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第十一話
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ハッとして、ベルになりきらなければならないことを思い出した忠次は、言葉を選んで感動を表した。
「素晴らしい、ですわ! 夢みたい!」
いつもはおっとりとした少女は子どもみたいに喜び、上気した頬はチークを塗ったようだ。まったく遠慮せず、本心からの望みを叶えてもらった嬉しさが爆発している。すっかり子どもっぽく、天真爛漫な顔を見せた忠次に、大兄様は心の距離を縮めたようだ。
「ははは、それほど喜んでいただけるとは! 今度、乗馬服を着て遠乗りしましょうか? もちろん、俺もお供についていきますとも」
「ぜひ!」
女性としてではなく、世話を焼く年下の令嬢として、大兄様はベルの姿をした忠次との折り合いをつけたのだろう。自分から女性を遠乗りに誘うなんて、初めてではないだろうか。
こそこそと大兄様は恥ずかしそうに私へ耳打ちする。
「な、なあ、ベルティーユ嬢、可愛いな?」
どうやら、大兄様もベルの可愛さにメロメロになったらしい。中身は忠次だけど、ベルは可愛いから当然である。
「でしょう? すぐにどうこうとは言わないわ。何度か会ってみて、今後のことを考えてほしいの」
「う、うぅむ……分かった、考えよう。末妹のお前の頼みでもあるしな」
そうと決まれば、私は忠次を呼んで、馬から下ろす。名残惜しそうに忠次はぴょいと飛び降りてまた大兄様と調教師を驚かせていたが、もういいや。
忠次はぺこりと大兄様へ頭を下げた。
「ありがとうございます。ええと」
「アレクとお呼びください、ベルティーユ嬢」
「それなら、こちらも『べる』と」
仲良くなる第一歩、名前で呼び合う。微笑ましいやり取りを見て、私は確信した。
「よし、何とかなりそう。何とか」
何とかなると自分を奮い立たせるように口にするが、ここで私ははたと一番重要なことがすっかりノーマークであることに、背筋が凍る思いがした。
——今、忠次inベルなわけだが、ベルinベルになるにはどうすれば? 忠次は男性である。さすがに女性のフリをさせたまま結婚させるわけにはいかない。
「そういえば、どうやってベルを起こすの……?」
貴族学校の試験でだって、こんなにあたふた慌てたことはない。私は忠次を連れて屋敷に戻り、大至急図書室に籠ることとなった。
忠次がベルのフリができるのなら、ブランモンターニュ伯爵家や社交界を誤魔化すことができて、少しは時間が稼げる。しかし、最終的にはベルの体はベルに戻さなくてはならないし、忠次をどうにかすることも考えなくてはならない。あと、ベルの新しい婚約者について——これはとりあえず大兄様で何とか体面は保てているから後回しでいい。
これらのやるべきことの中から、ベルを起こすという目的の優先度が高くなった以上、私は邁進するのみだ。
——待っていて、ベル。
「素晴らしい、ですわ! 夢みたい!」
いつもはおっとりとした少女は子どもみたいに喜び、上気した頬はチークを塗ったようだ。まったく遠慮せず、本心からの望みを叶えてもらった嬉しさが爆発している。すっかり子どもっぽく、天真爛漫な顔を見せた忠次に、大兄様は心の距離を縮めたようだ。
「ははは、それほど喜んでいただけるとは! 今度、乗馬服を着て遠乗りしましょうか? もちろん、俺もお供についていきますとも」
「ぜひ!」
女性としてではなく、世話を焼く年下の令嬢として、大兄様はベルの姿をした忠次との折り合いをつけたのだろう。自分から女性を遠乗りに誘うなんて、初めてではないだろうか。
こそこそと大兄様は恥ずかしそうに私へ耳打ちする。
「な、なあ、ベルティーユ嬢、可愛いな?」
どうやら、大兄様もベルの可愛さにメロメロになったらしい。中身は忠次だけど、ベルは可愛いから当然である。
「でしょう? すぐにどうこうとは言わないわ。何度か会ってみて、今後のことを考えてほしいの」
「う、うぅむ……分かった、考えよう。末妹のお前の頼みでもあるしな」
そうと決まれば、私は忠次を呼んで、馬から下ろす。名残惜しそうに忠次はぴょいと飛び降りてまた大兄様と調教師を驚かせていたが、もういいや。
忠次はぺこりと大兄様へ頭を下げた。
「ありがとうございます。ええと」
「アレクとお呼びください、ベルティーユ嬢」
「それなら、こちらも『べる』と」
仲良くなる第一歩、名前で呼び合う。微笑ましいやり取りを見て、私は確信した。
「よし、何とかなりそう。何とか」
何とかなると自分を奮い立たせるように口にするが、ここで私ははたと一番重要なことがすっかりノーマークであることに、背筋が凍る思いがした。
——今、忠次inベルなわけだが、ベルinベルになるにはどうすれば? 忠次は男性である。さすがに女性のフリをさせたまま結婚させるわけにはいかない。
「そういえば、どうやってベルを起こすの……?」
貴族学校の試験でだって、こんなにあたふた慌てたことはない。私は忠次を連れて屋敷に戻り、大至急図書室に籠ることとなった。
忠次がベルのフリができるのなら、ブランモンターニュ伯爵家や社交界を誤魔化すことができて、少しは時間が稼げる。しかし、最終的にはベルの体はベルに戻さなくてはならないし、忠次をどうにかすることも考えなくてはならない。あと、ベルの新しい婚約者について——これはとりあえず大兄様で何とか体面は保てているから後回しでいい。
これらのやるべきことの中から、ベルを起こすという目的の優先度が高くなった以上、私は邁進するのみだ。
——待っていて、ベル。
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