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巻き戻し
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彼を看取った後、言い知れぬ寂しさが私を襲う。
私は一刻も早くウェスと再会したくて、もう手慣れてしまった禁忌魔法を唱えた。
彼が私のことを覚えていなくても、それでもまた彼に会いたい。
…いや、本当は覚えていてほしかった。1度目から3度目まで全ての人生を。
1度目のことを謝りたかった。
2度目は幸せだったか聞きたかった。
3度目は感謝を伝えたかった。
ウェスのために彼の時間を戻しているのではない。これは全て自分のため…
こんなことをしてもウェスにはなんの得もない。1度目の苦しみが消えるわけじゃない。
それでももう一度、私は手の平に乗る彼を胸に抱きしめた。
だが…
自分の体に違和感を感じる。力が入らず、よろよろと座り込む。
どうやら魔力が底を尽きかけているようだ。
その時感じたのは死への恐怖ではなく安堵だった。
(もしかしたら、今度はウェスと共に逝けるかもしれない)
そんな気持ちを抱いて私は小さなウェスを胸に抱いて眠った。
流石に同じ町へはいられなかった私たちは、今度は海の見える港町へと移り住んだ。
そういえばウェスは海を見るのは初めてではなかっただろうか。
そんなことを考えながら小さな彼を度々海辺へ連れていった。
だが、彼は水は嫌いなのか頑に海に近づこうとはしなかった。そんな初めての発見が面白くて、まだまだウェスについて知らないことがあるのだと思い知る。
そしてウェスを抱きしめて海を眺めるのが日課となった。…正確には、それ以上のことができなくなっていたのだが。
喋れるようになったウェスは元気いっぱいだったが、もう今の私には彼の遊び相手は務まらない。
「ディー、大丈夫?」
まだ幼い顔立ちのウェスが心配そうに私を見上げる。
そんなに顔色が悪かっただろうかと思い自分の顔を鏡で見る。
そこには昔に比べずいぶん痩せた自分が映っていた。
「今日は俺がご飯を作るからね」
そう言って笑うウェスに申し訳ない気持ちになる。
「ああ、それは楽しみだな。ありがとう」
だが、今の私にはそう微笑むことしかできなかった。
そうしてウェスが甲斐甲斐しく私の世話を焼くようになり、彼も大人と言える年齢になった。
「ディー!またそんなに動いて、体は大丈夫なの?俺がディーを養うから、ちゃんと静養してなきゃ」
「ウェスは頼もしいな。でもこれくらいは大丈夫だ」
これまでの生活では私がなんでも魔術でやっていたが、それが出来なくなり、私の代わりにウェスが働きに出始めた。
そして、私が保護者という立ち位置を外れたからか、今度の私たちの関係はなんとも甘いものになった。
「ウェス、お前もあまり無理をするなよ」
「ふふっ、ディーは心配性なんだから。俺は元気だから大丈夫だよ」
そう、私たちは恋人になったのだ。
ウェスが意を決したように告白してきた日を今でも思い出す。
まさか、自分の子供のように可愛がってきた彼に恋愛の対象として見られるようになるなんて…
不思議な気分だったが、悪い気はしなかった。それどころか、こうなることを待ち望んでさえいたような気分だ。
ウェスに甘やかされるとなんだかくすぐったいような感じがする。今までの彼もこんな気分だったのだろうか。
体は思うように動かなくなってもどかしいというのに、不思議と今回がが一番幸せなのではないかとも思えた。
だが、そんな日ですら終わりが近づいてきた。
「ごめんね、ディー。俺が先に動けなくなるなんて…」
寿命が近づいてきたウェスはギリギリまで働いたが、とうとう動けなくなってしまった。
またしても私より先に逝こうとしているウェスに、身を切られるような痛みを感じる。
「いや、私こそいつも世話を焼いてもらってばかりで済まなかった。今度は私がお前の面倒をみるよ…だからゆっくり休んでくれ」
2人して横たわっているわけには行かない。今度は私が動かなくなった体を無理やり起こしてウェスの面倒を見た。
「ディーも無理をしないで。俺は横になってれば大丈夫だから…」
弱々しくそう言った彼の手をそっと握る。今までの4回の経験で、もう彼の命はもって数日だろうということが分かる…分かってしまう。
私は泣きそうになりながら、死ぬのを待つばかりのウェスの隣でずっと手を握っていた。
この手を離したらウェスが逝ってしまいそうで、もう4度目だと言うのに、いや、4度目だからこそその瞬間が怖くて仕方なかった。
だが、そんな思いも虚しく、ウェスは「置いていってごめんね」と言って静かに息を引き取った。
私は一刻も早くウェスと再会したくて、もう手慣れてしまった禁忌魔法を唱えた。
彼が私のことを覚えていなくても、それでもまた彼に会いたい。
…いや、本当は覚えていてほしかった。1度目から3度目まで全ての人生を。
1度目のことを謝りたかった。
2度目は幸せだったか聞きたかった。
3度目は感謝を伝えたかった。
ウェスのために彼の時間を戻しているのではない。これは全て自分のため…
こんなことをしてもウェスにはなんの得もない。1度目の苦しみが消えるわけじゃない。
それでももう一度、私は手の平に乗る彼を胸に抱きしめた。
だが…
自分の体に違和感を感じる。力が入らず、よろよろと座り込む。
どうやら魔力が底を尽きかけているようだ。
その時感じたのは死への恐怖ではなく安堵だった。
(もしかしたら、今度はウェスと共に逝けるかもしれない)
そんな気持ちを抱いて私は小さなウェスを胸に抱いて眠った。
流石に同じ町へはいられなかった私たちは、今度は海の見える港町へと移り住んだ。
そういえばウェスは海を見るのは初めてではなかっただろうか。
そんなことを考えながら小さな彼を度々海辺へ連れていった。
だが、彼は水は嫌いなのか頑に海に近づこうとはしなかった。そんな初めての発見が面白くて、まだまだウェスについて知らないことがあるのだと思い知る。
そしてウェスを抱きしめて海を眺めるのが日課となった。…正確には、それ以上のことができなくなっていたのだが。
喋れるようになったウェスは元気いっぱいだったが、もう今の私には彼の遊び相手は務まらない。
「ディー、大丈夫?」
まだ幼い顔立ちのウェスが心配そうに私を見上げる。
そんなに顔色が悪かっただろうかと思い自分の顔を鏡で見る。
そこには昔に比べずいぶん痩せた自分が映っていた。
「今日は俺がご飯を作るからね」
そう言って笑うウェスに申し訳ない気持ちになる。
「ああ、それは楽しみだな。ありがとう」
だが、今の私にはそう微笑むことしかできなかった。
そうしてウェスが甲斐甲斐しく私の世話を焼くようになり、彼も大人と言える年齢になった。
「ディー!またそんなに動いて、体は大丈夫なの?俺がディーを養うから、ちゃんと静養してなきゃ」
「ウェスは頼もしいな。でもこれくらいは大丈夫だ」
これまでの生活では私がなんでも魔術でやっていたが、それが出来なくなり、私の代わりにウェスが働きに出始めた。
そして、私が保護者という立ち位置を外れたからか、今度の私たちの関係はなんとも甘いものになった。
「ウェス、お前もあまり無理をするなよ」
「ふふっ、ディーは心配性なんだから。俺は元気だから大丈夫だよ」
そう、私たちは恋人になったのだ。
ウェスが意を決したように告白してきた日を今でも思い出す。
まさか、自分の子供のように可愛がってきた彼に恋愛の対象として見られるようになるなんて…
不思議な気分だったが、悪い気はしなかった。それどころか、こうなることを待ち望んでさえいたような気分だ。
ウェスに甘やかされるとなんだかくすぐったいような感じがする。今までの彼もこんな気分だったのだろうか。
体は思うように動かなくなってもどかしいというのに、不思議と今回がが一番幸せなのではないかとも思えた。
だが、そんな日ですら終わりが近づいてきた。
「ごめんね、ディー。俺が先に動けなくなるなんて…」
寿命が近づいてきたウェスはギリギリまで働いたが、とうとう動けなくなってしまった。
またしても私より先に逝こうとしているウェスに、身を切られるような痛みを感じる。
「いや、私こそいつも世話を焼いてもらってばかりで済まなかった。今度は私がお前の面倒をみるよ…だからゆっくり休んでくれ」
2人して横たわっているわけには行かない。今度は私が動かなくなった体を無理やり起こしてウェスの面倒を見た。
「ディーも無理をしないで。俺は横になってれば大丈夫だから…」
弱々しくそう言った彼の手をそっと握る。今までの4回の経験で、もう彼の命はもって数日だろうということが分かる…分かってしまう。
私は泣きそうになりながら、死ぬのを待つばかりのウェスの隣でずっと手を握っていた。
この手を離したらウェスが逝ってしまいそうで、もう4度目だと言うのに、いや、4度目だからこそその瞬間が怖くて仕方なかった。
だが、そんな思いも虚しく、ウェスは「置いていってごめんね」と言って静かに息を引き取った。
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