15 / 28
第2章 Viva! Stupid People
05.涙の再会劇
しおりを挟むロイドは早起きして、庭木の剪定を行っていた。
というのも、本格的にチェリー様を探すためである。
「くそう。どこにいった……」
庭木がぼうぼうに伸びきった状態では捜索も満足に行えない。
まずは適度に刈って、捜索範囲をさっぱりさせる必要があると思ったのだ。
だが童貞の神様を探しているなどと他人には言える訳もない。
「ちょっとロイドさん! まんべんなく刈ってくださいよ!」
「あ、はい!」
チェリー様が落ちたと思われる場所を集中的に刈りこんでいたから、通りかかったベティにそう注意されてしまった。
仕方がないので剪定の範囲を広げていく。
植木ばさみや熊手を用意するときにシドに手伝ってもらったわけだが、彼の話ではシラカ城には庭師のような存在はおらず、領民たちが交代でこの仕事を請け負っていたらしい。
報酬はその日の食事と、卵や酒といった品物だ。
王都では考えられないことだし、従兄のヒューイや弟のグレンはこんな話を聞いたら実際に顔を顰めるかもしれない。彼らは都会志向なのである。
だがロイドはこういうのも悪くはないと思う。
建物や生活様式は数世紀前のままで、静かにシンプルに暮らすことも。
刈り込んだ葉を一か所に集め、大きめの枝は紐で縛る。なかなかの大仕事になってきたが、これもチェリー様を見つけるためである……。
ロイドはいろいろ考えてみた。
キドニスの街の薬種屋で買い物することはできない。周りの人間に相談することもできない。
勃起できなくなったなんて情けないし、自分だけが恥ずかしいならまだしも、それをデボラと関連付けられては彼女にも迷惑がかかる。
そこで一人になった隙に一生懸命エッチなことを考えてみた。
ロイドの人生で一番エッチだった出来事と言えば、もちろん結婚式の日の夜であった。
しかし、あの日触れたデボラの身体の柔らかさを思い出そうとすると、先走ったことやキスを失敗したことまで一緒に思い出してしまうのだ。
さらに、あそこを掴んで無理やり擦りあげてみた。
物理的な刺激を与えれば或いは……そう思ったのだが、残念ながら応答はなかった。
自分はデボラのことをほとんど何も知らずに結婚した。
彼女は妖精みたいに綺麗で可愛くて……ロイドはデボラの姿を目にすると浮ついてしまう。
それが良くないのではないか。もっとデボラに慣れる必要があるのではないか。
彼女を知るために、寝る前にでも話をしてみるのはどうだろう。昔はどんなことをして遊んだのか、どんな歌や本が好きか……お互いのそういうことを話して、笑い合ったり、意見を言い合ったりしてみるのもいいかもしれない。
昨夜はそう持ち掛けようとすると、彼女は「おやすみ」を言ってロイドに背中を向けてしまった。
デボラにここまで素っ気無くされたのは初めてで、ロイドの心はぽっきりと折れた。
自分が勃起できないと、どこかでばれたのではないか。
女慣れした男だと見栄を張ったくせに、実は童貞だったとばれたのではないか。
──童貞ですって? 気持ち悪い! 触らないでくださる?
昨夜背を向けられたのは、そういう意味の拒絶だったのだろうか。
──シラカの役に立ちたいなんて殊勝なことを言っていたけれど、肝心の逸物がそれでは役立たずも同然だわ!
「あ、あわわわわ……」
そこまで想像して嫌な汗をかいたが、いや、デボラは優しい女性だと首を振る。
すると今度は素っ裸のロイドの股間に向かって、手拍子を打つデボラの姿が頭の中に浮かんだ。
──ロイド様、勃起不全なんですってね……? 大丈夫です、一緒に治しましょうね。ほら、あんよがじょうず! あんよがじょうず!
「う、うわぁあああ……」
ロイドは頭を抱えて身体をよじりまくった後、植木ばさみを拾い上げて作業の続きに取り掛かった。
頭に浮かんだ残酷な妄想を打ち払うように、ザクザクと小枝を落としていく。
「やあロイドくん! 精がでますねえ」
そんな時、庭をブラッドベリ司祭が通りかかった。
でも精子はでないよ……と心の中で自虐しつつ、司祭にぺこりと会釈する。
彼は親指で礼拝堂の方を示した。
「休憩しませんか? どうです、一緒に酒でも」
「あ、いや……酒はちょっと」
「ああ、そうでしたね。じゃ、お茶でもどうです」
礼拝堂に漂う香の匂い──ここの礼拝堂は若干たばこの香りも混じっているが──を嗅ぐと、なんとなく落ち着いた気分になる。
さらにシドが持ってきたハーブのお茶を啜って、ロイドはため息をついた。
中央には建国神セイクリッドの像、古いがよく磨いて手入れされているステンドグラス、壁には「フェルビア創世神話」を描いた宗教画。
創世神話の絵画は、魔物と神々の戦いに始まり、荒れ果てた大地を嘆き悲しむ地上の人間、そして剣を地面に突き立てるセイクリッドと蘇る大地……物語の順に描かれている。
小さな礼拝堂だが、ちょっとした歴史的価値がありそうだ。
周囲に漂う香りを嗅いで、荘厳な絵画を眺めていると、勃起不全などという自分の悩みはちっぽけなものに思えてくるから不思議だ。
「結構いい場所でしょう?」
「はい。落ち着くような、でも身が引き締まるような……」
「そうなんだよねえ~。私もこんな田舎に赴任することになった時はどうしようかと思ったんだけどねえ。ほら、遊ぶ場所もないし、酒やたばこも手に入りにくいでしょう?」
「は、はあ……」
またまた聖職者とは思えぬ話が始まった。
「でも暮らしてみたら、意外と田舎も自分に向いていることに気が付きました。何事も経験、とはよく言ったものです」
「ああ……それは自分も思います」
この国は──ある程度国土の広い国は大抵そうだろう──都市と地方の落差が激しい。
王都と、いくつか存在する国王直轄の街は人も多く、建物も古いものと新しいものが混在していて非常に賑やかである。
地方の町や村でも、大きな街道沿いの場所であればそれなりに活気があるが、このシラカのように僻地に存在する村は、未だに物々交換方式がまかり通っていたりもする。
これまでロイドは、領主とは土地の管理に専念するものだと思い込んでいたが、デボラは日々の雑事に追われていて、領民たちとそれほど変わらぬ暮らしをしていた。
「ロイドくんは、ずっと王都で暮らしていたんですか?」
「いえ、十一歳までルルザにいて、それから王都で暮らしてました」
「ルルザですか。実は私、シラカに赴任する前はルルザにいたんですよ」
ブラッドベリ司祭は王都で生まれ育ち、神学校を卒業した後はルルザ大聖堂に仕えていたらしい。
しかも司祭とロイド、ルルザにいた時期が何年か被っているようだ。
「じゃ、私たち、どこかですれ違っていたかもしれませんねえ。ロイドくんはどのあたりに住んでいたんですか? ええと、地図、地図……と、」
司祭は机の上をごそごそやって、フェルビア中央部の地図を探そうとしていた。
その時、とても懐かしい物体が目に入ったような気がした。
「ああっ! 司祭殿……ちょっと、それ……!」
「ん? これですか?」
ブラッドベリ司祭は件の物体をつまんで持ち上げて見せる。
「これ、庭で拾ったんですけどね、ウンコに似てて面白い石でしょう? 文鎮代わりに使ってるんですよ」
それは、どう見ても童貞神チェリー様であった。
「チェ、チェリー様!!!」
どうしてこんなところに! だがようやくまみえることが出来た! と、ロイドは思わず両膝をつき、崇めるように胸の前で指を組んだ。
「え? ひょっとしてこれ、ロイドくんのものだった?」
ロイドがキドニスに行った日、司祭は庭で落ち葉を集めていた。タバコの葉が無いので、乾いた落ち葉を砕いたものをパイプに詰めて吸おうとしたらしい。
その時にチェリー様を見つけ、拾ったのだという。
しかも、文鎮代わりにするとはなんと罰当たりな……!
「ま、ロイドくんのものだったのなら、お返ししますけどねえ……」
司祭はチェリー様の先っぽをつまんでプラプラと振ってから、それをロイドの手のひらに乗せようとした。
しかしロイドが受け取ろうとした瞬間、さっと取り上げる。
「あっ……」
なぜこんな意地悪を。そう訴えるように司祭を見上げると、彼はロイドとチェリー様を見比べていた。
最後に微笑みながら──だが目は笑っていなかった──ロイドに訊ねる。
「ところでチェリー様って、どういうこと?」
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】きみの騎士
* ゆるゆ
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
【完結】お父様(悪人顔・強面)似のウブな辺境伯令嬢は白い?結婚を望みます。
カヨワイさつき
恋愛
魔物討伐で功績を上げた男勝りの辺境伯の5女は、"子だねがない"とウワサがある王子と政略結婚結婚する事になってしまった。"3年間子ども出来なければ離縁出来る・白い結婚・夜の夫婦生活はダメ"と悪人顔で強面の父(愛妻家で子煩悩)と約束した。だが婚姻後、初夜で……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる