学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第六話 オリヴァー先生の魔法講座

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 今日はオリヴァー先生から魔法を教えてもらう日だ。魔法が使えるって想像しただけでテンション上がる。俺も早く手から何か出せるようになりたい。

「わるい。待たせたな」
「いえ、俺もさっき来たばかりなので」
 本当は楽しみすぎて四十分前にはここにいたけど。
「それならいいが……さっそく始めるか」
「よろしくお願いします!」
 立ち上がって頭を下げる。オリヴァー先生は「声でけぇ」と苦笑していた。


 裏庭のベンチに二人並んで座る。人の気配を感じない静かさは、集中するのにちょうどいい。 

「まずどこまで知識があるか確認だ。魔法は大きく分けて二種類あるが、言えるか?」
「属性魔法と固有魔法ですよね」
「正解だ」

 カイが貸してくれた魔法学の本を読み込んでおいてよかった。
 十歳の頃に読んでた本と聞かされた時はショックだったけど、裏を返せば今の俺は小学生並みの知識しかないということだ。

「属性は覚えてるか?」
「火と水と……後は出てこないです」
「火・水・風・土・光。これが基本の五属性だ」

 とりあえず属性をメモする。暗黒とか混沌とか呪縛とか特殊な属性がなくてよかった。響きはかっこいいけど、自分が使うってなったら恥ずかしくて無理だ。

「属性魔法って全部使えるようになるんですか?」
「使える。得意不得意はあるが。火は強いのに微風しか出せないやつとか、光だけ暴走してやたら眩しいやつもいる」
「全属性使いこなしたいです!」
「そこは要検証だ」

 全属性使えるとかめちゃくちゃかっこいいじゃん。練習して使えるようになったらカイに自慢してやろう。そういえばカイの得意魔法ってなんだろう。今度聞いてみるか。

「どうやったら魔法が出せるようになりますか?」
「自身の魔力を感じて、それを放出する。ごちゃごちゃ考えるより試した方が早い」
「魔力……魔力……」
 目を閉じて意識してみるけど、全く魔力の気配を感じない。集中しても多少の空腹を覚えたくらいだ。

「魔力の感じ方って言語化が難しいんだよな。魔法使えるやつは子供のうちに自然とわかるから」
「じゃあ魔法を使えるのはまだまだ先ってことですか?」
 魔法を出す前の段階でつまずくとは思ってなかった。期待してた分ショックが大きい。

「へこみすぎだろ。あー、その……もし抵抗がなければ俺の手の甲に指を乗せてくれ。お前の魔力を動かしてやる。これでコツを掴めるかもしれない」
 オリヴァー先生が手の甲を見せる。指を乗せるって、軽く触れ合う感じでいいのかな。迷っていると先生が自嘲気味に笑った。

「まあ、俺みたいなおっさんに触るのは難しいか。悪いな、忘れてくれ」
 入学式の時に手を貸してくれたのにもう忘れてる。
「おっさんって言ってますけど、先生何歳ですか?」
「二十五だけど」
 二十五はおっさんじゃないし。というか——
「同い年じゃん」
「は?」
 あ、やば。素で反応してしまった。

「お前……ついに自分の歳も」
「違います違います! 普通に間違えました!」
 うっかり中身の年齢のほうが出てしまった。これはまずい。
「まさか数字がわからなくなったとか」
「わかるから! 素数いっぱい言えるし! 二、三、五、七、十一——」
「言わなくていい」
 オリヴァー先生が笑ってる。からかわれていたみたいだ。
 焦ったー!! 本当、発言には気をつけないと。

「では、よろしくお願いします!」
 先生の手の甲に勢いよく指を四本乗せると、隣で先生がビクッと動いた。
「ごめんなさい。強かったですか?」
「いや、すまない。躊躇がなさすぎて驚いただけだ」
 オリヴァー先生が目を逸らして答える。たしかにちょっと勢いがよすぎたかもしれない。

「じゃあいくぞ。気分が悪くなったらすぐ伝えてくれ」
「承知しました」

 触れ合ったところから体温とは違う熱を感じる。それが全身に広がって、頭から足の先まで循環するようにじんわりと熱を伝えていく。ぬるめのお風呂に浸かってる感じだ。

「どうだ?」
「温かいのが巡ってます」
「魔力を掴んだか。ならその熱を手に集中させてみろ。こんな感じだ」

 身体中を巡っていた熱が手に集中し、しばらくしてまた全身に戻った。
 先生の補助すごい助かる。どんな原理か知らないけど、全然掴めなかった魔力が感覚的にわかるようになった。

 手の先に熱を集中させる。何かきっかけがあれば魔法が出せそうだというのが直感でわかった。

「魔法ってどうやって出すんですか? まだ呪文とか覚えてないんですけど」
「頭に浮かべた魔法のイメージを魔力に乗せて放出すればいい。手始めに風を出してみろ」
「わかりました」

 風、風か。魔力を前に飛ばす感じで——

「よし! 出ろ、風!」
 無風だ。何も起こらない。なんか、すごい恥ずかしい。

「おー、もう魔力を操作できてる。本当に使ったことないのか? 才能あるかもな」
「でも前に飛ばす想像したのに出なかったです」
「初心者がやりがちなミスだ。風を出す前に、まずは魔法で風を作らないといけない」
「最初に教えてくださいよ! 風出ろとか、かっこつけちゃったじゃないですか!」
「わるい、わるい。失敗した方が覚えが早いから」
 この人俺で遊んでないか? まあ、いいけどさ。

「もう一回やってみるので手出してください。お願いします」
「お前な、風出ないことよりそっちの方を恥ずかしがれよ」
「大義の前ではちっぽけなものです」
 魔法が使えるようになるなら、俺は先生の手に触れることもいとわない。
「その図太さが羨ましい」

 先生が呆れたような顔をして手を差し出す。今さらだけど自分のと比べるとオリヴァー先生の手大きいな。片手で俺の顔を掴めそうだ。

 目を閉じて集中する。まずは魔法で風を作らないと。風というのは要するに空気の塊が動くってことだ。シンプルにそれだけを想像する。
「すごいな。もう風が出来てる」
「でも前に飛ばすのはまだ難しいです」
 魔力が手の中に渦巻いているのはわかる。先生はこれを風と言っているのだろう。
「このまま集中してろ」
 頷いて、魔力を維持することに集中する。

 すると突然、魔力が手から離れ風音がした。目の前の空気をかき分けるように風が通り過ぎて草を揺らす。頭に浮かべた風の動きがそのまま形になったみたいだった。

「出来た!」
「おめでとう。この感覚忘れるなよ」
「ありがとうございます! でもどうして急に風が?」
「俺の固有魔法。『魔力操作』ってやつだ」
「魔力を操る魔法ってことですか?」
「そう。他人の魔力に干渉して操ることができる。地肌に触れないと操作できないのが難点でな。日常では全く使えない。今回役に立ててよかった」

 つまり魔力を感じることが出来たのも、風を飛ばせたのも、先生の魔法のおかげなのか。

「すごい魔法じゃないですか! かっこいい! 何でこんなすごい魔法使えるのに、先生は魔術師じゃないんですか?」
「あー、それはだな……」
 褒めたつもりで言ったのに、先生はどこか気まずそうだ。

「魔術師になるには条件がある」
「条件?」
「全属性魔法を卒なく使いこなすのが最低ラインだ。俺は固有魔法しか使えない。だから魔術師にはなれない」
「全属性って、五つ全部ですか?」
「そうだ。どれか一つでも欠けていたら資格はもらえない。俺も一時期は魔術師を目指していたが、諦めた」
「ごめんなさい。事情も知らずに」

 先生昔は魔術師を目指してたのか。かなり失礼なことを聞いてしまった。すごい魔法が使えたら魔術師になれるわけではないのか。
 魔法って、この世界では結構デリケートな話題なのかもしれない。

「謝らなくていい。未練もないしな。俺には研究が性に合ってる」
 どう返したらいいかわからなくて無言で頷く。
「あそこまで手放しで魔法を褒めてもらったのは初めてだった……ありがとう」
 精神的には同い年だと思ってたけど、俺に罪悪感を抱かせないように柔らかく笑う顔には、大人の風格があった。

「ところで」
「はい」
「まだ自力で風を出せてないだろ。一回やってみろ」
 たしかに、魔法を使えたのは先生がサポートしてくれたからだ。

 まだあの時の感覚は残ってる。魔力を集めて風を作る。そこから魔力を前に飛ばして――

「できました!」
 さっきよりも威力が弱いけど、自力で風魔法を出すことができた。すごく嬉しい。これで俺も魔法使いだ。

「おお、まじか。飲み込み早すぎだろ」
「ありがとうございます!」
「魔法を使えるようになるという目的は達成したわけだが、これからも続けるのか?」
「先生さえよろしければぜひ! まだまだ聞きたいことありますし、今日すごく楽しかったです!」
「だから声でけぇよ」

 先生は呆れたように「面白いことなんてあったか?」と笑い、胸ポケットから煙草を取り出した。これはたぶん解散の合図だな。

「ありがとうございました。またお願いします」
「じゃあまた。時間ができたら連絡する。しっかり休めよ」
「えっと、はい。休みます」
 明日と明後日が休みだからそのことかな。学院は前世の学校と同じく月~金が授業で土日が休みだ。

「これも初心者がやりがちなことでな。一度魔法が使えるようになると寝食を忘れて没頭する」
「気をつけます」
「ま、せいぜい頑張れ」
 先生に手を振って別れる。

 含みのある言葉に疑問を覚えたが、伯爵家の屋敷に帰ると、すぐにその答えを知ることになった。

 魔法、めっちゃくちゃ楽しい。イメージとか放出する魔力量によって効果範囲が変化したりするの、理科の実験みたいだ。
 日曜の昼過ぎ、メイソン君に「せめてお食事はきちんと召し上がってください!」と怒られるまで、俺はひたすら魔法の練習をしていたのだった。
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