学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第八話 次の目標

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 週明けの月曜日。学生にとっては最も憂鬱な日だ。俺も例に漏れず怠い身体を引きずりながら校舎に向かう。

「キース! 待ってましたよ!」
「いやめっちゃ元気」
 正面玄関に行くと晴々しい顔をしたカイがいて、裏庭に連行された。

 普段は静かな裏庭も、始業前はどこかざわついた雰囲気がある。
「朗報です。殿下の好感度が上がりました。友情ルートの第一歩です」
「気づかなかった。好感度ってどうやってわかるの?」
 首を傾げると、カイが「ああ、なるほど」と呟いた。

「お助けキャラである僕だけが確認できるみたいですね。原作でもそのキャラが主人公に好感度を教える設定だったので」
「そういうことね。じゃあセーブは俺、好感度はカイだけがわかるってことか」
「そうなりますね。これで前進しました」

 カイはニコニコと上機嫌だ。ループを抜ける第一歩だからな。失敗したら三ヶ月巻き戻しだ。攻略対象者はあと三人、気を抜いていられない。

「これで殿下とは友情ルートに入ったってこと? このまま進めたら友情エンド?」
「そうですね。今後個別ルートに進まなければ友情エンドです」
「個別ルートって何?」
「攻略対象者と深い仲になる分岐点です。そのルートに入ると恋愛一直線になります」
「それってどうやって回避するんだ?」
「特定の誰かと親しくなりすぎないことですね。全員友情エンドの条件は、攻略対象者の個別ルートに進まず、全員の好感度が高い状態を保ったまま三年間過ごすことなので」
 そういうものなのか。結構複雑だな。

「今のところ恋愛って感じになることはなさそうだけど」
「好感度が高いと個別ルートへの分岐点が簡単に発生するので注意してください。密室で二人きりにならなければ大体避けられます。距離感にだけはくれぐれも気をつけてください」
「気をつけるよ。あー、でもなぁ」

 そもそも俺、ループから抜け出したいだけで、誰かを攻略したいわけではないんだよな。

「どうしました? 何か気になることでも?」
「いや、その友情ルートだけど、殿下がすごくいいやつだから友達になれたと思うんだ」
「はあ」
「ループを抜けるためなら仕方ないことかもしれないけど、目的のために嫌々友達になるのも違うというか……友達になるなら楽しく過ごしたいというか」

 こういう時にズバッと思ったことを言える人が頭がいいってことだろうな。このもどかしい感じはどうにも苦手だ。

「言いたいことはなんとなくわかります。ゲームの実績解除みたいな、機械的に友達を作るのは抵抗があるってことですよね」
「そう!」
「それなら大丈夫です。残りの攻略対象者たちも良い人ばかりですよ。少々癖はありますが」
「癖はあるんだ」
「恋愛ゲームの攻略対象者はだいたい個性的なので。似たもの同士、相性はいいんじゃないですか?」

 カイが納得したように頷き、授業に遅刻するからと会話を切り上げ校舎に足を向ける。追いかけながらあることに気づく。

「あれ? 似たもの同士って、俺も変人ってことか?」
「バレましたか」
「おいっ!」
 カイを追いかけたけど、全速力で逃げられて追いつけなかった。でもそのおかけで遅刻は免れたから最終的に許すことにした。


 昼休み、俺とカイは庭園の一角にあるベンチに座り昼食を食べていた。
 この庭園はほどほどに涼しく立派な花壇もあるため、人もそこそこ多い。でもベンチが密集していないから話が他人に聞かれることはない。
 中央には噴水もあるし、贅沢な空間の使い方って感じだ。

「ところで、次の攻略対象者についてですが……ルキウスくんはどうですか?」
 ほとんど食べ終わったところでカイが話を切り出す。
「俺も次はルキウス君かなーと思ってた。クラスメイトだし。てかカイもルキウス君呼びなの何で? 珍しくね?」
「前世でそう呼んでたので、つい出てしまいました。ファンの間の愛称みたいなものです」
「このゲーム、ファンいたんだ……」
「少数ですがいましたよ。忍耐力を鍛え抜いた精鋭たちです。攻略サイトもありました」
「根性すごいな」

 フェーズごとのオートセーブのみという恋愛ゲームを周回するなんて、よほどの精神力だ。そう考えるとカイも相当だな。
 改めて思うけど、ゲームでもきつい仕様が現実に持ち込まれるって結構やばくないか。

「ルキウスくんはどうですか? 何回か挨拶してましたよね?」
「いつも無表情で、反応が薄いというか。挨拶したら頷いてくれるから嫌われてはいないだろうけど」
「それがルキウスくんの特徴です。彼は一度心を開いたら懐いてくるタイプですよ。たまに笑うこともあって、そのイベントは好評でしたね」
「何それ見てみたい!」

 普段のルキウス君からは想像がつかない。俺は彼の笑った顔どころか声すら聞いたことがないからだ。
 見た目は中性的で繊細そうな雰囲気。水色の髪に藍色の瞳で寒色系の印象。俺と同じくらいの身長で——たぶん一七〇センチくらい。無口だけど威圧感はそんなにない。
 一言で言うとミステリアスなキャラだ。

「僕に作戦があります」
「作戦?」
「明日からの魔法演習の授業は三人一組での訓練です。そこでルキウスくんと組んで仲を深めましょう」
「いいねー! じゃあ俺も引き続き話しかけてみる」
「ほどほどにお願いします。ルキウスくんは距離を詰めすぎると離れてしまうので……僕はゲームで何回かやり直しました」

 カイが遠い目をしてる。失敗=セーブ地点までリセットだからな。前世の苦行を思い出したのだろう。

「カイ」
「どうしました?」
「いや、なんか怖くなってきたというか。俺未だにルキウス君の声聞いたことないんだけど、嫌われてないよね?」
「それはたぶん大丈夫、かと。そういうキャラなので。ゲームと違って会話に選択肢がないから難しいですよねぇ」

 ルキウス君の塩対応っぷりに二人して頭を抱える。だけどまあ、やるしかない。
 全てはループを脱出するため。俺はサンドイッチの最後の一口を放り込むと、気合を入れて立ち上がった。


 放課後、俺は職員室へ向かうため気持ち速めに廊下を歩いていた。
「今日も職員室か?」
「あ、オリヴァー先生。ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう。お前にちゃんと挨拶されると調子くるうな」
「それ俺がすごい失礼なやつってことになりません?」
 先生が笑って「それもそうだな、わるい」と返す。

 先生から魔法を教えてもらうようになって、最近は会うとちょっとした雑談をするようになった。

「金曜のあれだが少し遅れるかもしれない」
「了解です」
 裏庭のベンチがバレるのも嫌なので、魔法講座のことは二人だけの秘密だ。カイには言ってもいいかなと思ったけど、今のところ黙っている。
 あそこまじで人が来ないんだよなぁ。結界でもあるのかってくらい人の気配がなくて居心地がいいから広めたくない。

「先生は研究室ですか?」
「そう。授業以外は基本ずっとそこ」
「じゃあ今は休憩帰りかぁ」
「馬鹿、あんま大きい声で言うな」
 失礼なやつ扱いした仕返しだ。俺が言わなくても周りには匂いでバレてそうだけど。

「そうだ。一つ聞いていいですか?」
「どうした?」
「人と仲良くなるにはどうしたらいいと思います?」
「質問の意図がよくわからないが……」
「ちょっと人間関係に行き詰まってまして。先生はどうですか? あまり話したことない人でも話しかけられたら嬉しいですか?」
「俺? 俺はそもそも人が得意じゃない。でも好意的に話しかけられて嫌な気分になるやつは少ないんじゃないか?」

 好き嫌いじゃなくて得意不得意なの、すごく先生らしい回答だ。実際、仲良くなるには地道に距離を縮めるのが正攻法だよなぁ。

「ありがとうございます! 参考になりました! 俺職員室行ってきます」
「頑張れよ」
 先生に手を振り返して職員室に急ぐ。今日は授業でわからないことが多かったから急がないと。

 まずは一歩ずつ前に進もう。そう思って俺は少しだけ足を速めた。
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