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第1章命ある武器

16話 覚醒

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 すべては怒りから始まる。
 すべては悔しさから終わる。

 たくさんいじめられてきた。
 仲間外れは当たり前、
 クラスメイト全員男子と女子からいじめられている。

 よくいじめられる側にも問題があるとされているといわれてきている。

 だからってちょっとした問題でここまでいじめられる必要があるのだろうか?

 僕はみんなより劣っている。それだけで、運動だって遅れている。
 クラス対抗の試合のとき僕のせいでクラス対抗でびりになった。

 そのほかにもたくさん理由がある。

 僕がとろいから、僕が弱いから、僕がバカだから。

 すべて僕のせいだ。
 
 自殺だって考える。 
 だけど死ぬことが怖かった。

 いつしかクラスメイトを殺そうと爆弾をつくる。

 原っぱで爆発させたらその威力にびびり、

 殺すことをやめる。

 ここで人をころせば、家族が悲しむ。

 だからってだからっていつまでもいつまでもやられっぱなしは嫌だ。

 いつかやり返す。

 それが僕の夢だ。

 そしてついにその時がくる。

 破壊して爆発して、炸裂して、粉々にして。

 お前らをぶっ殺してやる。

 怒りが僕を汚染する。
 僕の気持ちを破壊する。

 僕の優しい気持ちを破壊する。
 僕の考え方を汚染する。

 そしてそこにはモンスターしかいないのだから。

「ひ、ひいいいいい」

 鑑定はしていた。
 奴の力を把握していた。
 完全鑑定とはそういうものだ。

――――――次々山のステータス――――――
種族:ヒューマン 魔法剣士
レベル25
STR(筋力)400
DEX(器用)350
VIT(丈夫さ)100
AGI(敏捷)350
INT(知力)700
MND(精神力)600
LUK(運)100

スキル表
魔法斬り 魔法付与 魔法破壊 魔法炸裂 魔法移動 
―――――――――――――――――――――

 完全鑑定で見たそのステータスは僕よりきっとあるのだろう、
 まだレベルが上がった後に把握していないから何とも言えないが。

 それでも僕は僕は僕は。

「くるなああああ」

 次々山が悲鳴をあげて腰を落としてこちらから離れる。

「テツノブ、怒りにのまれるな」
「テツノブ、しっかりしろ」

 ジェイス師匠とナナーナの声が聞こえる。

 僕の手は血まみれだ。

 そしてがたがたと震える次々山、
 次々山の右腕がなくなっている。

 僕の口の中に暖かい血が、
 それは次々山の右腕。

「うわああ」
「ああああああああああ」
「ああああああああああああああああああああああああ」

 悲鳴が上がる。
 それは僕の声。
 そして僕は知る。
 
 僕の体から武器が突き出ている。
 それもすべての吸収している武器が突き出ている。
 もはや頭しかない、

 それはどことなく成れの果てに似ている。
 しかしそれは違う。
 成れの果ては鉱物の誘惑。
 これは怒りの誘惑。
 殺したい殺したいという気持ちが代弁する。

「あなたの願いを叶えましょう」

 それはどことなく不思議な声。
 すべての武器の女神様がいるならきっとそのような声。

 ぐさりと何かが突き刺さる音。
 魔法剣士である次々山が悲鳴をあげながら魔法剣を僕の右わき腹に突き刺す。
 武器と武器の隙間を狙った攻撃。
 僕は口から吐血するなか、

 それでも僕は、右手をくりだす。

 その右手には無数の武器がついているだけで、

 ただそれだけで、

 次々山はシェイク状態にミンチにされる。

 そこには肉の何かがあり、

 ころころと何かが転がっている。
 それは目玉だった。

 僕は人生で2度目の殺人を犯した。
 1度目はナナーナを助けるため、
 2度目はとても幸せな殺人だった。

 腹から血が流れている。
 体から出現した武器がすべておさまると、
 その場にゆったりと倒れた。

「レベルが30→40になりました」

 どうやら魔法剣士である次々山を殺したおかげでレベルが10もあがったのだろう。

 意識が混濁する。痛みが激しい、
 腹が焼けるようだ。

「起きろ、死ぬな、まだわしのところで学ぶのじゃろう」
「嘘よ、死なないで」

 僕の意識は落ちそうになり、落ちなかった。

「だ、れか、回復魔法を、回復、かは、僕は死なない、復讐するまえ、メルーナ姫を取り戻すまで、だから、師匠、ナナーナ、あとよろしく」

 そこで僕の意識はぷつんと途切れた。

―――治療後―――

 ほんのりと暖かい気分がした。
 それは消毒の臭いだったと思う。
 ゆったりと船を漕ぐように流されている。
 まさか黄泉の川なのだろうか?
 だけどそれは川ではなくて、
 海だった。

 そこには一人の女神がいる。
 とても幼い女神、
 幼稚園児のような女神がこちらを見て。

「お主の願いをかなえたから次はあたしの願いをかなえてね」

 それは意味の分からないもの。
 そして僕はがバット起きた。


 僕の体に仁王立ちして立っている何かがいる。
 まるで女神のようなシルクの衣服を身に着けている幼児がいる。
 そいつはとても偉そうにこちらを見ている。

「願いをかなえてやったぞい、おぬしは復讐がしたいのじゃろう、その1つを殺した。あと22だな、いろいろとサポートするからのう、あたしを冒険に連れて行かせろや」
「そ、それはどういう」
「お主の願いではなく命まで助けてやったのだぞ、次はお主が女神の願いを聞く番だ」
「めちゃくちゃだな」
「あたしはアテナじゃ、覚えておくように、これからお主を貧乏神のようについていくのでな、一応パーティー申請しといてくれ」

「めちゃくちゃだぞ」
「レベルは50くらいに設定しておいた。だからお主より強いぞ」
「すみませんでした」

「あとドワーフとエルフに感謝せよ、あたしがモンスターを避ける魔法をかけてから、寝ずにお主をデルズの町の診療所までつれてきた。あたしがそなたの傷の時間をとめていたのも助かった原因だ。ぞんぶんにあがめ」
「ははぁ」

「それでよろしい、あたしはバナナジュースを飲んできたいのじゃが、お金がない」

 タイミング悪くジェイス師匠とナナーナが入ってくる。

「おい助かったようだな」
「まったくあんたいつどこで子供つくったの」

「え、えええええええ」

「ちなみにあたしはテツノブの子供という設定じゃ」

「それだと僕がとんでもない年齢で君を産ませたことになるよ」
「しまったそこまで考えてなかった」

「彼女は僕の友達です」
「そ、そうか、幼児の友達か」
「なんかロリコン趣味でもあんの?」

「ままて、僕はロリコンじゃないいいいい」
「ロリコンとはどういう意味じゃ?」

「アテナはだまっとれええええええええ」

 そのあと僕はアテナにバナナジュースを飲ませたのであった。

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