学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第十二話 心臓に悪い

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 今日の放課後は恒例となったオリヴァー先生の魔法講座の時間だ。五月になって少し上がった気温が、日陰の多い裏庭では心地いい。

「わるい、待たせた」
「本当遅いですよ。俺も一分前に来たばかりですけど」
「お前も遅刻じゃねぇか」
 むしろ遅れてもらって助かった。放課後にルキウス君と話してたら約束の時間ギリギリになって慌てて走って来たばかりだったから。

 先生には週に一回くらいのペースで魔法を見てもらってる。研究で忙しいはずなのに本当にありがたい。

 いつものようにベンチに並んで座る。
「じゃあ、始めるか」
「はい! 見てください、これ。すごい速くなったと思いませんか?」
 即座に土魔法ですりこぎくらいの棒を作り、先生に突きつける。
 先生は緩慢な動作で棒を避けると、感心したように俺を見た。

「すごいな。もう俺の指導いらないだろ」
「友達に協力してもらいました! でも他は全然で。特に火魔法がまだ全然上手くできなくて困ってます」
「あー、火魔法はなぁ。ここでやるなら申請が必要なんだよ。危ないから」
 先生が火魔法の取り扱いについて軽く説明してくれた。
 学院内で許可なく使うことは禁止、街中で使えば衛兵が飛んでくるらしい。火を扱うのが危険と隣り合わせなのはこの世界も同じなんだな。

「じゃあ家以外で練習は難しい感じですかね」
「授業でやるか生徒会に許可をもらうかだな。真っ当な理由と監視役の教員が必要になるが」
「じゃあ先生を監視役にして申請する」
「裏庭でする火魔法の練習って何だよ」
「え……っと、野焼きとか?」
「許可下りるわけないだろ」

 さすがにだめかぁ。しょうがない、次は水か風を特訓しよう。
 俺が露骨にがっかりすると、オリヴァー先生が小さく笑って俺の肩に手を置いた。
「時間はかかるかもしれんが、俺がなんとかしてやる」
「先生! 一生ついていきます!」
「大げさ」
 先生が俺の肩に置いた手を自分の口に持っていき、笑いをこらえるように咳払いをした。


 火以外の属性魔法をある程度練習したら、次は魔力を練る時間だ。
 いまいち感覚はわからないが、魔力を高速で全身に循環し凝縮させることが「魔力を練る」ということらしい。難しいけどこれをしないと大規模魔法や複雑な魔法が使えないので必死で練習をする。

「途切れてる。ゆっくりでいいからまずは循環させることを意識しろ」
「はい。ありがとうございます」
 先生の手の甲から指を離す。
「そういえば、一年の先生たちがお前のこと褒めてた。勉強熱心な生徒だって」
「嬉しい! もっと言ってください!」

 魔力を練っている間は雑談の時間だ。これが結構難しい。今もめっちゃ嬉しいのにリアクションが全然できない。
 いかなる状況でも魔力を練られるようになるのが魔法の基本らしく、喋りながらやるのは初歩の初歩だとルキウス君が言っていた。初歩のレベル高すぎじゃないかと思う。

「まあ、頑張っているんじゃないか。そういや教養の件はどうなった?」
 前に話したこと覚えててくれたのか。
「無事家庭教師を雇ってもらえました。まずは常識からってことでぼちぼち教えてもらってます」
「伯爵が手配してくれたのか?」
「はい。まあ、直接話したことはないので家令に頼みましたけど」
 あ、オリヴァー先生の空気が変わった。何も言ってないのに伝わるのすごい。

「お前が記憶喪失になったことは把握しているんだよな?」
「おそらく。家令が報告したと言ってたような」
「養子にまでしておいて放置しすぎじゃないか? いったいどうなって——」
「忙しいだけですよ! あの方、朝から晩まで王城にいるんで屋敷にいるのも稀で、時間がないだけで気にかけてくれる感じはあるんで大丈夫です!」
 オリヴァー先生が短くため息をつく。
「前の、入学式の日もそうだったが、お前伯爵のことになると人が変わったように庇い出すよな。声が必死というか鬼気迫るものがある」
「え、そうですか? ごめんなさい。自覚がなくて」
「謝らせたいわけじゃなくて……すまない。忘れてくれ」

 話題を変えるためか先生が俺の手の甲に指を乗せて「循環乱れてる」と簡潔にアドバイスした。
 人が変わったように伯爵を庇う。まるで俺の中の知らない部分を指摘されているようで心がざわついた。

 今の状態は本当にただの記憶喪失なのか。どちらにしても俺は、どこかで元の人格と向き合う必要がある。
 でも今はまだ情報が足りない。一先ず訓練に集中しよう。深く息を吸って魔力を整えると、指先に熱が戻るのを感じた。


「魔力練るのしんどいー! 限界!」
「お疲れ様。お前はよくやってるよ」
「先生優しいー」
 ハンカチで汗を拭きながら先生に笑いかける。魔力を練るのは集中力がいるので意外と体力を消耗する。今日は帰ったらすぐ寝るかも。

「なんか雰囲気変わったか?」
 お、これはハンカチで額を拭ったから気づいたパターンだ。
「どこが変わったと思いますか?」
「めんどくせぇ」
「冷たい!」
 オリヴァー先生は「悪かったよ」と軽く笑って俺の顔を見つめた。ベンチで並んで座ってるから距離が近い。この感じ、なんか既視感があるような。

「ああ、前髪か」
「正解! どうですか? かっこよくなりましたか?」
「いや、別に。でも」
「でも?」
 先生が急に目を細めて笑った。この表情珍しい。

「目がよく見える。いいな、その髪型」
 先生は目を細めた笑みのまま、まっすぐに俺の目を捉えている。

「え……わ……」
 なんだこれ。なんでこんな落ち着かないんだ。心臓がバクバクして、何か言いたくても喉が締まる。

「なんか言えよ。気まずいだろ。お前、普段は騒がしいのに真っ直ぐ褒められると大人しいのな」
 先生がいたずらが成功した子供のように笑う。
 俺はやっと動くようになった身体で、まず自分の太ももを勢いよく叩いた。

「本当なんなんですか!? 指南書でもあるんですか!?」
「なんだ急に。騒がしい」
「いやだって、おな、同じ。こんな恥ずかしい褒め方」
「そんな変なこと言ったか?」
 反応まで殿下とシンクロするってどうなってるんだ。もしかしてアースタクト王国って人たらしが多いのか。

「今日はありがとうございました! 失礼します!」
「おー、気をつけて帰れ」
 先生は俺の動揺にも特に勘付くことなく、軽く手を振って俺を見送った。


 何だこれ、何だこれ。顔が熱い。いや、だってしょうがない。あんな褒められたら誰だってこんななるって。

 しばらくの間走っていた俺は、逃げるように伯爵家の馬車に飛び乗った。身体は疲れ切っているのに頭は妙に冴えている。

 今日は眠れそうにない。
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