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第九話
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「そうよ、私の親友なの。でもね、聞いて? 昨日、舞踏会で婚約破棄されたのよ?」
滅多に聞かない単語ゆえか、大兄様は「何?」と一瞬で顔つきを変えた。今だ、私は畳み掛ける。
「ベルは何にも悪くないわ。悪いのはイヴェール侯爵家のエルワンよ、浮気して婚約破棄して他の女に乗り換えだなんて許せる? 私は許せないわ!」
まさにこれは今の私の気持ちそのものだ。エルワンの評価は最低最悪のどん底に落ちたし、ジーヴル子爵家ユジェニーという令嬢に対しても、侯爵夫人として成り上がるためにそこまでするか、とドン引きしている。
その気持ちはしっかり伝わったらしく、大兄様は必死に私をなだめようとする。
「落ち着け、レティ! だとしてもだ、俺のようながさつな男がこちらのご令嬢に似合うわけがないだろう!」
「大兄様、私はベルを幸せにしたいの。だからこそ大兄様を信頼して、傷心のベルを真っ先にここへ連れてきたのよ。その思いを汲み取ってくださらない?」
ほら! と私は大兄様へ外見ベル、中身忠次の可憐な少女を突き出す。
忠次も察したのか、頑張って愛想笑いを浮かべて挨拶をする。
「ご、ご機嫌、うるわしゅう」
ちょっとつたないが、まあ及第点だ。私は後ろでうんうんと頷く。
ベルはおっとりとしているが、友人の贔屓目を抜いても可憐だ。もちろん個々人の好みもあるだろう、エルワンなんかは可憐さよりも大人びた美女を選んだわけだ。しかし、普通にベルティーユという令嬢は可愛い。薄化粧の似合う小柄で上品な少女だ。
もっとも、目の前の大男にこの少女を勧めるということは、あまりにも美女と野獣に過ぎる気がしないでもない。
女性慣れしていない大兄様は慌てふためき、それでもちゃんとした挨拶を返そうと躍起になっていた。
「はばばば……!? いえっ、お初にお目にかかる! アレクサンデル・ヴェルグラと申し」
しばし、忠次と大兄様は見つめ合う。少女と大男、子供と大人ばかりに身長差がある。
そして大兄様は困惑の末に妙なことを口走る。
「特技は槍を折ることです!」
「ま、まあ、勇ましい」
「は、ははは……」
「ふ、ふふ……」
誤魔化し笑いが二つ重なる。天気は快晴、風はない。
つまりどうやっても誤魔化し笑いなどいずれは保たなくなるわけで、大兄様が先に根を上げて私に縋りついてきた。大男が背中を丸めて末妹の腕に縋りつかないでほしい。
「ダメだ、会話が! 緊張しすぎて!」
「頑張って、大兄様! それでもヴェルグラ侯爵家次期当主ですか!」
それっぽいことを言って私は励ます。まあ、大兄様もそろそろ女性が苦手などと言って逃げていないで、本腰を入れて結婚相手を探さなければならない年頃だ。私は間違ったことは言っていない。
ところが、忠次はこちらを見ていなかった。
滅多に聞かない単語ゆえか、大兄様は「何?」と一瞬で顔つきを変えた。今だ、私は畳み掛ける。
「ベルは何にも悪くないわ。悪いのはイヴェール侯爵家のエルワンよ、浮気して婚約破棄して他の女に乗り換えだなんて許せる? 私は許せないわ!」
まさにこれは今の私の気持ちそのものだ。エルワンの評価は最低最悪のどん底に落ちたし、ジーヴル子爵家ユジェニーという令嬢に対しても、侯爵夫人として成り上がるためにそこまでするか、とドン引きしている。
その気持ちはしっかり伝わったらしく、大兄様は必死に私をなだめようとする。
「落ち着け、レティ! だとしてもだ、俺のようながさつな男がこちらのご令嬢に似合うわけがないだろう!」
「大兄様、私はベルを幸せにしたいの。だからこそ大兄様を信頼して、傷心のベルを真っ先にここへ連れてきたのよ。その思いを汲み取ってくださらない?」
ほら! と私は大兄様へ外見ベル、中身忠次の可憐な少女を突き出す。
忠次も察したのか、頑張って愛想笑いを浮かべて挨拶をする。
「ご、ご機嫌、うるわしゅう」
ちょっとつたないが、まあ及第点だ。私は後ろでうんうんと頷く。
ベルはおっとりとしているが、友人の贔屓目を抜いても可憐だ。もちろん個々人の好みもあるだろう、エルワンなんかは可憐さよりも大人びた美女を選んだわけだ。しかし、普通にベルティーユという令嬢は可愛い。薄化粧の似合う小柄で上品な少女だ。
もっとも、目の前の大男にこの少女を勧めるということは、あまりにも美女と野獣に過ぎる気がしないでもない。
女性慣れしていない大兄様は慌てふためき、それでもちゃんとした挨拶を返そうと躍起になっていた。
「はばばば……!? いえっ、お初にお目にかかる! アレクサンデル・ヴェルグラと申し」
しばし、忠次と大兄様は見つめ合う。少女と大男、子供と大人ばかりに身長差がある。
そして大兄様は困惑の末に妙なことを口走る。
「特技は槍を折ることです!」
「ま、まあ、勇ましい」
「は、ははは……」
「ふ、ふふ……」
誤魔化し笑いが二つ重なる。天気は快晴、風はない。
つまりどうやっても誤魔化し笑いなどいずれは保たなくなるわけで、大兄様が先に根を上げて私に縋りついてきた。大男が背中を丸めて末妹の腕に縋りつかないでほしい。
「ダメだ、会話が! 緊張しすぎて!」
「頑張って、大兄様! それでもヴェルグラ侯爵家次期当主ですか!」
それっぽいことを言って私は励ます。まあ、大兄様もそろそろ女性が苦手などと言って逃げていないで、本腰を入れて結婚相手を探さなければならない年頃だ。私は間違ったことは言っていない。
ところが、忠次はこちらを見ていなかった。
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