君が届かなくなる前に。

谷山佳与

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第1章 王太子殿下の婚約者候補

散策。

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執務室を出た私達は庭をプラりと散歩することにした。
ラズ様に、しっかりと手を握られたままやってきた場所は、幼い頃から良く息抜きに訪れていた東屋。
この場所は私とラズ様二人だけが知っていて、姉様たちは知らない。
庭園の中でも奥まった場所にあるからだ。

「おいで。」

先に座ったラズ様に引かれそのまま隣に密着するように座ると、腰と肩を抱き寄せられ肩口にラズ様の頭が乗せらると、そのまま強く抱きしめられた。
きっとお疲れなのだろうと、されるがままで速まる心臓の音がバレなければいいと、体は少し強張る。

「学院の方は大丈夫かい?・・・・・
「え?あ、引継ぎはまだ、後継が決まっておりませんが、大丈夫ですわ。」
「そう。ライは?きちんとしてる?」
「ライですか?えぇ。きちんと下級生まで見ており、平民の方々へも気配りはされますが……兄様達同様女子生徒へは、一線引いてらっしゃいますわ。」
「あの子も立場があるからね。」
「そうですわね。」

突然学院の事を聞れ、焦りはしたものの何事もなかったかのように別の話題に切り替わった。

「そういえば、ライはあの後機嫌はよくなった?」
「えぇ、私とダンスを終えたあとスッキリしたと、言ってましたわ。詳しい理由は何となく分かりましたのであえて何も聞きませんでしたけれど。」
「あの子もレティの事好きだからね。」
「大切な幼馴染ですからね。」

クスクス笑えば、少し拗ねたような表情のラズ様の顔があった。

「少し妬ける。・・・私にとってもレティは大切な女の子だよ。」

と、口の端にラズ様の唇がふれた。

「なっ、えっ?!」
「レティ顔が真っ赤。可愛い。」

突然の事に驚き、きっと耳まで真っ赤になっているだろう。
いっきに顔が熱を帯びるのが分かった。

「からかわないでください!」
「からかってないよ。私の本心だ。」

余裕のある笑みを浮べ、楽しそうに笑うラズ様に無言で抗議をしてみたが、あまり効果はなかった。その後、ラズ様と二人で、父の所へ顔を出した。
なんとか平常心を取り戻したものの、まだ心臓はドキドキ言っている。
父にそんな状況だとバレやしないかと焦りはしたけれど兄以上の熱烈歓迎を受けたものだから、先月会いましたわよね?と思ってしまったものだ。

「レティ、学院まで送るよ。私も少し学長に聞きたい事があるしね。元々送る予定だったし、少しは体を動かさないと、という事で馬相乗りいいかな?」

厩にあずけていた愛馬を引き取りに来たところで、先ほど別れた筈のラズさまが、外套を羽織ってやって来た。
有無を言わさぬ雰囲気のまま承諾をすれば、私を先に乗せるとその後にひらりと騎乗する。
普通は馬車などを使うものだろうが、生憎学院の制服で、時間短縮の為来る時も馬で駆けてきたのだ。
そのまま城門を出れば学院までは舗装された道を駆けてゆく。
王太子殿下が馬で移動で、令嬢と相乗りしかも学院の制服を着ているとなると、素性はすぐにバレるし、なにより護衛上大丈夫なのかと聞けば、防御魔法展開しているから大丈夫だと返事がきた。
そのまま、学院の門までやって来れば門の守衛が慌てたようで連絡を取っている。
私が外出から帰ってきただけなら何も問題はなかったのだろうが、一緒に王太子殿下まで居るものだから申し訳ないと内心思いつつ愛馬を厩へ戻しに行く。
厩に着けばラズ様が先に下り、それから私を下ろしてくれた。
そのまま校舎の入口に着いた所で、守衛から連絡を受けたライが校舎からでてきた。

「兄上、お速いお着きで。レティもお帰り。」
「レティが馬で来たと聞いてね、ついでに一緒に来た。」
「ただいま戻りました。」

しっかりと腰を引き寄せられた。

「一先ず学長の所へ行く前にレティを寮まで送ってくるよ。」
「なら、俺もついて行きます。」
「え?寮までなら大丈夫ですわよ?」
「俺達が住んでいる寮は・・な。」
「婚約者候補で幼馴染を寮に送ってはだめ、なんては言わないよね?」
「…はい。では、お願いします。」

二人に笑顔で威圧され、そのまま寮へと送られた。
私達六候爵家と王族が使う寮は、女子寮、男子寮のさらに奥にある。
なので、ライと二人ならば、日常なのだが今日はラズ様がいる。
そして、帰寮時間と重なった今の時間帯好機の目に晒され、いたたまれない。
寮の入口では、私の専属の侍女マリアが待っていた。

「おかえりなさいませ。ラザルート殿下、ライラック殿下。レティーシア様。」
「ただいまマリー。」
「マリー悪いけど私とライは学長の所へ行くからゆっくりレティを休ませてあげて。用が終わったら1度寄るから。」
「かしこまりました。」
「そういう訳だからレティは、ゆっくり休む事。」

クシャリと頭を撫でたのはライ。そして、頬に、唇の際ギリギリに再びキスをしてきたのはラズ様。

「っ!……いってらっしゃいませ。おかえりお待ちしてます。」

その言葉に二人して驚いた表情をしていたけれども、身内にのみ見せる笑顔で校舎へ戻って行った。
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