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第十話 意味がないことの意義
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重低音が響くグラウンドは、俺たちがいる一角だけ音が消えたように静まり返っていた。
ルキウス様の言う「くだらない」とは何を指しているのだろうか。一番ありえそうなのは、騒ぎながら魔法を使ったことか?
「申し訳ありません。騒ぎすぎてご迷惑をおかけしました」
「そこじゃない。違う。理解が、できなくて」
違ったみたいだ。頭を上げてルキウス君を見つめる。氷のような瞳の中に、困惑が隠れている気がした。
「ルキウス様。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。僕も軽率でした。以後はこのようなことのないよう気をつけます」
「違う。ぼくは」
カイの謝罪にルキウス君が言葉を詰まらせる。もしかしたら、ルキウス君は自分の中にある言語化できない感情に戸惑っているのかもしれない。
「ゆっくりで大丈夫なので、ルキウス様の気持ちを聞かせてください。俺こう見えて粘り強いからいつまでも待てますよ」
「……何それ。ワケわかんない」
ルキウス君の口元がぎこちなく緩む。声に棘はなく、俺に対する反感が薄れているように思えた。
重い物が落ちる音が響いてくる。ゴーレムで石を運ぶという課題は、単純なようで結構難しいのかもしれない。
「君たちはなんでわざわざ意味のないことをするの?」
「意味のない、ですか?」
ルキウス君が決意したような顔で問いかける。しかし、俺には彼の質問の意図がわからなかった。カイもどう答えたらいいか悩んでいる様子だ。
「魔法に遊びはいらない。効率的に、求められたことだけを為す。それが魔術師のあるべき姿だ」
「それは……」
言葉に詰まった。ルキウス君にとって、魔法とは目的を効率的に達成するための手段に過ぎないのだ。
彼からしたら俺達の行動は理解不能だっただろう。ゴーレムの見た目を変えるためだけに魔力を使うのは無駄以外の何ものでもないからだ。
「力を持つ者はそれを正しく使わなければならない。国の役に立たない魔法なんて、それこそ何の意味も価値もない」
ルキウス君が淡々とした口調で語る。その様子は誰かの考えをそのまま口にしているようであり、しかし同時に自分なりの答えを出そうと葛藤しているようにも見えた。
適当にやり過ごすことはできるだろう。『魔法で遊んでごめんなさい。ルキウス様の仰る通りです』で終わらせればいい。
だけど俺は、苦しそうに平静を保とうとする目の前の少年に向き合いたいと思った。
「ふざけすぎたのは本当にすみません。だけど、あの、意味のないことってそんなに悪いことですかね?」
「は?」
ルキウス君の動揺を感じる。カイもギョッとした顔で様子を窺っている。
「意味がないこと以外しないって、それこそ意味がないといいますか」
「どういうこと?」
言葉にするのが難しい。
例えばゴーレムを魔法で変形させることだって役に立つ場面はあると思う。脚をキャタピラにしたら足場が悪いところでも動けそうだし。俺達がやったことは完全におふざけだけど。
ルキウス君を納得させるため、全力で頭を回転させる。
「意味があることだけを追究するって、発展がなくなると思います。本当に国に有用な魔法しか使えないなら、この世には怪我と病気を治す魔法と、食べ物をたくさん作る魔法しか存在しないってことになりませんか」
「え?」
あ、やばい。外したかも。ルキウス君は目を伏せたまま黙り込んでるし、カイは呆れた感じで肩をすくめている。
沈黙が長いと思ったら、ルキウス君が肩を震わせていた。まずい、怒らせてしまったのかも。
「すみません! やっぱ忘れて——」
「食べ物たくさんって……さすがに……もう少しありそうだけど」
ルキウス君は耐えられないといった感じで吹き出した。その様子から先ほどの悲壮感は微塵も感じられない。
「あの、ルキウス様?」
「君の言うことが完全に正しいとは思わない。だけど面白い意見だった。ありがとう。真剣に答えてもらえたのが一番嬉しかった」
初めて見るルキウス君の笑顔。それは晴々とした、一点の曇りもない爽やかさがあった。
「キース、で合ってる?」
「あ、はい!」
ルキウス君の笑顔に見入っていたら突然名前を呼ばれ、慌てて返事をする。
「キースの話、もっと聞きたい」
「えっ! よろしくお願いします?」
「なんで疑問系?」
またルキウス君が笑った。控えめだけど自然な表情だ。
カイも巻き込んで三人で盛り上がろう。そう思ってカイを見ると、腕で丸を作って真顔でこちらを見つめていた。
これはあれだ。好感度が上がったってことだな。もう少し自然に伝えることはできなかったのだろうか。
演習の授業はまだ終わりそうにない。ルキウス君は三人分の椅子をいそいそと魔法で作っている。俺達との会話を楽しみにしてる感じが伝わってすごく嬉しい。
雲ひとつない青空に土埃が舞う。俺はルキウス君を笑わせるためのエピソードトークを考えながら、グラウンドの土を踏みしめた。
ルキウス様の言う「くだらない」とは何を指しているのだろうか。一番ありえそうなのは、騒ぎながら魔法を使ったことか?
「申し訳ありません。騒ぎすぎてご迷惑をおかけしました」
「そこじゃない。違う。理解が、できなくて」
違ったみたいだ。頭を上げてルキウス君を見つめる。氷のような瞳の中に、困惑が隠れている気がした。
「ルキウス様。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。僕も軽率でした。以後はこのようなことのないよう気をつけます」
「違う。ぼくは」
カイの謝罪にルキウス君が言葉を詰まらせる。もしかしたら、ルキウス君は自分の中にある言語化できない感情に戸惑っているのかもしれない。
「ゆっくりで大丈夫なので、ルキウス様の気持ちを聞かせてください。俺こう見えて粘り強いからいつまでも待てますよ」
「……何それ。ワケわかんない」
ルキウス君の口元がぎこちなく緩む。声に棘はなく、俺に対する反感が薄れているように思えた。
重い物が落ちる音が響いてくる。ゴーレムで石を運ぶという課題は、単純なようで結構難しいのかもしれない。
「君たちはなんでわざわざ意味のないことをするの?」
「意味のない、ですか?」
ルキウス君が決意したような顔で問いかける。しかし、俺には彼の質問の意図がわからなかった。カイもどう答えたらいいか悩んでいる様子だ。
「魔法に遊びはいらない。効率的に、求められたことだけを為す。それが魔術師のあるべき姿だ」
「それは……」
言葉に詰まった。ルキウス君にとって、魔法とは目的を効率的に達成するための手段に過ぎないのだ。
彼からしたら俺達の行動は理解不能だっただろう。ゴーレムの見た目を変えるためだけに魔力を使うのは無駄以外の何ものでもないからだ。
「力を持つ者はそれを正しく使わなければならない。国の役に立たない魔法なんて、それこそ何の意味も価値もない」
ルキウス君が淡々とした口調で語る。その様子は誰かの考えをそのまま口にしているようであり、しかし同時に自分なりの答えを出そうと葛藤しているようにも見えた。
適当にやり過ごすことはできるだろう。『魔法で遊んでごめんなさい。ルキウス様の仰る通りです』で終わらせればいい。
だけど俺は、苦しそうに平静を保とうとする目の前の少年に向き合いたいと思った。
「ふざけすぎたのは本当にすみません。だけど、あの、意味のないことってそんなに悪いことですかね?」
「は?」
ルキウス君の動揺を感じる。カイもギョッとした顔で様子を窺っている。
「意味がないこと以外しないって、それこそ意味がないといいますか」
「どういうこと?」
言葉にするのが難しい。
例えばゴーレムを魔法で変形させることだって役に立つ場面はあると思う。脚をキャタピラにしたら足場が悪いところでも動けそうだし。俺達がやったことは完全におふざけだけど。
ルキウス君を納得させるため、全力で頭を回転させる。
「意味があることだけを追究するって、発展がなくなると思います。本当に国に有用な魔法しか使えないなら、この世には怪我と病気を治す魔法と、食べ物をたくさん作る魔法しか存在しないってことになりませんか」
「え?」
あ、やばい。外したかも。ルキウス君は目を伏せたまま黙り込んでるし、カイは呆れた感じで肩をすくめている。
沈黙が長いと思ったら、ルキウス君が肩を震わせていた。まずい、怒らせてしまったのかも。
「すみません! やっぱ忘れて——」
「食べ物たくさんって……さすがに……もう少しありそうだけど」
ルキウス君は耐えられないといった感じで吹き出した。その様子から先ほどの悲壮感は微塵も感じられない。
「あの、ルキウス様?」
「君の言うことが完全に正しいとは思わない。だけど面白い意見だった。ありがとう。真剣に答えてもらえたのが一番嬉しかった」
初めて見るルキウス君の笑顔。それは晴々とした、一点の曇りもない爽やかさがあった。
「キース、で合ってる?」
「あ、はい!」
ルキウス君の笑顔に見入っていたら突然名前を呼ばれ、慌てて返事をする。
「キースの話、もっと聞きたい」
「えっ! よろしくお願いします?」
「なんで疑問系?」
またルキウス君が笑った。控えめだけど自然な表情だ。
カイも巻き込んで三人で盛り上がろう。そう思ってカイを見ると、腕で丸を作って真顔でこちらを見つめていた。
これはあれだ。好感度が上がったってことだな。もう少し自然に伝えることはできなかったのだろうか。
演習の授業はまだ終わりそうにない。ルキウス君は三人分の椅子をいそいそと魔法で作っている。俺達との会話を楽しみにしてる感じが伝わってすごく嬉しい。
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