学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第十四話 四人目の攻略対象

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 朝の早い時間。校門前は生徒がまばらに歩いているだけでいまいち活気はない。今の時間学院にいるのは寮生がほとんどだ。
 この門は王国一の学び舎を周囲に示すような、重厚で豪華な造りをしている。白地に金のラインが個人的に気に入っているところだ。
 俺は近くの物陰に隠れ、校門付近で固まっている集団を観察していた。

 よし、いるな。

 今週は風紀委員が挨拶運動をしているとカイから聞いた俺は、メイソン君に拝み倒し、いつもより二時間も早く起こしてもらった。正直やり過ぎた感はある。でもこれは仲良くなるために必要なことだ。
 何度も雑談を重ねてアルベール君の心を開こう作戦を決行するため、物陰から飛び出す。そして少し離れたところにいるアルベール君のところに、一直線に向かう。

「アルベール様、ごきげんよう」
「誰かと思えばあなたでしたか。何用ですか」
 挨拶が返ってこない。せっかく気合いを入れたのに寂しい。
「昨日こと謝りたくて。さすがに顔を見るなり大声を出したのは失礼だったかなと……申し訳ありませんでした」
「私も頭に血が上っていました。半分八つ当たりのようなものです。こちらこそ、失礼しました」
「いえ、そんな」

 会話が途切れてしまった。和解したのは嬉しいが、これ以上踏み込むのはまだ早い気がする。また明日出直そう。
 アルベール君に声をかけて退散しようとしたら、珍獣を見るような目で見られていることに気付いた。

「あなたは、生活態度の割に律儀な人ですね」
「え、俺今褒められてます?」
「褒めてません。嬉しそうな顔をやめてください」
「かなしい」
 アルベール君との会話難しいなー。彼は雑談をあまりしないタイプなのかもしれない。

 邪魔になってはいけないのでアルベール君に「それでは失礼します!」と言って俺はその場を立ち去った。
 初日はまあまあいい感じだったな。あとは何回か交流を重ねるだけだ。



 今日で俺との挨拶運動は通算九日目に突入した。あれから何回も挨拶を重ね、今では何も言わなくても風紀委員の人がアルベール君を呼んでくれるようになった。

「アルベール様、ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
 九日の間で、嬉しいことにアルベール君が和やかな顔で挨拶を返してくれるようになった。達成感がすごい。

「今日で挨拶運動最終日ですね。お疲れ様でした」
「別に、苦ではなかったので」
「あ、でも寂しくなりますね。せっかく挨拶する仲になれたのに」
「私に用があるなら風紀室か教室を訪ねてください」
 これは、来てもいいよってことだよな。少しは仲良くなれたよな。心開くまであと一歩って感じだ。

 今後どうしようか悩んでいると、アルベール君が浮かない顔になっていることに気づいた。

「……あなたはつまらなくないのですか?」
「今のところ朝から楽しいですけど。つまらないってどういうことですか?」
「真面目なだけの頭が固い人間なんてつまらないでしょう?」

 アルベール君が厳しい表情で問いかける。これは、そんなことないですよ待ちでもなさそうだ。心からの疑問だ。

「アルベール様と話しててつまらないと思ったこと一度もないです」
 俺が即答すると、アルベール君の動きが一瞬止まった。
「感性が変わってる……あ、いえ失礼しました。忘れてください」
「嘘は言ってないですよ。俺真面目にしててもちゃんとしろって怒られるタイプなので、アルベール様みたいに真面目に真面目できてる人すごいと思います」
「真面目に真面目……」

 アルベール様がよくわからないという顔をしている。いい感じに伝わりやすい言葉だと思ったけどな。アースタクト語難しい。

「邪魔になるといけないので、そろそろ失礼します。また挨拶に伺いますね」
「はい、また。あなたとの会話は退屈ではなかったです」
「えっ、嬉しい! もう少し話します?」
「挨拶運動の邪魔なので早く行ってください」

 アルベール君は俺の発言を冷たく流したかと思うと、少しだけ笑って控えめに手を振ってくれた。
 俺は大きく手を振り返すと、そのまま邪魔にならないよう校舎に向かって走った。


「カイ、ルキウス様! おは、ごきげんよう!」
 教室に行くとすでにカイとルキウス君が隅で話していた。人の目がある時は「ごきげんよう」と挨拶しないといけないから切り替えが大変だ。

「ごきげんよう。なんか嬉しそう」
「わかります? 難しいと思っていたことが順調に進んだといいますか。とにかく手応えがありまして。難題を一つクリアしたって感じですかね」
 ルキウス君は「よかったね」と頷いた後、ノートに筆を走らせた。朝の時間を利用して課題をやってたみたいだ。

「ごきげんよう。大変言い辛いのですが……それ気のせいです」
「まじ?」
「カイ、辛辣」
 ルキウス君が顔を上げて呟いてしまうくらいバッサリだった。

 カイが立ち上がり俺の腕を掴む。
「ルキウス様、少し席を外します。すぐ戻りますので」
「いってらっしゃい」
 引きずられるように教室を移動する。去り際にルキウス君に手を振ったら振り返してくれて嬉しかった。


 廊下の端で立ち止まる。カイは怒っているというより俺に同情しているような様子だった。
「まずは一週間以上お疲れ様です」
「ありがとう。でも早起き以外苦痛じゃなかったよ」
 アルベール君と仲良くなるという目的はあったが、挨拶運動に顔を出すのは普通に楽しかった。

「結論を言うと、アルベールの好感度がまだそこまで上がってません」
「なんで? 俺的にはもう友達のつもりだったけど。今日なんて手振ってくれたよ」

 カイが俺の肩に手を置く。
「今の時点で知り合い以上友達未満といった感じです」
「納得いかない」
「殿下の時も思っていましたが、あなたは友達の範囲が広すぎます」
「そんな……普通だと思ってた」
 挨拶して話して笑い合ったら友達じゃないのか。判定が難しい。もしかして俺馴れ馴れしかったりするのかな。

「僕はそこもキースのいいところだと思ってますけどね。そんなことより、前にも話しましたが今日から剣術の演武でロランのクラスと一緒になります。そこでペアにならないと彼の攻略が難しくなるので、切り替えていきましょう」
「カイ! 好きだ!」
「はいはい。教室戻りますよ」

 褒めてもらえた喜びがじわじわと胸を満たす。思わずカイに身体を寄せると、邪魔だったのか普通に押し返された。やり返したりしながら歩いていたら教室に戻るのが遅刻ギリギリになってしまい、ルキウス君に呆れられた。


 剣術の授業は基本的にグラウンドで行われる。前世の体育と違い、グラウンドには椅子がきっちり並んでいる。地面に直座りはだめらしい。そういうところ貴族の学校っぽい。

 周囲は「誰とペア組むか決めた?」という話題で持ちきりだ。そしてほとんどの生徒から面倒くさいという空気を感じる。

「二人はどうするの?」
 ルキウス君がうんざりしたような顔で話を振る。もし俺が「サボる?」と提案したら手放しで乗ってきそうなくらいには嫌そうだ。

「残念ながら隣のクラスとは交流がなくて……話し合いで決めるしかないですね」
 カイが諦めたように笑う。

 そう。今回の演武には隣のクラスの誰かとペアを組んで剣術の型を披露するという課題がある。
 演武が終わったら一年全員強制参加の個人トーナメント戦をするらしい。俺の実力だと一回戦負け確定だからあまり関係ないけど。

「俺は組んでみたい方が一人います」
「誰?」
「ロラン・バルデウス様という方で……剣術がお強いと聞いたことがありまして」

 ロラン・バルデウス。騎士団長の息子で攻略対象者の一人だ。友情ルート確立のため、彼の情報はいくつか入手してある。

 ロラン君はバルデウス侯爵家の次男であり、騎士団長の息子だ。剣の才能を買われて殿下の側近をしている。一匹狼で直情的な面があり、カイは脳筋キャラと言っていた。最近の悩みは実力が伸び悩んでいること。
 ストーカーみたいなことを言っている自覚はあるが、こちらはループがかかっているので仕方ない。

「ロランはやめたほうがいい。あいつ、手加減できないから。キースの骨が心配」
「ルキウス様はロラン様と仲がよろしいのですか?」
「そんなに。父親同士が仲良くて、幼馴染みたいなもの。入学してから話したことない」
 幼馴染だったのか。もっと早く知ってたら情報収集も楽だったのに。
 カイに目を向けると気まずそうに顔を逸らされた。覚えてなかったっぽいな。

「ルキウス様ありがとうございます。でも俺、彼と組んで試してみたいことがありまして」
「何?」
「剣と魔法の掛け合わせです」
 続きを話そうとした時、教官の鋭い声が辺りに響いた。もう来てたのか。話すのに夢中で気づかなかった。

 教官が演武の内容を説明している。俺はその説明を片耳で追いながら隣のクラスの席に視線を送った。

 オレンジ色の髪に、オレンジに近い赤の瞳。こちらから見える横顔はやる気のなさに溢れている。ロラン君にとって剣術の授業は物足りないのだろう。
 鼻筋がしっかりしていて首が太い。でもどこかシュッとしたところもあるのが恋愛ゲームの攻略対象って感じだ。

 教官の号令で全員立ち上がる。俺は心配そうに見つめるルキウス君に笑顔を向けてから、ロラン君の元に駆けていく。

「初めまして。キース・ネーグルントと申します。俺と組んでくれませんか?」
「お前……たしか記憶喪失の」
 ロラン君はじろじろと俺のことを頭から足の先まで観察する。
 噂に興味がなさそうなロラン君も知ってるレベルなのか。そう思うと俺って結構有名人なのかも。

「あの、俺とペアになってくれませんか?」
 ロラン君が俺に視線を合わせる。目は鋭いが冷たさは感じない。
「断る」
 たった四文字の言葉を理解するのに時間がかかった。

 ロラン君の顔に悪意は感じない。むしろいきなりのことに戸惑っているように見えた。
 ここで引いたらループ確定だ。腹をくくった俺は、まず断られた理由を尋ねるため、短く息を吸った。
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