学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第七話 殿下と春の水遊び

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 初めて魔法が使えるようになってから一週間後、俺は練習の成果を披露するためカイと一緒に人気のない庭にいた。
 適当な縁石に並んで腰かける。普通の貴族ならハンカチを敷くが、二人とも前世は一般市民なので直接でも平気だ。
 今日は風がほとんどない日で、日差しが暖かい。今ここで昼寝したいくらいだ。

「誰も通らないなー」
「そうですね」
「前々から思ってたけど、この学院セキュリティ大丈夫? 貴族が通うのに人がいない場所多すぎじゃね?」
「ここはBLゲームが舞台なので。二人きりになれる場所が必要ってことじゃないですか?」

 そういえばこれ恋愛するゲームだった。友情エンドが最終目標だからあんまり気にしてなかった。

 人の目がない場所というのは思いっきり遊ぶのに便利がいい。しかもここはフットサルコートくらい広い場所だ。存分に利用させてもらおう。

「話変わるけど、俺魔法が使えるようになった」
「早すぎません? どうやって?」
「秘密」
「顔が腹立つ」
 最近カイは俺に対する遠慮がなくなってきた。喜ばしい限りだ。

「カイの得意属性聞いていい?」
「僕ですか? 土です。けっこう便利ですよ」
「いいねー、後でコツ教えて。まだ土は使いこなせてなくて」
「いいですけど。じゃあキースは何の属性が——」
「隙あり!」

 先手必勝。まずは風魔法でカイの視界を奪い、指先に別属性の魔力を込める。
「何するんですか! 冷たっ!」
 カイの顔面に水鉄砲の要領で水魔法をぶち込む。思ったより威力は弱かったが大成功だ。

「どう? すごい?」
「ああ、はい。すごいですね。初心者にしては」
 カイがハンカチで顔を拭いながら答える。なんか声に棘があるような。
「ごめんごめん。一人で練習してたら行き詰まったからちょっと協力をお願いしたくて」
「素晴らしい向上心ですね。僕も誠心誠意協力させていただきます」
 カイが立ち上がり、少し離れたところで陣取るように仁王立ちした。

 嫌な予感がしたのでカイに背を向け走って逃げる。
「痛え! 何!?」
 なんか背中にびしばし当たってる。身体を反転させて受け止めると、小さな弾が足元に落ちた。なんだこれ、BB弾?
「土魔法で作ったものです」

 カイに目を向けると、彼を中心に無数のBB弾が宙にふわふわと浮いていた。
「あのー、カイくん? ちょっとスパルタすぎませんか?」
「キースには土魔法の素晴らしさを体感してほしくて。ええ、決して顔が濡れた仕返しではないです」
 あ、笑顔なのに目が笑ってない。まずい。ふざけすぎたかも。

「あの、初心者には優しく」
「土魔法の利点を教えてあげます」
 だめだ。話を聞いてくれない。
「利点?」
「足元の土を利用する場合、消費魔力が激減するんです」

 ん? ということはつまり——

「痛い痛い! やりすぎだろ!」
「先に仕掛けたのはキースじゃないですか!」
 とっさに水魔法で防御したものの、カバーできなかった足元に弾が命中する。
 輪ゴムでバチっとやられた感じの痛みだ。まあまあ痛い。これは何が何でも土魔法で報復しなければ。

 ひたすら逃げ回って作戦を考えてる間にもカイは容赦なく弾を発射させる。
 撃ち切っても十秒くらいで次の弾を作るから近寄る隙がない。足元から次々とイクラくらいのサイズの弾が浮いてくるのは見ててすごいシュールだ。

「うわ!」
 とりあえず一度近づいてみるかと足を踏み出した瞬間、思いっきり滑って転んだ。水魔法のせいで地面がぬかるんだみたいだ。
 恥ずかしかったけど今ので作戦思いついたかも。

「大丈夫ですか? 制服が泥だらけになってますけど」
「平気平気。人の心配してる場合か? そっちこそ油断してたら制服が大変なことになるぞ」
「心配して損しました」

 カイを挑発し、まずは全ての弾を発射させる。何発か当たったが痛みに耐えて魔力を手に集中させる。今だ。
 地面に膝をついて手を地面に置き、足元の土を動かす。

「うわ、怖! 何ですか、その動く歩道みたいな動き」
 地面を動かしながら勢いよく近づいてくる俺に驚いたのか、カイが動きを止める。
 チャンスだ。手を伸ばせば肩を掴めそうな距離まで移動して土魔法を解除する。

「終わりだ!」
 俺の頭くらい大きな水の塊を急いで造る。あとはこれをカイにぶつけたら俺の勝ち——


「楽しそうだな」
 遊びに夢中で気づかなかった。カイの背後に立っているのは、高貴なオーラを放つ男子生徒。
「で、ででで殿下!?」
「え? え?」

 カイは振り向いたまま固まってる。現実を受け止めきれないといった感じだ。音もなくフレデリック殿下が現れたら焦るよね。わかる。
 行き場を失った水が落ちて足元を濡らす。こんなことになるなら小さめに作っておくんだった。

「二人は長い付き合いなのか?」
 前に会った時も感じてたけど、この人マイペースすぎないか。俺たちの焦りなど眼中にない感じだ。
「長くないです。入学式からの付き合いなので、二週間ほどですね」
 カイがまだショックから戻らないので、俺が代表して答える。

「短い付き合いであんなに仲良くなれるなんて……羨ましいな」
「えっと、まあ、カイはいいやつですから」
 殿下はなぜ眩しいものを見てるみたいな顔をしているのか。こっちは魔法でふざけ倒してただけなのに。

「わかっていない顔だな。利害関係のない友というのは結構貴重な存在だぞ」
「そうですね。仰る通りだと思います」
 わかるよ。大人になるにつれ難しくなるよね。それを十六歳で理解してるなんて、殿下はどれだけ苦労を重ねてきたんだろう。

「俺には側近がいるだけで、友人どころか話し相手もいないから」
「えっ!」
 美形の寂しそうな表情は破壊力がすごい。いや、そんなことより今殿下は何て言った?

「俺って知り合い以下なんですか!?」
 なんてことだ。殿下は知り合い以下の男に頭ぽんぽんしたのか。距離感どうなってんだ?

「は?」
「キース!」
 我に返ったカイが、俺の頭を抑え無理矢理下げさせる。

「誠に申し訳ございません。彼は記憶を失っており、礼節をまだ十分に理解できていないのです。彼を止められなかった僕にも責任があります。どうかご容赦いただければ幸いです」
 カイも隣で頭を下げている。驚きのあまり殿下に軽率なことを言ってしまった。カイを巻き込んでしまって申し訳ない。

「知り合い以下……」
 殿下は俺の発言を反芻している。よほど衝撃だったのか、俺たちの謝罪は耳に入っていないようだ。
 頭を下げてから数十秒後、唐突に殿下の笑い声が聞こえた。

「頭を上げてくれ」
 俺たちが頭を上げると、殿下は再び笑い出した。心の底から楽しそうな様子にこちらもつられそうになる。カイに脇腹を肘で突かれてなかったら俺も笑ってたと思う。

「いや、すまない。予想外のことに笑ってしまった。キース、カイ。これからもよろしく頼む……友人として」
「はい!」
「ええっと……僕もですか?」
「もちろん」
 殿下が俺とカイに握手を求める。試しに強めに握ってみたら同じように強く握り返してきた。殿下は案外ノリがいいのかもしれない。
 カイは釈然としない様子で握手に応じてたけど、殿下は満足そうだった。


「泥だらけだ」
 三人で談笑してる途中、殿下が俺の脇腹を指差した。さっき転んだ時に土で汚れたところだ。
「あー、これ落ちるかな……」
「試してやろう」
「うわっ!」

 殿下がいきなり水弾をぶっ放してきた。流れるように魔法を放つ速度から、殿下がかなりの実力者であることがわかる。
 これはあれだ。殿下が仕掛けてきたってことだよな。友達として全力で返してやらないと。

 指先に魔力を込め、水魔法を殿下に放つ。しかし、それが殿下に当たることはなかった。
「透明な壁?」
「俺の固有魔法だ。あらゆる攻撃を防ぐことができる」
 バリアってことか。さすが王族、固有魔法が強すぎる。

「それズルすぎますって! カイ、共闘だ!」
「いや、僕は遠慮して……冷たっ!」
 殿下がカイにも水魔法を当てた。カイの髪が濡れたトイプードルみたいになってる。

「キース、やりますよ。目標は殿下に魔法を当てること。いいですね?」
「やってみろ」
 殿下が挑発し、カイが土魔法で弾を造る。俺も負けじと水魔法をぶつける。

 人気のない庭で、魔法が飛び交う。でも不穏な空気なんて一切ない。
「キース! 裏切りましたね!」
「冷てっ! そういうノリだったじゃん!」
 気まぐれにカイにも水魔法をぶつけると、三倍返しされた。それを見て殿下は笑いながら流れ弾をバリアで弾いていた。

 遊んでいる間、誰かが笑い出すと他の二人も笑い出し、常に笑い声が響いていた。殿下もカイも子供みたいに目を輝かせている。
 殿下は「水遊びをするのは生まれて初めてだ」とはしゃいでいて、子供のうちに自然とやっているものだと思ってた俺は、文化の違いに驚いた。

 俺たちは気が済むまで魔法を撃ち続け、終わった頃には髪がびしょ濡れになっていた。
 春の風が体温を奪う。俺たちは「寒い、寒い」と笑い合いながら魔法で濡れた髪や服を乾かした。


 その日の夜、アホみたいに制服を汚して帰ってきた俺は、家令とメイドから信じられないくらいこっぴどく叱られた。
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