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第20話 壊滅

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 ノブアキと勇者ウェルボシとドランザムはジェクス王国軍が壊滅したところを見ていた。ノブアキ達が見た時には2000人いたのだが、今では数100名が剣や槍を杖にして立ち上がる事でさえ限界のようだ。

 その中には先程の司令官もいるわけだ。
 3人はゆっくりと走り出した。
 獅子神部隊が生き残り達に止めを刺すべく動き出した。

 3000体の自由部隊はまるでネズミのようにすばしこく動く。
 数100名しか立ち上がっていないジェクス王国軍は絶対絶命であった。

 しかし、彼等の前に悠然と立つ男が3名いた。

「なぁ、勇者ウェルボシ、俺はルルガルと戦ってみたい」
「お前は本当にただの読書家なのか?」
「きっと俺はどこでも戦える読書家なのだと思うぞ」

 ノブアキはこの異世界にやってくるまで、静かな青年であったのだろう。
 この世界で命のやりとりをしているうちに強くなっていく。

「わたくしを忘れないでくださいなりぃ」
「おお、リンタット」

「わたくしが見た所によると四天王ルルガルはあの魔人軍の真ん中にいるようです。戦うなら周りから倒さないといけません、それとこちらに向かっている獅子神部隊ですが、ドラゴンであるドランザムさんが適任かと、後は消去方で魔王弟さんは勇者様が倒すべきかと」
「なるほどな、ありがとう、とりあえず」
「ああ、そうだな」
「ぶちのめすぞい」

 獅子神部隊が魔獣でこっちに突っ込んでくる。
 後方には倒れて動けないジェクス王国軍の人々がいる。
 大勢の怪我人だっている。

 ここを突破されるという事は色々と敗北するという事だ。

「わしも馬鹿にされたものじゃて」

 一瞬でそこには巨大なドラゴンがいた。
 あまりにも巨大であり化物を見ている感じがした。
 灰色の色は健在であった。

 大勢の獅子神部隊の魔獣たちがUターンしていった。
 どうやら一時後方に移動するようだ。
 だが1体だけが残っていた。
 そいつはライオンのような鬣をもっている獣人であった。 

 体の太さは全て筋肉のようにがっちりとしている。
 奴はドランザムを見てにやりと笑った。

「お前は何ものだ。巨大なドラゴンよ」
「わしは竜王と呼ばれる事もあり、ドラゴンキングと呼ばれているもの、今ではドランザムだ」
「はん、人間に飼いならされたか」
「違う、自分で決めたのだ」

「いいだろう、このわしの好敵手に相応しいわい」

 次の瞬間、空気がはりつめた。
 ぱちぱちとした空気の圧縮を感じる。
 その場にいる全ての生物が死を感じさせるほど冷たい気配。

 獅子神であるその獣人の体が次の瞬間には筋肉が膨張した。
 血管という血管がちぎれてそこから大量の出血をする。
 しかし、あっという間に血はかたまり、かさびたとなる。

 そこにはドラゴンキングのドランザムと同じ大きさのライオンがいた。
 
「怪獣には怪獣ってか」

 思わずノブアキは呟いていた。

「ここはわしに任せろ、お前らは先へいけ」

 ドランザムが咆哮と一緒に叫んだ。

「行くぞ」

 勇者がそう誘導すると。ノブアキと勇者ウェルボシは走り出した。

 次に遭遇したのは魔人部隊であった。
 その数は先程のジェクス王国軍と戦って減ったのだろうけど、3000人から2500人程度になったくらいだ。

 きっちりとした陣を形成しており、一番の先頭には1人の男がいた。
 ジェクス王国軍を壊滅させた魔人だ。

 彼はこちらを見てにやりとほくそえむ。

「魔王弟、いやウルルナリ久しぶりだな」
「誰かと思ったら勇者か、まったく、兄上がお前を倒したくてうずうずしておるぞ」
「はん、次は殺してやるって伝えておけ」
「それもそうだな、そうだ。ぼくがお前を倒してもいいぞ」
「それならやりあおうか」
「隣の男も来るか?」
「ノブアキはルルガルの相手だ」

「勇者よ馬鹿言ってはいけない、四天王ルルガル様はそんな男など軽くねじふせる」
「お前も見る目がなくなったなウルルナリ」
「ぼくはいつだって鋭い視線で色々な物を見てきた」
「なぁウルルナリ、いい加減、無駄口をやめろ、お前の悪い所だ。そうやって時間稼ぎしてないけど稼いじゃったみたいな」
「はん、そういうものだ」

 ノブアキは唖然と勇者と魔王弟を見ていた。
 2人は罵詈雑言を浴びせながら剣と剣をぶつかり合わせていた。
 その攻撃スピードは普通の人間を遥かに超越しており。
 その衝撃はもはや人間の限界突破したそのものであった。

 地面は割れ、雲は両断され、岩は粉砕される。
 ノブアキはとりあえず、勇者に声援を送って、走り出した。

 すぐそばで陣を整えているルルガル部隊。
 鑑定を発動させまくったのだが、やはりルルガルは陣の真ん中にいるのだろう。

 魔人と獣人と魔獣の混合部隊でありながら、ちゃんと指揮系統は整っているルルガル部隊は、こちらを見て即座に武器を構えた。

 彼等の褒められるべきところは、ノブアキが1人でやってきても馬鹿にしなかった事であり、即座に反応したのだ。

 つまりそう簡単に倒させてはくれないだろう。
 ノブアキはそう理解した。

 右手と左手を掲げると、初期魔法を発動させる。
 両手から無数の炎の塊が噴射されるも、魔人兵が即座にバリアを展開して全ての炎の塊が防がれてしまう。

 次には雷下しのスキルを発動させ、空には雲は所々しかないのだが、その少しの雲から雷を落下させる。
 無数の雷がルルガル部隊に降り注ぐはずであった。
 1人の叫び声で雷は全て霧散した。
 その叫び声こそがルルガル本人である。

 四天王の1人ルルガルだけでこれだけの強さ、勇者ウェルボシが1人の四天王を倒した。それはとてつもなく凄い事なのだと今更理解していた。

 がっちりと固められた陣で構えているルルガル部隊を倒すには、1つしか方法がないのだと思った。

「つまり接近戦だな、でもあいつら、接近と魔法も出来るんだろうな」

 先程のジェクス王国軍との戦いで、ルルガル部隊は魔法を使っているし、ノブアキの攻撃を防ぐのに防御魔法も使っている。

 周りの魔族達を倒さなければルルガルと戦う事は出来ず、会話する事も出来ない。
 ノブアキはごくりと生唾を飲み込んだ。
 次の瞬間縮地のスキルを発動させ、その場から消滅した。否、その場から敵兵の場所まで距離を縮めた。

 そうして1人VS4000人の戦いが始まった。
 1つだけ確かな事はノブアキが単なる読書家であるという事を忘れていなかった事をノブアキ自身が自分に突っ込んでいた。
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