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巻き戻し
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「ウェス、辛いことはないか?魔族たちに虐められたりしていないか?」
「何を言ってるんですかディニス様。そんなのあるわけないでしょう?」
1度目に死んだ時と同じ歳の頃になったウェスは笑いながら私の問いに答えた。今の彼からしたら、一体私は何を言っているんだと感じているようだ。
「そうか。それなら良かった」
私は彼の返事に安堵して頭を撫でてやる。
「ディニス様、俺もう子供じゃないんですが…」
「嫌か?」
「嫌ではない、ですけど…なんか気恥ずかしい」
そう言って少し顔を赤くしながら頰をかいたウェスに、ああ…この頃も優しくしてやっていれば彼はこんな反応を見せてくれたのか、と1度目のウェスを想った。
「ディニス様?どうかしました」
「いや、なんでもない」
遠い記憶に心を飛ばしていた私を、今のウェスが呼び戻す。
「今お前は幸せか?」
「ディニス様、今日はなんだか変ですね。俺は幸せですよ。まぁちょっと退屈ですけどね」
そう気さくに笑った彼に「そうか」と頷き返した。
そして、ウェスの時間を戻してから30年の月日が経った。
下級悪魔の寿命は30年程度。
その例に漏れずウェスは次第に弱っていった。
「ウェス、何か食べたいものはあるか?」
最近ではベッドに横たわっていることが多くなった彼に優しく話しかける。
「ディニス様…そんなに俺にばかり構わなくて良いんですよ。魔王としての仕事もあるでしょう?」
「いいんだ。私がこうしたいのだから」
「ふふっ、なら何か果物が食べたいです。ディニス様も一緒に…」
「ああ、分かった。すぐに用意させよう」
そして最後のひと時を共に過ごす。今のウェスの状況は、1度目の彼の最後とは似ても似つかない。それでも、サラサラとした灰が舞うたびあの別れを思い出す。
もうすぐ、このウェスともお別れの時だ…
そう思うとまだ目の前に彼がいるというのに泣きそうになる。
「ディニス様?気が早いですよ…その涙は俺が死んだときに取っておいてください」
そう言ってウェスは弱々しく笑った。
「まあ、そんなに悲しんでもらえて嫌な気はしないですけどね」と付け加えて。
「泣いてなどいない。お前の見間違えだ」
「ええ?そうですか」
「そうだ」
「ふふっ、じゃあそういう事にしておきます」
そして私は毎日ウェスを見舞い、他愛のない話をして過ごした。彼が眠るように息を引き取るその日まで…
「…もう逝ってしまうのか。なんと短い」
私は目を閉じたままベッドに横たわるウェスの髪をそっと撫でながらそう呟いた。
「今世はどうだった?幸せだっただろうか」
そう問いかけると、彼の死に顔が心なしか微笑んでいるように見えた。
「…ディニス様」
時間を忘れてウェスの亡骸に付きそっていた私を慣れ親しんだ声が呼び戻した。
「レヴォンか」
「はい。ウェスは息を引き取りましたか…今回は幸せだったようですね」
「そう思うか?」
「ええ、この顔を見れば誰だってそう思います」
近くまで来た唯一の側近はウェスの顔を見てそんなことを言う。
「そうか…」
私は涙が溢れそうになるのをグッと堪えて灰になりかけている彼の頬を撫でた。
「それで…もう何日も彼に付き添っていますが魔族達が心配しています。そろそろ彼から離れてはどうです?埋葬でもしてやって…」
「…いや、彼が灰になったらもう一度魔法の準備をしてくれ」
レヴォンの言葉を遮り淡々とこの後のことを告げる。
「ディニス様!?何を仰っているのか分かっているのですか?世の理りを捻じ曲げる禁忌魔法はあなたにとっても負担だということを」
レヴォンがもっともな怒りを露わにする。だが私にはもうウェスがいない生活は考えられないのだ。
「ああ、もちろん分かっている。一度使った時点で私も輪廻の輪からは外れ、力も奪われるように衰えてきた。私が魔王でいるのも後少しの間だろう」
「なら…!」
「それでも…私が生きている間はウェスにも生きていてほしいのだ」
「どうして、そんなに…」
レヴォンが珍しく感情を露わにして辛そうな声を出す。
「済まない…お前には苦労をかけた。ウェスの時間を戻巻きしたら、私はあの子と城を去ろう。そして次の魔王にお前を指名する」
「ディニス様…分かりました。お心のままになさってください」
私が諦めることはないと知ってか、レヴォンは暗い顔で頷いた。
そして…
私は再び禁忌魔法を使った。
「何を言ってるんですかディニス様。そんなのあるわけないでしょう?」
1度目に死んだ時と同じ歳の頃になったウェスは笑いながら私の問いに答えた。今の彼からしたら、一体私は何を言っているんだと感じているようだ。
「そうか。それなら良かった」
私は彼の返事に安堵して頭を撫でてやる。
「ディニス様、俺もう子供じゃないんですが…」
「嫌か?」
「嫌ではない、ですけど…なんか気恥ずかしい」
そう言って少し顔を赤くしながら頰をかいたウェスに、ああ…この頃も優しくしてやっていれば彼はこんな反応を見せてくれたのか、と1度目のウェスを想った。
「ディニス様?どうかしました」
「いや、なんでもない」
遠い記憶に心を飛ばしていた私を、今のウェスが呼び戻す。
「今お前は幸せか?」
「ディニス様、今日はなんだか変ですね。俺は幸せですよ。まぁちょっと退屈ですけどね」
そう気さくに笑った彼に「そうか」と頷き返した。
そして、ウェスの時間を戻してから30年の月日が経った。
下級悪魔の寿命は30年程度。
その例に漏れずウェスは次第に弱っていった。
「ウェス、何か食べたいものはあるか?」
最近ではベッドに横たわっていることが多くなった彼に優しく話しかける。
「ディニス様…そんなに俺にばかり構わなくて良いんですよ。魔王としての仕事もあるでしょう?」
「いいんだ。私がこうしたいのだから」
「ふふっ、なら何か果物が食べたいです。ディニス様も一緒に…」
「ああ、分かった。すぐに用意させよう」
そして最後のひと時を共に過ごす。今のウェスの状況は、1度目の彼の最後とは似ても似つかない。それでも、サラサラとした灰が舞うたびあの別れを思い出す。
もうすぐ、このウェスともお別れの時だ…
そう思うとまだ目の前に彼がいるというのに泣きそうになる。
「ディニス様?気が早いですよ…その涙は俺が死んだときに取っておいてください」
そう言ってウェスは弱々しく笑った。
「まあ、そんなに悲しんでもらえて嫌な気はしないですけどね」と付け加えて。
「泣いてなどいない。お前の見間違えだ」
「ええ?そうですか」
「そうだ」
「ふふっ、じゃあそういう事にしておきます」
そして私は毎日ウェスを見舞い、他愛のない話をして過ごした。彼が眠るように息を引き取るその日まで…
「…もう逝ってしまうのか。なんと短い」
私は目を閉じたままベッドに横たわるウェスの髪をそっと撫でながらそう呟いた。
「今世はどうだった?幸せだっただろうか」
そう問いかけると、彼の死に顔が心なしか微笑んでいるように見えた。
「…ディニス様」
時間を忘れてウェスの亡骸に付きそっていた私を慣れ親しんだ声が呼び戻した。
「レヴォンか」
「はい。ウェスは息を引き取りましたか…今回は幸せだったようですね」
「そう思うか?」
「ええ、この顔を見れば誰だってそう思います」
近くまで来た唯一の側近はウェスの顔を見てそんなことを言う。
「そうか…」
私は涙が溢れそうになるのをグッと堪えて灰になりかけている彼の頬を撫でた。
「それで…もう何日も彼に付き添っていますが魔族達が心配しています。そろそろ彼から離れてはどうです?埋葬でもしてやって…」
「…いや、彼が灰になったらもう一度魔法の準備をしてくれ」
レヴォンの言葉を遮り淡々とこの後のことを告げる。
「ディニス様!?何を仰っているのか分かっているのですか?世の理りを捻じ曲げる禁忌魔法はあなたにとっても負担だということを」
レヴォンがもっともな怒りを露わにする。だが私にはもうウェスがいない生活は考えられないのだ。
「ああ、もちろん分かっている。一度使った時点で私も輪廻の輪からは外れ、力も奪われるように衰えてきた。私が魔王でいるのも後少しの間だろう」
「なら…!」
「それでも…私が生きている間はウェスにも生きていてほしいのだ」
「どうして、そんなに…」
レヴォンが珍しく感情を露わにして辛そうな声を出す。
「済まない…お前には苦労をかけた。ウェスの時間を戻巻きしたら、私はあの子と城を去ろう。そして次の魔王にお前を指名する」
「ディニス様…分かりました。お心のままになさってください」
私が諦めることはないと知ってか、レヴォンは暗い顔で頷いた。
そして…
私は再び禁忌魔法を使った。
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