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本編

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今日は日曜で家族と教会に行く日だ。俺は事前に買っておいたロールケーキの箱をローブの中に隠し持った。
ザックに色んなものを食べさせたい。そう思って、最近は教会に行く度に違う食べ物を持って行っている。

カインは俺がカインから贈られたローブを着ているのを見てニコニコしながら横を歩いている。
そして、馬車に乗れば驚いたことに両親からも声をかけられた。


「テイト、そのローブ素敵ね。」

「ああ、似合っている。」

「えっ?あ、ありがとうございます。カインから貰いました。」

顔も出ていないので似合うも何も無いと思うが・・・そう思いつつ、ほんの少しにこやかにこちらを見つめてくる両親に居心地の悪さを感じる。
すると、カインが小さな声で耳打ちしてきた。

「あの部屋での誕生日パーティーね、お父様とお母様も協力してくださったんだよ。」

「・・・本当に?」

「うん、2人はテイトに嫌われてると思って参加もしなかったし、協力したことも秘密にって言ってたけど・・・」

「そう・・・」

「そのローブのデザインも、お母様にアドバイスを貰ったんだ。少し子供っぽいかなとも思ったけど、2人のテイトに対するイメージがそんな感じなんだろうね。」

「・・・・・・・・・」

一体今更なんだと言うのだろうか。しかもこのローブが俺へのイメージって・・・まだ小さな子供だとでも思われているのだろうか。
まだ駄々をこねていた頃にこの扱いを受ければ喜べたかもしれないが、今となってはなんだか嬉しさよりも複雑な気持ちの方が大きい。

(もう俺はあんたたちが知ってるテイトじゃないのに・・・)

その事に胸がズキンと痛んだ。


「それじゃあまた後でね、テイト。」

家族たちに別れを告げられ、俺は複雑な気持ちのまま二階へと向かうふりをした。
そしてそのまま庭園へと向かい、もう見慣れた定位置にいるザックに声をかける。

「お兄さん!?どうしたんですか、そのローブ?」

新しいローブを着てきた俺にザックが目を見開いた。

「ああ、実は兄にもらったんだ。誕生日プレゼントとしてさ。」

「誕生日?い、いつですか?」

「先週だよ。」

「何でもっと早く言ってくれないんですか!僕もお兄さんの誕生日を祝いたかったのに・・・」

俺は憤り出したザックに驚きつつ、頭を撫でながら謝る。

「ごめんごめん。俺の誕生日なんて今まではあってないようなものだったし・・・それにお前はお前で大変なんだから、別に祝ってくれなくても良いって。」

「でも・・・せめて気持ちだけでも祝いたかったです。」

そう言って肩を落としたザックになんだかくすぐったい気持ちになる。カイン以外の誰かにこんな風に言われたことがあっただろうか。

「じゃあ、今祝ってくれるか?」

俺は思わずそんなことを口走っていた。冗談だと撤回しようとしたが、パァッと顔を輝かせて俺を見たザックにその言葉を飲み込む。

「もちろんです!」

「そうか・・・えっと、じゃあハッピーバースデーの曲を歌ってくれよ。」

「え、そんなことで良いんですか?もっと何か・・・」  

そう言って悩み始めたザックを見やる。お金など持っていないであろうこの子にプレゼントなど要求できるはずもない。

「いいんだ。プレゼントはもらったけど歌ってもらってはいないからな。久々に誰かに歌ってほしいな~」

祝いたいと言ってくれただけで十分嬉しいが、何かしないと気が済まなそうなザックにとっさに歌って欲しいと言ってしまった。少しわざとらしいかと思いつつ俺が歌をねだれば、ザックは「わかりました!」と元気に言って歌い出してくれた。

「ハッピーバースデートゥーユー♪」

・・・2人しかいない庭園で1人歌っているザックは少しシュールだった。なんだか自分でリクエストしておいて可笑しくなってしまう。
歌い終わったザックが「どうですか!」と言わんばかりに胸を張るのを見て、俺は我慢ができずに吹き出してしまった。

「ふ、あはは!ありがとう、ザック。すごく嬉しいよ。」

「何で笑ってるんですか!」

「いや、ごめん。この状況ですごく真剣に歌ってくれるのがなんかおかしくて・・・」

「もう、お兄さんが歌ってほしいって言ったのに!」

「ああ、わかってる。ちょっと可笑しかったけど、凄く嬉しかったよ。ありがとうな、ザック。」

そう言って頭を撫でれば「そらなら良いですけど・・・」と照れ臭そうにするザックが年相応で可愛らしい。

「そうだ、今日はロールケーキを持ってきたんだ。誕生日ケーキ代わりに一緒に食べよう。」

「ロールケーキ!?僕初めて!」

喜ぶザックを見て俺も満たされつつ、2人でロールケーキを食べる。シンプルで安いケーキだったが、ザックは美味しい美味しいと言いながら食べてくれた。


「そうだ、ザックの誕生日はいつなんだ?」

俺もザックの誕生日くらいは祝いたい。そう思って尋ねるとザックは考えるようなそぶりを見せた。

「多分、2月の中頃です。」

「多分?」

「僕、自分の誕生日を覚えてなくて。」

「そうか・・・」

庶子だからちゃんとした誕生日が記録されてないのだろうか。それでも両親くらいは把握していそうなものだが・・・
ザックは俺なんかとは比べ物にならないくらい家での扱いが悪いのだろう。当然パーティーなどもないだろうことを思って、俺だけでも目一杯祝ってやろうと心に決める。

「じゃあ2月の第2週って覚えておこう。俺もザックのこと目一杯祝うからな。」

そう言って頭を撫でればザックは目を見開いた。その大きな瞳から涙が滲んでいたが、「うん・・・」と小さく頷いて俺に抱きついたザックに、俺は気付かないふりをして頭を撫でることしかできなかった。

そして、少し目を腫らしたザックを心配しつつ見送る。

あの子の誕生日は、豪華にこそできないが俺にできる限りの方法で祝おう。
・・・そう思って計画を練り始めたのだが、終にその約束を果たすことはできなかった。
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