君が届かなくなる前に。

谷山佳与

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第2章 憧れた夢の途中

胸を張って輝け。

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王城で一番大きな大広間には、国の中で上位伯爵以上の貴族が出席をしていた。
国中の貴族を出席させても良かったのだろうが、建国祭がメインで王太子殿下の婚約発表は内々的なものとし、後日正式に発表をするという。
大広間には、大きな窓から外の陽の光が差し込み、光の筋をいくつも作り出していた。

大広間の奥に少し階段のある玉座に、国王陛下と王妃様が立っており階段下には、ラズ様とライが創立祭とは違ったデザインだが正装をして三者共にこやかに笑顔で迎えてくれた。
階段下まで、貴族達が階級事に列をなす。
私たちの家族侯爵家なので1番玉座に近い場所に居る。

そして、所定の位置まで来ると6人揃って最高礼をゆっくりとする。
床を見たままじっとしていると陛下から、声がかかり、姿勢を正す。

「今からそのた達の婚約者を発表する。もちろん、我が息子王太子の妃もだ。」

そなた達・・・・?ラズ様の婚約者発表だけでは無かったの?
どちらにしても旦那様が決まるのは変わりないのね。ライかルイ様か。
ダンスしてる時や二人の時はお優しいけど、他の誰かと一緒だとラズ様は怖い表情、いえ、あれは目が笑ってないって言うのよ。お母様とかリリー姉様が怒った時と同じですもの。
嫌われているのでは、と思ってしまう事が多すぎるもの。

「リリーシア・フォン・アトラス侯爵令嬢、ヴィクトリア・フォン・エスティル侯爵令嬢、そして、レティーシア・フォン・エレノアール侯爵令嬢。そなた達の中からまずは、王太子の妃を発表する。」

陛下の声がシンと静まり返ったホールに響く。
どうしようもないほど不安に駆られ、キュッとドレスを握りしめる。

「王太子、ラザルート・ウィル・ヴィ・フレイアスの妃、王太子妃は…、レティーシア・フォン・エレノアール侯爵令嬢とする。」

え?
一瞬状況が呑み込めず驚いた表情をすると、陛下はにこりと笑を浮かべてくれた。

「続いてヴィクトリア・フォン・エスティル侯爵令嬢の婚約者はレオナルド・フォン・エレノアール侯爵子息、リリーシア・フォン・アトラス侯爵令嬢の婚約者は、我が弟ルイ・ウィル・ヴィ・フレイアス。とする。なお、ヴィクトリア嬢とリリーシア嬢に関しては既に相思相愛で、この発表を前に私の所へ申し出があり、王太子に関してもレティーシア嬢以外とは婚約しない。と、言うこともありこの様な形となった。」

予想外の発表に会場がざわめく。
私自身もしばらく固まっていると、それぞれの婚約者。ルイ様とラズ様がやって来てエスコート役を交代をする。

「だから、大丈夫だと言ったろう?」

と、レオ兄様に耳元でささやかれくしゃりと頭を撫でられた。

「レティ?」
「は、はい!」
「これから、宜しくね?」
「こちらこそよろしくお願いします。」

腕を組み、国王陛下達に挨拶の礼をしながら、小声で話す。

自分自身が予想していなかった展開に、状況把握が遅れてしまった事と、まさかこのタイミングで仕掛けて来るとは思わなかった。

「そんなの、認めない!!」

ぶわっと溢れたのは、殺気にも近い闇のエネルギー。
魔力的に分からなくても、本能的な部分で悪寒が走る。


「きゃぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

会場のあちらこちらで悲鳴が上がり、参加していた貴族たちは我先にと逃げ惑う。
発せられた闇エネルギーに引っ張られて妬みや羨望、嫉妬などが合わさったのだろうと、理解する間もなくだんだんと溜まっていくエネルギーは、いつ爆破してもおかしくはない。
アル兄様や近衛隊が防御魔法を展開し、会場から人々を避難させている。
六侯爵家を中心に、戦闘態勢に入っているがあれの狙いは私だと理解した。

「魔力が無いくせに!!」

膨れ上がった魔力は黒い矢となり、私を標的に一斉に雨の如く降り注ぐ。
矢に変化する前に見えた紋章。
あの紋章はどこで見たんだろう?最近何かで見た記憶がある。

「レティ!!」
「ライ様!?」
「あそこにいては、兄上が気になって集中できない。ヴィクトリア様達と一緒に下がってろ!」

ぐっと後ろへ引っ張られて、ヴィー姉様達の元へやられると、背に庇うようにライが立った。
考えて、あの紋章何かあったはずだ。

『…テ…アー…ア…』

今女の人の声が聞こえた…?
て、あー??

「アーテ!!そう、狂気の女神アーテ!!」

私の声が妙に響き渡り、あたりが静まりかえったかのような感覚だった。
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