学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第十一話 隠し事と自己紹介

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 ルキウス君と友達になった翌日、登校中に偶然カイを見かけた俺は、一直線に彼の元へと歩み寄った。

「おはよう。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「おはようございます。朝からどうしました?」
「ルキウス君のこと」
「ああ、昨日は話す暇なかったですね。おめでとうございます。彼の好感度今の時点で結構高めですよ」

 そう。昨日はあの後三人でずっと話し込み、カイと二人で話す時間がなかったのだ。

「いや、嬉しいけど今それはどうでもよくて。あのさ、ルキウス君絶対過去になんかあったよな? 魔法のこと語る時の態度尋常じゃなかったよ。教えてくれてもよかったのに」
 なぜか俺らの間に沈黙が訪れる。それから少ししてカイが目を逸らしながら口を開いた。

「あー、たしか彼は父親と確執があったようなー……すみません、よく覚えてません」
「えっ! なになに、どういうこと?」
 お助けキャラなのに? 何回も周回したって言ってたのにどういうことだ。ルキウスくんに興味なかったとか?

「あの、実は僕細かいストーリーをほとんど覚えてなくて」
「そんなことある??」
「基本的に会話はスキップしてたので、その……攻略対象者の個人的な事情はほとんど忘れました」
「ストーリー見直したりは?」
「しなかったです。あのゲーム、バックログがなくて一回飛ばすと読み直せないから面倒くさくて適当に全部スキップしてました」
「え、ごめん。そんなことある?」

 会話してても疑問符しか浮かばない。まずスキップはあるのにバックログがないのはどういうことだ。親切なのか不親切なのかはっきりしてほしい。
 それと、カイは何を目的にこのゲームをやっていたのか。恋愛ゲームでそこまでキャラに興味ないってありえるのか。

「もしかして俺が知らないだけで隠しキャラに女性とかいたりする?」
「急にどうしたんですか。これBLゲームですよ。いるわけないじゃないですか。隠しキャラはいますけど全員男性です」
「じゃあカイは何をモチベーションに周回してたの?」
「それは」

 カイが口元を引き結んだ。よく見ると拳も握りしめている。
「カイ、どうした」
「面白かったからです。ええ、本当に。まさか現実になるとこんな厄介だなんて思わないじゃないですか」
「カイ?」
 いつもの穏やかで落ち着いているカイではない。痛みを耐えているような、そんな表情だ。

「あのさ、カイは俺に——」
「キース、カイごきげんよう。遅刻するよ?」
「ルキウス様、ごきげんよう。もうそんな時間ですか。キースと話し込んでしまいました」
「どんな話?」
「たわいもない話です」

 静かに現れたルキウス君が俺らに声をかけ、カイが応える。俺も遅れて挨拶して三人で教室に移動する。
 肝心なところが聞けなかった。でも聞いても意味がなかったかもしれない。たぶんカイはこういう時頑固だから。

 もしも「カイは俺に隠し事してないか?」と聞けたら何かが変わっただろうか。モヤモヤとした思いは、時間が進むうちに心の奥底に沈んでいった。



 毎日忙しく過ごしてたら五月になっていた。あの入学式から一ヶ月も経ったとは。
 ゲームとしての進展はない。攻略対象者は残り二人、騎士団長の息子のロランと宰相の息子アルベールだ。この二人はクラスも離れていて接点がないから、接触が難しい。

 約三ヶ月で攻略対象者全員と知り合って好感度を上げるという条件は、だいぶ難しいのかもしれない。さすがに三ヶ月巻き戻しは勘弁だから全力でやり切るつもりだ。

 朝の爽やかな風が前髪を撫でる。
「キース、おはようございます。どうしたんですか? 難しそうな顔して」
「お、カイだ。おはよう」
 俺ってそんな表情出てたのか。人に見られてたかもしれないと思うと恥ずかしい。カイと話しながら人が少ない場所を歩く。

「キース、カイおはよう」
「おはようございます」
「ルキウス様、おはようございます!」
 ここ最近、ほとんど人がいない門でルキウス君と合流して教室に行くのが恒例となっている。
 俺らにつられて挨拶が「ごきげんよう」から「おはよう」に変わったルキウス君本当可愛い。朝から癒される。

「朝から楽しそうだな」
「わ! 殿下!」
 三人で歩き始めたら殿下が声をかけてきた。裏庭で水遊びした時も思ったけど、この人気配を消すのがうますぎる。まじで気づかなかった。
 ルキウス君とカイがお辞儀をしているのを見て慌てて頭を下げる。二人は所作が綺麗だから並ぶと俺の下っ端感が際立つ。

「お前は、ヴェルトライン侯爵家の」
「ご無沙汰しております」
 あれ、この感じ殿下とルキウス君は面識があるのかな。そばにいたカイに小声で話しかける。

「カイ、あの二人面識あるの?」
「あるというか……僕も殿下もルキウス様も同い年ですからね。程度の差はありますが、同年代の貴族令息はそれなりに交流がありますよ」
「へぇ、そうなんだ」

 殿下とルキウス君は二言三言話すと静かになってしまった。
 これはあれだ。気まずいってやつだ。何と言うか「友達の友達」がいる時に似てる。和気藹々とした雰囲気が一切なくて、探り合ってる感じ。過去に交流があったとは思えない空気感だ。

 ここは一番身分が高い殿下から話すのが無難だろう。そう思って視線を送ると、あからさまに目を逸らされてしまった。
 だめだ、殿下は頼りにならない。まあ別に放っておいても誰かが話し始めるだろう。

 そう思っていたら一分経っても沈黙が続いたままだった。全員社交苦手か。それなりに交流があるとは何だったのか。これは一番新参者の俺がなんとかするしかない。

 俺は大きく息を吸い込んで手を挙げた。
「キース・ネーグルント、十五歳! 趣味は魔法の練習と筋トレ! 好きな食べ物はタンパク質で、朝食に肉があるとテンション上がります!」
 簡潔な自己紹介って結構難しい。

 三人は目を点にしてこちらを見つめている。いや、誰かツッコんでくれ。
「いきなりどうしたんだ?」
 殿下が戸惑った様子で質問する。ありがとう、殿下。

「沈黙が気まずくて」
「ああ、それで。何事かと思った」
「ぼくは面白いと思った」
「大声で言うことではないですけどね」
 殿下は微笑ましいものを見る目で俺を見つめている。ルキウス君もカイも笑っていてほのぼのした空間だ。

 少しだけ空気が和やかになった感じがする。でも誰も話そうとしない。この感じだとしばらくは俺が話を回したほうがよさそうだ。気乗りしないけど、あと話題といったらこれしかない。

「俺、雰囲気変わったと思いません?」
 さりげなく顔を指差してヒントを出す。
「わかんない」
「ルキウス様、もう少し悩んでください」
 バッサリ答えちゃうのもルキウス君の魅力ではあるけど。

「俺も正直わからん。カイ、頼む」
「ああー……お力になれず申し訳ございません」
「いや、謝るの俺にな」
 全滅だ。まあ仕方ない。俺も野郎の変化にそんな興味ないし。

 そういうわけで、もったいぶってもしょうがないのでさっさと発表することにした。
「髪切りました! 主に前髪!」
 見えやすいように顔を上げる。切る前と比べると視界が開けて快適だ。
「気づかなかった」
「言われてみれば確かに」
 ルキウス君とカイが納得したように頷く。当然、反応は薄い。ネタとして弱すぎたか。

「確かに。雰囲気が変わった」
「殿下?」
 背の高い殿下が屈んで俺と同じ目線になった。顔が近くて息が当たりそうだ。近くで見ると綺麗な顔が際立って余計に緊張してしまう。

「すごくいい。目がよく見える」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。殿下の笑顔が頭に残って、それから言葉を理解した瞬間、俺は叫び声を上げていた。

「のわー!!」
「どうした?」
「だって殿下が! 殿下が!」
「おかしなこと言ったか?」

 殿下は不思議そうな顔でこちらを見ている。まじか、こいつ。あんな恥ずかしいこと言っておいて自覚なしとは。

「今のは殿下が悪いです」
「同意」
 カイとルキウス君も賛同してくれた。そうだよな。今のは殿下が悪いって。

「俺もう無理! 殿下のせいだ!」
「待て。理由を教えてくれ」

 俺がその場を逃走すると殿下が追いかける。遅れてルキウス君とカイが小走りでついてくる。
 三人とも俺の心情などお構いなしに今日一番の笑い声を上げていて、複雑な気持ちだ。
 この心臓の音が静まったら、殿下に友達に対する距離感を一から教えようと俺は心に決めた。
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