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第二十話
なにやら昨日からペネロペが公爵邸を出たり入ったりして、「あー忙しい忙しい!」と慌ただしくしていました。私も何か手伝えることはないか、とそっと近づいてみたのですが——。
「大丈夫! お義姉様は明日のお茶会に専念して! こっちは私の戦いだから!」
とのことで、私はお言葉に甘えて、早く寝ることにしました。
どのみち、やることはもう決まっています。会って、話して、帰る。たったそれだけです。
それが上手くいくかどうかは分からないのですが、私なりに最善を尽くすしかありません。こんなことになるなら、お茶会の作法を勉強したり、貴族令嬢らしい話し方を真剣に習ったりすればよかった、と悔やみっぱなしですが、まさに後悔先に立たず。
そういうわけで、スカヴィーノ侯爵家令嬢アナトリアとのお茶会です。
王都にはいくつか、お茶会用のティーサロンがあります。大抵は高級ホテルに併設された個室で、好みや気分に合わせて飾っている花や絵画をアレンジしたり、多種多様なお茶菓子を出してくれたり、なんてサービスもあります。
ペネロペが常連として使っているというティーサロンで、私はじっと席に座って待っていました。
濃厚な花の香りといくつもある天窓からの柔らかい光、細身のテーブルにはいつでもお茶会を始められるよう、白磁に青の絵付けが施されたティーセットと、一口サイズのフィナンシェがたっぷり盛られたケーキスタンドが用意されています。フィナンシェはですね、ペネロペ曰く今の流行だそうで、食べてみたいと言ったら色とりどりのフィナンシェが出てきました。緑のやつはヘーゼルナッツでしょうか、ピンクのやつはおそらくいちごですね。ホイップクリームやクロテッドクリーム、ジャムをつけていただくようで、小さな花型の器にバラジャムやマーマレードが並べられています。
それだけで私はすでに興奮しきりなのですが、だめです、これでは本題を忘れてしまいそうです。
一緒に来てくれた、ペネロペのご友人の貴族令嬢二人が、声をかけてくれました。
「ユリア様、緊張していらっしゃいませんか? 私たちがついておりますから、遠慮なく頼ってくださいな」
長い豊かな茶髪を三つ編みにした、紫のドレスを着たキアルージ伯爵家令嬢サブリナがそう言ってくれました。十八歳とは思えぬ見事な淑女っぷりです、近々ご結婚予定だとか。
「少なくとも、アナトリアがフォークを持ち出す前に止められるようにしておきます。とにかく、そのときは逃げてくださいね」
黒髪を巻いてピシッとまとめた、トランクィッロ侯爵家令嬢エドヴィージェは真剣そのものです。このエドヴィージェのトランクィッロ侯爵家は長年レーリチ公爵家の右腕的存在で、エドヴィージェは文武両道、よくペネロペの護衛をしているのだとか。
とりあえず、事情を知りレーリチ公爵家に協力してくれる彼女たちがいれば慣れないお茶会も大丈夫、とペネロペは太鼓判を押してくれました。
私の緑のドレス、変じゃないかしら、と何度も浮かんでくる不安を頭から追い払いながら、私は生唾を呑みます。
何せ、すでに足音が聞こえています。大理石の廊下を、ヒールの音を響かせてやってくるのは、間違いなく彼女でしょう。
カツン、最後の音がすると同時に、ティーサロンの部屋の扉がノックされました。
サブリナが私とエドヴィージェに目配せをして、声をかけます。
「どうぞ、お入りになって」
サブリナの柔らかい声は、扉の向こうに届いたのでしょう。
すぐに扉は開かれ、一人のドレス姿の女性が姿を現します。
——この方が、ヴィンチェンツォとペネロペが嫌う、スカヴィーノ侯爵家令嬢アナトリア?
私はとても信じられませんでしたが、教えられていた外見的特徴と一致します。
鮮やかなハニーブロンドはフェミニンな雰囲気たっぷりで、高貴ささえ併せ持っています。それはカレンド王国の王族やそれに近い貴族に金髪が多いこともあって、やんごとない血筋だと一目で分かるほどです。
白黒のドレスには賛否両論ありそうですが、白が多めで黒地は胸元やスリット部分のチェックパターンに使われています。白地も絹の光沢が輝いていて、思わず私はつぶやいてしまいました。
「素敵……」
はっと我に返ると、アナトリアはにっこりと、満足げに微笑んでいました。
私は慌てて挨拶します。
「ご、ごきげんよう、初めまして、アナトリア様。私、ユリアと申します」
いけない、いけない。ドレスはとっても素敵だけど、気を引き締めなきゃ。
ヴィンチェンツォ、私、がんばります。
「大丈夫! お義姉様は明日のお茶会に専念して! こっちは私の戦いだから!」
とのことで、私はお言葉に甘えて、早く寝ることにしました。
どのみち、やることはもう決まっています。会って、話して、帰る。たったそれだけです。
それが上手くいくかどうかは分からないのですが、私なりに最善を尽くすしかありません。こんなことになるなら、お茶会の作法を勉強したり、貴族令嬢らしい話し方を真剣に習ったりすればよかった、と悔やみっぱなしですが、まさに後悔先に立たず。
そういうわけで、スカヴィーノ侯爵家令嬢アナトリアとのお茶会です。
王都にはいくつか、お茶会用のティーサロンがあります。大抵は高級ホテルに併設された個室で、好みや気分に合わせて飾っている花や絵画をアレンジしたり、多種多様なお茶菓子を出してくれたり、なんてサービスもあります。
ペネロペが常連として使っているというティーサロンで、私はじっと席に座って待っていました。
濃厚な花の香りといくつもある天窓からの柔らかい光、細身のテーブルにはいつでもお茶会を始められるよう、白磁に青の絵付けが施されたティーセットと、一口サイズのフィナンシェがたっぷり盛られたケーキスタンドが用意されています。フィナンシェはですね、ペネロペ曰く今の流行だそうで、食べてみたいと言ったら色とりどりのフィナンシェが出てきました。緑のやつはヘーゼルナッツでしょうか、ピンクのやつはおそらくいちごですね。ホイップクリームやクロテッドクリーム、ジャムをつけていただくようで、小さな花型の器にバラジャムやマーマレードが並べられています。
それだけで私はすでに興奮しきりなのですが、だめです、これでは本題を忘れてしまいそうです。
一緒に来てくれた、ペネロペのご友人の貴族令嬢二人が、声をかけてくれました。
「ユリア様、緊張していらっしゃいませんか? 私たちがついておりますから、遠慮なく頼ってくださいな」
長い豊かな茶髪を三つ編みにした、紫のドレスを着たキアルージ伯爵家令嬢サブリナがそう言ってくれました。十八歳とは思えぬ見事な淑女っぷりです、近々ご結婚予定だとか。
「少なくとも、アナトリアがフォークを持ち出す前に止められるようにしておきます。とにかく、そのときは逃げてくださいね」
黒髪を巻いてピシッとまとめた、トランクィッロ侯爵家令嬢エドヴィージェは真剣そのものです。このエドヴィージェのトランクィッロ侯爵家は長年レーリチ公爵家の右腕的存在で、エドヴィージェは文武両道、よくペネロペの護衛をしているのだとか。
とりあえず、事情を知りレーリチ公爵家に協力してくれる彼女たちがいれば慣れないお茶会も大丈夫、とペネロペは太鼓判を押してくれました。
私の緑のドレス、変じゃないかしら、と何度も浮かんでくる不安を頭から追い払いながら、私は生唾を呑みます。
何せ、すでに足音が聞こえています。大理石の廊下を、ヒールの音を響かせてやってくるのは、間違いなく彼女でしょう。
カツン、最後の音がすると同時に、ティーサロンの部屋の扉がノックされました。
サブリナが私とエドヴィージェに目配せをして、声をかけます。
「どうぞ、お入りになって」
サブリナの柔らかい声は、扉の向こうに届いたのでしょう。
すぐに扉は開かれ、一人のドレス姿の女性が姿を現します。
——この方が、ヴィンチェンツォとペネロペが嫌う、スカヴィーノ侯爵家令嬢アナトリア?
私はとても信じられませんでしたが、教えられていた外見的特徴と一致します。
鮮やかなハニーブロンドはフェミニンな雰囲気たっぷりで、高貴ささえ併せ持っています。それはカレンド王国の王族やそれに近い貴族に金髪が多いこともあって、やんごとない血筋だと一目で分かるほどです。
白黒のドレスには賛否両論ありそうですが、白が多めで黒地は胸元やスリット部分のチェックパターンに使われています。白地も絹の光沢が輝いていて、思わず私はつぶやいてしまいました。
「素敵……」
はっと我に返ると、アナトリアはにっこりと、満足げに微笑んでいました。
私は慌てて挨拶します。
「ご、ごきげんよう、初めまして、アナトリア様。私、ユリアと申します」
いけない、いけない。ドレスはとっても素敵だけど、気を引き締めなきゃ。
ヴィンチェンツォ、私、がんばります。
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