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3章それでもキミが大事だ①

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 遥かな山を越えるのは、とてつもなく難しいことなのでしょうかといまさらながらに自分で思うのです。僕は、大きな山を越えられる、こえることができると疑っていませんでした。しかし、目の前の状況を見て、一言、こう呟くのです。

 「無理だろ」
 「無理ね」


 「お前やってみろ、道化にできないことは、人にはできない」
 そう、僕、サイネ、ピサロは、目の前の断崖絶壁を見て、無理だという、結論に達したのです。


 ひい爺さんはこれをどうやって、上ることができたのでしょうか、いまさらながらに、ひい爺さんの超人的な力を信じるしかありませんでした。岩肌はネズミ色で、触れば、かちかちであり、ちょっとでもすりむけば、血まみれになるだろうというほどのするどいカドが目立ちます。それが、とてつもなく怖いという人として当たり前の衝動をかきたてられるのです。
 ところがです。僕は、人の気配を感じて、あたりをうかがうのですが、誰もいないのです。シャドーは襲ってきません、最近は見かけないほどです。


 旅に出てから、もう二週間がたちます。後ろの追跡部隊を何度も退くことに成功しているのですが、隊長のしつこさには、あいかわらず、愛想をつきます。


 地面の、草色の雑草が、とても気持ちよく成長しているのに、僕たちはこの山を越えることができないのでしょうか、唐突に不安にかられるのです。


 ところがです。目の前に、一通の鷹が止まるのです。彼はこちらを睨むと、ふふふと笑いました。
 その場にいた全員が凍りつきました。


 「ようこそ、遥かな山へ」
 「鷹がしゃべったぞ」


 ピサロの当然の同様に、僕たちも頷きます。


 「鷹を通して、うちの声を聞かせてるのよ」


 女性のようです。鷹の首元には、鉱石のアクセサリーがあります。どうやら、メロカの力のようです。


 「見たところ、遥かな山を越えたいようね」
 「そうですよ」
 「案内してあげますよ、魔女のマリーがね」
 「魔女なんているんですか」
 「現に、目の前にいるでしょう」
 「目の前には鷹が一羽いるだけですよ」
 「そうね、鷹よ、まぁ、ついてらっしゃい」


 その言葉のとおりに、鷹の羽が空気という物体を切り裂くと、飛翔したのであります、とても気持ちよさそうに、飛ぶのは、人が願う気持ちと似ていました。人が空を飛びたいとおもうのは、至極もっともな話なのです。


 「なぁ、大丈夫か、魔女だって」
 「魔女ですか、マリーという言葉はどこかで聞いたことがあるのですが、確か、ひい爺さんが残した、書物に、遥かな山の番人がいると、書いてあって、魔女と記されていましたのですが、マリーとはかかれていませんでしよ」


 「それって、あまり人には知らせないほうがいいってことで、マリーって名前は書かないことにしたんじゃないのかしら?」


 サイネが当然のものいいで、語ります。僕は頷きます、ひい爺さんはマリーという名前を書かなかった。本当にそうなのでしょうか。僕は疑いの目を鷹に向けました。


 ピサロは、笛を吹きながら歩きます。そのおかげで、シャドーが襲ってくることはないのです、その音色は、気持ちがよさそうな、双子がダンスをしているようなものでした。その双子はきっとピサロの友達なのでしょうかという創造をかきたてられます。


 気持ちよさと、気持ち悪さは逆であります、表現の仕方はそれぞれでありますが、とてつもなく、よい行いだとかというつもりはありません、気持ちがよさそうだったら、発言すればいいのです。それは、面白曲なのですねと。


 僕はひたすら、空を見上げます、太陽が青い空を作り出しています。青い空は雲ひとつありません、まるで、嵐の先触れのような不思議な感じがしました。


 ひい爺さんが残した書物では、遥かな山は、一週間に一度嵐にまみれるそうです。そうやって、雲をつくりだし、遥かな山の屋上を隠すようなのです。


 だけど、バールドの世界では嵐ではなく、普通の日常だと聞いております。
 ひい爺さんの偉業をいまさらながらにも思い知りながらも、一歩一歩突き進みます。ところが、途中で、不思議なことに気づくのです。


 なぜなら、僕は、遥かな山をぐるぐると回るように、確かな道のりで、登っているからです。その道は、都市で有名なソフトクリームのような、感じで、遥かな山をぐるぐると回っているのです。


 つまり、これは、道があったのでしょうが、しかし、その確かな道は、ごたごたであり、ひどいものでした、岩は散乱し、木々はなぎ倒されていました。雑草もぼうぼうで、茶色のような、草花もしたたり、気持ちわるかったです。


 大きな屋敷が見えてきました。まるで、自然と同化しているように、周りには、メロカの鉱石で、覆われた、防護柵があります。なぜ自然と同化しているように見えたのか、それはすべて木で作られていたからです。屋敷は木材でありました。




 それもすべての木が殺されているわけではなくて、生きたまま、成長したまま、作られているのです。編み物でもするように、大きな編み物ですねと語ってやりたいです。鷹が入り口で止まると、空を見上げて黙りました。


 僕は、鷹を通り越して、屋敷の入り口にたどり着き、インターホンらしきものを押すと目の前の扉が開き、そこには、美女がいました。


 白銀の髪の毛に、白い毛皮のマフラー、真っ黒のコートをたなびかせ、唇には真っ赤な紅があり、鼻は小さくて、目はほっそりとしています。痩せ型であり、見た目は、若い美女なのですが、どこか、老齢じみた感じがします。


 彼女はいらっしゃいと呟き、屋敷に招待してくれました。大きなソファーに座らされ、真ん中に自分が座り、右にサイネ、左にピサロが座りました。すると、外から轟音の音色が轟き、大きなカミナリがぴかっと光ります。それが、屋敷を飲み込むように見えないのは、偶然の賜物です、すぐそばの木がなぎ倒され、崩れる音がします、なだれが起きたようです。このままでは、屋敷があぶないとおもったのですが、なぜか、なだれがこの屋敷を避けるように動くのです。あまりの出来事に窓から見ている僕は口を開けっ放しでありました。


 「そうそう、うちね、魔女だから、この屋敷は普通の人には見えないの」
 「見えない?」
 「嘘だろ」
 「本当なのかも」


 三人が一様に頷くと。


 「だから、追ってからも見えないから、安心してね」


 どうやら、追いかけられていることを知っているようです。


 「不思議だとおもっているでしょう? 鷹の目をつかって、辺りをうかがえば、あなたたちのどんぱちは見えるわよ」
 「そうですか、なんかすみません」
 「気にしないの、遥かな山を越えるんでしょう、それでも彼女を守るんでしょう」
 その発言を感化できずに、僕は立ち上がり、真っ赤になりました。
 「大丈夫、そこも見てたから、彼女には伝えないほうがいいかしら」
 「当たり前です」


 僕がそういうと、サイネが不思議そうにこちらを見て微笑みました。何かを隠されているのに彼女は温かい目で見てくれます。


 「この嵐はね、大いなる月の風と呼ばれてるの、遥かな山の屋上にいるとね、月まで飛ばされるのよ」
 「でも月は破壊されたんじゃ」
 「そうね、あれを破壊と呼べるならね」


 何かを知っていそうな、顔をしているマリーに、僕は驚きながらも。壁に貼り付けられた写真を見ます。そこには白衣を着た人々がたくさんのっています、いろんな人たちにまじって、悪党みたいな顔をした、若い人が、マリーともう一人の男の間に挟まれて、決めポーズをとっています。


 「ああ、これね、彼はケリー、魔法使いよ、でも昔では科学者、真ん中は大悪党のウェスバね」
 「二人は、いまはどこにいるのですか?」
 「そうね、遥かな山にいるかしら、トライデントって役職をやっててね、最後の一人がまだ欠員だそうよ」
 「ケリーもウェスバも聞いたことがないのでわからないのですが、何年前の話なんですか?」


 僕が尋ねると、マリー微笑みました。


 「笑わないで聞いてくれるかしら」
 「はい」
 「千六百年前」
 「そんなに昔? でも、死ねる。不老不死がなかった時代なのだから、死ぬはずじゃ」
 「そうね、それから説明しなくちゃ、まずは、千六百年前から人は死ななくなり、六百年前から、人が死ぬことになった。人は進化をたどり、不老不死を手にいれて、そして、人々が望み、死を与えるために、ナイトフォースにレンズをつくった」


 僕は唖然としていました。


 「ひい爺さんは知っているのですか、すみません、メロカです」
 「知らないでしょうね、あの人が、ナイトフォースのレンズを破壊するまで、この屋敷で冬眠していたもの、ウェスバも、ケリーもね」
 「冬眠?」
 「あら、こういえばわかるかしら、人口冬眠、命の時間をとめる、科学技術、メロカはこの場所を知っていたようね、だから、魔女が住んでいるとおもったのでしょう、でも、地下には、入ってこれなかった、写真からみて、魔女が住んでいると結論に達したようだけど、どうかしら? そこまで、書かれてたかしら?」


 彼女の推測はぴったしだった。なぜ、ひい爺さんが、魔女の名前を書かなかったのか、そこには、彼女がいなかった。そして、彼女は眠っていた。
 ふわふわと浮いてきたカップが目の前に置かれると、彼女が即す。


 「まぁ、コーヒーでも飲んで落ち着いて、なぜ、うちが君たちにこれを伝えるのかから説明しなくちゃならないから」
 「なぜですか?」
 「だ・か・らコーヒー」


 そういわれ、僕はちびちびとコーヒーをすするのであったのです。心の中で、せめぎたてるあわてる鼓動、それが、沈むのを感じるのです。なぜ、彼女が僕に伝えるのか。
 僕は謎でしかたなかったのです。
 意味がわかりません。そんな世界の真実を知ったとしても。意味があるのでしょうか。


 「よし、説明するわ、人類は、ナイトフォースに引っ越したの」
 「ぶほ」


 口から、液体がほとばしり、サイネもピサロも口を押さえている。


 「だったら、なんで、この場所に人々が住んでいるんですか、ナイトフォースのレンズってなんですか、そこから説明してくださいよ」
 「そうね、レンズは、宇宙空間に浮いている、ナイトフォースの力を魔逆に、つまり、光がなかったら光を作る、その光に、死を与える科学の力を与え、人々の体に降り積もる雪のようにかかり、人は寿命や怪我で死ぬ、ここまではいいかしら」
 「はい」
 「そして、人口の約、八十パーセントが、ナイトフォースに引越し、残りの二十パーセントが、遥かな森、遥かな山、遥かな霧、遥かな海、遥かな都市に別れ、そうやって、人口を増やしてきたの、それで残った人口は一億人ね、それから、増えていったのよ、ナイトフォースにいる人口はしらないけどね」


 「なんで、人々は引越したんですか、というかなんで、それを僕たちに教えるんですか」
 「そうね、簡単に言えば、多数決で決まったの、寿命を全うして死にたい人が、この地に残り、寿命で死にたくない人、ナイトフォースの光で死にたくない人は、ナイトフォースに住んで、永遠の寿命を手に入れる。だけど、レンズが壊されたから、多数決もくそったれもないわね、どっちとも同じ、だけど、そこにシャドー、フルクターが加わることによって、人類の第二選択が与えられた」
 「つまり、フルクターで死ぬってことですか、というか、はやく、なんで僕たちに伝えるかを説明してください」


 「それはあとよ、フルクターからね、君たちは勘違いしているようね、石造になるのは、抜け殻、本体は、転送されてる」


 「転送ってあれですか、瞬間移動ですか」
 「そうよ、そして、向かう先はナイトフォースよ」
 「えええ、それって、どういうことなの」


 サイネが当然のようにいう。


 「そして、ナイトフォースで、第二の人生を歩むのは消された人々、いつか、くる審判のときまで、そこで生活するのよ」
 「審判のときって?」
 「それはね、影の支配者が、人類の意見をまた聞くの、そして、決める、二人の巫女をつくる、一人は死の巫女、一人は生の巫女、そして、この地で新しい体制を築く、死にたくなったら、巫女の手を触る、いきたかったら、巫女の手を触る。間違ってはならないのは、二人が違うということよ、そして、死を与えられても、それは、寿命や怪我で死ぬことであって、その場で死ぬわけではないの」

 「なんで、あんたはそこまで」
 「あら、その影の支配者を作ったのは、うちたちだからよ」
 「は、はああああ?」

 「まぁ、彼は神だとおもっているようだし、ケリーにいたっては、自分が作ったのだと気づいていなかったかしら、気づいていたのは、うちだけね、ナイトフォースの欠片と人の細胞を融合させてできたのが、彼なのだから、彼は知恵に恵まれていたわね、そうして、人々に選択を与えることが楽しいようだから」


 僕は冷静になりながら。


 「ねぇ、ルービ・シャトレール、うちがなぜ、あなたたちにこれを伝えるのかということを説明するわ」
 「はい」
 「単なる気まぐれよ」
 「はぁああああ」
 「だってね、ここに来る人いなかったもん、さびしかったもん、だから、話たかったし、あのメロカの遺族なら、まいっかだし、それに、予知死を彼女に与えてしまったから、罪滅ぼしのつもり」


 僕は冷静になりながらも、口が動くのをゆっくりと動かす。


 「その、サイネの予知死って、やっぱりナイトフォースに関係があるんですか」
 「ナイトフォースの微細な光、つまり残ったレンズが反射して、当たったのが彼女、うちたちがつくったレンズだから、そうやって、不要な出来事をつくってしまったことには謝罪するわ」
 「はい、いいんです、なれましたから」
 「サイネ、そこはもっと突っ込め、このおばはんに怒れ」
 「ピサロ、いいんです。もう、どうこうする問題じゃないから」
 「本当に優しいな、サイネは」

 僕が呟くと、彼女が、下を見ながらひっそりと、悲しそうに笑いました。僕の心の中で、いたたまれない気持ちが競りあがってきますが冷静になります。


 嵐がひどくなるいっぽうでした、僕は口の中にコーヒーの味を確認しながら、とにかく、混乱する頭を冷静になるようにと務めました、しかし、なぜか、それは途方もなく無駄なことのような気がしたのです。僕たちは世界の真実を垣間見ているのだから。


 なぜだろう、暖かい風を感じる、それがなんなのか僕にはわかりまえん、だけど、暖かいのです。それが途方もない風であり、彼女がいっていた、風のことなのだと分かります。
 時が流れ、コーヒーがなくなると立ち上がりました。


 「まぁまぁ、座って、君たちには、修行してもらうから」
 「どんな?」
 「まずは、ルービには、類まれな剣術、そして、サイネには、魔術を、いや、科学と魔術をね、ピサロには、音楽で物を操作するすべを。物といっても気持ちだからね」
 「あのう、遥かな山を越えたいんですが」


 「バカ言わないでよ、ルービ、まずね、君たちはなんもわかってない、あそこには、猛獣がいるの、フルクターもシャドーも手を出さないような猛獣のスミカなのよ、まぁ、君たちの追っては、武装してるからいいとして、君たちはたった三人でしょうが」


 どうやら、彼女は遥かな山を越える手助けをしてくれるらしいのです。


 「嵐は一週間続くわ、それまで、地下にきてちょうだい、まぁ、コーヒーを飲み終わったらでいいわ、ちなみにそのコーヒーは薬よ」
 「えええええ」


 僕が叫ぶと、サイネとピサロも驚くまなざしを向けている。


 「安心して、覚えが早くなる薬だから、何年もかける修行を一週間ですませるようなね」
 「それって、科学なんですか?」
 「魔法とも科学ともいうわ、じゃ、いこいこ」


 僕たちは歩を進めながら思ったのです、このマリーってひとは、何か底が知れないものを抱えているのだと。


 成長していく木材の中、地下には厳重なロックがあり、そこを開くと、ありえない光景が広がっていました。小さな太陽が、天井に浮いている。たいして、地面は遥かな下。雲がある。空にはペンキで塗った青色の蛍光灯が。


 広さは、五十キロ四方の箱型である。壁には、木があり、地面には、木や、雑草や、自然の賜物があり。
 僕はそこにある椅子に座ると、サイネもピサロも座るのです。


 「じゃあ、三人とも幻覚剤を呑んでもらったことだし、見えるものにしたがってやってちょうだい、あなたたちが見ているものは見えないものであり、真相意識にあるものよ、そして、うちが、与える試練を代わりにやってくれるもの、だから、とにかく、がんばってちょうだい」


 それから、僕たちの修行が始まります。
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