身代わり人魚姫はわんこ王子の溺愛包囲網から逃げられません!

空廻ロジカ

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護衛騎士と犬

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 何度目かの控えめなノックの音が響く。

「殿下、お目覚めでしょうか……」
「あ、あの……」
「しーっ、黙って」

 外からの声に応えようとしたルーナをレナートが制する。

「いいの? さっきから何度も……」
「いいんだよ。ほんとに用があるなら、あんな呼び方じゃすまないからね。今日はずーっとお布団の中でいちゃいちゃしてたいな! ……なんならもう一回、する?」

 レナートが顔を寄せてきて、ルーナはうっとりと瞳を閉じた。
 一晩中愛され続けて、体がずくずくと蕩けるように痺れている。はじめて知った愛は、ルーナから快楽以外の感覚を遮断するかのようだった。
 ちゅ、と音をたててくちづけられる。この一晩ですでに馴染みになった感覚を呼び起こされ、ルーナは甘い吐息を漏らす。

「クレア、かわいい……」

 レナートが陶然と呟いて、胸を掌でやわやわと包み込んでくる。思わず声が漏れそうになった――その時。

「ったくいつまで乳繰り合ってんだよこの色惚け王子サマはッ!! もう真っ昼間だぞ!?」

 怒声とともにドアを蹴り開けて、ひとりの男が部屋に入ってきた。

「……色惚けはひどいなぁ。愛に生きてると言ってくれないかな」

 ルーナの胸から手を離さないまま、レナートは応えて言った。

「じゃあ、色情狂のほうがいいか? いい加減その手を離しやがれ」
「やだよ。クレアのおっぱいを僕以外に見せるわけにはいかないからね」

 男はこめかみをひくつかせながら、くるりと後ろを向いた。

「さっさと服着て起きやがれ。くれぐれも抱き潰すんじゃねーぞ」
「しないよそんなこと」
「テメーは前科があるだろうがッ」

 男の声が怒気を孕ませる。

「あ、それなら大丈夫。クレアは僕と体の相性がいいみたいなんだ」
「いんのかよそんな女……」
「いるんだよねー、それが。ね、クレア! 僕とシて、満足したよね?」
「え? は、はい」
「…………」

 黙った男の背に、レナートが声をかける。

「ちょっと、いつまでそこに居るのさ。クレアといちゃつけないだろ」
「だから起きろっつってんだよ!」
「……はいはーい」

 レナートは不真面目に返したが、男は溜め息をきつつも部屋を出て行ったのだった。



 その後ふたりで朝食兼昼食をとったのち、レナートが出かけると言い出した。と言っても王宮内である。

「エクに会いに行こう!」

 そう言ってレナートが連れて行ってくれたのは、宿舎のような建物であった。その前庭で、先ほどの男が獣と戯れている。

(あれは犬――かしら)

 海岸沿いを人が散歩させているのを、以前見かけたことがある。それよりもだいぶ大きく、毛足も長いが……。

「エク!」

 レナートが声をかけると、男は視線をこちらに向けた。犬も反応して尻尾を激しく振っている。

「先ほどは失礼いたしました、クレア姫」
「いいえ。あなたは……エク?」

 ルーナがそう言うと、彼は面食らった表情をした。

「あーいや……エクはこっちです」

 彼は足元にまとわりつく犬を指さして言った。

「ごめんなさい……っ」
「いえ……。俺はそこの殿下の護衛騎士で、アルベルトと申します」
「よろしくお願いします、アルベルト」

 ルーナは軽く礼をとってみせる。そのくびを飾る真珠の鎖がさらりと揺れた。

「わふん!」

 犬のエクがちぎれんばかりに尻尾を振ってルーナの周りを廻る。

「あら」

 ルーナが手を差し伸べると、エクは前脚を浮かせてじゃれついてきた。

「きゃ……っ」

 大型犬にじゃれつかれ、脚を得て間もないルーナはよろめく。あやうく尻もちをつきそうになったところを、レナートが受け止めてくれた。

「ちょっ、エク……っ」

 そんなルーナにエクが圧し掛かるようにじゃれつき、その顔を嘗め回した。

「いや……やぁん」
「こら、エク!」

 アルベルトが叱咤し、エクを引きはがしてくれる。

「大丈夫、クレア?」
「ええ、レナート」
「それにしてもエクは見る目が高いね。クレアが美味しそうだってよくわかるなぁ。……あ、目じゃなくて嗅覚かな? クレア、いい匂いするもんね」

 レナートは同志を得たとばかりに喜んだ。
 そんな彼をアルベルトは胡乱な目で見つめて言った。

「クレア姫が素晴らしい方だというのはわかりました」
「でしょ!?」
「エクが懐いたからな。だからこそ、色惚け殿下の毒牙にかけられたのがおいたわしいのですが」
「言うね」
「何度あんたの後始末をさせられてきたと思ってるんです」

 ルーナが小首を傾げてレナートを見上げると、レナートは焦ったように早口で言った。アルベルトを片肘で小突くのも忘れない。

「今はクレア一筋だよっ? ううん、ずっとクレア一筋だったんだけど、寂しくて、つい……」
「あー……」

 アルベルトもばつが悪そうにルーナを見やった。

「まぁこんな色惚け殿下ですけど、クレア姫のことは六年前から執着してましたからね。安心していいと思いますよ、姫」
「え、ええ……」

 ルーナは今の話の意味がよくわからなかったので、ただ曖昧に頷いたのだった。
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