【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう

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ウェス編

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ーー20年前。


瞼が重い。
空腹とあちこちにできた傷の痛みで意識を保っているのがやっとだ。


「こんなところにも被害が出ていたとは…」
「ええ、人間たちの進軍がかなり進んでいます」

ふと大人たちの声が聞こえる。
俺に気づいたら助けてくれるだろうか…

そう思って残りの力を振り絞って手ーーではなく羽を伸ばす。


「ん?これは…」

するとよく見えないその人は俺はを掬い上げて掌に乗せた。

「蝙蝠型の下級悪魔ですか。どうやらまだ生まれたばかりのようですね。小さいから見落とされたのでしょう」
「そうか…帰って手当てをしよう」
「魔王様、そのような下級悪魔なら放っておいても」
「いや、せっかく生き残ってくれていたのだ。怪我が治るまでは面倒を見よう」
「…かしこまりました」

その低い声は優しくて、どうやら俺のことを助けてくれるのだということだけはわかった。

そして、安心した俺は眠りに落ちていった。


ーーー

次に目が覚めると豪華な部屋にいた。

「目が覚めたか」 

その声が俺を掬い上げてくれた人のものだとわかる。
黒い髪を背まで伸ばした姿はとても美しく、紫の瞳は優しく俺を見つめていた。

喋ることができない俺は、その人の指に頭を擦り付けることで答えた。

「ふふ、下級悪魔といっても可愛いものだな」

そう言ったその人は指で俺はの頭を撫でる。それがとても気持ちいい。

「お前…いや、名前がないと不便だな。そうだお前のことは今日からウェスと呼ぼう。良いな?」

俺は再び頭を擦り付けて答えた。


それからというもの、その人は甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた。
一緒に過ごすにつれ、その人がディニス様という名前だということを知る。

ディニス様は魔王様とも呼ばれていた。
古くから人間と魔族は戦いを続けていて、その魔族側の王様が魔王様なのだと言う。

ちなみに悪魔は魔族の下に位置する精霊にも近い生き物だ。俺はその悪魔、といっても力も弱く知能もあまりない下級悪魔、の分類になるらしい。

「お前と話ができたら良いのにな」 

度々そう言いながら俺を撫でるディニス様に、俺も彼と話ができるようになりたいと思った。



そう願い続けて数年ーー

「でぃ、に、す、さま?」
「そうだ!ウェス、お前喋れるようになったのか?」

俺は声を出せるようになった。まだたどたどしくて慣れないけれど、嬉しそうなディニス様の声を聞いていると頑張ってよかったと思える。

「ウェスは凄いな。よく頑張った」

優しげな声が心地よく響く。愛おしそうに頭を撫でてくれる彼にもっともっと褒められたいと思った。

そうして俺は、少しでもディニス様に近づきたいと願うようになった。


ーーそれから更に数年後。

俺は半分人型になることに成功していた。手足は元の蝙蝠の姿のままだが、それ以外は人の姿だ。

黒髪に赤い瞳の姿となった自分を見る。ディニス様と同じ黒髪になれたことが嬉しくて、彼と同じように伸ばしている最中だ。

そんな時、ディニス様が通りがかった。

「ディニス様!」
「どうしたウェス」

彼は側近たちと話をしていたようだが、ディニス様と会えたのが嬉しくてつい場も弁えず話しかけてしまった。

だが別に用があったわけではない。ディニス様に首を傾げられた俺は慌てて話題を探す。

「えっと…今日は人間たちの生態について習ったんです!母親と父親から子供ができるんだって」
「そうか。ウェスは一生懸命学んでいるな」

ディニス様はそう言って優しく頭を撫でてくれる。

「えへへ。それで…ディニス様は俺のお母さまですか?」

気になったことを何とは無しに聞いてみる。
するとディニス様も側近の人たちも驚いたような表情で固まってしまった。

「ふ、あはははは!!それはどうだろうな」

その沈黙を破るようにディニス様が笑った。

俺にはなぜ彼がそんなに笑うのか分からなかったけど、ディニス様が楽しそうならそれでいいと思った。

「ウェスはどっちがいい?私に母になってほしいか?」

やっと落ち着いたディニス様が面白そうに尋ねてきた。

「俺は…ディニス様がお母さまというものだったら凄く嬉しいです」

母親とは無条件で子供を愛するらしい。そう習ったのでディニス様がそうだっら良いなと思ったのだ。

「そうか。なら私はウェスの母になろう」
「ディニス様!!たかが下級悪魔を息子となどと言ってはなりません!」 

側近の人が慌てたように怒っているけれど、とにかく俺はディニス様が母親になってくれたことが嬉しかった。

「ありがとう、ディニス様!」
「ほら、愛おしいウェス。今日は部屋に戻りなさい」 

そうして俺は彼に促されるまま部屋に戻った。
こんな日々はすぐ終わりを迎えるとは知らずに…
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