原っぱの中で

紫奈

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IV

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 年明けに映画を見に行った。
ファンタジーもの、きっと誰もが耳にしたことがあるやつ。の続編。

ポップコーンは2人で1つを分けて食べた。君が奢ってくれた。場内が暗くなり、宣伝のCMが流れた。私はそっと君の横顔に目を向けた。綺麗な顎のラインを私はいつまでも眺めていたいと思った。君は私の視線に気づき、何か言ったとでも思ったのだろう、'ん?'と言いながら顔を寄せてきた。軽く笑いながら'なんでもないよ'と言うと、君もただ笑みを浮かべて視線をスクリーンへと戻した。

途中、肘掛けを使う君の腕から送られる体温が眠気を誘った。君が隣にいると安心する。優しい温もりはいつだって私を弱く包む。触れる肩に少しだけ寄りかかる。君はただ私を受け入れるだけだ。私はそれを知っている。


私は場内が明るくなるまで座っていたい派だ。'出る?'なんて無粋なことを聞く人とはどうやっても相容れない。もちろん君はそんなこと言わなかった。ただ前を向いて流れるエンドロールを眺めてる。弱く伝わる体温を私はずっと覚えていたいと思った。君の横顔を私のものにしたいと思った。

立ち上がりながら、君が興奮して感想を話すのをにこにこしながら聞いていた。本当のところ、君とは逆の意見だったが、笑いながら'そうだね'を繰り返した。合わせるのは得意だ。


私と君の関係は脆い。君からメッセージをくれることはほぼない。私が送らなければきっと切れてしまう。私は君が好きだった。好きだったのだ。
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