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22話○

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 レグルスがニクスを抱きたいと下剋上宣言をしてから更に数週間。季節はすっかり真夏になり、暑さに弱いニクスはうんざりしながらもなんとか日々仕事をこなしていた。スライム寒天はかなり備蓄できたので、一旦作業は中断している。肝心の引越し先が見つからないので、喫茶店計画も今は待機中。冒険者をきっぱりやめて喫茶店一筋で生活するのは今の所厳しいので、引越し先を探しつつ開店資金を貯めるのが当面の目標だ。夏から秋にかけて最も在来生物の数が多くなるので、冒険者の仕事はいくらでもある。二人は鉄道沿線の集落に遠征したり、また研究者の護衛を請け負ったりしながら、概ね平穏な日々を送っている。しかし、ニクスは心中穏やかではいられなかった。レグルスと揉めたわけでもないし、無理やり行為に及んで失敗したわけでもない。レグルスは宣言通り、ニクスのアナルに触って開発と拡張を続けているが、そこから挿入することはなく我慢してくれている。ただ、前戯の途中で攻守交代し、しばらくアナル開発されて、その後は普段どおりにニクスがレグルスに挿入してフィニッシュだ。普通に盛り上がるし、ニクスも正直アナルを弄られないと何か物足りないと思うほどに開発されている。今はレグルスの太い指を三本ねじ込まれても余裕だし、もうそろそろレグルスが本懐を遂げても大丈夫なんじゃ、と思えている。しかしレグルスのこういうときの忍耐力は凄まじかった。ニクスが少しでも痛そうな素振りをすればすぐに中断したし、どんなに興奮していてもニクスが絶頂するとあっさり手を止めた。体格差もあるから無理しなくていいからね、とレグルスはニクスに何度も告げている。ニクスが可愛いところ見られただけでおれは幸せだ、とも。我慢強く、どんな時も気遣いを忘れないのはレグルスの美点ではあるが、今この状況ではそれがニクスにとって悪い方向に働いている。ニクスは言い出せないだけなのだ。もう大丈夫だから挿れてほしいと。もう指じゃ足りないと。毎回夜を共にする時は、今日こそ言うぞと意気込むのだが、やはりいざその時になると尻込みしてしまう。男としての矜持が邪魔している、ということもあるし、単純に自分からねだるのは死ぬほど恥ずかしかった。レグルスの方からお願いされればそれに頷くだけでいいのだが、かといってレグルスの忍耐強さに任せていたらこの状態がずっと続くかもしれない。ニクスはそんな葛藤に苛まれつつ、安らかなレグルスの寝顔を見下ろしていた。

 今夜はちゃんと二人ともパジャマを着たままだ。今日の夕方に遠征から帰ってきて、かなり疲れていたので何もせずに寝てしまった。喉の乾きで夜中に目を覚ましてしまったニクスは、よろよろしながら一階に下りて水を飲み、その後なんとなく寝付けずにレグルスの寝顔を見つめている。レグルスの頬には真新しい擦り傷が残っていた。
今回の仕事はかなり長丁場になり、一週間近く森の中に籠もってロノムスという在来生物の群れを追いかけ回すことになってしまった。その時に枝か何かに引っかかって顔に傷を作ってしまったのだろう。しかし、レグルスの男らしい顔立ちにその傷はよく似合う。口を半開きにして爆睡していても、まるで戦神がつかの間の休息をとっているようだ。こんな男前が、抱かれてる時はあんなに乱れて泣きそうな顔で喘ぐんだからたまんないよなあ、とニクスは今更実感してちょっとにやついた。最近、レグルスはペニスを触らなくてもアナルへの刺激だけで達するようになってきた。強く腰を打ち付けながら乳首をつねると、すぐにレグルスの蜂蜜色の瞳は焦点を失って立派な腹筋を精液でどろどろに汚してしまうのだ。達してからもピストンをやめずに奥をごつごつ苛めば、精液なのか潮なのかわからない体液をびしゃびしゃ漏らして、終わらない絶頂に浸りきった脱力した喘ぎ声を聞かせてくれる。そういうときのレグルスは涙どころか涎も垂れ流していて、とても立派な一物を持っている男とは思えないメス顔になっている。また、レグルスはニクスのアナルを開発する際に自分が責められて気持ちいい所を重点的に触るので、間接的にニクスもレグルスの弱点を知ることになった。レグルスが自分で自分の首を絞めていることに気付いていないことも、ニクスにとっては好都合で、大いに利用させてもらっている。明日は休みだし、ずっと野宿していたせいでここ一週間セックスをしていないので、きっと早い時間からレグルスとベッドにもつれ込むことになるだろう。明日はどんなふうにしようか、とニクスが妄想を逞しくしていると、レグルスの腕が動いた。何かを探すようにぱたぱたとシーツを叩く。ニクスは少し笑みをこぼして、その腕の中に捕まってやることにした。レグルスはニクスを腕の中に抱き込むと、満足したように鼻息を漏らして、ニクスの腰に足を絡ませてきた。ニクスの太ももに平常時でも存在感のある男根がぎゅっと押し付けられる。咄嗟に、それに貫かれて揺さぶられる想像をしてしまったニクスは唇を噛み締めた。さっきまでレグルスをどう責めようかウキウキで考えていたはずなのに、あっという間に脳内は自分にのしかかるレグルスでいっぱいになる。抱き枕にされただけで連想してしまうなんて、かなりの重症だ。ニクスはもう自分が抱きたいのか抱かれたいのかわからなくなっていた。一つ確実なのは、欲求不満になっていること。ニクスはこのままじゃ頭がおかしくなりそうだから、絶対に明日こそ言おう、と決意を固めた。一度やってしまえば、きっと迷いも晴れて気分もスッキリするはずだ。ニクスはそう自分に言い聞かせ、次から次に頭の中に浮かんでくる欲求を振り払うために目を固く閉じた。

 結局、二人が起きたのは昼頃になってからだった。二人とも猫科なので寝ようと思えばいくらでも寝れるのだが、流石に空腹を無視できずに連れ立って1階に下りて朝食兼昼食を食べる。その後レグルスはしばらく留守にしていたせいで埃っぽくなった部屋の中を掃除し始めたので、ニクスは食材の買い出しを担当することにした。ニクスは一人で市場をうろついている間も、ずっとレグルスのことが頭から離れず悶々としていた。しっかり寝て疲れを癒やし、ガツガツ食べて栄養を補給した後なので、残る欲求は性欲のみだ。ここで家に帰ったらすぐレグルスを抱くぞ、と決心できていたらここまで悩むこともないのだが、ニクスの選択肢は2つある。今日も前と同じようにレグルスを抱いて終わるか、もしくは自分から抱いてとねだるか。昨夜決意したばかりなのに、その時が近付いてくるとやっぱり止めようかなと弱気なことも考えてしまう。葛藤しているニクスはいつもよりも更に近寄りがたい険しい表情になっており、通行人をビビらせながらもニクスは買い物を終えて帰宅した。

 両手いっぱいに荷物を抱えたニクスが家の前にやってくると、扉が勝手に開いてニクスを迎え入れた。

「おかえり、遅かったね。色々頼んだけど大丈夫だった?」

足音でニクスの帰宅を知ったレグルスが扉を開けてくれたらしい。

「大丈夫。けど、野菜はもう売り切れになってるやつも多くてこれだけしかなかった」 

「充分だよ。ありがとう」

レグルスは紙袋に入っていた食材を手際よく分類して食料庫に収納していく。レグルスは午後のティータイムを楽しんでいたようで、ソファの前のテーブルにはマグカップとマフィンが置かれていた。きちんとニクスの分も準備されている。ニクスはそれにちらりと視線を向けたが、手を付けずにソファに座る。レグルスが片付けを終わらせて隣に座ると、ニクスはやや強引にレグルスの顎を掴んで口付けた。レグルスは面食らいながらも、ニクスが余裕なく自分を求めてくれることに嬉しくなってすぐに乗り気で応えてくれる。唾液をこくりと飲み下してとろんと目尻を下げたレグルスは、少しテーブルに目をやった。

「ニクス、おやつ、食べなくていいの?」

ニクスは切迫した様子で首を振り、レグルスの膝を跨ぐとそのまま腰を下ろしてしまった。ニクスの体重は軽いとは言えないのだが、レグルスの鍛えられた太ももはその程度ではびくともしない。ニクスはレグルスをうっとりした顔で見下ろしながら、長い尻尾でしゅるりとレグルスの頬を撫でる。

「それより、したい……レグルス、いい?」

ニクスはレグルスの赤い髪を指で梳きながら、少し首を傾げて尋ねた。レグルスは少し恥ずかしげに視線をそらしたが、首筋をフサフサの尻尾で撫でられると観念したように頷く。その後レグルスはニクスが膝からおりて寝室に向かうのを待ったのだが、ニクスは動かないどころかレグルスのシャツのボタンを外し始める。

「ニクス、だめだって、ここ、1階……」

「へーき、さっき玄関の鍵かけたから。だから、早く脱いで」

ニクスの有無を言わせぬ声色に押されて、レグルスはおずおずと自分のシャツのボタンを下から外していく。その間に、ニクスは自分が着ている外出用のローブを鬱陶しそうに脱ぎ捨てた。その下のシャツのボタンも外し、その辺に放り出す。レグルスは明るい部屋の中でニクスがどんどん素肌を晒す様に見とれるばかりで、止めることもできない。ニクスはその勢いのままズボンにも手をかけ、レグルスの膝から下りると一気に下着ごと脱いで再びレグルスの膝に座り込んだ。レグルスは普段性行為をしない生活空間でニクスが裸体を晒していることに生唾を飲み、ニクスに促されるままシャツを脱いだ。ニクスは待ちきれないようにレグルスに抱きつき、すでに勃起しているペニスをレグルスの腹に押し付ける。

「はぁ、こうするだけで、気持ちいい」

ニクスは腰を揺らしてレグルスの引き締まった腹筋にペニスを擦りつけ、レグルスの胸を撫でる。期待でぷっくりとふくらんだ乳首を掌で押しつぶすように胸を揉み、反対側の乳首は爪先でかりかりと掻いた。

「んッ、は、ニクス、寝室、行こう、よ」

レグルスは明るい場所で乳首を弄られて感じていることから目をそらし、ニクスに訴えた。しかしニクスは口をキスで塞いで、レグルスの手を自分の腰に誘導する。ニクスの腰は細い。あくまでレグルスと比べてだが、無駄なくきゅっと引き締まっていて尻も小さめだ。ボリュームではレグルスに負けるが、そのシミ一つない肌の白さとモチモチとした手触りはレグルスとは違う魅力を持っていた。レグルスは一度触れてしまうと欲望に負けてしまい、両手でニクスの尻をぎゅっと揉んだ。ニクスはレグルスの舌を吸い上げながら、んっ、と甘い鼻声を漏らす。レグルスの手つきから、段々と迷いが消えていく。普段は容赦ないピストンを繰り出して自分を責め立てる臀部を膝の上にのせて、思うままに揉みしだいているという状況に理性が溶けていく。気がつくと、レグルスも腰を揺らして、膝に乗るニクスに股間を押し付けていた。レグルスは休日用の緩いズボンをはいたままだったので、勃起した男根がテントを張っている。ニクスはその光景を見て陶然とした笑みをこぼし、レグルスの丸っこい耳に囁いた。

「はは、なんか、これ、レグルスに、犯されてるみたいだ」

そのままもぐもぐと耳を甘噛みされて、レグルスの我慢の糸がぶちぶちと千切れていく。レグルスは本能のままにニクスの尻の穴を指で探り当てようとしたが、それは尻尾に叩かれて阻止されてしまった。

「こら、まてって、まだ浄化してない」

ニクスはすっかり手慣れた魔法を自身にかける。そうして準備が整うと、レグルスは言葉もなく尻尾を押しのけてニクスのアナルに指を突き立てた。

「んっ、ぅ」

ニクスは背中をびくんと仰け反らせて、いつになく乱暴なレグルスの指使いに酔う。体内に潤滑剤も生成していたので、レグルスの指はすんなりと根本まで埋まった。これまでの開発のおかげで、ニクスは痛みも感じることなく、ただただこれから与えられる快感を予感して震える。レグルスは何度か指を抜き挿しして、中の具合を確かめるように肉壁を押し広げる。まるでそこが性器として使えるかどうか点検するような無造作な手つきに、ニクスの腰から首筋までをぞわぞわと興奮が走る。

「あっ、やぁッ、レグルス……」

ニクスはレグルスの首に抱きついて甘えた声で呼んだ。このままレグルスが挿入したいと言ってくれれば、それに頷くだけでいい。咄嗟に思いついた作戦だったがうまく行きそうだ、とニクスはほくそ笑んだのだが、急にレグルスの手が止まった。そのままゆっくり引き抜いてしまったので、ニクスは身体を離してレグルスの顔を覗き込む。

「ごめん、ニクス、急に触って……嫌だったよね」

レグルスは今回もまたギリギリで理性を保ち、ぎこちなくニクスに笑いかけた。しかし眉間には深いシワが刻まれており、興奮を押し隠したような声は掠れている。レグルスはそのまますっと手を引こうとしたので、ニクスは慌ててその手を掴んだ。

「ちが、ッ……まって、嫌じゃない!」

ニクスは必死になるあまり大きな声で否定した。その後さぁっと頬を赤く染めると、俯いて顔を隠し小声で続ける。

「……もう、このまま、続けてくれ……ッ」

レグルスはその絞り出すような声に背筋をピンと伸ばした。ニクスは背中までほのかに赤く染めて、レグルスの首元に顔を押し付けている。レグルスは今更緊張して表情を強張らせながら念を押して聞き直す。

「……ほんとに……このまましていいの?きついかもしれないし、おれ、最後までしなくても全然、」

「嘘吐くなよッ、これ、挿れたいんだろ?!」

ニクスはヤケクソでいきり立ったレグルスのペニスをズボンの上から掴み、真っ赤な顔で睨みつける。

「あんだけ慣らしたんだから、入るに決まってる!だから、抱けよ、レグルス……ッ」

ここまで言われたら、流石のレグルスも腹をくくるしかない。レグルスは怒ったような顔で睨みつけてくるニクスに、そっと口付けた。触れるだけのキスの後、レグルスは静かに告げた。

「ありがと、ニクス……じゃあ、ベッド、いこう」

ニクスはもう言葉を返す余裕もないのか、小さく頷いた。



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