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再生の繭

◎9話

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 意識してゆっくりと家の中を歩き回り、放り出したままの荷物や、1ヶ月半放置したままの旅の道具を整理するなどしてちまちまと家の中を片付ける。
ケイジュは割とすぐに帰ってきた。
追加料金を払って即時洗浄と乾燥もしてもらってきたらしい。
フカフカになった毛足の長い毛布をベッドに敷き詰めると、寝室が一気に冬らしくなる。
すぐにでも飛び込みたいが、今は我慢だ。
その後のケイジュの手際も素晴らしかった。
浄化魔法は本当に便利だな。
便所や風呂場などの水回りの掃除もさっと終わらせて、おれがやることと言えば床に転がる埃をのんびりと掃いて集めて捨てるぐらいだ。
自宅はあっという間に清潔さを取り戻し、篭っていた空気も一掃される。
何だかんだ時間がかかったので、日が傾き始めて気温が下がってきた。
おれはすでに買い置きしていた薪を暖炉に放り込んで、火打ち石で火を熾す。
夜までには部屋も温まるだろう。
ヘレントスやリル・クーロはもっと寒さが厳しく、建物全体を温める魔石の暖房設備が整っているらしい。
家の中に暖炉があるのはフォリオとかドルンゾーシェとか、ある程度南の方にある都市だけだ。
パチパチと燃える薪を、ケイジュは安らいだ表情で眺めていた。

「燃えている様子が見えるのは、なかなか良いな。実家の暖炉を思い出す」

「そういえば、ケイジュのヘレントスの自宅は暖炉なかったよな」

「ああ、地下に暖房設備があるんだ。そこから温かい空気がパイプを通って、建物全体を温める仕組みになっている」

「ヘレントスも結構雪がすごいんだろ?もう雪降ってんのかな」

「多分な。スラヤ村は確実に今頃雪の下だ」

「エンジュもエルムさんも、無事に過ごしてるといいけど……」

「平気だろう。蓄えは十分にあったし、在来生物の素材も渡しておいた。スラヤ村の特産は、魔人が手作りした防具やお守りなどの工芸品だ。在来生物を遠ざける効果のある軽鎧なんかは、かなりの値段になる。エンジュも今頃それを作ってるかもしれないな」

「え、じゃあケイジュが服の下に着てる軽鎧って、エンジュが?」

「いや、これはただの革の鎧だ。おれはそんな立派な防具を使わなくても、自分で姿隠しの魔法も恐慌の魔法も使えるからな。おれが使うより金に変えたほうが良い」

「へぇ、だからスラヤ村には結構商人が訪れるんだな……」

暖炉で湯を沸かしつつ、他愛のない会話を続けていると、ふとケイジュと視線が重なった。
穏やかな空気が急に緊張し、心臓がばくばくし始める。
ケイジュの表情は穏やかだったが、夜空色の瞳には隠しきれない飢えが滲んでいる。
おれの体感ではそんなに長く感じなかったが、ケイジュにとってはこの1ヶ月半は長く感じたことだろう。
ずっと近くにいてくれたし、何度も抱き締めてくれた。
けど、それ以上は全くしてこなかった。
人目があるのもそうだけど、おれの負担を考えてくれたんだろう。
けど、もう、そんな遠慮も必要ない。
おれが視線を外さずにいると、ケイジュは椅子から立ち上がっておれに歩み寄った。
椅子に座ったままのおれを見下ろして、そっと壊れ物でも触るかのように頬を手のひらで包み込む。

「セオドア、キス、したい」

幼く感じてしまうほどの、訥々とした言葉の羅列。
おれはいつになく緊張してしまって、少しだけ顎を引いた。
ケイジュはおれの顔を柔らかく手で包み込んだまま屈んで、口付けた。
温かくて、柔らかい唇の感触。角度を変えながら、何度も、何度も重なる。
泣きたいほどの激情がこみ上げてきて、おれは手を伸ばす。
ケイジュの肩を掴んで、自分から唇を押し付けた。
今まで数えられないくらいしてきたはずなのに、初めてしたときみたいに余裕がない。
優しい宥めるようなキスだけじゃ物足りなくて、ケイジュの下唇を舌先で少しだけ舐める。
それまで優しかったケイジュの動きが、一気に攻勢に転じた。
おれの後頭部を押さえ、髪をぐしゃぐしゃとかき乱し、ケイジュは一心不乱におれとのキスを続ける。
上を向くのが辛くなっておれが立ち上がると、待ってましたとばかりに腰に手を回されて抱きしめられた。
もう腰が抜けそうだ。
丹念に口内を舌で弄られると、勝手に背筋がぞくんっぞくんっと震えてしまう。
負けじとおれもケイジュの口内に舌を押し込もうとしたが、逆に絡めとられてじっくりと愛撫された。
ぴちゃ、と唾液が混ざり合う音が鼓膜を刺激する。
それすら気持ちいい。
あっという間に骨抜きになったおれを、ケイジュはグイグイ引っ張って寝室に投げ込んだ。
さっき整えたばかりのベッドに二人して倒れ込んで、息をすることも忘れてキスに没頭する。
体が熱い。
まだ寝室までは暖房の熱は届いていないはずなのに、首元が暑くて仕方ない。
おれは無我夢中でシャツのボタンを外す。
ケイジュも黒い詰め襟の首元を鬱陶しそうに引っ張り、もどかしそうに服を脱いでいく。
しかし、お互い下着姿になってから、ケイジュが不意に動きを止めた。
おれを見下ろすケイジュの眼光は獣のようだ。
鋭く、深くまで貫いて離さない、深い蒼。
しかし、眉や唇には理性が残っていて、苦しそうに歪んでいる。

「……悪い、まだ、体調が万全じゃないのに……」

おれはカッと頭に血が上るのを感じた。

「……ッ、ここにきて、寸止めするのかよ……!?」

もしまだ服を着ていたら、おれはケイジュの胸ぐらを掴みあげていただろう。
それぐらい、おれも飢えていた。

「なぁ、わかるよな?おれも、もう、我慢できないんだ……反省も後悔も明日するから、抱いてくれ、今すぐ」

おれはケイジュの太ももに股間を押し付けた。
下品な行為だと思う。
けど、もう切なくて、熱くて、たまらない。
ケイジュはおれから顔をそらした。
けど、興奮して熱を持った手のひらは相変わらずおれの肩を掴んで離さない。
そして、もう一度おれを見たとき、ケイジュにもう迷いはなかった。

「……おれも、反省と後悔は明日する……精気も、少しもらうぞ」

ケイジュの瞳がおれを捉える。
吸い込まれそうな蒼色が、おれの精気を貪って蕩けた。

「……ッふ、はぁ、ずっと、欲しくてたまらなかった……ッセオドアの、精気じゃないと、おれはもう、駄目みたいだ」

ケイジュの表情は淫靡に緩んでいた。
とろんと潤んだ眼差しと、美味しそうに弧を描く唇。
きちんと吸い取る量は調節できたみたいで、眠気に襲われることもない。
ただ、もどかしくて落ち着かない。

「好きなだけ、やるから……いっぱい、吸え……!」

「……これ以上はもらえない。まだ、セオドアの精気も回復しきっていない。これだけあれば、十分だ」

ケイジュは歯を見せて笑う。
凶暴な雄の笑い方だ。
そして、ケイジュは見なくてもわかるほど猛った股間をおれの腹あたりに擦りつけてくる。
もう硬くなってる。
これが欲しい。
おれは続きを強請るために、ケイジュの首に腕をまわして口付けた。

 おれは、もうすぐにでも腹の中を犯されたくて仕方なかった。
最後にしたのはいつだっけ。
興奮していて思い出せない。
とにかく、体の奥がジクジクと疼いて我慢できない。
それなのに、ケイジュの手つきは慎重だった。
おれの肌を吸う唇は余裕なく息を吐きだしているのに、決して強引にことを進めようとしない。
おれは四つん這いになってケイジュに尻を向け、丁寧に解されて泣きそうになっていた。
浄化魔法で洗浄され、潤滑剤もしっかりと塗りこまれたそこは、もうペニスを受け入れる準備ができているはずだ。
なのに、ケイジュはなかなか本懐を遂げようとしない。
指を三本受け入れたそこは痛みを訴えることなく拡がって、物欲しげにひくひく蠢いている。
ケイジュはもう片方の手でおれの乳首をくりくりと虐めてくるので、そこから湧き上がる快感でどんどん絶頂が近付いてきてしまう。
潤滑剤でぬるついた指先がくるくると乳輪をなぞる。
ケイジュの指は皮膚も固くて、それが敏感な皮膚を優しく擽るのは気持ちよくて仕方ない。
時折かりかりと爪先で引っ掻かれたり、ぴんっと弾かれたりすると、それだけでおれのちんこがびっくんと震えるのがわかる。
絶対、先走りがだらだら出てる。
洗いたてのシーツにシミを作っているに違いない。
本当は、あまり胸を触られたくない。
1ヶ月で落ちてしまった筋肉はまだ元通りじゃないし、肋骨が浮くほどじゃないけど、ちょっと骨の形がわかるような胸板になってしまった。
だから、少し恥ずかしかったのに、一度開発された性感帯は素直に気持ちよくなってしまう。

「け、いじゅ、も、いれろ……いれろよぉ……ッ」

おれは駄々をこねたが、ケイジュはアナルから指を引き抜こうとはしなかった。
代わりにずんと指を押し込んで、おれの弱点をじっくりと指の腹で撫でながら引き抜いていく。

「……っあ、ぁ……ッ!」

おれはシーツを握りしめることで耐えたが、もう駄目だ。
久しぶりに掘り起こされた性感に振り回されて、絶頂を我慢しきれない。

「……まだ駄目だ。久しぶりだから、痛い思いをさせたくない」

ケイジュの声は優しかった。
けど、おれの腰に歯を立て、容赦なく吸い上げるその仕草に優しさはない。
きっとおれの背中はケイジュが残した痕だらけになっているだろう。
その間も、ケイジュの指はずりずりとおれの気持ちいい所を擦っていく。

「……ッひ、ぁ、も、イく……ぞわぞわ、とまんな、ぁ、」

「……見ててやるから、好きなだけイくといい。気持ちいい事もちゃんと思い出せ」

ケイジュの言葉を聞くなり、おれの身体は勝手にぞくんと震えた。
きゅっとケイジュの指を締め付けてしまっているのがわかる。

「や、だ、まだ、イキたくな、いぃ……ッあ、ぅ、覚えてる、ちゃんと、思い出したから、きもちいいって、だから、指じゃなく、て……ッ」

おれは必死に訴えたのに、ケイジュは淡々と指を動かしている。
とどめに中で指を折り曲げられて、中の肉をぐいと押し込まれて頭が真っ白になった。
下半身から頭のてっぺんまでびりびりと快感が走る。

「あっ、ああ……!?」

くる、だめだ、ケイジュといっしょがいいのに、きもちいいの、とまんな、

「っん、んぅう~~ッ」

おれはシーツに顔を押し付けた。
体の奥がぎゅうっと収縮して、どく、どく、とペニスが脈打っている。
熱いものが尿道をじわじわとせり上がって来て、勢いなく吐き出される。
いや、だったのに、これ、きもち、いい。

「っは、はぁ、ふぅ……」

おれは気が付くと仰向けにひっくり返されて、ケイジュに見下されていた。
酷く幸せそうに目を細めたケイジュが、おれの頬をなでていく。
薄暗い部屋の中では、ケイジュの白い肌がよく目立つ。
前よりも少しだけ、骨が目立っている肩。
十分厚いけど、少し体積を減らした胸板。
限界まで無駄な肉を削ぎ落とした腹筋。
綺麗だ。
だけど、以前を知ってるおれにとってはそれが痛々しくて、けど嬉しくて、たまらない気持ちになる。
うっとりとおれを見つめる瞳は、目尻に涙をためていた。
良かった、おれの身体が貧相になったからって、ケイジュは愛想を尽かしたりしてない。
ケイジュの怒張がおれの尻にあてがわれる。
おれの片足を持ち上げたケイジュは、視線を重ねたままゆっくりと腰を押し付けてくる。
ずぷ、ん、と難なく亀頭を受け入れたアナルは、そのままずぶずぶと奥までペニスを飲み込んでしまう。
久しぶりとは思えないほどスムーズな挿入。
けど、おれを襲った衝撃はそれほど優しくなかった。

「~~~~ッ!?」

勝手に口が開いたけど、声にならない。
暗いはずの部屋が白く明滅する。
人って衝撃を受けると本当に星が飛んでる幻覚を見るんだな。

「あっ、……あーーッ……あー……うぅ……」

ずっと欲しかったものが腹の中にずっしりと居座っている。
熱くて、硬くて、どくどくと脈打ってる。
さっきの絶頂の余韻が残っているうちに、再び新しい絶頂に押し上げられて、おれは白痴のように声を漏らした。
気持ちいい波に首までとっぷりと浸かって、なかなか抜け出せない。

「は、ぁ、セオドア、ずっ、と、こうしたかった……もう、二度と抱けないかもしれないと、何度も思った……だから、嬉しい……」

ふわふわと半分意識を飛ばしたおれに、ケイジュは震える声で語りかける。
答える余裕はなかった。
けど、ケイジュはお構いなしにピストンを開始する。

「んっ、うんんっ、ああ、はひッ」

おれは絶頂を引き伸ばされて、揺さぶられるまま喘いだ。
熱い塊がおれの中をたっぷり擦り上げて、馴染んでいく。
気持ちいい。

「セオドア、ずっと、お漏らししてるな……きもちいいか?」

ケイジュに言われて初めて気付いた。
おれが自分の腹を見下ろすと、そこは何かの液体でビシャビシャに濡れている。
おれ、いつの間にか射精してたのか?
いや、それにしてはなんか、サラサラしてるし、濁ってもいない。
肘になんとか体重をかけて体を起こすと、おれのペニスがケイジュのピストンに合わせてちょろ、ちょろ、と液体を吐き出していた。
気持ちいいのが終わらないのは、これのせいだったんだ。
おれはへらりと笑う。

「う、ん、ずっ、と、きもちい、い、けいじゅ、もっと、」

ケイジュの表情が険しくなり、上にのしかかって来る。
体が折り曲げられて苦しい。
更に深くまで入り込んだケイジュの亀頭が、奥の行き止まりにキスしてるのがわかる。
下だけじゃなくて、ケイジュは上の口も塞いでくれた。
熱い粘膜同士で繋がって、一つの生き物になったみたいだ。
ケイジュの腰が段々と激しく動いて、おれの身体の奥を叩く。
頭の中もどんどんかき混ぜられてわからなくなっていった。
相変わらず視界はぼやけていて、絶頂は断続的におれを襲う。
その中で、ケイジュが一生懸命おれを抱きしめているのはわかった。
その後、耳が蕩けそうな低音の声でねだられる。

「セオドア……ッ中に、出していいか……?」

おれの意識はその言葉で少し明瞭になった。
舌に力が入らないので何度も頷く。
ケイジュはペニスが抜けそうなくらい腰を引き、それから勢い良く挿入する。
しょろ、と更に何かを漏らしてしまった感覚があって、背骨から溶けてしまいそうな快楽に晒された。

「ひぅっ、ん゛~~っ」

唯一ケイジュに押さえつけられていないつま先がピンと伸びる。
何度かそうして揺さぶられたあと、意識が飛ぶ寸前でケイジュの身体がぶるりと震えた。
はーっ、はーっ、と獣のように息を吐き出しながら、なおもぐりぐりと腰を押し付けている。
おれを孕ませようとする、雄の動き。
とぷん、とぷんと温かいものが奥に溜まっていく。
おれはそれにいちいち声を上げながら、ゆっくりと脱力した。





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