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勇者逆襲の章

44話ゴーストマスターってかっこいいの?

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 現在、チャコブは一人の遊撃兵士になっていた。
 まわりの魔物たちはチャコブに襲い掛かってくる。
 まるで風のようにチャコブはいたるところを飛び回る。

 チャコブには見えている。
 沢山のゴーストたちが恨みを晴らせと。
 魔物と魔人たちと魔王たちによって意味もなく殺された人々。
 魔王たちの命令によって魔物たちが戦場にかりだされて、人間に殺されていった魔物たちを。

 彼等はゴーストとなって囁く者になっている。
 ゴーストを支配する。チャコブはそのすべてを理解して、聞いていた。
 涙が流れそうになってもチャコブはまるで軽業師のように四方を飛びはめては、ゴーストソードで魂そののものに攻撃を繰り出す。

 チャコブはこのたくさんのゴーストたちをしり、魔物たちを殺さないと決めている。
 野菜勇者様が魔物たちを殺す覚悟をしたようにチャコブは魔物たちを殺さない覚悟をしていた。

「魂を斬るのは殺しじゃない、一時的にうごけなくなるだけ」

 チャコブはいたるところにゴーストソードでもって魔物たちを蹂躙してきた。

 チャコブの周囲の魔物と魔人たちは意識失っている。大きな町くらいの範囲の魔物が意識を失っていた。

「はぁはぁふうぅふぅ」

 チャコブは息を吸い上げる。布の黒いシャツに簡素なズボン、頭には帽子をかぶり、チャコブはあたりを見渡す。一人の魔王を見つけてしまう。

 そいつはゆったりと歩いて着た。

「お主見えているようじゃのう」
「何を?」

 眼の前の魔王はお爺さんみたいな髭を生やしていた。
 頭には王冠をかぶり、こちらをじっくりと見定めている用でもある。

「我は魂【王】そなたがゴーストを見るように、我にもゴーストが見える。ほれ、こんなこともできる」

 倒れた魔物たちが一人、また一人と、魔人たちが一人、また一人と、やつらの表情は眼を閉じながら立ち上がる。さながら小説で見た死霊そのものだった。

「我は魂を操ることができる。傷のついた魂は残念ながら時間をかけないと直せない、そもそも魂は傷をつくと自動的に回復する。おぬしあまちゃんやのう」

「だから、だからって、そいつらの意思に反して操るなんて」
「てぃってぃ、われは操っていないあいつらはお前たち人間を殺すことを本望にしているのさ」
「それでもあいつらだって生きているんだ」
「どうやら野菜勇者に影響されたようじゃのう、確かに我たちは野菜勇者の優しき気持ちで無人島に飛ばされておったがの」

「なんで野菜勇者様のご好意を」
「反吐が出るとおもわんかのう? 我らは命がけで勇者を殺そうとした。それなのにあやつは我たちに勝手な慈悲を向け、時空の無人島に隔離したのじゃ」
「それでも」

「どうした少年、お主の覚悟とはそういうものじゃ」
「違う、魔物も魔人も人間とくらせるときが」
「それこそがあまちゃんだといっている、魔物の食料はなにかわかるか?」

 チャコブは言葉を失う。

「魔物以外の肉だ。魔物は共食いできないそれはなぜか? 同族を食べると毒で死ぬからじゃ」
 
 それでもそれでもとチャコブは夢を抱く。

「あなたは寂しい人だ」
「そうかな? 我は、おぬしがもう要らぬ存在だとわかったよ」

 魂【王】はこちらをにらみ出した。
 その気配は殺意の塊、魂【王】のゴーストがどんどん跳ね上がる。
 魔物と魔人たちのゴーストパワーがすべて魂【王】に吸収されていく。
 魂の抜け殻となった魔物と魔人たちはやはり死霊となってこちらにものすごいスピードで走ってくる。

 魂【王】は三倍の大きさになって、こちらを見ている。

「おぬしがこいつらをぶっ殺すところをみてみたい、ちなみにそいつらは頭を潰さない限り動き続ける」
 
 チャコブは深呼吸する。
 
「我祖先たちよ求めに答えてくれ」

 チャコブの周囲には7人のゴーストマスターであるゴーストが出現した。
 彼等はこちらを見てかかと笑って、走り出した。

 ゴーストたちと死霊たちがぶつかった。 
 地震のように地面が揺れる感触を感じた。
 空をみたら雲が割れていた。
 チャコブはまた深呼吸すると、走り出す。
 沢山の祖先がアクロバティックに跳躍しては、死霊たちの動きを封じていく。

【殺すのだチャコブよ】
【そうせねば、お主は死ぬ】
【お前はなぜ、平和を望んだ?】
【思い出せ】
【思い出すんだ】
【大切な人を失う気持ちを】
【わが息子よもういい、あいつらを殺すんだ】
「お父さん」

 チャコブの迷いは消えた。
 そこには父親に認められ、そして明日に向かって闘うことを許可された若者がいた。 
 彼は頷いた。その目には涙が現れ。野菜勇者の影響うけた彼は、その影響を解除した。

「「「「「「「七聖剣」」」」」」」

 七人の先代たちから受けとった剣は七本あった。
 チャコブの周囲に七本の剣が浮かんだ。
 チャコブにはその七本の剣の使い道は分からなかった。
 それでも1本だけの意味は理解した。

【肉体破壊剣】

 その剣はまがまがしい赤だった。
 まるで溶岩に溶かしたような不思議と気持ち悪さの感じない剣だった。
 その剣が肉体を破壊すると感じた。

 
 少し破壊したくないと思ったら、その剣は碧くなった。
 まるでこちらの感情をくみとって変質していく剣だ。

 チャコブは七本すべてが先代たちのゴーストが入っているのだとしり、その形や色合いに意味はないとさとった。
 七聖剣にはそれぞれの役目がある。
 その役目が個性だ。すべての剣が同じように見えてもやはり個性はあるのだ。
 
 チャコブは滑らかに【肉体破壊剣】をふるった。
 あたった死霊は蒸発した。
 まるで天に昇っていくように、遺灰が蒸発していく。
 その光景をみていたのだろう魂【王】は狼狽をあらわにする。

「ヴぁかなあああ、なぜだ。その死霊たちは頭を潰さない限り不死身だ」

 チャコブは涙を流す。
 それは二つの気持ちから現れるものだった。
 先祖たちに認められたこと、そして生き物を殺している罪悪感を。

 死んだ爺ちゃんを思い出した。

【いいかチャコブ、命ある物いつかは天に帰らねばならぬ、それは無慈悲であろうとな、わかるか? チャコブ、殺すことはいけないことだが大切な人々を守るために殺すことを行うならそれはいたしかない、そして忘れるな、殺すたびに罪悪感を覚えていたら、お前は殺したやつらにくわれてもおかしくないほど無礼なやつなのじゃ】

 チャコブは脳裏に蘇った祖父の言葉。
 迷いはない。

 チャコブの瞳から涙は流れない。
 問答無用とばかりに破壊をしていく。

 二体の魔物を両断し、魂の抜け殻の死霊たちを片っ端から両断していく。 
 それはさながら怒り狂った子供の将軍だった。

「なぁ、魔王、満足か?」
 
 そこにはあどけない子供ではなく先祖の意識と融合した真なるゴーストマスターが立っていた。魂【王】は大きな体をしながらこちらを見てにかりとわらった。
 
「我に過ぎたる敵なり」

 魂【王】は跳躍すると地面に落ちた。
 地面が揺れる。
 それでもゴーストマスターは立ち続ける。
 
「うおおおお」

 魂【王】が剣で体を落下さながら、チャコブの脳天を勝ち割ろうとした。
 そこに手も触れ居ていない剣が勝ってにガードしたのだ。

「ぶぁかな」

【自然振動剣】どんなものでも振動とともに威力を相殺させる。

「お前にはもったいない武器さ」

 魂【王】は弾き飛ばされると、地面に激突して立ち上がった。

「まだまだまだああああ」

 魂【王】は何度も、何度もゴーストパワーが切れるまでひたすら斬り出す。
 自動的にガードしてくれる【自然振動剣】により弾き返される。
 それでもそれでも魂【王】は諦めない。

 七人の先代たちが与えてくれたゴーストパワーはほぼ無限といってよかった。
 七本の聖剣を維持させるためにはたくさんのゴーストパワーが必要だった。
 
 魂【王】は突然動きをとめた。
 やつは辺り中からゴーストパワーを吸収し始める。魂【王】の大きさが瞬く間に巨大化していった。
 そして魂たるゴーストパワーを吸い出された魔物と魔人たちは死霊となっていく、なぜやつが人間のゴーストを吸わないのか。
 
 おそらく魔のものと人のものではゴーストのパワーが違うのだろう。 
 だからチャコブが魔のもののゴーストパワーを吸収したら副作用があると思われる。
 
 だが、今は数が必要だった。
 相手はどんどん膨れ上がっていく死者の軍勢。
 数千をこして、数千のゴーストパワーを手に入れた魂【王】はどんどんでかくなっている。
 ふとようく観察すると、やつ自身がでかくなっているわけではなくて、ゴーストが自身がでかくなっていた。

【死者召喚剣】死者を召喚することができる。

 後ろに七人の先代が現れる。
 一時期五十年といいう精神世界で修行をしていたとき、彼等が指導してくれた。
 そのなかには父親もいた。父親は涙を流してこちらを見ていた。

「先代たち、どうかお力を」

 七人は頭を下げて、にかりと笑った。
 それが助けようという合図だった。

 七本の剣は元の持ち主に戻るように移動して言った。

 父親が自分の眼の前にいる。

 彼はこちらを見て頷いた。


「息子よお前の剣をみせてみろ」

 
 チャコブは目をシャツの袖で拭うと、やはりにかりと笑って見せて。
 自分が思い描くゴーストソードを召喚した。

【自由奔放剣】剣が自由に闘う


「おぬしらしいな、では闘うか」
 
 ここにゴーストマスター八人衆が誕生した。
 七人はいたるところで武器を振るう、そのたんびに死霊たちが次から次へと蒸発していく。もはや力の蹂躙だった。チャコブはそれを見て、涙を押しとどめた。失礼だ。

 死んでいく魔物や魔人たちはこちらを殺そうとした。それに対して殺しで答えるのが仏であり、かわいそうだから殺さないとか、失礼だ。

 チャコブの迷いは何度でもふっきれるのだ。

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