魅了魔法の効かないあなたと婚約したくありません!〜麗しの侯爵令嬢、空回りする〜

ルーシャオ

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第五話

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 とはいえ、諦めるわけにはいかない。紅茶を飲み干してからお茶会を切り上げ、ブランシュは父トリベール侯爵の執務室にやってきた。

 入婿のトリベール侯爵ウジェーヌは、亜麻色の髪にすみれ色の瞳をした紳士だ。当代一の美女と謳われていた亡き妻アンヌ=マリーに釣り合う美男子として今もお洒落は欠かさず、中年太りなどもってのほか、ブランシュ自慢の父親でもあった。

 そのトリベール侯爵へ、ブランシュは難題を突きつける。

「お父様、リオネル殿下とお会いするために魅了魔法を使わないという条件が必要になりましたの。ですから、魔法を封じる封魔道具アンチチャームを手に入れたいのですけれど、我が家にはありませんこと?」

 突然の娘からの問いかけに、トリベール侯爵は万年筆を置いて、考えこむ。

封魔道具アンチチャーム? うーむ、そういうものはかなり高価で、希少品ばかりだからなぁ……そもそも魅了魔法持ちばかりのうちには必要がないものだったし」

 それもそうだ、ブランシュは肩を落とす。女系のトリベール侯爵家は、女性ならほぼ全員が魅了魔法の使い手だ。ただ、美形揃いだったため魅了魔法で魅了されているのか本当に容姿や性格に魅了されているのか分からない、などと言われるほど魔法を制限する必要性が薄かった。加えて、ブランシュのように結婚相手を厳しい条件で選んできたため、そもそも魅了魔法に完全に負けてしまうような自我が希薄な男性は彼女たちの好みにはまったく合致しなかった。

 それでも、封魔道具アンチチャームで何とかなる——婚約を取りやめるために会うという面倒臭い手順のためだが——可能性があるならやってみるべきだ。ブランシュは父の手を取り、涙ながらに訴える。

「お願い、お父様! 何とかならない? やっぱり、魅了魔法の使い手なんてって疎まれるくらいなら、いっそ」
「分かった分かった! 何とか考えてみるから、落ち着きなさい!」
「あらそう? ありがとうお父様!」
「う、うむ」

 娘に頼られて満更でもないトリベール侯爵は、不意に思い出したのか、心当たりを口にする。

「そういえば、大通りの骨董品店になら変わったものもあるかもしれないな……急いで人を遣ろう」

 ブランシュは聞き逃さない。そして、せっかちだ。

「いえ! 私、行ってくるわ! 直接効果を確かめてくる!」
「あ、ブラン! 待ちなさい!」

 父の制止を振り切って、ブランシュは執務室から飛び出していった。
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