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第1章
第2話~捻くれ御曹司~
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会食が始まって数十分が経ち、話が龍仁朗の巧みな話術で場は盛り上がっていた。
龍仁朗は、初めて会った矢先に誠に手を握られて迫られるという、何がしたいのか分からない事をされて混乱したが、すっかり落ち着いていた。
「龍仁朗さんってお話がお上手なのね。感心したわぁ。」
「ありがとうございます。」
「こんな素敵な側近がいつも側にいてくれるなんて幸せね、歌羽さん。」
歌羽はそう言われると、何度も頷いた。
「はい!龍仁朗は小さい頃からいつも一緒なのですが、本当に龍仁朗が側近で良かったといつも思います!」
敢美は満足そうに笑い、話を続けた。
「そう、よかったわね。誠の側近も、小さい頃から雇っているのよ。ね、誠?」
誠はただ頷くだけだった。
それを見て、龍仁朗は少しだけ怪訝な顔をした。
(やはり、変な方だ...。)
そう龍仁朗がそう思った瞬間、誠が口をゆっくりと開いた。
「側近の名前は...今宮征二。俺は小さい頃から独りだったから、ずっといてくれていた。忙しいときも...。」
側近の今宮はそう言われるとキビキビと眼鏡を上げた。
「いえ、私は当然の事をしたまでです。」
それを聞いた歌羽は、誠が話してくれたことが嬉しくて、即座に返答をした。
「誠さんも小さい頃独りだったんですね!お父様が忙しいのは知っていたけど私も寂しくって...。同じですね!」
龍仁朗はやっと誠と歌羽が会話が出来た事に胸を撫で下ろした。
しかし、誠は何も返事をしなかった。
それを見た敢美は少し尖った言い方で誠をたしなめた。
「誠。せっかく歌羽さんがあなたの事を話してくれているのよ。返事をしたらどうなの。」
「い、いいんです!私は大丈夫なので...。」
歌羽が場を和ませようとした時、誠がフォークを強く置いた。
「話したって無駄だろ。俺らはどうせ策略結婚だ。親の利益の為に結婚するからこんな会食なんて無駄だろ。」
誠は冷たくそう言うと、部屋を出てしまった。
「誠様!お待ち下さい、誠様!」
今宮も誠を追いかけて部屋を出てしまった。
敢美は誠に振り向かずに深いため息をついた。
大蔵は敢美に恐る恐る話しかける。
「あの...敢美さん、誠君は...。」
敢美は大蔵の話を遮って、笑顔を作った。
「いいのよ、大蔵さん。不貞腐れているだけだから。いつもあんな感じなのよ。今宮がどうにかしてくれるから、気にしなくていいわよ。」
3人はそう言われても気になってしまうだろうと思った。
「お嬢様...お気になさらずに。」
龍仁朗はそう言って歌羽を心配したが、歌羽は部屋のドアを悲しい目で見つめたまま固まっていた。
龍仁朗はそんな歌羽を見ることが辛くなり、誠に怒りを覚えた。
龍仁朗は立ち上がった。
「申し訳ございません。料理長に呼ばれていることを忘れていましたので、席を一旦外していただきます。」
龍仁朗はそそくさと部屋を出た。
誠は追いかけてくる今宮を振り払い、ベランダで夜景を眺めていた。
「おい貴様。」
誠は声のする方を見ると、月の光に照らされた、ポニーテールの黒髪をなびかせた龍仁朗が立っていた。
龍仁朗は誠を目つきを鋭くして睨んでいた。
「...何。」
「とぼけるな!貴様、今の態度は一体なんだ、お嬢様に失礼ではないか!」
誠は淡々と受け答える。
「さっきも言っただろ。俺らは策略結婚だから、話し合いの必要はないって。」
「それは貴様の考えだろうが!!!この自己中低脳野郎!!!!」
予想もしてなかった暴言に誠は絶句した。
「お前...俺を何処の財閥の御曹司だと...。」
誠の言葉が終わらぬ内に龍仁朗は声を荒げた。
「御曹司だろうと関係ない!!私は貴様という人間に話しかけているのだ!!!」
龍仁朗の言葉に少し驚いた顔をして、誠は目を見開いた。
龍仁朗は声を荒げ続けた。
「確かにこの結婚は策略だ。お嬢様も理解している。私もお嬢様には本気で愛し合えるような方に結婚して欲しい...。
だが、お嬢様は亜麻音グループというトップグループのご令嬢。お嬢様はそれを理解して自分の気持ちよりもグループを優先して何も知らない貴様を愛そうとしているのだ!分からないのか!!!」
「そんな事、俺も理解して...。」
「分かっていない!!!貴様は分かっているつもりだが、結局は自分の感情を優先しているのだ!そうしないとあの様な言動はするまい!!」
「お前は俺の話を聞けよっ...。」
「黙れ!!!自分の私情を受け入れてもらえないから他人に八つ当たりする様な奴の話なんか聞く筋合いはない!!!」
誠はその言葉にピクッと眉毛を動かし、龍仁朗を睨みつけた。
すると、誠は龍仁朗に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。
「...っ!?」
「じゃあ、俺も...あの女に気持ち悪いぐらい執着していて、尚且つ人を勝手に自己中呼ばわりする奴の話なんか聞く筋合いはない。」
誠の声が響くと、庭に植えられている木々がザワザワと揺れた。
龍仁朗は更に誠を睨んだ。
「貴様...口だけは達者な輩だな。しかも女の胸ぐらを掴む不届き者だとは思わなかったぞ。」
「お前も女のクセして口が男過ぎるぞ。綺麗な顔してんのにな。」
「ほざけクズ。貴様に言われても嬉しくないクズ。しかも男口調なのは把握済みだクズ。」
「クズ言い過ぎ。」
誠はため息をつくと、龍仁朗を離して部屋に戻ろうとした。
すると、誠が途中で止まり、龍仁朗にこう告げた。
「言っとくけど、俺はさっきの言動を謝らないし、考え方は変えないからな。」
龍仁朗は軽く鼻を鳴らした。
「じゃあ私はクズ級に捻くれたクズな信念を粛清してやるクズ野郎。」
「あのな...。」
誠は何かを言おうとしたが、呆れた顔をして何も言わずに去って行った。
龍仁朗は誠が見えなくなったのを確認して、長い溜息をついて座り込んだ。
(は、初めて赤の他人と会話した...。)
初めての事にドキドキしつつも、誠には誰にも抑えられない強い怒りが滝のようにドバドバと流れ出てきた。
(アイツ...決して許さない!お嬢様の為にアイツの価値観を粛清しなければ!アイツの側近の方にも頼んでみよう...。)
「貴方は...龍仁朗様ですか?」
男声の声が聞こえる方に振り向くと、誠の側近、今宮が立っていた。
「こんな所で何をしているのですか?」
ーマズイ...。ー
龍仁朗は慌てて立った。
「い、いえ!何でもありません!少し疲れてしまって、ここでフラついてしまっただけです!!」
「え!?それはいけません!医療室はどこでしょうか?」
ますますマズイと龍仁朗は思った。
「い、いや!大丈夫です!!もう大丈夫なので!!あっ、そ、それより...。」
今宮は規律よく立ち直し、龍仁朗の話が終わるのを待っていた。
「何でございましょうか?」
「今宮様がお仕えしている、誠様の事なのですが...。」
龍仁朗の話を聞くと、今宮は苦笑いを浮かべた。
「また誠様が失礼な事をいたしましたか。」
「え?何故その事を?」
今宮は眼鏡を無駄のない動きで上げて、話し始めた。
「誠様は先程もあの場で言われましたように、小さい頃からずっと独りでおられたのです。
敢美様も仕事を優先される方なので、甘えたい年頃の時も母がいない環境で過ごしておりました。」
龍仁朗は歌羽と全く同じだと思った。
「...お嬢様と、全く同じです。」
「まぁ、何処のグループや財閥の子供という方々は孤独だと思います。けど、誠様はそんな環境にずっと耐えられなかった。」
龍仁朗は首を傾げた。
「どういうことです?」
「お父様という存在がいなかったのです。」
龍仁朗は今宮の言葉に唖然とした。
風がザワッと強く吹く。
「え...?」
「驚くのも無理はないです。誠様のお父様は、誠様が生まれる前にお亡くなりになられているのです。」
今宮が父の話をした途端、今まで吹いていた風が収まり、辺りは静まり返った。
「お嬢様のお母様も今はニューヨークに行ってしまってここにはいない状況ですが、毎日就寝前にテレビ電話でお話をされております...(私は顔を見たことはないが)。」
今宮は少し悲しそうな顔をした。
「そうですか...。でも、誠様はそのようなことが永遠に出来ないのです...。」
「そのような事が...。」
龍仁朗は誠の事が少し気の毒になった。
「なので、一生私がそばにいてあげようと思ったのです。その時、私は敢美様の秘書でした。
...私は誠様の意見を尊重していくつもりです。これからもずっと...。」
龍仁朗は悲しくなりながらも、今宮に口を開いた。
「しかし、あの時の誠様の態度は許されることではありません!」
今宮は深く頷いた。
「はい、仰る通りでございます。あの態度の件については私からきつく忠告しておきます。ですが、私はなるべく誠様のお気持ちを理解してあげようと思います。」
龍仁朗はキッパリと今宮に言った。
「私は誠様の結婚についての考え方を粛清しようと思っています。」
今宮は龍仁朗を異様な者を見るような目で龍仁朗を見つめた。
「龍仁朗様...?本気でそのような事を...?」
龍仁朗は今宮を真っ直ぐ見つめた。
「はい。当然、誠様にも今宮様にも、敢美様にも失礼だと理解しています。
しかし、あの考え方はお二人を傷つける事になります...。」
今宮は考える様に夜空を見上げ、少し経ったら龍仁朗に再び目を合わせた。
「...。
その話、私も協力させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え?...きょ、協力?」
今宮は微笑みながら頷いた。
「はい。龍仁朗様の熱心な気持ちが私にも移ってしまったようです。私も、誠様と歌羽様の未来を考えて行動をしたいと思います。」
龍仁朗は感激した。
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
龍仁朗は強い味方がついたので、顔を綻ばせながら、子供の様に喜んでいた。
それを見ていた今宮はフッと笑っい、小さな声で呟いた。
「なるほど。確かにこれは気にいってしまうだろう...。」
「はい?何か仰いましたか?」
「いえいえ、なんでもないですよ。さあ、部屋に戻りましょう。そろそろ怪しまれてしまいます。」
龍仁朗は慌てた。
「あっ、はい!そうですね!急ぎましょう!」
龍仁朗はこれからの未来に胸を膨らませながら、部屋まで戻って行った。
会食も無事に終わり、敢美は満面の笑みで帰りの車まで歩いていた。
車の前まで来ると、敢美と今宮はお辞儀をした。
「素敵な時間をありがとうございました。そして、迷惑をかけてしまった事を謝りますわ。」
大蔵は首を横に振って、微笑んだ。
「いや、お気になさらなくていいですよ。また気軽にいらしてください。」
「親切な方達ね。感謝するわ。歌羽さん、誠を宜しくね。」
歌羽は元気よく頷いた。
「はい!こちらこそ、よろしくお願い致します!」
敢美はもう一度お辞儀をしたら、誠と車に入って行ってしまった。
3人は車を最後まで見送ると、大蔵が2人に微笑みかけた。
「よし、2人共。今日はよく頑張ってくれたね。ありがとう。」
「はぁぁ...き、緊張した...。」
「よく頑張りましたね。お嬢様。今日のデザートは今日取れたばかりのシナモンを使ったバニラアイスにしましょう。」
「ありがとう!じゃあ、お風呂に入って待ってるね!!」
「はい。くれぐれものぼせないようにお願いしますよ。」
歌羽は元気に笑う。
「わかってるよ!」
そう言うと、歌羽は走ってビルの中へ入っていった。
「龍仁朗も今日はありがとう。龍仁朗のおかげで場の空気が最初から和やかだったよ。料理のセレクトも完璧だった。本当に感謝するよ。」
「いえ、全ては大蔵様が私に一から教えて下さったからです。私こそ、感謝の気持ちでいっぱいです。」
大蔵は笑っていた。
「ハハハハハ!龍仁朗は真面目だね。君を歌羽の側近にしてよかった。さあ、歌羽の為に行ってあげなさい。アイスを待っているんじゃないかな?」
龍仁朗はクスリと笑った。
「そうですね。行って参ります。」
一方その頃、歌羽は浴場で湯船に浸かりながら会食の時の誠の言葉を思い出していた。
『俺らはどうせ策略結婚だ。』
『こんな会食なんて無駄だろう。』
(策略なのは知ってるけど...でも...会食が無駄なんて...ヒドイ...。)
その時の誠は歌羽から見たら悪魔そのものだった。
その場にいるだけで氷の様な無表情に顔が強張り、冷ややかな目つきに足がすくむ...。そういう状況だった。
歌羽は生理的に誠を拒絶していた。
(私...。誠様と、上手くやっていける自信がない...。)
歌羽の脳裏に誠の鋭い目つきが浮かび、反射的に鼻まで湯船に入れてしまった。
(やっぱりだ...。会食が始まる前から感じてた、この感情...。)
ーピチョンー
歌羽しかいない広い浴場に水が滴る音が途絶えずに響き渡る。
(私....。誠様が、怖いんだ。)
龍仁朗は、初めて会った矢先に誠に手を握られて迫られるという、何がしたいのか分からない事をされて混乱したが、すっかり落ち着いていた。
「龍仁朗さんってお話がお上手なのね。感心したわぁ。」
「ありがとうございます。」
「こんな素敵な側近がいつも側にいてくれるなんて幸せね、歌羽さん。」
歌羽はそう言われると、何度も頷いた。
「はい!龍仁朗は小さい頃からいつも一緒なのですが、本当に龍仁朗が側近で良かったといつも思います!」
敢美は満足そうに笑い、話を続けた。
「そう、よかったわね。誠の側近も、小さい頃から雇っているのよ。ね、誠?」
誠はただ頷くだけだった。
それを見て、龍仁朗は少しだけ怪訝な顔をした。
(やはり、変な方だ...。)
そう龍仁朗がそう思った瞬間、誠が口をゆっくりと開いた。
「側近の名前は...今宮征二。俺は小さい頃から独りだったから、ずっといてくれていた。忙しいときも...。」
側近の今宮はそう言われるとキビキビと眼鏡を上げた。
「いえ、私は当然の事をしたまでです。」
それを聞いた歌羽は、誠が話してくれたことが嬉しくて、即座に返答をした。
「誠さんも小さい頃独りだったんですね!お父様が忙しいのは知っていたけど私も寂しくって...。同じですね!」
龍仁朗はやっと誠と歌羽が会話が出来た事に胸を撫で下ろした。
しかし、誠は何も返事をしなかった。
それを見た敢美は少し尖った言い方で誠をたしなめた。
「誠。せっかく歌羽さんがあなたの事を話してくれているのよ。返事をしたらどうなの。」
「い、いいんです!私は大丈夫なので...。」
歌羽が場を和ませようとした時、誠がフォークを強く置いた。
「話したって無駄だろ。俺らはどうせ策略結婚だ。親の利益の為に結婚するからこんな会食なんて無駄だろ。」
誠は冷たくそう言うと、部屋を出てしまった。
「誠様!お待ち下さい、誠様!」
今宮も誠を追いかけて部屋を出てしまった。
敢美は誠に振り向かずに深いため息をついた。
大蔵は敢美に恐る恐る話しかける。
「あの...敢美さん、誠君は...。」
敢美は大蔵の話を遮って、笑顔を作った。
「いいのよ、大蔵さん。不貞腐れているだけだから。いつもあんな感じなのよ。今宮がどうにかしてくれるから、気にしなくていいわよ。」
3人はそう言われても気になってしまうだろうと思った。
「お嬢様...お気になさらずに。」
龍仁朗はそう言って歌羽を心配したが、歌羽は部屋のドアを悲しい目で見つめたまま固まっていた。
龍仁朗はそんな歌羽を見ることが辛くなり、誠に怒りを覚えた。
龍仁朗は立ち上がった。
「申し訳ございません。料理長に呼ばれていることを忘れていましたので、席を一旦外していただきます。」
龍仁朗はそそくさと部屋を出た。
誠は追いかけてくる今宮を振り払い、ベランダで夜景を眺めていた。
「おい貴様。」
誠は声のする方を見ると、月の光に照らされた、ポニーテールの黒髪をなびかせた龍仁朗が立っていた。
龍仁朗は誠を目つきを鋭くして睨んでいた。
「...何。」
「とぼけるな!貴様、今の態度は一体なんだ、お嬢様に失礼ではないか!」
誠は淡々と受け答える。
「さっきも言っただろ。俺らは策略結婚だから、話し合いの必要はないって。」
「それは貴様の考えだろうが!!!この自己中低脳野郎!!!!」
予想もしてなかった暴言に誠は絶句した。
「お前...俺を何処の財閥の御曹司だと...。」
誠の言葉が終わらぬ内に龍仁朗は声を荒げた。
「御曹司だろうと関係ない!!私は貴様という人間に話しかけているのだ!!!」
龍仁朗の言葉に少し驚いた顔をして、誠は目を見開いた。
龍仁朗は声を荒げ続けた。
「確かにこの結婚は策略だ。お嬢様も理解している。私もお嬢様には本気で愛し合えるような方に結婚して欲しい...。
だが、お嬢様は亜麻音グループというトップグループのご令嬢。お嬢様はそれを理解して自分の気持ちよりもグループを優先して何も知らない貴様を愛そうとしているのだ!分からないのか!!!」
「そんな事、俺も理解して...。」
「分かっていない!!!貴様は分かっているつもりだが、結局は自分の感情を優先しているのだ!そうしないとあの様な言動はするまい!!」
「お前は俺の話を聞けよっ...。」
「黙れ!!!自分の私情を受け入れてもらえないから他人に八つ当たりする様な奴の話なんか聞く筋合いはない!!!」
誠はその言葉にピクッと眉毛を動かし、龍仁朗を睨みつけた。
すると、誠は龍仁朗に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。
「...っ!?」
「じゃあ、俺も...あの女に気持ち悪いぐらい執着していて、尚且つ人を勝手に自己中呼ばわりする奴の話なんか聞く筋合いはない。」
誠の声が響くと、庭に植えられている木々がザワザワと揺れた。
龍仁朗は更に誠を睨んだ。
「貴様...口だけは達者な輩だな。しかも女の胸ぐらを掴む不届き者だとは思わなかったぞ。」
「お前も女のクセして口が男過ぎるぞ。綺麗な顔してんのにな。」
「ほざけクズ。貴様に言われても嬉しくないクズ。しかも男口調なのは把握済みだクズ。」
「クズ言い過ぎ。」
誠はため息をつくと、龍仁朗を離して部屋に戻ろうとした。
すると、誠が途中で止まり、龍仁朗にこう告げた。
「言っとくけど、俺はさっきの言動を謝らないし、考え方は変えないからな。」
龍仁朗は軽く鼻を鳴らした。
「じゃあ私はクズ級に捻くれたクズな信念を粛清してやるクズ野郎。」
「あのな...。」
誠は何かを言おうとしたが、呆れた顔をして何も言わずに去って行った。
龍仁朗は誠が見えなくなったのを確認して、長い溜息をついて座り込んだ。
(は、初めて赤の他人と会話した...。)
初めての事にドキドキしつつも、誠には誰にも抑えられない強い怒りが滝のようにドバドバと流れ出てきた。
(アイツ...決して許さない!お嬢様の為にアイツの価値観を粛清しなければ!アイツの側近の方にも頼んでみよう...。)
「貴方は...龍仁朗様ですか?」
男声の声が聞こえる方に振り向くと、誠の側近、今宮が立っていた。
「こんな所で何をしているのですか?」
ーマズイ...。ー
龍仁朗は慌てて立った。
「い、いえ!何でもありません!少し疲れてしまって、ここでフラついてしまっただけです!!」
「え!?それはいけません!医療室はどこでしょうか?」
ますますマズイと龍仁朗は思った。
「い、いや!大丈夫です!!もう大丈夫なので!!あっ、そ、それより...。」
今宮は規律よく立ち直し、龍仁朗の話が終わるのを待っていた。
「何でございましょうか?」
「今宮様がお仕えしている、誠様の事なのですが...。」
龍仁朗の話を聞くと、今宮は苦笑いを浮かべた。
「また誠様が失礼な事をいたしましたか。」
「え?何故その事を?」
今宮は眼鏡を無駄のない動きで上げて、話し始めた。
「誠様は先程もあの場で言われましたように、小さい頃からずっと独りでおられたのです。
敢美様も仕事を優先される方なので、甘えたい年頃の時も母がいない環境で過ごしておりました。」
龍仁朗は歌羽と全く同じだと思った。
「...お嬢様と、全く同じです。」
「まぁ、何処のグループや財閥の子供という方々は孤独だと思います。けど、誠様はそんな環境にずっと耐えられなかった。」
龍仁朗は首を傾げた。
「どういうことです?」
「お父様という存在がいなかったのです。」
龍仁朗は今宮の言葉に唖然とした。
風がザワッと強く吹く。
「え...?」
「驚くのも無理はないです。誠様のお父様は、誠様が生まれる前にお亡くなりになられているのです。」
今宮が父の話をした途端、今まで吹いていた風が収まり、辺りは静まり返った。
「お嬢様のお母様も今はニューヨークに行ってしまってここにはいない状況ですが、毎日就寝前にテレビ電話でお話をされております...(私は顔を見たことはないが)。」
今宮は少し悲しそうな顔をした。
「そうですか...。でも、誠様はそのようなことが永遠に出来ないのです...。」
「そのような事が...。」
龍仁朗は誠の事が少し気の毒になった。
「なので、一生私がそばにいてあげようと思ったのです。その時、私は敢美様の秘書でした。
...私は誠様の意見を尊重していくつもりです。これからもずっと...。」
龍仁朗は悲しくなりながらも、今宮に口を開いた。
「しかし、あの時の誠様の態度は許されることではありません!」
今宮は深く頷いた。
「はい、仰る通りでございます。あの態度の件については私からきつく忠告しておきます。ですが、私はなるべく誠様のお気持ちを理解してあげようと思います。」
龍仁朗はキッパリと今宮に言った。
「私は誠様の結婚についての考え方を粛清しようと思っています。」
今宮は龍仁朗を異様な者を見るような目で龍仁朗を見つめた。
「龍仁朗様...?本気でそのような事を...?」
龍仁朗は今宮を真っ直ぐ見つめた。
「はい。当然、誠様にも今宮様にも、敢美様にも失礼だと理解しています。
しかし、あの考え方はお二人を傷つける事になります...。」
今宮は考える様に夜空を見上げ、少し経ったら龍仁朗に再び目を合わせた。
「...。
その話、私も協力させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え?...きょ、協力?」
今宮は微笑みながら頷いた。
「はい。龍仁朗様の熱心な気持ちが私にも移ってしまったようです。私も、誠様と歌羽様の未来を考えて行動をしたいと思います。」
龍仁朗は感激した。
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
龍仁朗は強い味方がついたので、顔を綻ばせながら、子供の様に喜んでいた。
それを見ていた今宮はフッと笑っい、小さな声で呟いた。
「なるほど。確かにこれは気にいってしまうだろう...。」
「はい?何か仰いましたか?」
「いえいえ、なんでもないですよ。さあ、部屋に戻りましょう。そろそろ怪しまれてしまいます。」
龍仁朗は慌てた。
「あっ、はい!そうですね!急ぎましょう!」
龍仁朗はこれからの未来に胸を膨らませながら、部屋まで戻って行った。
会食も無事に終わり、敢美は満面の笑みで帰りの車まで歩いていた。
車の前まで来ると、敢美と今宮はお辞儀をした。
「素敵な時間をありがとうございました。そして、迷惑をかけてしまった事を謝りますわ。」
大蔵は首を横に振って、微笑んだ。
「いや、お気になさらなくていいですよ。また気軽にいらしてください。」
「親切な方達ね。感謝するわ。歌羽さん、誠を宜しくね。」
歌羽は元気よく頷いた。
「はい!こちらこそ、よろしくお願い致します!」
敢美はもう一度お辞儀をしたら、誠と車に入って行ってしまった。
3人は車を最後まで見送ると、大蔵が2人に微笑みかけた。
「よし、2人共。今日はよく頑張ってくれたね。ありがとう。」
「はぁぁ...き、緊張した...。」
「よく頑張りましたね。お嬢様。今日のデザートは今日取れたばかりのシナモンを使ったバニラアイスにしましょう。」
「ありがとう!じゃあ、お風呂に入って待ってるね!!」
「はい。くれぐれものぼせないようにお願いしますよ。」
歌羽は元気に笑う。
「わかってるよ!」
そう言うと、歌羽は走ってビルの中へ入っていった。
「龍仁朗も今日はありがとう。龍仁朗のおかげで場の空気が最初から和やかだったよ。料理のセレクトも完璧だった。本当に感謝するよ。」
「いえ、全ては大蔵様が私に一から教えて下さったからです。私こそ、感謝の気持ちでいっぱいです。」
大蔵は笑っていた。
「ハハハハハ!龍仁朗は真面目だね。君を歌羽の側近にしてよかった。さあ、歌羽の為に行ってあげなさい。アイスを待っているんじゃないかな?」
龍仁朗はクスリと笑った。
「そうですね。行って参ります。」
一方その頃、歌羽は浴場で湯船に浸かりながら会食の時の誠の言葉を思い出していた。
『俺らはどうせ策略結婚だ。』
『こんな会食なんて無駄だろう。』
(策略なのは知ってるけど...でも...会食が無駄なんて...ヒドイ...。)
その時の誠は歌羽から見たら悪魔そのものだった。
その場にいるだけで氷の様な無表情に顔が強張り、冷ややかな目つきに足がすくむ...。そういう状況だった。
歌羽は生理的に誠を拒絶していた。
(私...。誠様と、上手くやっていける自信がない...。)
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(やっぱりだ...。会食が始まる前から感じてた、この感情...。)
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歌羽しかいない広い浴場に水が滴る音が途絶えずに響き渡る。
(私....。誠様が、怖いんだ。)
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好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
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