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間章 月をぶっ壊すことは可能か?

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 メロカは、いたって、冷静に、本を読みながら、腹筋を二百回するメロムを見つめてほくそえんだ。たいして自分は空中に浮かんでいるという奇妙なものである。凍えるような空気のなか、冷たい、風が、自分たちを包み込む。


 まだだ。まだ、時間じゃない、もうちょっと、もうちょっと。
 遥かな国がみえる。そして、都市がある。そうやって、人々の住む場所がある。じゃあ、メロカはどこに住めばいいのか、そんなものは決まっていない、気のむくままさ。メロカは気を信じている。


 書物を読み終わると大きな風が下から吹き上がってきた。
 時満ちたなり。
 深夜の五時。太陽が昇りつめようとしているまさにそのとき、
 メロムとメロカは小船に乗った。それには何の仕掛けもない、小さな木材の小船。ここでつくった、小さな小船に乗ることになにを意味しているのか、さも理解できないというように。


 「メロムよ、ついにきた、五ヶ月まった、お前が着てからも五ヶ月まった。そうして、この風をまっていた」
 「そうだとも、俺が攻撃なら、お前は移動だ」
 「もちろんだ。はっは」


 船が浮かび上がる。下からの風圧がひどい、まるで乱気流に入ってしまったように、ぐらぐらと揺れる。意識を集中する。そして、空中に浮かび上がり、風の起動にのった。これは、一年に一度くる、大きな、―大いなる月の風―と呼ばれている。その風は、月に運ぶように、飛んでいくといわれている、言い伝えであるが、信憑性のある言い伝えだ。

なぜなら、昔、ここで、連絡屋をやっていた、メロカの祖父は、その風にのって、ナイトフォースのぎりぎりまで飛ばされた。宇宙には空気がないといわれているが、その風にのれば、空気が体を包み込む。まるで、水が蒸発するときの魔法みたいに。



 メロカたちが、浮き上がると、彼は、特に、感慨深げに、したをみる。鉱石をぱらぱらと振りまく、またたくまに轟音が響き、月に向かって一直進。


 真っ青な群青色、そして、常闇、そこに太陽が、ほのかな光を放ち、こちらに放物線を描いて、光を届ける。その光は黄色と茶色と赤色がまざった、不思議な色である。


 たくさんの隕石がある。船を包むように空気がふわっとまとわりつき口のまわりに進入するようにべとべとと張り付く。体が浮くのがわかる。だが、メロカの力を応用し、船に重力をつくる。
 そうして、船はナイトフォースに向かって一直進していった。
 そこには大きなガラスの壁があり、そこに、ナイトフォースの光が集められ、その力を増やしていた。


 「なんだこれ」


 メロムの当然のいいように、メロカも言葉を失った。
 ナイトフォースの大きさは自分たちの何百億倍という大きさであり、もはや壊せる領域を超えている。たいしてそのガラスの大きさは自分たちの百倍という感じである。そのガラスに、焦点があい、光を集めている。
 そして、破壊衝動がおきるのはこのガラスであることにメロカは気づくほくそえんだ。


 「そうか、そういうことか、これは何もかも仕組まれていたのだ」
 「どういうことだ、メロカ」
 「これはな、ナイトフォースの光を魔逆にするものだ」
 「つまり?」
 「見るんだ。ナイトフォースは光っていない!!!!」


 ガラスの破片の外に見える、大きな、隕石みたいな物体、しかし、暗黒の闇に閉ざされた隕石は、ただ、自分たちよりも巨大さを表していた。なぜわかるのか、その巨大な闇の物体が、ガラスに見える、黄色と茶色のナイトフォースの物体につながり、形を、百億倍から、さらに、何千億倍という大きさに達していた。


 メロカは笑うしかなかった。これはどうみても、遥かな古代文明が作った。代物、それも喪われた科学文明であった。何千年も昔の話だ? 書物にしかのこっていなくて、碑石などにしか残されていない文明、なにがあったら、それしかなくなってしまうのかと疑うもの、残された古代文明の物体は高値で取引される。黒くて丸いタイヤもそうだし、他には楽器などもそうである。思いつくかぎり、メロカは頭の中でふるに動かした。


 そうして、メロカはにぃっと笑った。


 「なあ、メロム、これ壊せるかな」
 「そうだな、壊してぇよな」
 「そうだとも壊してぇよ、粉々にな」
 「俺の剣でどうにもなるほどでもないしな」
 「だが、わしの魔法でもどうにもできない」

 二人はたくみに笑った。そうして五ヶ月ただ、何もしなかったわけではなかった。メロカはもう修行を終えていたが、さらに知恵を膨らませる、それはどうやったら、ナイトフォースを破壊するか、蹂躙するかである。そして、メロムは、力を蓄え、メロカの知恵の訓練方法を伝授した。船がぷかぷかと浮いているのも時間の問題である。


 目の前に、意識を統一した。二人の男が不敵に笑う。
 老人と爺さんになりそうな、おっちゃん、その二人が、力を合わせれば。


 『できないもなどない!』


 メロカが指先に集中させたのは、火、水、土、空気である。それをコントロールして、大きな巨大な物体に変換する、次には書物で蓄えた倫理概念、科学を応用した技、いろんな物質を混合させ、イオンとマイナス、プラス。を操作する、そうして、原子を操作する、魔法と科学の融合。科学はいまいちわからない、だが、イメージするんだ。


 目の前では、力と魔法を合わせた男が剣を構える、朱塗りの大きな大剣である。それを一振り、構える一振り、そうして、力瘤をつくると、二人の視線が合った。


 原子となった物体を四つの属性にも属さない、未知の物体、これをメロカはこう名づけている。


 ハンブッシツである。反物質とも呼ばれる。だが、これを放つには、操作は難しい。地球の引力とは逆の方向へと飛ぶようになっている、それを利用するわけである。
 対して、それを力によって、無理やり操作する、それこそ。


 キアイ、気合とも呼ぶ、このふたつの力をあわせ、いままさに大剣が放たれる、玉となった、塊が、ガラスに到達すると大きな爆発音がして、ガラスが木っ端微塵になり津波のようにひび割れが入っていき、崩壊が始まる。すると、無であった、ナイトフォースの光が見えた。それを体中に受ける。強い重力が体を支配する、だが、ナイトフォースに行くのが目的じゃない、すっきりとした、破壊衝動をなくした、もう、家に帰ってまた書物を読もうそうおもった。
 だが、強い重力が支配する。それに抗う。


 放心してしまったメロム、メロムはキアイをつかって、船を漕ぐ。


 七色に輝く、空、宇宙、太陽、ナイトフォース、ぱらぱらといろいろな顔を見せる、光景、ガラス破片が幾重にも重なり、閃光となり、自分たちの体に、直接、いままでつちかった、メロムとメロカの力が作用し、体が、心臓の鼓動のように脈打つ。すると、目の前を大きな影の大群が押し寄せてくる、これには唖然とした、未知なる生き物、それが、無数に自分たちの故郷に向かっている。とめなくては。だが、いまや、気持ちがすっきりとしている。


 影が、体を包む。メロムの体にも包む。そうして、意識が途絶えていった。
 目が覚めればそこは、知らない、初めて見る光景、故郷を思い出す、ビルがある、だが、ようく見れば、すべてが機械であり、気づけば、沢山の人々の群れにまぎれて、メロカはただ、たたずみ、歩いた、なにをしていたんだっけ?


 よくわからなくなった。


 意識が脈動する。目を閉じた。そこに映し出されたのは、いつまでも落下を続ける、石化した、自分の体、隣にはメロムがいる、大剣を構えている。自分は手のひらを敵に向けている。そうして、大気圏と呼ばれる層を突破するも、空気がガードして、体を守る、遥かな山にたどり着きそこにたったまま思いっきり着地すると。地響きがした。


 目をあけると、そこにはやはり、機械の文明が、目を閉じた。


 体が動かない、石造となって、隣にはメロムが、彼は遥かな見えなくなってしまったナイトフォースを見て、ただひたすら、呆然としている。自分は何を? 一体なにを。
 目を開けた。


 人々が、ただひたすら、歩いている、そうして、人々の文明を築いている。
 大きな看板が見えた。古代文字が見えた。たくさんの文字があり、自分たちの使っている文字があった。そこにはこうかかれてあった。


 ―ナイトフォースへようこそ、これから、第二の人生を歩んでください―
 第二の人生? どういうことだ?


 周りを見る、知らない服装ばかり、布とかじゃない、ぴっちぴっちのスーツみたいなものをきている、あんな素材は、自分たちの都市にはない、朱塗りの機械の乗り物が動いてる。対して、タイヤがふたつの物体も走っている、空を見れば、乗り物がレールに乗って走っている。   何だこれは意味がわからない、気づけばそこに呆然と座り込んでいるメロムを見つけた。
 メロムは顔を覆っている、いまや、破壊衝動がなくなったせいか、茫然自失である。


 その隣には、ちょび髭を生やした、真っ黒とした、人がいて、マスクをつけている、肌色がのぞき、すべてが、影のようにうごめいているのがわかる。
 彼がこちらを見てふむと呟いた。


 「君たちが、レンズを破壊したから、あの惑星では、人々が死ななくなった」


 なにをいっている、人々は死ぬものだろう。


 「そもそも、科学が進みすぎて、人々は死ななくなり、死なすために、ナイトフォースがあったのだが、どうやら、水と鉱石というあの惑星独自の魔法が、それを嫌ったらしい、昔からいるものだ、魔法使いなどというものは滅んだとばかりおもっておった。ウェスバに聞かせてやりたいわい」
 「あんたは誰なんですか?」
 「こいつは、神だよ」
 メロムが意味不明なことを呟いた。


 「まぁ、そう呼ばれることもあるが、影の支配者とでも呼びましょうか」
 「メロム、それより、なんで、神だってわかった」


 自分はあせる心の中で呟いた。


 「気づかないのかこいつには気配がない、なのに口が動いている、ここに存在していない」
 「お前、そういえば、周りの人々の気配はする。魔法の力でわかる、魔法の水の血も鉱石の血も入っていない純潔があるのだとわかる、だが、こいつからは、何も感じない、なんだこれは」
 「覚えていないのか、書物に載っていただろう、ウェスバの悪事で、出会った人だ。あれは、お前が見せてくれた」


 出会った人、あれは、事実を元にした、創作である。
 ウェスバという悪党が、いろいろな悪事の冒険をへて、一人の男とであった、これは科学の時代なのだが、彼は一人の子供とであった。その子供からは、いつも微笑みしかなかった。あるとき、気づいた、回りの人々が子供を見ていなかった。
 ウェスバにしか見えていなかった。


 ウェスバはケリーという魔法使いに相談した。
 そして、子供を捜した。見つけた。そうすると彼が、名乗った。


 「ああ、神さ、存在していないのだからな、魔法使いでもないぞ、単なる一だ、単なる始まりだ。わかったなら、お前の悪事もっと教えてくれ、面白そうだ。もっと食べたい、人生という結果を食べたい。不老不死の若者よ、死にたくないか?」
 「死にたくないか? もちろん、死にたいさ」


 とウェスバが語った。


 「なら、教えてやろう、お前に、これを渡す、これは設計図だ。宇宙船はもうあるだろう、それで、このレンズをつくれ、そうしたら、お前は死ねる、だが、死にたくないときは、こっちの設計図をつくれ、冬眠できる」


 と神と名乗る子供が教えてくれる。
 そうして、締めくくりはこうである。



 「神様でもなければ、一でもなければ、始まりでもない、人々の影そのものさ、存在していないのだからね、影だとおもってくれ、無限に続く影だよ」


 その影は名乗った。神様であり影なのだと、意味わからないし、そのとき、レンズの意味も知らなかった。ナイトフォースを作っていたのが、レンズだったのか、てっきり、ウェスバは死ねないからだに改造されているものとばかりおもっていた。
 そして、記憶を呼び起こすのをやめると、


 「あれは実話だったのか」
 「そうだな、うーむわからないが、ウェスバが残した書物だろう、読んだことはないよ、人がいれば、そこには影が生まれる、それが俺、わし、私、僕、うち、だ。この中で、自己描写が好きなのは、僕だね、可愛いし、昔子供を演じてたからね」

 一息つくと。

 「人の数だけ数があるし、頭のいいのもいるし、頭の悪いものもいる、そういった魔法を現実にしてくれるのが、このナイトフォース、影は人をこちらに渡す道とならねばならない、これからは、人類、恐怖になるだろう、このナイトフォースにいる数だけの影が、惑星に走り、また増やそうとしている、この惑星に転送されたものだけ、影は増え続ける。そうやって、影は増殖していく、だから、始まりの影は僕であり、このナイトフォースそのものであり、そうして、遥かな山にある箱舟でもある、僕を作った。学者はこういうだろう、それは、科学の失敗作品であった。ナイトフォースのかけらと人の細胞を合わせて、作ったら、僕が生まれたとね」

 科学の残した遺産が彼である、彼が、ナイトフォースという惑星の意思を人類に渡した。悪党でもなければ、正義でもない、道を示すだけである。

 「ということで、君たちは、ここで、第二の人生を歩め。箱舟が動くまで」
 「箱舟とは?」

 メロムがたずねると。

 「遥かな山のことさ、あれは全部が船なんだよ、頭のいい人はこの世界の仕組みに気づき、僕に合いにくるだろう、彼らはこう尋ねるだろう、消された人々を帰せと、そして、次にこうたずねる、死を与えてくれるか、死を与えないか、このふたつを選びたいと願う。そして、僕が判決を下す、二人の巫女をつくり、新しい体制を創造するというのが、僕とナイトフォースの意思だよ」


 「なぜ、そこまで、未来が見えるんだ」
 「未来を見るんじゃない、起こるか起こらないかを創造して、それにたいして、対抗策を練る、ただそれだけ、だから、君たちは、遥かな山一帯に入って生活して、すべての生活用品は揃ってる。ここから、右に進みたまえ、ここは科学の文明の世帯だからね」


 そうすると、とぼとぼと影は消えて行った、影の支配者の背中は大きかった。
 メロムとメロカは、その遥かな山世帯に入ると、誰もいなかったのに、とてつもない広さのある地区だとわかった。


 いろんなものがあり、知らないものが置いてある、すべてに説明書が書かれてあるし、食べ物がほしいときは、ボタンを押せば出てくるし、トイレは機械でできてるしで、たくさんの建物の中から、メロムとメロカの看板がある、大きな時計台にたどり着く、そこにはいると、二人分の生活居住区があったのである。


 だから、これから生活していくのであるとわかった、たった二人で、だけどと思ったら、次々と、この一帯に人々が入ってくる、彼らを見て、即わかった。


 「あのう、影に襲われたらここにきたんだけど、遥かな山世帯ってここですか、それと都市世帯も融合されたって本当ですか」


 上を見ると、宇宙が見える、看板があり、遥かな山世帯と、都市世帯となっていた。
 そうして、周りをみると、見知った人々がぞくぞくと入ってくる、みんな、それぞれ、割り当てられた家に入って生活を始めた。最初はよくわからなくてもじょじょにわかってきた、これが、影に食われた人、科学時代の人々の影に食われ、そうして、こちらに転送され、転送された人の影もまた、動き、人々を襲う、いつか来る、箱舟が動くまでの、これは、まさしく、神からの宣託である。


 そうして、メロカは自分の足元を見た、光が照らすのに、そこには自分の影がなかったのである。
 メロムは、椅子に座って微笑み。なんだか、十分だという感じである。いたるところに、武器がかざってあった。どれをとって使おうと考えている模様である。ためしに、自分の腕を斬っていたら、再構築された。


 「おい、もしかして、死なないんじゃ」


 メロムが笑う。


 「そのようだ」


 大きな張り紙があり、そこにはコロシアム解禁するためには、人口が百人を超え、参加者が二十人が必要だとか、祭りを解禁するためには、人口が三百人を超えることが必要だとか、イベントが、ところせましたと並べられ、大きな看板に、こう書かれてあった。


 ―統治者、メロム+メロカ―
 である。自分たちがどうやら、こういったイベントを作っていき、この町を発展させるようである。

 だが、おそらく、自分はこう思っていた。


 これが、楽園なのか? と、ふわりと冷たい風が、自分のひざをほっそりとなでると、メロカはただ笑って、空を見つめた。そこには自分たちが住んでいた、緑と青い、惑星が存在していたからだ。時計台の窓から見える光景は笑えるほど、信憑性があった。


 ぬめりとしていて、苦しい、空気、そして、しめっている、水、それらを口を舐める唾液に含まれていると意識して、目をかっと開き、ただ、手のひらに四つの属性を集中すると、そこにはやはり、魔法があり、水と鉱石がないのに、なぜ、動くのか謎におもった。
 地面に足をつける、力がでる。
 どうやらそのようだ。


 魔法の水と魔法の鉱石の起源は、この惑星にも存在しているのだと。  
 そうして、第二の人生が始まった。



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