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第五十三話

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 聞いてはいけない、とは思わなかったけど、私がサナシスの手を煩わせることを許されるのか、それが分からなかった。

 どのようなことを知って、どのように行動すべきか。人と接してこず、世間知らずの私には、何もかもが分からないのだ。知るべきこと、知らなくていいことの区別が付かない、それだけは知っている。だから、頭が良く分別のつくサナシスにその点については任せておくべきだと思う。

 でも——。

 そんな私の戸惑いを、サナシスはやはり捉えてくれた。

 サナシスは真摯に、こう言った。

「エレーニ。俺は主神ステュクスに誓って、お前に嘘を吐かない」

 ああ、そんなこと、言わせたくはなかった。

 私は後悔した。私がサナシスを信じていないみたいだ。サナシスが私に嘘偽りを告げるはずがない、もし告げられたとしても私には分かりようがないだろうし、分かったとしてもそれは無視すべきだ。

 ステュクス王国が誇る聡明な王子の名を汚すことは許されない。だから、私は後悔して、口をつぐむ。

「伝えるべきことは伝える。ただ、今教えられることは少ない。ウラノス公国からとある事情で騎士たちが出奔し、ステュクス王国はそれを受け入れることとした。そのために、お前の力を借りたいと思っている」

 それで十分、私に必要なのはその情報だけなのだとあなたが言うのなら、受け入れる。

 サナシスの誠意を認め、私は謝意を示した。

「ありがとうございます、サナシス様。騎士たちに代わり、私からもお礼を申し上げます」
「気にするな。ああ、それと、よければお前をレテ神殿の要職に就けたい。俺の名代と思ってもらっていい、そうしておけば話が早いからな」
「では、微力ながら、尽力いたします。とはいえ、ただの修道女だった私に務まるでしょうか」
「他の誰も忘却の女神レテに詳しくないから、この国ではお前が一番知っていることになるはずだ。まあ、それもどうかと思わなくもないが」

 それに関しては私も思わなくもない。私はただの修道女、それも信仰心は薄かったのだから。

 とはいえ、忘却の女神レテは寛大だ。

 私の頭の中に、声が響く。

「別にいいけど……あ、エレーニ、今の話は全部了承するわ。あと、あなたをレテ神殿の神官長兼巫女にするから、よろしく。ステュクスお母様からも追認の神託があるから心配しないで」

 ぱちん、と私の意識が現実へ引き戻された

 私は周囲を見回し、そしてつぶやいた。

「今、忘却の女神レテから神託が」
「何!?」

 その言葉を聞いたサナシスは思いっきり立ち上がって椅子を後ろへ倒し、目を見開いていた。

 結局、私は神官を呼ばれてきちんと忘却の女神レテの神託を公式文書として記述されてから、神殿予定地へ出かけてみることになった。
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