悪役令嬢の兄のやり直し〜侯爵家のゴーストと呼ばれた兄ですが、せめて妹だけは幸せにしたいと思います〜

ゆう

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やり直し

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そして、ティアの婚約騒動が落ち着いたある日。

アリサにそろそろここの仕事を辞めようと思っていると打ち明けられた。

過去の記憶より早い退職の話に僕は固まってしまう。

「ど、どうして…?もう辞めてしまうの?」

年齢的にはとっくに辞めていてもおかしくなかった彼女だ。だからこんなことを言っていてはいけないのに、想定より早い別れに動揺を隠せない。

「いえね、もう私も歳ですし。」
「てっきり…もう1年は居てくれるものだとばかり…」

そう、前回はあと1年はいてくれたと記憶している。今回の方がうまく行っているはずなのになぜ早いのだろう。

過去でも彼女が辞めると言った時はまだここに居て欲しいと駄々をこねた記憶がある。今回は快く送り出そうと思っていたのだが、それがどうしてなかなかに難しい。

するとアリサは僕の手を包み込むように握った。

「坊っちゃんはティアお嬢様やテオ坊っちゃんとも上手くやっていますから、私がいなくても大丈夫ですよ。坊っちゃんが立派に成長されたおかげで、アリサは安心してここを去ることができます。」

その言葉に彼女が辞める時期が早まったわけを知る。むしろ、過去では僕のことが心配で長く居てくれたのだ。  

これは、もう引き止めることなどできない。僕は寂しさをぐっと飲み込んで顔を上げた。

「わかった…わがままを言ってごめん。今まで本当にありがとう。」
「こちらこそ、坊っちゃんのお世話をできたことは最大の幸せでした。最後の日まで、よろしくお願いしますね。」
「うん…こちらこそ、最後までよろしく。」

そうして僕は彼女の退職を受け入れた。



その後、僕はティアとテオにアリサのことを話した。長年お世話になった彼女に何がお礼がしたい。

色々話した結果、僕達は彼女の退職パーティーを開くことにした。

パーティーといっても僕たち3人を中心に、何人かの使用人たちと内輪で行うものなのでこじんまりしたものだが。それでも使用人たちは快く協力してくれて、僕ほど接点のなかった2人も準備に張り切ってくれる。


そしてアリサの最後の勤務日に、僕の部屋でささやかなパーティーを開催した。

部屋には花やタペストリーが飾られ、お茶やケーキも用意されている。いつもは殺風景な僕の部屋が、今日だけは随分と華やかだ。

彼女が侯爵邸で過ごす最後の日を特別なものにしたかった。

「アリサ、こっちにきて!」

ティアが彼女を僕の部屋へと連れてくる。そして、扉が開くと同時に僕達はクラッカーを鳴らした。

「「「アリサ、今までお世話になりました!!」」」

みんなで彼女を迎え入れれば、ティアに引っ張られる形で目をぱちくりさせているアリサが部屋へと入ってきた。

「これは…」
「アリサ、今まで本当にありがとう。」

まだ驚いている彼女に、用意しておいた花束を渡す。

「まあ、坊っちゃん…」
「僕、アリサがいてくれて本当に良かった。僕にとっての母親はあなたでした。それなのに、たくさん迷惑をかけてごめんなさい。これからはどうか自分のために時間を使ってね。」

そうしてさらに用意しておいたプレゼントを渡す。

それはガラス細工の付いた写真立てだ。できることなら今日の写真を飾って、たまにで良いから僕達のことを思い出してほしい。そう思ってこれを選んだ。

最後までわがままなことだが、僕から包みを受け取り中身を確認した彼女は、くしゃっと笑って「素敵なプレゼントをありがとうございます。」と言ってくれた。

そして、ティアやテオ、他の使用人たちも各々が用意したプレゼントを渡していく。

「まさかこんな風に祝っていただけるなんて。とても嬉しいわ。」

言葉通り嬉しそうな様子の彼女にパーティーを開いてよかったと心から思った。

過去では迷惑をかけてばかりで、ついに彼女に何かお返しすることもなく別れの日が来てしまったから、ずっと後悔していたのだ。

ここにいるアリサは前世の彼女とは違うかもしれないが、それでも最後に笑顔にすることがでた。僕はほんの少し恩返しができたような気がして、嬉しそうに皆に囲まれている彼女を眺めた。


そして、皆でケーキを食べ談笑した後、屋敷を去る彼女を見送りに出る。僕は、ついにアリサがここからいなくなってしまうということをどこか現実でないように感じながら、彼女が馬車に荷物を乗せていく様子を眺めた。

そして馬車に荷物を置いた彼女が最後にこちらを振り返り、僕に声をかけた。

「坊っちゃん。」
「どうしたの?」
「坊っちゃんにこれを。」

そう言って手渡されたのは深い青色のリボンだった。白の刺繍が施されているのはアリサの手製だろうか。

「坊っちゃんは境遇にも負けず立派に育って下さって、アリサの誇りでした。どうかこれからも胸を張って生きてくださいね。それと、とても綺麗な髪なのですから、もう少しオシャレをしてください。」

最後に付け加えられた言葉に、これが髪紐なのだとわかる。

「ありがとう…毎日つけるよ。」

僕はなんとかそう答えて髪紐をぎゅっと握り締めた。

前世の時だって彼女は僕を大切に想ってくれていたはずなのだ。それなのに僕は、胸を張って生きるどころか、生き残る選択肢すら棒に振った。

そのことにひしひしと罪悪感が湧き起こる。だが、だからこそ今世では精一杯、自分を愛してくれた人たちを悲しませないよう生きようと思う。

そして僕達は馬車に乗り込んだアリサを、その姿が侯爵邸から見えなくなるまで見送った。


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