私は『選んだ』

ルーシャオ

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第四話

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 すると、他の農夫たちも「ああ!」と合点が行ったように頷いていく。

 この人たち、私の結婚相手について知っている。そうと分かれば、私は農夫たちのほうへ一歩進み出て、さらに何かとっかかりになる情報はないかと耳をそばだてる。ところで時間が経つごとに工場こうばの前に集まった農夫の数は増え、今前庭にいる数は二十人を超えていた。

「何だ、グウィオンの知り合いならそうと言ってくれ。俺たちはあいつの会社にワインを卸してるんだ。そういえば、あいつ、前にこの土地の権利がどうこう言って調べてたな。そのこともあるのか」
「あ、おそらくそれですわ。そのグウィオン様と私、結婚することになりまして」
「結婚!?」

 寝耳に水、祝いごとに敏感な田舎の農夫たちはざわめき、そのせいで余計に私をどうすべきかの意見のまとまりを失っていた。

「ということは……どういうことだ?」
「さあ? とりあえず、グウィオンが他の貴族や商人に買われる前に、この土地の権利を取ってきた、ってことだろ?」

 なるほどなぁ、そんな感心した声がいくつか聞こえた。

 私もさっぱり事情は知らないが、多分そういうことだと思う。クレイトン卿は国有数の資産家で、先祖代々大陸貿易で財を成した。だから会社くらい大から小まで腐るほど持っているだろうし、このアレジア地区の良質なワインをよそに取られないためにズムウォルト子爵の爵位を根回しして授与されるようにした、というのも十分に考えられそうだ。

 私と二十人あまりの農夫たちの認識はおおよそ一致した。私はクレイトン卿ことグウィオンの身内、アレジア地区の農夫たちはグウィオンの取引先。つまり、どちらもグウィオンで繋がっている大切な関係だ、と。

 ひときわ体格のいい、ついでに人のよさそうな農夫が話をまとめる。

「それならいいか。よし、お嬢さん、この道の先に元は役人の屋敷だったところがあるから、とりあえずそこに住んでくれ。グウィオンも宿として使ってたんだ。もし修繕が必要そうなら暇な若いのを送り込むよ」
「ありがとうございます。それと、ええと、グウィオン様は、こちらによく来られるのですか?」
「まあまあだな。来るときもあれば、めっきり来ないときもある。大体そういうときは他の国に出向いてたとか、商品の買い付けに時間がかかったとか言ってる」
「はあ、なるほど……早く来ていただけると助かりますけども」
「心配しなくてもそのうち来るだろう。それまでのんびりここで暮らすといい、ここは他の土地と違って穏やかで豊かだ」

 その言葉に嘘がないことは、この丘陵地帯を少し見ただけで分かる。人々は身なりが清潔で、道はきちんと引かれ、工場こうばの建物の柱やはりも大きな木材を使って建てている。それだけで他の地域とは一線を画す、平和が保障されている。

 諸々安心した私は、お礼を言いがてら、私の後ろで様子を窺っていたラースについて、農夫たちに紹介、もとい要望する。

「あ、そうでした。皆様、こちらのラースに色々お手伝いをさせてあげてくださいな。早くこの土地に慣れないといけませんし、何より彼は他に行くあてがなくて雇っているものですから、手に職をつけさせてあげたいのです」

 そんな話は聞いていない、と顔に書いているラースのことなどおかまいなしだ。だって、見知らぬ男性が近くをうろうろするのは、結婚前の淑女として避けたいもの。なので、ラースの身柄は農夫たちに預けたい。仕方ないのだ、仕方ない。

 農夫たちは気持ちよく承諾してくれた。

「何だ、それくらいお安いご用だ。よろしくな、若いの!」
「え、ええ、よろしくお願いします」
「じゃあ、ブドウ畑の見回りからだ。その後は井戸の点検とガラス瓶の洗浄作業な」
「そんなに!?」

 話を聞くかぎり、ラースに待ち受けているのは重労働だろうと予想される。頑張れ、ラース。

 馬車と中の荷物は後で動かしてもらうとして、私は大事な荷物だけ持って、元役人の屋敷という場所へと独り、歩いて向かうことにした。ゆっくり丘陵の広がる地区を眺めていくこともできるし、女性の一人歩きも問題なさそうだから、気分転換にもなる。

 貴重品を入れたバッグ一つを手に、私は歩き出す。

 それもまた、私が『選んだ』ことだ。

 牧歌的な風景は都市の中で育った私の目には新しく、見知らぬ土地だというのに怖さはなく、むしろ冒険心をそそられた。

 考えてみれば、今の私は貴族令嬢ではない。来年には子爵夫人になるだろうが、その短い間は私はすっかり実家とも縁が切れた存在で、結婚相手のクレイトン卿からしてもまだ結婚式を挙げたわけではない。

 何者でもない、ただのセラフィーヌ。それはそれで、私としては新鮮な気持ちだ。

 ひょっとして、クレイトン卿がやってくるまでは、私はズムウォルト子爵領ことアレジア地区の代理官として、何かができるのでは?

 誰にも奪われずに、何かを『選べる』のでは?

 こんなにもワクワクするのは、久々だった。

 なので、すっかり忘れていた。
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