学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第四話 目標

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「おはようございます。キース様、お目覚めでしょうか?」
 見慣れた天井、紅茶の匂い、それに優しい声がする。ここは——

「メッ!」
「め?」
「メメメ、メイソン君!」
「はい。メイソンです」
 不思議そうな顔をするメイソン君。そこに俺を不審がる気配は一切ない。

「やったー! メイソン君だ!」
 メイソン君が俺に名前を呼ばれても変な感じにならないということは、完全にあのループを抜けたんだ! 達成感と安堵で思わずメイソン君に抱きつく。
「キッ、キース様! あああ、あの、僕、ちっ朝食をお持ちいたします!」
 真っ赤な顔をしたメイソン君が部屋を飛び出した。

 いきなり抱きつくとか、距離感ミスったわ。そりゃ照れるって。気をつけないとなー、俺はBLゲームの主人公なんだから。

 メイソン君が運んでくれた朝食は今日も美味しいし、量もちょうどいい。着替えも手伝ってくれたし、見送りもしてくれた。なんて素晴らしい一日だろう。


 感動を引きずったまま校門を潜ると、周囲の目が一斉にこちらを向いた。時折、くすくすと馬鹿にしたような笑い声が聞こえる。
 まあね。入学式で大声出して指導室行きになったやつとか、そりゃあ話題になるわな。しかもそれが伯爵家の庶子ならなおさらだ。
 いくら俺が図太くても好奇の視線に晒されていい気分にはならない。無視するのが一番だとわかっていても言い返したくなってしまう。

「おはようございます。キース」
「えっ! あ、カイ。おはよう」
「どうしたんですか? 驚いた顔して」
 周囲の視線に気づいているはずなのに、カイの態度は昨日と変わらない。

「いやー、俺浮いてるみたいだから」
「そんなこと気にするなんてキースらしくないですね。あんなの無視でいいですよ」
「別に俺はいいんだけどカイが……家同士の付き合いとか大丈夫?」
「僕はあなたのサポート役なので。それに……キースといるほうが楽しいですから」
 カイはそう言うと、早足で校舎を進んだ。

 嬉しすぎて涙が出そうだ。俺も後に続くように早足でついて行く。
「カイ、ありがとう! 愛してる!」
「はいはい。授業遅れますよ」
 そっけない返しだけど、耳が赤いから照れているのが丸わかりだ。

 もうこれクリアでよくない? 固い友情で結ばれた二人のハッピーエンドじゃだめなのか?
 システムへの不満を心の中で垂れ流しながら、学院生活一日目が始まったのだった。



 誰もいない空き教室にカイと二人、並んで席につく。少々埃っぽいが仕方ない。
 やっと午前の授業が終わった。昼休みまでがあまりにも長すぎた。記憶喪失って不便だ。特に歴史の授業は何一つわからなかった。
 先生たちは同情の目で俺を見てくれたけど、どこまで頼っていいのだろうか。子供レベルの質問しても許してくれるのかな。

「このゲーム頭良くなるアイテムとかないの?」
「残念ながらありませんね」
「俺卒業できると思う?」
「僕も協力するので頑張りましょう」
 慰めるように肩に手を置かれた。現実は厳しい。

「そもそもゲームだとキース君ってどんな子だった? さすがに今の俺より頭良かったはずだよな?」
「僕もその話がしたかったんです」
 カイの顔が険しくなる。怒っているというよりは、考え込んでいる様子だ。

「原作の主人公は受け身で貴族然としていて、攻略者によって人格が変わるんです。相手の理想に近い振る舞いをするといいますか。だからそれなりに教養が身についている設定なんです」
「そんな感じなんだ」
 今の俺と全然キャラが違う。シナリオとか大丈夫か。

「それで今後の展開について一晩考えてみました」
 カイがノートを広げる。そこには日本語でみっしりと情報が書かれていた。
「今後の展開って、誰かと恋愛するんだろ?」
 あんまり考えたくないけど。
「それはおすすめできません。進めるとしたら全員友情エンド一択です」
「友情エンドもあるんだ! よかった! 男同士でって考えたことなかったから」
 それは本当に助かる。恋愛とかよくわからないし。

「……ええ、そうですよね。実際、恋愛エンドは問題が多いんです。このエンドは実質婚姻エンドで、卒業式の日にプロポーズされてエンドロールを迎えるという流れになります」
「この国は男同士で結婚できるってこと?」
「可能です。しかしあなたの場合、現実的ではありません。仮に結婚できたとして、庶子で社交もできないとなると……婚姻を良く思わない何者かに消される可能性があります」

「貴族怖っ!」
 これホラーゲームだったっけ?

「だからこそ全員友情エンドです。これは隠しキャラを除く攻略対象者全員の好感度を上げる必要がありますが、比較的平穏なエンドです。序盤は少々ハードですが」
「誰か一人と友情エンドっていうのはない感じ?」
「存在しません。誰か一人と関係を深めるイコール恋愛ルートに進むと思ってください」
 目がマジだ。恋愛ゲームだから、システム的に恋愛を推奨してるってことかな。

「攻略対象者は何人?」
「四人です。フレデリック殿下は登場済みなので、あと三人ですね。皆同学年です」
「そんなにいるのか。誰?」
「魔術師団副団長の息子でクラスメイトのルキウス・ヴェルトライン。騎士団長の息子のロラン・バルデウス。宰相の息子で風紀委員に所属しているアルベール・フェルステッド。一気に接触しても混乱すると思うので、まずは殿下と知り合いになってください」
「殿下って一番ハードル高くないか?」
「作中だと序盤は好感度上げが楽なキャラクターですよ。友情に飢えている設定なので。その代わり恋愛ルートは難しいですけど」
 そうなのか。けっこう複雑そうだなぁ。

「その全員友情エンドってやつ、やってみる」
 俺がそう言うと、カイはあからさまに安堵した顔で笑った。

「僕もしっかりサポートしますから。今回のフェーズ目標は、好感度を一定まで上げること。知り合いより上、友人レベルを目指してください。人数は多いですが頑張りましょう」
「それってセーブはいつ?」
「七月にある期末試験直前です。それまでに目標達成しないとやり直しになります」
 今が四月だから、三ヶ月くらい巻き戻るってことか。それはしんどい。

「もう二度とループしたくないから気合い入れる」
「そうですね。僕も避けたいです」
「何でループが嫌か聞いてもいい? 入学式の時怖がってる感じだったから」
 カイの顔が曇る。何か深刻な理由なのだろう。

「僕には五歳の妹がいまして」
「年が離れた妹かぁ。それは可愛いだろうね」
「そうなんです! もう、本当、すっごく可愛いんですよ!」
 今日一番の笑顔がそこにあった。

「ループとの関係は?」
「五歳児の行動って、唐突かつ気まぐれなんです」
「はぁ」
「ループのせいで妹が踊った『お兄様大好きダンス』がなかったことになりました。家族の誰も、妹の愛らしい創作ダンスを知らないんです。そんなの寂しいじゃないですか」
 カイは肩を落としながら話を続ける。

「僕、前世では家族とあまり仲良くなくて……だから今世では大切にしたいんです。両親も兄も妹も、僕を全身全霊で愛してくれて……ループのせいで家族との思い出が共有できなくなるのは辛いです」
「ごめん。俺」
「キースのせいではありません。でも今後はなるべくループしない方向で協力してくれると助かります」
「もちろん!」
 俺が力強く頷くと、カイが表情を和らげた。

「キースはなぜループしたくないのですか? いや、誰でも嫌だと思いますけど」
 ああ、そりゃあ聞かれるよね。言葉を選びながら重たい口を開く。

「俺、二十五歳の時に交通事故で死んだっぽくて」
「それは……」
「目の前が真っ赤で何も見えなくて、寒くてたまらなかった。誰かが『あれはもうだめだ』って言ったのが聞こえて、そこから視界が真っ暗で、俺死ぬんだなーって……あの瞬間、人生って本当に一度きりなんだって身にしみた」

 カイが泣きそうな顔になっているので、慌てて話を進める。

「もう死んだことは気にしてない。前世を思い出した時もどこか他人事って感じだったし。でもこの世界で生きるってなった時、ちゃんと生きたいって思った」
「ちゃんと?」
「今できることを全力で、後悔がないように。だからループはだめなんだ」
「なぜそう思うのですか?」
「昨日大人たちから泣くほど怒られてさー、その時『もう一回くらいループしてよかったかも』って一瞬思っちゃって」
「泣くほど……僕も同じことを思うかもしれないです」
「でも、生きるってもう一回とかないんだよ。だからこそ真剣に全うできるというか……あー! 難しい!」
 
 立ち上がり、髪の毛をぐしゃぐしゃとかく。考え込むのは苦手だ。

「とにかく頑張ろう! みんなと友達になって笑顔で卒業! うん、学生としてすごくまともな目標だ」
「そうですね。たしかに、恋愛より真っ当な気がします」
 カイが笑い声を漏らしながら同意する。よかった。もう元気になったみたいだ。

「ところで」
「はい、何でしょう」
「カイの推しは誰? 周回してたってことは好きなキャラとか一人くらいいるよな?」
「特には……恋愛要素は邪魔でしかなかったです」
「えっと、何のためにゲームしてたの?」
「まあ、どうでもいいじゃないですか」
 一瞬、カイが浮かない表情になった気がした。口を閉ざしたままで、この話を続けるつもりはなさそうだ。

 これ以上触れてもしょうがないので話題を変えてみる。
「そういえば、このゲームのタイトルって何?」
「……ガチュ恋⭐︎ドレイクバスターです」
「え? なんて?」
 今絶妙にダサい響きが聞こえたような。カタカナが多くて一回で覚えられなかった。

「タイトルなんてどうでもいいです。ダサいし、ゲームで通じますし」
「それもそうか」
「そんなことよりも放課後にイベントが起きますから、心の準備をしておいてください」
「イベント?」
「ここを出てすぐの廊下を殿下が通ります。どうにかして接近してください。側近もいないからチャンスです」
「いきなりだな」
「チャンスはまだありますから。とりあえず今回は様子見のつもりで頑張ってください。まずは名前を覚えてもらうことから始めましょう」

 たしかに名前を覚えてもらうだけなら簡単かも。キースって短いし、言いやすいしね。最悪殿下の目の前で名前連呼したらいけるだろ。

 その後も攻略について話していたらあっという間に昼休みが終わってしまい、慌ててカイと一緒に教室に戻った。


 放課後、カイの情報を信じて廊下に張り込む。
 来た。廊下の向こう側から半端ないオーラの人が歩いてきた。

「ご、ごきげんよう。フレデリック殿下」
 まずは挨拶だよね。言い慣れないから少し吃っちゃったけど、悪い印象にはならないはず。

「お前……俺の答辞で騒いで指導室送りになったやつか」
 そういえば、殿下の答辞に感動しすぎてつい大声出しちゃったって言い訳したんだった。殿下はよくそんな危ないやつに話しかけたな。
 てか、一人称俺なの意外。

「聞こえているのか?」
 まずい。考え込んでたら返事するタイミングを逃した。
「この度は、その、ご迷惑をおかけして」
「よい。それよりもだ」

 あ、なんかすごい笑顔だ。美形の笑顔って破壊力あるな。こんな状況じゃなかったら少しくらいときめいていたかもしれない。

「どうして俺の答辞なんかに感動したのか教えてもらおうと思ってな」
「え……」

 これ、返答次第では好感度が地に落ちるやつでは?
 とりあえずで顔と名前を覚えてもらうだけのイベントのはずが、どうしてこうなった。

 殿下の目は期待に輝いている。俺はその輝きを曇らせないよう、必死に頭を回転させるのだった。
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