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ディニス編
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それからというもの、私はウェスを避け、冷たく接した。
彼が「ディニス様、ディニス様」と寄ってきても、無視をして、それでも諦めないときは「邪魔だ」と言い放った。
心を鬼にすると誓ったものの、冷たくするたびに傷ついたような顔をするウェスを見ると心が痛んだ。
ウェスもウェスで、もう私に寄って来なければいいものを、私を見ると顔を輝かせて話しかけてくる。
さすがに毎日のことなので、彼も私に無視されるとわかっているはずだ。
それにも関わらず変わらず私を慕い続けるウェスに、本当はこんなことはしたくないのだと、お前を守るためにやっているのだと言い訳したくなる。
「ディニス様、効果が出ているようですよ。ウェスの体にできる傷がだいぶ減りました」
そう嬉しそうに報告してくるソロンに疲れた顔で「そうか」と頷く。
「だが、減っただけか…」
私がウェスに構ってやれない代わりに、治療などはソロンに頼んでおいた。そしてその様子を定期的に報告させている。
「もうひと踏ん張りですよ。ですが…今度は別の問題が上がっていまして…」
「別の問題?」
「ええ、ウェスがディニス様に飽きられたのなら、もう彼を魔王城に置いておくべきではないと言う魔族たちが増えはじめたんです」
「はぁ…次から次へと…」
確かにこの城に住めるのは実力があり常に魔王の側にいることが求められる高位魔族たちばかり。ウェスは会議に参加することもなければ戦闘に出ることもないので、その意見はもっともなのだが…
「いっそウェスを市井へ降しては?彼もその方が馴染むはずです」
「それは…嫌だ」
今の状況でウェスを魔王城に引き止めることは味方のいない針の筵のような場所にあの子を置き続けているのだと理解はしている。
それでも毎日「ディニス様」と駆け寄ってくる彼を見るのは私にとって唯一の癒しだった。
「そうだ、なら爵位をやろう」
要は彼がここに居続けられるだけの口実があれば良いのだ。そう考えた私は、ウェスに爵位を与えることにした。そこそこ地位が高くて責任が重くない爵位…伯爵位で良いか。
「あまりいい案とは思えませんけどね」
そう渋い顔で言ったソロンを無視し、さっそく爵位を与えるためウェスを呼び出した。
「俺に伯爵位を?」
やってきたウェスが首を傾げる。18歳になったウェスは見た目こそ大人っぽくなったが、仕草は幼なげで庇護欲をそそった。
「そうだ。お前も大きくなったから、責任ある立場を任せようと思う」
適当な理由をつけてそう伝えれば、彼は伺うように私を見上げた。
「俺なんかに…いいのですか?」
私が冷たく接しても依然として懐いてくるウェスだが、最近はその中に怯えと卑下が混ざるようになった。
彼も周りの態度が自分を嫌悪するものだと気づいたのだろう。そして…
(私に拒絶されることへの恐怖、か…)
その態度が悲しくはあったが、同時に恐れてもなお私に好かれたいのだという健気さを愛しく思っている自分がいた。
「良い。お前もこのくらいの爵位は持っていた方がいいだろう」
だが、そんな気持ちは微塵も感じさせないよういつも通り冷たく接する。この態度もすっかり板についてきたもので、むしろ昔はどのように接していたのだか思い出せないほどだ。
「分かりました。その爵位に見合う働きができるよう頑張ります!」
こんなに冷たくしているのにも関わらず、私の期待に応えようとするウェスに胸が痛んだ。だが…
「…お前に働きは期待していない。大人しく過ごせ」
私にはそう返すことしかできなかった。
ただ、この言葉は本心でもある。
ウェスに何かをさせたくて爵位を与えたわけではない。これはただ、ウェスを城から追い出せと言う魔族たちを黙らせるための形だけのもの。
ウェスは何もせずここに居てくれたらそれで良い。
肩を落として退室していく彼の背中を眺めながら、私はそう思っていた。
彼が「ディニス様、ディニス様」と寄ってきても、無視をして、それでも諦めないときは「邪魔だ」と言い放った。
心を鬼にすると誓ったものの、冷たくするたびに傷ついたような顔をするウェスを見ると心が痛んだ。
ウェスもウェスで、もう私に寄って来なければいいものを、私を見ると顔を輝かせて話しかけてくる。
さすがに毎日のことなので、彼も私に無視されるとわかっているはずだ。
それにも関わらず変わらず私を慕い続けるウェスに、本当はこんなことはしたくないのだと、お前を守るためにやっているのだと言い訳したくなる。
「ディニス様、効果が出ているようですよ。ウェスの体にできる傷がだいぶ減りました」
そう嬉しそうに報告してくるソロンに疲れた顔で「そうか」と頷く。
「だが、減っただけか…」
私がウェスに構ってやれない代わりに、治療などはソロンに頼んでおいた。そしてその様子を定期的に報告させている。
「もうひと踏ん張りですよ。ですが…今度は別の問題が上がっていまして…」
「別の問題?」
「ええ、ウェスがディニス様に飽きられたのなら、もう彼を魔王城に置いておくべきではないと言う魔族たちが増えはじめたんです」
「はぁ…次から次へと…」
確かにこの城に住めるのは実力があり常に魔王の側にいることが求められる高位魔族たちばかり。ウェスは会議に参加することもなければ戦闘に出ることもないので、その意見はもっともなのだが…
「いっそウェスを市井へ降しては?彼もその方が馴染むはずです」
「それは…嫌だ」
今の状況でウェスを魔王城に引き止めることは味方のいない針の筵のような場所にあの子を置き続けているのだと理解はしている。
それでも毎日「ディニス様」と駆け寄ってくる彼を見るのは私にとって唯一の癒しだった。
「そうだ、なら爵位をやろう」
要は彼がここに居続けられるだけの口実があれば良いのだ。そう考えた私は、ウェスに爵位を与えることにした。そこそこ地位が高くて責任が重くない爵位…伯爵位で良いか。
「あまりいい案とは思えませんけどね」
そう渋い顔で言ったソロンを無視し、さっそく爵位を与えるためウェスを呼び出した。
「俺に伯爵位を?」
やってきたウェスが首を傾げる。18歳になったウェスは見た目こそ大人っぽくなったが、仕草は幼なげで庇護欲をそそった。
「そうだ。お前も大きくなったから、責任ある立場を任せようと思う」
適当な理由をつけてそう伝えれば、彼は伺うように私を見上げた。
「俺なんかに…いいのですか?」
私が冷たく接しても依然として懐いてくるウェスだが、最近はその中に怯えと卑下が混ざるようになった。
彼も周りの態度が自分を嫌悪するものだと気づいたのだろう。そして…
(私に拒絶されることへの恐怖、か…)
その態度が悲しくはあったが、同時に恐れてもなお私に好かれたいのだという健気さを愛しく思っている自分がいた。
「良い。お前もこのくらいの爵位は持っていた方がいいだろう」
だが、そんな気持ちは微塵も感じさせないよういつも通り冷たく接する。この態度もすっかり板についてきたもので、むしろ昔はどのように接していたのだか思い出せないほどだ。
「分かりました。その爵位に見合う働きができるよう頑張ります!」
こんなに冷たくしているのにも関わらず、私の期待に応えようとするウェスに胸が痛んだ。だが…
「…お前に働きは期待していない。大人しく過ごせ」
私にはそう返すことしかできなかった。
ただ、この言葉は本心でもある。
ウェスに何かをさせたくて爵位を与えたわけではない。これはただ、ウェスを城から追い出せと言う魔族たちを黙らせるための形だけのもの。
ウェスは何もせずここに居てくれたらそれで良い。
肩を落として退室していく彼の背中を眺めながら、私はそう思っていた。
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