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第2章エルフとオーガ

38話爆発する怒り

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 彼らは野球部だった。
 一人目の宮本正はピッチャーであり、プロを目指している人物だ。
 二人目の徳川霊地はバッターであり、ホームランばかりをうつほどの名選手だ。
 三人目の本多宮子は野球部の美人マネージャーでもある。
 その三人はなぜか同じくクラスになり、
 よく三人で遊んでいるところを見かけたことがある。


 さてなぜ彼らも僕は殺しのターゲットにしたのか、
 これから思い出すのはとても暗く、痛みに耐える青年の話だ。

 まず天童は野球に対しての知識もなければ、
 力すらない、
 宮本に無理やり引きずり出され、
 キャッチャー役にされるも、
 
 素人なりのキャッチをしようとしているのに、
 ピッチャーである宮本は天童の顔面ばかり狙う、
 顔がぐしゃといっていいほど腫れあがり、鼻血はとまらない、
 骨が砕けるぎりぎりまで顔面に投げられ、
 涙をながして、もうやめてくれと懇願しても、
 にやにや笑って、投げまくる。
 逃げようとしたら、バッターのバットが腹に命中、
 それをやってきたのが、徳川霊地だ。彼はおもいっきりバットでスイングする。
 

 ちょっとでも逃げようとしたら、ぼこぼこだぞというアピールだ。
 天童は涙を流しながら、げらげら笑っている人をみる。

 それは本多宮子だった。彼女はこちらを見てげらげら笑い、
 美人の顔が醜い豚のようにしか見えなかった。

 その三人のいじめ行為は日に日にエスカレートしていく、
 ちょっとでも痛みで泣くものなら、
 バットで肩を叩きつけられたり、
 しまいには走り込みだといわれて、無理やり走らされたり。
 たくさんの人々がいるまえで、パンツ一着になって走らされたり。

 天童はその下品な光景を思い出すだけで、
 脳裏に怒りを覚える。

 色々なことを思い出したけど、
 今教えてくれたザルンヴァー王女様に感謝をのべる。

「この度はありがとうございます。メイリンガルの件は考えさせてください」
「そうね、ありがとう、あなたたちがどのように3人のヒューマン族を恨んでいようと、エルフたちは巻き込まないでね」
「もちろんです。逆に人間代表として、王女様をだましたこと、謝らせていただきます」
「それはいいの、わたしの大事な宝石くらいかしら盗まれたのは、本当に腹がたつけどね」
「そうですね、その腹立ちは僕からも教えてあげないといけませんね、あの三人組に」
「それもお願いするわね、ではそろそろ眠くなったきたので、昨日から雑務がひどくてね」
「お疲れ様です。そろそろでますね」

 
 この会話を聞いていた人は二人の不死鳥騎士団のメンバーだけだ。
 不死鳥騎士団メンバーたちはそれぞれに仕事があるようだ。
 そりゃ一人で2000以上のレベルなのだから、当然なのかもしれない。

「なぁ、どうおもうネシネイ」
「すごい怒りの気配を感じた。また天童は一人で片付けようとしている」
「はは、何もかもお見通しだね」
「今回ばかりは一人だけに背負わせるつもりはない、あたしもがんばる」
「それは助かるよ、ったく、あの三人はなんでこんな異世界でも悪いことしてんだが」
「それは納得できる」


 王城から出ると、
 外にはたくさんのエルフの民がいた。
 彼らは一人ひとり叫び声をあげるのだ。

「なぜ、異端のエルフがいるんじゃ」
「あやつがいる、つまり王族と呪われた魔女の子がこのエルフの国に災厄をとばしているのじゃ」
「はやくメイリンガルを追放して、なぜ王女様は彼女を保護したの」
「はやくメイリンガルをころせーころせー」
「メイリンガルはくずだあああああ」


 天童はそれを聞いていた。
 王城の中には入れないように、不死鳥騎士団がガードしている。
 ちなみになぜか不死鳥騎士団という名前がどっからでたかというと、
 王女さまのメイリンガルの過去を教えてくれたとき、


 不死鳥騎士団という内容がわかったのだ。

 ずっとずっと叫び声は辺りを支配していた。 
 沢山の石ころが歩道に投げ込まれている。
 そこには頭や体に石がぶつかり、
 ところどころ打撲なのか内出血をしているメイリンガルがいた。
 彼女は泣くこともしないし、
 まっすぐにただ自分は家に帰るのだと歩いている。

「ちくしょ」

 天童とネシネイは走り出す。

「なぁ、さっきも言ったかもしれねーけど、僕は天童カルト」
「あたしも名乗ったかもしれないけど、ネシネイよ」
「「なぁ友達になろうぜ」」

 天童は生まれて初めて、友達になろうぜなんか呟いていた。
 その石ころを投げられる少女、
 背丈はとても小さく、天童の半分くらいしかない、
 それでも頑張って地面に両足を立てて、
 歯を食いしばって、前だけを見据えて、
 ただひたすら前へと突き進む足は、
 突如として、
 天童の肩車で邪魔された。

「ネシネイつかまれ」
「あいさ」

 天童たちは空高く舞い上がった。
 人々は奇怪な悲鳴をあげた。

「あれこそが魔女の由縁だ」

 とか叫んでいる人がいるけど、
 天童はそのようなことを黙って聞いていた。
 
 直立の状態で、天童は左手にネシネイをつかみ、
 右手で小さい子供のようなメイリンガルを肩車にしていた。

「うわああああああああ」
「ふあああああああああ」

「どうだ。乙女の二人組、空はいいだろ」
「でも落ちたら死ぬ」
「夢がないなぁ、ネシネイは、落ちなきゃいいんだよ」
「すっごおおおおい、あなたたち何ものなの? レベルを見たときから異常だとおもったけど」
「通りすがりの復讐魔と、通りすがりの製造屋みたいなものだ」
「これで、いろいろな国を旅するの?」
「そうだ。復讐しながら旅をする。最後は魔王をぶっ飛ばして、みんな仲良く家に帰るのさ」
「そうなんだ。カルトはとっても夢があるんだね」
「そりゃそうさ。復讐だけどな」
「ねぇ、復讐ってなにするの?」

 天童はこの純な乙女にいらぬことを言わないようにと考えたが、これから仲間になるかもしれない人に隠し立てはできないと思った。

「俺は元の世界で同じ仲間たちにひどいことをされた。さっきだって一人殺してきた。あと29人と1人それを殺したら最後に魔王をぶっとばす。お前の力が必要だ」

 天童はひっそりとその言葉を告げたとき、
 メイリンガルは目をきょとんとさせ、肩車で支えられているけど、あまりのパニックで立ち上がり、そのまま落下していった。

「ってばかあああ」

 天童はネシネイを背中に背負うと、空をダイビングするかのように飛翔した。
 地面ぎりぎりでメイリンガルをキャッチすると、
 彼女の目はきょとんとしていた。

「すっごいたのしい、もう一回」
「できるかあああああ」

 天童の叫び声が響き、
 近くの酒場があわただしくなる。
 うっすらと人間が見えた。
 それが誰なのかわからないが、
 ここでは合わせはまずいので。

【変身】スキルを使用することに、見たことがあるものならなんでもなれるので。
 とりあえず、エルフの不死鳥騎士団であるキートに化けることにした。
 これは単なる偶然の産物だ。

 そしてその三名がこちらにやってくるのだ。

「よおキート、女王をだませたの感謝してなかったな」

 その発言を言ったのは、徳川霊地だった。
 そしてそれがどういうことなのか、
 隣にいたメイリンガルも目を大きく開いている。
 ネシネイも唖然としている。

 まずメイリンガルは天童がキートに変身したことに驚き、
 次に徳川霊地がキートに向かってした発言、
 それはキートが徳川霊地たちとつながっているという明らかなる証拠であったのだから。

「そうか、ちょっといそがしい、すまん」
「いいってことよ」

 徳川霊地はバッティングの天才だ。
 俺をぼこぼこにしたのだから。

 キートに変身した天童とメイリンガルとネシネイは、少し離れた路地裏に到達。

「ったくどいうことだ。話がつかめねーぞ」
「カルト、もしかしたら、キートが敵だとしたら、結構やばいかも」
「それは、ライバルだから言えること?」
「そう、ライバルだから言えることよ、キートたち不死鳥騎士団全員が真っ黒にそまっていたら、この国は亡びるわ、その前に、選別をしなくちゃ、誰が敵で誰が味方かを。それとカルトはあの人間たちを殺したいんでしょ? 利害の一致じゃない?」

「そうだな、そうしよう」

 その日、3名の同じクラスメイトを殺害する計画と、キートたちの真実を突き詰める計画が繋がったときだった。

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