再び交わる僕らの思い

ほっとけぇき

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第二章

届かなかった、愛しいあなたへの言葉 後≪side 光希≫

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≪光希視点≫
『あの子に、ようやく転機が訪れた。座敷牢に閉じ込められてから、五度目の春のことだった。

 その頃になると母も私たちも村人たちからの陰口に麻痺してしまっていた。だけど、それ以上にあの子は生きた屍のように何も言わず、動かない。家は陰鬱な雰囲気に蝕まれていた。』

 まるで、過去の自分を見ているような気分だ。読み進めれば読み進めるほど、せせらぎに出会う前の自分と重ねてしまう。それほどまでに彼女と僕は似ている。
 
『近所に親子が引っ越してきた。年はあの子と同じぐらいの子供がおり、明るい少女らしい。正直どうでもよかった。

 彼らは挨拶に来たが、当時の私は気力もなく、関心を向ける余裕すらなかった。
 
 その翌日、彼女はあの子がいる座敷牢の格子にしがみついていた。村人から話でも聞いたのだろう。どうせ、彼女も村人どもと同じだ。そうだと思っていた。

 でも、彼女は飽きもせず1年近く通い続けた。彼女はあの子と友達になろうとしていたのだ。』

 少女はとても行動力があるようだ。まるで幻を見ているみたいな気分になる。

 ああいう行動力のある人間がそばにいると、どれだけ卑屈でいようとも、どうしても影響を受けてしまう。

 彼女を除外しなかった時点で『水鞠』もほだされているだろう。彼女が本来の性格を失っていなければの話だが。

『一年が経ち、彼女が格子にしがみつくのを見慣れたころだった。その日は珍しく雨が降っておらず、久方ぶりの快晴。

 2人の少女の笑い声が聞こえてきた。化け物ではなく普通の少女の楽しげなものだった。

 私たちはその光景が嬉しくて彼女らに見つからないように涙を流す。その時見てしまった。

 少し微笑みながら彼女たちを一瞥し、去っていく母の姿を。』

 ほっと一息をつく。その場にいたわけでもないのに今までの苦労が報われたような気分だ。

 彼は実際に目にしているのだから僕以上にそう思っているのだろう。

『あれからほどなくして母は少女、遥を家へ上げるようになった。口先では皮肉なことを言っていても嬉しそうな顔は隠しきれていない。

 彼女が来るようになってから、家に本来あった活気が戻ってきた。水鞠が座敷牢に入る前の幸せな家が。

 だから、私たちは彼女に対して謝罪をした。許されなくてもいい。恨まれてもいい。これは私たちのエゴだ。私たちが最新の注意を払っていれば起こっていなかったことなのだから。』

 『水鞠』が笑顔を見せるようになったとはいえ、彼らの心には罪悪感がこびりついて消えなかったようだ。過去はどうやっても消えることはない。

 特に、彼女を愛していた彼らは蝕まれたらしい。彼らも幼い子供だったのだから。

『あの子は私たちを許してくれた。それどころか逆に謝られてしまった。その日は3人で寝た。生きてきた中で一番幸せな時間だった。

 それから、私たちはあの子と再び遊ぶようになった。遥と言う少女も混ざって4人で。

 いつまでも続けばいいと思っていた。続かないにしろ、終わりは遊んでいるときのような穏やかで温かいものであってほしいと祈るのだ。』

 水鞠自身も苦悩していたのだと思う。優しく誰かのことを思うことができるからこそ、天変地異を操る力を持っていても、家族を傷つけなかった。

 それはひとえに彼らを恨もうにも恨み切れなかった。大好きな家族で自分のことを守ろうとしていたことを理解していたようだから。

『――だが、神様はやはり、私たちを赦してはくれなかったようだ。

 その時私たちは東京へ出稼ぎに行っていた。村にいるのが嫌になったのと、あの子たちに新しい選択肢を与えたかった。

 仕事の中で陰陽術のことを知った。そして、それを学ぶ機関もあるというのだ。弟も同じことを思っていたようで、あの子の力どうにかできるかもしれない。

 私たちは一抹の希望を抱き、母に手紙を送った。思えば、この時から滅びの一途をたどっていたのかもしれない。』

 あの手紙の内容はここにつながっているのか。

 希望を抱いた内容が不穏を帯び始めている。ここからの内容が彼の後悔へとつながるようだ。

 覚悟を決めるために深呼吸をする。しかし、どうにも落ち着くことはできず、不快感ばかりが増して気持ち悪い。

『母からの返事に【水鞠も東京で暮らすことが可能なら、あの子も連れて行ってくれ。もう時間がない。】とあった。

 どこか胸騒ぎがした。急がなくちゃいけない、間に合わなくなると。こういう時程予感と言うものは当たるらしい。』

 『僕らが村へ発とうとした日。列車に乗るために駅へ向かう途中、何者かに殴られた。

 殴られるだけなら意識を失うことはなかっただろう。しかし、何か薬を打たれたのか意識が混濁し、そのまま意識を奪われた。

 意識が回復した後、私は全てを失ったことを知った。』

 肌が粟立ち、冷や汗を垂らす。震えた喉からは声にならない声が出る。あまりの急展開に適応することができない。
 
 手紙に書かれていた内容から、どうしても予測できてしまう。当たってほしくない。祈るような気持ちだった。
 
 混乱する気持ちをどうにか抑え、手紙に向き合う。

『目が覚めたら、弟は無惨な殺され方をしたと聞く。これだけでも絶望の淵にいたのだが、その後に聞いた話でどん底に叩き落されたのだ。

 母と村人によって殺されたこと。あの子が村人たちと心中しようとして、人ならざる者へとなってしまったこと。そして、村が水に沈んでしまったこと。』

 「あぁぁぁぁあ!!」

 母の死に際がフラッシュバックする。思い出したくもなかった、自分の非力さを。忘れようと努力した、自分のせいで母が傷つく姿を。

 自分が弱者だったせいでせせらぎが自分を犠牲にする選択を取らざるを得なかったこと。
 
 彼はこれを一人で耐え忍んでいたのか?今際の際までずっと。正気ではない。いつ発狂してもおかしくなかったのに。それを心の奥底に押し込んで。

『最後にこれだけは伝えたい。

 水鞠、ずっと愛してる。例え君が化け物でも、神様でも、どんな存在であれ私の大切な従妹であり妹であることは変わらないんだ。

 それは母さんも、翔も、遥もきっと同じだ。だから自分のことをないがしろにしないでほしい。
 
 君との時間は何よりの宝物だったんだ。そのことを君にも知ってほしい。

 私にはもう時間がない。もし、遠い未来でこの手紙を誰かが目にしているのなら【白糸村】と言うところに行ってほしい。そして、そこへ封筒に入っているものを供えてほしい。』

「終わった……ハハッ、こんな終わり方があっていいのか……そんなはず、そんなはずないだろう……!」

 手紙を読み終えて襲ってきたのは埋まることのない喪失感だった。それは僕の心を深く、強くえぐるのだ。

 あまりの苦しさに地面へ這いつくばって、嗚咽ばかりが空気に溶けだす。床に向かって拳を振り下ろしても、この気持ちは収まらない。

 過去は、起こってしまったことはもう変えられない。そんなことは分かっていても受け入れられない。
 
 「そういえば、封筒。……一体、何が入っているんだろうな。」

 彼は封筒の中に入っているものを供えてほしいと言った。手紙の内容を見てしまったからには気になって仕方がない。

 封筒に入っているものをそっと取り出す。

 一つは、キレイな水色のガラスかんざし。透き通った水色はまるで水面を示しているようだ。これは水鞠に送ろうとしたのだろう。

「もう一つは……え?」

 封筒から取り出したものを見て固まった。今起こっている事象を脳が理解することを拒否する。
 
 出てきたものは2枚の写真だった。そして、その二枚には同じ少女が映っている。

 一枚は精悍な男性2人と、妙齢な女性、そして穏やかな顔をした少女が近寄って撮られている。これは家族写真だろう。

 男性2人のどちらかが手紙の主なのだろう。みんな優しく微笑んでいる。……この家族が一体どうして。
 
 もう一枚に映っていたのは花を抱える少女。キンモクセイの花を両手いっぱい抱えて嬉しそうに笑っている。

 彼女を見た瞬間、息を吞む。だって、あまりにも似ているのだ。僕のそばに居たせせらぎに。

 つまり、『水鞠』とせせらぎが同一人物であるということ、なのか?
 

 
 
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