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第21話 読書家の戦い方

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 空はとても綺麗だった。
 スキル縮地で辿り着いた戦場。
 そこにはノブアキ1人しかおらず、敵は4000人を超えていた。
 魔人と獣人と魔獣の混ざった兵士達は匠にコンビネーションが取れていた。

 単なる読書家の青年がひたすら縮地を発動させまくり、敵の中を瞬間移動と間違われても可笑しくないスピードで移動している。

「そっちにいったぞ」
「ぎゃああ、斬られたああああ」
「そっちだ。ガキだ。はやく止めをさせ」
「こ、こっちにくるんぁあああ」
「ルルガル様の所に向かわせるな」
「そっちだ。そっち」

 ノブアキの体は本来ならば敵の刃により斬り刻まれて、敵の魔法や衝撃の攻撃により骨が砕けていても可笑しくない。

 4000人の敵が適当に攻撃すれば、いくら縮地で移動していても敵の兵士の攻撃は数撃てば当たるという原理だ。

 それは2つのスキルが無かったらの話だ。
 ノブアキは自分が本好きで助かったと思った。

 耐性【斬耐性】【衝撃耐性】を覚えていたことで、ただの兵士クラスではそう簡単には死ぬ事は無いと分かっている。

 1人ずつ確実にノブアキは倒していく。
 基本的に殺すところまではいかずとも、致命傷を負わせたり気絶させたりする。
 それでもしつこい奴がいれば、止めを刺す事も考えないといけない。

 頼むからあまりしつこく立ち向かわないでくれと願った。
 それからどのくらいの時間が経過しただろうか、縮地だけでは物足りず、スキル影移動を発動させて、敵の影に隠れて影の中から攻撃したり。

 技術【剣術剣豪】【俊足闊歩】【避け名手】【怒声顔】を発動させた。

 まだまだひよっこであるノブアキが剣術の達人クラスに一瞬で変貌するのは、技術の本で技術を学んだから。
 
 素早く動く事も、敵の攻撃を避け続ける事も、いきなり怒った声と顔で威嚇するのも技術を習得しているからだ。

「ま、まじか、あんな構えを見たことがないぞ」
「早すぎて、見えない、瞬間みたいな奴と少し遅いスピードの速さ読めないぞ」
「全ての攻撃が避けられる。攻撃が当たっても無効化される。完璧だ」
「あの怒った声と顔を前にすると動けない」

 魔人と獣人と魔獣たちは戸惑って1人また1人と倒されていく。
 それはとても正確に弱点をついていく、それはスキル鑑定があるからだ。

 鑑定により敵の弱点を見極める事が出来るし、色々と情報を得る事が出来る。
 とても大切なスキルだ。

 さらに数時間が経過した頃、ドランザムと勇者ウェルボシがどうなったか気になったが、相手は四天王ルルガルという男だ。油断は禁物で前を見据える。

 その男は木製の椅子に座って足を組んでいた。
 魔人のようなするどい2本の角、ノブアキは鬼と思ったほどだ。
 他の魔人達の角はあれほどまがまがしくない。

 体が毛深く、牙がするどい、犬のような耳をしている。
 まるで獣人であった。

 ルルガルの回りには彼の配下達4000名が気絶または倒れている。

「1人も殺さずか、お前は誰だ」

 ルルガルの声は怒りを我慢しているものであった。

「おぬしはぬしの妹をひどく殴りつけて、殴って殴って、両足を折って、両腕を折って、動けなくなるまでいたぶって、妹の四肢は動かなくなった。妹はそれから元気をなくしてお世話を受けている。こんなひどい事を人間はするのだな? なぁ聞かせてくれよ天界騎士団って奴等はそんなに偉いのか」

「なぁ、もし俺が妹さんを治したらどうする」
「そのような事は不可能というものだ。ここで死ぬがいい」

「なぁ、あんた魔人と獣人のハーフだろ」
「それがどうした」

「すごいなぁって思った。あんたは魔人と獣人の架け橋になってるんだぜ」
「それはそうかもしれない」

「小説ってさそういう題材が多いわけ、がんばれよ」
「敵に慰められるとは、いよいよお主の事を知りたくなったではないか」

「そうかい、俺は精一杯戦ってあんたを斬り飛ばす。そんでもって天界騎士団を壊滅させる」
「すごく、面白い事をいうなぁ」

「その為には色々と準備が必要だ本とか本とか本とか」
「全部、本ではないか」

「そうだな、俺は本から色々な事を学び使うことができる。もしかしたら最高な回復魔法を覚える事だって」
「それを見極めよう、剣を構えろ」

 ノブアキはだらりと右手が下がっており、地面にロングソードの先っぽがつくくらいになっていた。
 左手にシールドを装備しており、シールドを構える。
 そしてロングソードを構える。

 呼吸を繰り返す。それが剣豪のそれだとしても。
 呼吸を何度も繰り返す、心臓がドクンドクンと脈打つ。
 空気が冷たくなる。

 眼の前に好敵手がいる。
 それはどれほどの力を秘めているか分からない。
 鑑定でも遥かに凌駕され鑑定不可能と出ている。

 弱点が分からず、そして得意な事も分からない。
 それでもノブアキは誠心誠意力を解き放つのだ。

スキル【掃除】【初期魔法】【パワーアップ】【鷹の目】
   【雷下し】【縮地】
技術【剣術剣豪】【俊足闊歩】【避け名手】【怒声顔】
耐性【斬耐性】【衝撃耐性】【窒息耐性】【精神的耐性】

 スキル、技術、耐性を発動しまくった。
 剣術の剣豪が掃除の構えをとると、剣から魔法を解き放つ、パワーアップした力で力任せにロングソードを振り落とす。剣に宿った多種多様な魔法が解き放たれ、鷹の目でルルガルの配置を把握し、避け名手でルルガルの2刀から斬撃を避け続ける。
 
 それでも避け続けられなければ、斬耐性だが、攻撃は衝撃となる。衝撃は衝撃耐性でなんとかしのぎ、いつしか息をとめている。窒息耐性により息をしばらくしなくても生きていける。怒鳴りつけるような声で威嚇し、怒った顔をする事でルルガルを驚かせて、素早い動きで近づき、フェイントで縮地を発動させる。

 ルルガルの背後に到達するもルルガルは迷いなく2刀を後ろに突き刺す。
 ノブアキの脇腹をかすめる。

 色々なスキルを発動してもルルガルの攻撃は全て避ける事は出来ない。


「うぉおおおおおおおお」
「ああああああああああああ」

 空から雷を等も落下させ、天変地異かと思える程だ。
 ノブアキの脳裏に死の恐怖がよぎる。
 どんどんと自分が死ぬのではないかと、そもそもごく普通の学生だったのに、こんな事になってしまった。

 ああ、なぜだ。自分は読書オタクのスポーツなんて出来ない男だったのに。

 精神的耐性が発動していると。

 そうだよなここで立たないでどうする。今の自分には友達がいるではないか。

 ロングソードと2刀がぶつかり合う、衝撃と衝撃が発動し、2人の体を斬り刻む。
 そのスピードはもはやノブアキの今までの限界を越えている。
 ノブアキの体はこんなに負担を耐えしのげる事は出来ない。
 それでもスキルがそれを応用してくれる。

 2人の剣がそれぞれを交差したとき、まるで時代劇のようにすれ違い、2人はにやりと笑った。

 先に倒れたのはルルガルであった。
 胸をざっくりと両断されていた。
 もちろん殺さなかった。
 手加減したわけではない、殺せなかった。
 殺すつもりでいったが、途中で気づく、彼を失ってはいけないと。

 眼の前が真っ暗になっていく。どうやらノブアキは倒れていたようだ。

 どのくらいの時間が経過したかは分からない。

 でも1人の汚らしい笑い声でようやく目を覚ました。

「ぎゃははは、四天王のルルガルもこんなもんかねぇ、約束の500人の美女をよこせば見逃してやったのに、これじゃあ美女どころか魔族の奴隷が欲しいなぁ、美女達には夜の仕事がたんまりとあるし、奴隷達は朝の仕事で急がしだなぁ、それにしても読書のガキが倒すとはねぇ、隠れて見ててよかったよ」

 俺はその豚みたいな男を凝視していた。

「こっちみんじゃねーよ、クソガキ」

 顔面に足を叩き落された。
 ぐりぐりと頭を押さえつけられる。

 何も言い返せない、立ち上がる事すら出来ない、そんな力はない。
 こんな男の為に、ノブアキはただゴブリンキングとドラゴンキングとリンタットと仲良く読書ざんまいしたかったのに。

「おのれ、天界騎士団のセガスターンが」

 目はぼやけていた。
 それがセガスターンだと気づかず豚だと思ってしまった。
 
 ルルガルが気絶寸前の力で叫んでいたのだ。

「ぎゃはははは、誰もきませーん、巨大なライオンみたいなやつと魔王の弟は結構離れてるしね」

 だがノブアキは知っている。
 1人だけだれとも戦っていない奴がいる。
 そいつはどこにでも自由に飛べる。
 
 そして。

「う、そだろ」

 セガスターンはその絶望的な光景を見ていたのだ。

 ノブアキは涙を流して。

「リンタットありがとう」
「わたくしには力はありませんが、こういう事はできるのです。獅子神ジェイロンと魔王弟とドランザムと勇者がやってきます」

「は、っはっはっはっは」

「何が可笑しい」
「なぁ俺はいつからこんなに弱かったか考えていた。そうだな最初から弱かったんだよ」

「お、お前立つのか」

「人間はなぁ、やっちゃいけない事とやっていい事があんだよ、そんなの小説を読まなくても分かる事だ。まぁ分からん奴がいたら小説を叩きつけて勉強しろって言うんだがな」

「意味の分からない事を、取り押さえろ、いやめんどくさい殺せ」

 今回の天界騎士団は1000人くらいいた。

 もう1000人を倒す体力は残っていない。

「ふ、お主気に入った」

 胸から出血しながら立ち上がるのはルルガルだった。

「どのような時でも、死ねば終わる。どのように悔しくても死ねば終わる。人間、いや、おぬしは名前は」

「俺はノブアキだ」
「背中を預ける」

 ノブアキはよろりとしながら、ルルガルがその背中を付ける。

「たのむから早く来てくれ」
「ああ、ぬしの部下はとても出来る奴だ」

 その時2人は斬撃を飛ばした。
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