王国に召喚された異世界人で、召喚されて直ぐに首輪をつけられたこと。

呪いの宝珠である『暗黒の種』を飲まされ、暗黒魔術を使用できるようになり、王宮内に監禁されていたこと。ひたすら、暗黒魔術を魔石に流し込んでいたこと。


「……本当に、追い詰められたネズミは何を仕出かすか分からないな……。まさか、タブーである召喚魔法に手を出すとは……。」

僕の話を聞いたセルカ殿下は、美しい顔貌を忌々しげに歪めた。


「……レイルには話したが、実は数か月前にロイラック王国の近隣にある村で、住民たちが忽然と姿を消えた。そして、ロイラック王国内でも同様のことが起こっている……。」


召喚魔法には、膨大な魔力を必要とする。その魔力をどうやってロイラック王国が集めたのか……。セルカ殿下の話を聞いて、ぶるりと肌が粟立った。


僕の召喚のために、どれほどの命が犠牲になったのか。
言葉を発することもできないくらい、ショックだった。


隣に座るレイルがそっと僕の手を握ってくれる。無意識にカタカタと身体が震えていたようで、反対の手で肩をレイルに抱かれた。

暖かな体温に、少しだけ落ち着きを取り戻す。


「召喚魔法は世界の協定でタブーとされている。……以前召喚された異世界人が、怒りに任せて魔力を暴走させ、国1つを滅ぼした歴史があるんだ。」

異世界人は、世界を渡ってくるときに何かしらの能力を得るそうだ。その能力を狙って、昔は頻繁に異世界人を召喚魔法で召喚していたらしい。


でも、ある異世界人が無理矢理この世界に連れてこられた怒りを、魔力暴走と言う形で噴出させた。1国と近隣諸国の土地を焼け野原にしたそうだ。

その反省があって、各国は召喚魔法を使用してはいけないという決まりができたらしい。ロイラック王国は自国の利益のために、その掟を簡単に破ってしまった。


「……それに呪いの宝珠を人間に飲ませるなど、正気じゃない。遵従(じゅんじゅう)の首輪』に監禁……。サエ、本当に良く耐えてくれた……。」



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