世界緑化大戦

百舌鳥

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邂逅

九話

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夢で・・恐らく小さかった時の自分だろう子供が暗闇の隅で啜り泣きながら

「おかあさぁん・・おとうさぁん・・」

そう言いながら記憶に無い家族を必死に求めている。

俺は夢の中で小さい自分に何もかける言葉が出てこなかったんだ。

”木”が支配者になりさえしなければ・・

施設にいる頃はそんな事も度々思いはした。
生まれるのがもっと早ければこんな思いしなくてもよかったのかな?

人間という同じ種族に囲まれて、お母さんやお父さん・・それに兄弟だっていたかもしれない。友達も・・

こんなカゴの中の鳥みたいに生態を調べられ、一生を終えるなんて。

それでも俺がそんな泣き言の様なことは言えない。
学校に通わせてもらって外での生活を享受している俺を同族達はどう感じるだろうか。

そんな事を思うと、俺はやはり仮面を付け続けなければならないんだろう。

”木”に対して恨みなんて感情を抱いてもそれはきっと筋違いで、それまでの時代で他の生物に人間がやってきたことだ。

だが、もしこれが罰だとして・・死に絶えた人間達の、顔も知らない過去の人達の業を背負うのは荷が重い。

久しぶりに一人になったせいか、そんな感傷的なことを思うと少しだけ”涙”が溜まって沈む夕日が薄くぼやける

次郎「はぁ・・・けっこう歩いたな
寒くなってきたしそろそろ帰るか。」

ブォォォオン・・ブルルルルゥ

キィ

樫「おや次郎君。今帰りですか?」

次郎「うわぁっ!びっくりしたなぁ」

樫「そんなに驚かなくても」

ん?今泣いていましたか?

樫「一人で寄り道でもしていたんですか?」

次郎「あっあぁ・・今日は帰りが一人だったから少し遠回りをしてみたんだ。」

樫「そうですか・・・それより右の頬どうかしたんですか?」

次郎「あぁ、いや大した事ないよ。」

友達とケンカでもしましたかね。

どちらにせよ同じ施設内でルーティンをこなすだけだった生活よりはやはり心的ストレスによる動的思考・行動を観測出来そうですね。

樫「今買い物終わりですので乗って下さい。」

次郎「いや~今日はこのまま歩いて帰るよ。」

樫「そうですか・・では気をつけて帰ってきて下さいね。」

ブルンブルン・・・ブボボボボォオオ


うわぁ・・ちょっと泣いてる所見られちゃったかな?

絆創膏の事はケンカしたなんて言って心配かけるのも嫌だしなぁ

まぁいいか、それより久しぶりにF2に手紙を書いて出してみよう。

何を書こうかな?・・意外と施設の外にいる樹木種はフランクに話しかけてくる
なんて教えてやろうかな?


ガチャー

次郎「ただいまー」

樫「おかえりなさい。
今日はスープカレー作ってみたんで食べてみて下さい。スパイスからやったんで食べたら感想聞かせて下さいね。」

次郎「ん?あ、あぁ。」

なんか、料理趣味になり始めてないか?
こっちはすごい助かるけど・・・

カッさん自身は食べるわけでもないのになぁ

ガタッ

テーブルの上にあるスープカレーからは美味しそうな匂いがしている

カチャ

次郎「ん‼︎美味いよこれ‼︎」

樫「フゥー・・・・それはよかった。
普段は固形物を摂取しないのですが、今度自分でも食べてみますかね?」

カッさんは煙草をふかしながらそんな事を呟いた
普段固形物を積極的に摂取しないせいか
人型植物にはほとんど脂肪という概念が無く、人間に稀に見られる太っているという状態はない

そのせいか人型植物達はスタイルが良い奴が多い印象がある

次郎「そういえば・・・今度泊まりで離島の旅館に行かないかって誘われているんだけど、行っても良いかな?」

樫「何泊ぐらいするんですか?」

次郎「今の段階だとわからないな。
でも連休だからけっこう泊まるかもしれない。」

樫「ん~・・・流石に私も付いて行きますかね。」

次郎「優待券があるらしくて、宿費はタダなんだってよ。」

樫「流石に私の分は自分で出しますよ?経費で落としますし。」

次郎「そっか、まぁ仕事の地続きみたいなもんだもんな。」

樫「ですね。私が同行していいなら連泊しても良いですよ。ずっとただ学校を行き来するだけでもただのルーティンになってしまいますしね。」

カランッ

次郎「ご馳走様!そういやこの辺てポストあった?」

樫「あ~、家を出て一本向こうの道に
一つあった気がしますね。
何か郵便物出すんですか?」

次郎「前に言ってた手紙書いてみようかと思ってさ。じゃあ自分の部屋戻るわ。」

タッタッタッタ

ガチャ

次郎「さて、改まって何か書こうとすると文章が固くなっちゃってなんか変だな~」

次郎「手紙っていうのが悪いよなぁ
草フォンの便利さを知っちゃったし。」

現在植物達が使っている草フォンで会話の主流となっているのは
モバイルメッセンジャーアプリケーションの【バイン】だ。

手紙よりも簡易にメッセージの送受信が出来る為草フォンを手渡されてからは
重宝しており、メッセージが届くと

バインッッッッ‼︎‼︎

と、通知が来る。

次郎「ひとまず、一通目だから元気にやっています。友達が出来ましたって事だけ伝わればいいか・・」

サラサラ・・サラ

次郎「よしっ!手紙は書いたから明日登校途中にポストに入れよう!」

こっちに越してきてある程度経ったが
それでもまだ慣れない事も多くあり、
今日なんか状況的に仕方ないとはいえ
ケンカまでしてしまって疲れた為
いつの間にか寝てしまっていた

ブォォォオン・・・ブォオン・・・

次郎「まっぶしいなぁ。・・・・⁉︎
あれ?・・・もう朝か?やっば、そのまま寝ちゃったよ。身体バキバキで痛ぇ。」

まだ朝早いからカッさんも起きてないみたいだな

ゴク・・ゴクゴク・・・

起き抜けに飲むコップ一杯の水が
まだ眠気を残した身体を起こさせる

コト・・

次郎「そういえば、石碑と白骨死体の件は動きあったのかな?」

ガラガラ・・

樫「あれ?おはようございます。
珍しいですね。こんなに早く起きてくるなんて。」

次郎「たまたまだよ。寝るの早かったしな。そういえば石碑とかの件は動きありました?」

樫「そんな数日程度じゃまだ何もわかりませんよ?
連絡した後直ぐに付近一帯を立ち入り禁止にして現場の状況を確認しているみたいですが、まだその程度です。
・・妙にその件に固執してそうですが、
気にせず普段通り生活して下さい。」

次郎「わかってるよ。・・・少し早いけどもう学校行こうかな?」

樫「毎回ギリギリの登校よりは
よほど良い心がけですね。
でも朝はどうします?」

次郎「そうだな、パンだけもらっていくよ。」

樫「わかりました。昨日も頬に絆創膏付けて来たんですから気を付けて下さいね。」

次郎「わかってるって。」

ガチャ・・

ザッザッザ・・・ザ

カタン

緑色のポストに手紙を投函し、いつもより少し早く登校した

まだ生徒達はまばらで教室は閑散としている

教室にいても始業まで時間がまだまだある為校内を散策する事にした

・・・・

先生「・・・あら?おはよう次郎くん!今朝は早いわね」

次郎「おはようございます。先生こそいつもこんなに早いんですか?」

先生「当たり前よ~。授業の準備とかがあるからね!
それより、昨日の怪我は大丈夫だったの?」

次郎「擦って血が出ただけなんで、痛みが残るとかはありませんでした。
そういえば聞きたかった事があるんで質問いいですか?」

先生「いいわよ!なんでも聞いて!」

次郎「今度椿達と海の方に行こうかと思っているんですが、潮風とか海水による塩害って人型植物は平気なんですか?」

先生「そうね~まず結論から言えば平気よ!私達は種の祖先が樹木種という事もあってその特徴を色濃く残してるんだけど、進化の過程で二足歩行を始めた頃に海の近くに住む者や海を横断しようとする者が出てきてその頃には完全に適応したとされているわ。」

次郎「へぇ~そうなんですか。まだまだ知らない事ばっかりです。
でも本当に人間とあまり変わらないですよね。」

先生「そうねぇもう少し腹を割って話をするなら、そこは意識の違いでしょうけど私達から見ると逆に人間て人型植物とあまり変わらないんだなぁなんて思うわ。
先生含め人間を見る機会が今の世界じゃ少ないのよね。」

次郎「それもそうですね。根本にある種族が違うのに共通の言語を話して意思の疎通が取れるなんて他の生き物で見られませんもんね。」

先生「まぁでも頭が良い生き物はいっぱいいるし複雑な社会生活、文化をそれぞれ築いているから何かの拍子で私達の使っている言語を理解し、話す様になることもあるかもしれないわよ。」

次郎「もし同じ言語を喋ったり意思疎通が出来たら各動物の権利が主張される様になって肉食が出来なくなりそうですね。
人型植物は食性が雑食でありながら
タンパク質を摂取する必要がないから困らないでしょうけど・・・
人間は精神、肉体両面において健康的である為には野菜、果物、肉などバランスよく摂取する必要があるから、絶滅への道が加速しそうですね・・・」

先生「まぁでもそんな未来そもそも来ないかもしれないし、少なくとも私達が生きてるうちはそんな事ないんじゃないかしら」

それもそうか・・なんて思っていると、
話に夢中になっていたせいかHRの時間が近くなっていた

先生「いっけない!話過ぎちゃった!
次郎くんまた今度話そうね!
先生も支度して教室行くから早く教室入っておきなさい!」

次郎「は~い」

タッタッタッタ・・・

ガチャ

次郎「ふぅ、間に合った」

シマトネ「おーす」

椿「おはよ~!」

フェイ「ギリギリですわね!」

結局時間ギリギリになってしまったが
先生と話すのもけっこう楽しいので時間が過ぎるのが早く感じた

先生「みんなおはよ~!」

「おはよーございまーす」

先生「さぁ授業始めるわよ!」

カリ・・カリカリ・・・

ふと横を見るとシマトネがこちらを見て
ひそひそ声で話しかけてきた

シマトネ「次郎~泊まりの件聞いてきたか?」

次郎「あぁ大丈夫だってよ。ただ、流石に連泊だからカッさんもついてくるって」

シマトネ「おっさん着いてくるのか?」

次郎「まぁ俺の精神状態の変化なんかを診たいみたいだし長期で出掛ける場合はついてくる感じだね」

シマトネ「へぇ~人間がなんでこの学園に転入してきたのか聞いたことなかったけど、そんな理由があったのか。
お前も大変だな・・」

次郎「そうでもねーよ」

ヒュッッッッ

カツンカツーーーン

シマトネ・次郎「「痛ってぇぇえ」」

先生「はい、そこ授業中なんだからお喋りしないの!」

先生が投げたチョークは俺たちの額に
クリーンヒットして砕けた

先生・・あんな技持ってんのかよ
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