世界緑化大戦

百舌鳥

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邂逅

八話

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ハァ・・・ハァ・・ハァ

間一髪だった・・
ほんの一瞬判断が遅れていればやられていたのは俺の方だった

床で大の字になって倒れている
男に視線を落とす

こんなに強い奴をフェイは手玉に取っていたのか?
現時点においてフェイの力量の底が見えない

いじめっ子「グゥっ・・」

次郎「⁇」

バッ‼︎

咄嗟に立ち上がり距離を取る
すると男は意識を取り戻した

いじめっ子「クソッ頭痛ぇ!・・
俺は気を失ったのか?・・・」

次郎「・・・」

まだ臨戦体制を解けない
この人にまだ戦意があるのか判断がつかない・・・

いじめっ子「はぁ・・・・
お前名前は?」

次郎「・・・G1、周りからは次郎って呼ばれている」

いじめっ子「次郎・・・俺の名前は
ラカンだ。」

次郎「??・・・あ、あぁ」

ラカン「俺は強い奴は基本的に認めている・・覚えておけ。カツアゲを見たって事はフェイの事は知っているのか?」

次郎「あぁ。友達だ。」

ラカン「そうか・・・まぁあの成金は例外だ。気に食わねぇ。」

次郎「・・・・」

ラカン「修行のしなおしだな・・
またな・・・次郎。」

カッカッカ   ガチャ

そう言い残すと、ラカンはお手洗いから出て行った

最初の印象からただのチンピラだと思っていたのだが、その身のこなしは
確かな技術の土台の上にあったと思う

彼もまた最初の印象とはかなり違う男の
様であった

キーンコーン・カーン

チャイムが鳴ると同時に授業を終えた生徒達数人がお手洗いへ入ってきて
惨状を見ると声を挙げた

「わぁっ‼︎」

「先生ぇ!お手洗い壊れてますよ!」

次郎「ちょっ‼︎」

先生「どういうこと?今いくわぁ!」

次郎「先生・・・」

先生「次郎くん?これは一体どう言う事?」

顔からして先生が真剣に怒っているのが
わかるが、先生は風貌が幼い女の子の様なので怖さはさほどない

しかし、この惨状を俺が進んでやったなんて思われるのは心外だ
そう思い必死に釈明し、先生は事態を飲み込んでくれた

先生「廊下に立たせてたから気付けなかったっていうのもあるけど随分災難にあったわね。
というか次郎くん顔に怪我してるじゃない!
ここはいいから保健室に行ってきなさい!」

シマトネ「なんだなんだ?おっ!次郎
結局帰って来なかったから何してたのかと思ったぞ!・・・これ、次郎がやったのか?とんでもない用の足し方だな!」

はっはっは!

椿「なになに?どうしたの?あっ‼︎次郎くん!怪我してるじゃん!」

フェイ「全く騒がしいですわね~」

先生「ラカンくんも根は良い子だと思うんだけどねぇ。
まぁカツアゲは何があっても許されないけど・・・
椿‼︎次郎くんを保健室に連れてってあげて!」

椿「は~い!次郎くん行こっ!大丈夫?一人で歩ける?」

次郎「あぁ、大丈夫だ。全くとんでもない目にあったよ・・・」

ザッザッザッザ   

椿「で・・結局何があったの?」

次郎「ん~急に喧嘩を吹っかけられたって感じかなぁ?」

椿「何それ~?その喧嘩を吹っかけてきた人はどっか行っちゃったの?」

次郎「あぁ、勝手なもんだよな・・・」

ガチャ

椿「先生~!・・・先生~?
あれー、誰もいないみたいだね。
人間用の絆創膏って置いてあるのかな?」

ガサッ・・ゴソ・・

椿「う~ん・・」

次郎「ありそうかぁ?」

ガッ!

次郎「とっとっと・・・うぁ~!!」

椿「きゃっ‼︎‼︎」

ドサァァア・・

次郎「痛たたた・・・あっ!悪い!
椿大丈夫か⁇」

椿「痛たぁ~い!・・・・次郎くん
・・・・手‼︎‼︎」

ついフラついて椿を押し倒す様な形になってしまった

ん・・・・?何か柔らかい物が手に触れている

視線を落とし自分の手の先を見てみると
そこにはメロン大程の大きさの椿の胸があった

初めて手に触れるその感触は沈み込む様な柔らかさで、こんな風になっているのかなんて染み染みと思ってしまっていた

椿「いつまで触ってんのよ次郎くん‼︎」

パァァァアン!

椿のビンタはラカンの刺突に迫る勢いで怪我をした右頬を弾いた

次郎「いったぁぁ‼︎」

椿「もぉ・・次郎くんが悪いんだよぉ!
まったく・・・」

次郎「悪い・・」

椿「とっあったあった!・・はい頬っぺた出して!」

次郎「ん」

ペター

椿「よっしッ!じゃあ教室戻ろっか!」

次郎「おう!椿ありがとな!」

椿「大した事してないよ!早く行こ!」

ザッザッザ・・

ハァァァァァなんだかこっちが緊張しちゃった・・・
次郎くん急に押し倒してくるんだから・・

次郎「?」

ガチャ

シマトネ「よぉ大丈夫だったか?」

次郎「あぁそこまで怪我は無かったからな」

シマトネ「誰に絡まれたんだよ?」

次郎「この前カツアゲしてた人いただろ?あの人だよ」

シマトネ「あぁ!災難だな。で?結局勝ったのか?」

次郎「いや勝ったなんて言えないよ。
たまたま出したパンチが当たっただけだ・・多分地力はあの人の方が上だよ」

シマトネ「ふーん・・そんなもんかねぇ。」

フェイ「あらぁラカンに絡まれたんですの?アイツあれでも昔はもう少し真面目だったんですけどね・・・」

次郎「そうなのか?」

フェイ「えぇまぁ・・そんなことより
今度の連休みなさんで離島に行きません?」

シマトネ「どうしたんだぁ?急に。」

フェイ「知り合いから旅館の優待券を頂きましたの!
昨日はあんな感じでしたし、次郎もあまり楽しめなかったんじゃなくって?
ですから次回はせっかくなら泊まりで行くのはどうかしら?」

椿「えっ絶対楽しいじゃん‼︎フェイちゃん流石!」

シマトネ「て事は旅費タダか⁉︎」

フェイ「まぁ宿泊はタダですわ!行き帰りの送迎は頼んでみたのですけど、車が出払ってしまっている可能性が高いから自分達で行く事になりますわね。」

シマトネ「いやいや宿費がタダなだけでも最高だよ!」

次郎「楽しそうだな。ちなみに離島ってどこなんだ?」

フェイ「ん~・・・ちなみに次郎は現在のこの国の地形図は把握出来てます?」

次郎「一応施設で最低限の知識は得ているから分かると思うぞ。」

フェイ「なら話は早いですわね。一応説明すると、昔この島国は日本という国に分類されていて現在地はその当時でいう所の首都に当たるわ!で、位置関係でいうと当時の名称で日本海と呼ばれる側に位置する離島よ!まぁ、現在は多少位置が変わっていますがほとんど同じですわ!」

次郎「おっおぉ・・・丁寧な説明ありがとう。」

椿「へぇこの辺て昔は日本て呼ばれていたんだぁ。当然だけど今とは国の名前が全然違うね。今は東方アジリアだもんね。」

シマトネ「そりゃ昔とは違うわな。
だけど呼称は変わっていても概ね国同士の境界線は似通ってるらしいぜ。」

椿「シマトネの癖にそんな事知ってるんだね」

シマトネ「うるせぇ。多少は授業聞いてんだよ!」

フェイ「まぁ行くとこはそんな感じの所ね。割と遠出になるし外泊だからみなさん一旦家に帰ったら行けるかどうか聞いて来てください。」

椿「はーい!」

シマトネ「おっけー!」

次郎「聞いてみるよ。」




キーン・コーンカーンコーン・・・・



先生「はいじゃあ今日はここまでね!
もう少ししたら連休だけどみんな予定は立てたかしら?」

「海行って来まーす‼︎」

「私は山~!」

「海外行きます‼︎」

先生「あら、いいわね‼︎先生もどこか行きたかったぁ~」

シマトネ「先生どこも行かないんですか?」

先生「先生はぁ~飲み会、仕事、飲み会、仕事、飲み会、飲み会って感じよぉ」

椿「結局お酒ばっかりなんですねぇ」

先生「仕事もしてるわよ!まぁいいわ。宿題もちゃんと出しますからそのつもりでいてね‼︎」

「えぇーー」

先生「当たり前でしょ!じゃあみんな気を付けて帰ってね!」

「さよなら~」

ガヤ・・ガヤ・・・

次郎「ん?シマトネどこ行くんだ?」

シマトネ「あぁ?どこって帰るんだよ!今日は俺用事あるから先帰るぜ!」

次郎「そうなのか・・・そういや椿も見ないな。」

シマトネ「椿も今日は先帰るって走ってったぞ?あいつそそっかしいから、コケてたけどな」

ゲラゲラゲラ・・・

シマトネ「じゃあまた明日な‼︎」

タッタッタッタ・・

そう言うとシマトネは足早に教室を出て行った
当然、別に寂しいなんてわけじゃないがここ最近誰かと一緒にいる事が多くなっていた為急に一人になってしまったのが
なんだか変な感じだった

また誰かに絡まれても面倒だし、
俺もさっさと帰ろう

ザッザッザッザ・・・・・・・

ふと帰り道に吹いた風がなんとはなしに
肌寒かった

こんな風に一人でいることはここ最近の日々を振り返ると本当にあまりなかったことだ。
再三言うが一人が寂しいわけじゃない・・今までもある意味ずっと一人でいた様なものだから。

物心ついた時から”両親”なんてものは見たこともないし、自分に兄弟がいるのかもわからない。

施設のルールで出産後は一定の期間の後引き離される。だからちゃんとした家族の記憶が俺にはない。

家族という概念は知っていてもそれは聞いた情報でしかなく、想像するのも難しい。

唯一長い時間を一緒に過ごしたバディの”F2”とも転入する事が決まって離れてしまった。

あいつは元気にやっているだろうか・・あまり口数の多い方じゃなかったからちゃんと生活できているのか心配してしまう。

次郎「・・一人かぁ。・・・少し遠回りでもして帰るか。」

親も家族もいなかったせいか、従来の性格からなのか、恐らく大人になるのは周りに比べて幾分早かった様に感じる。

周りの職員に対しては優等生を演じ、班では率先して動く様にしていた。

周りの顔色を伺い続けたせいか表情から何を思っているか推察できるし、先回り出来てしまう。

けど、同時に自分が本来何を思い、どうしたいのかという部分についてはすっかり抜け落ちてしまったのかもしれない。

仮面を着け続けていたらいつの間にかその仮面が外れなくなり自分に取って代わってしまった様な感覚・・

もう元の自分がどうだったのかも思い出せない。いや元々がこうだったのかも。

久しぶりに一人になった事で頭の中は今までの事や色んな事に対する想いが逡巡し、と目処なく垂れ流しになる。

この世界で、現代において自分の様な
マイノリティーな生き物はどういう立ち位置でこの先生きていけばいいのだろう・・・

今は・・確かに楽しいけれどいつか終わる

人間が世界を支配していた頃は逆に
他の生物に同等の知性がない事をいい事に非倫理的な行いも数多く行われていたと聞く

きっと俺はまだマシなんだろうな・・
だけど胸のつかえは消えない・・・


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