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ストバーラ帝国編
震え(アイザック視点)
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俺はルカを抱えたまま立ち尽くしていた。
あまりの衝撃に一歩も動けなかった。身体が勝手にブルブルと小刻みに動く。自分では止められない。そうか、俺は震えているのか。立っていられなくなったので地面に膝をつく。
この震えは恐怖からきたものではない。そう、歓喜だ。腹の底からマグマのように噴き上がるそれはまさしく歓喜だった。
「ハッ、ハハッ………アハッ、アッハッハッハッハッハッ!」
頭がどうにかなりそうだ。笑いが止まらない。腕の中にルカがいなかったら俺は意味もなくこの部屋を走り回っていただろう。この衝動はしばらく抑えられそうにない。
ルカは何と言った?
『そんなこと言わないで!兄さんにだけはそんなこと言われたくない!不気味だとか、怖いだとか世界中から言われてもいい。でも兄さんだけは言わないで!!嫌だ嫌だ嫌だ。僕を嫌いにならないで。拒絶しないで。兄さんだけは……兄さんだけはだめなんだ……きらいになっちゃやだ』
いつも穏やかな笑みを浮かべるルカが、俺をずっと優しく励ましてくれるルカが、ニコニコと人好きのする笑顔をしてるのになかなか自分を曝け出さないルカが、どこか他人と一線を引いていて絶対に心の内側に踏み込ませないルカが!
俺に!俺にだけは嫌われたくないと言った!俺にだけは拒絶されたくないと泣いていたのか?ああ、ああ、ああ
ああ……最っ高の気分だ
顔の筋肉が引き攣りそうなほど口角が上がっている。この顔をルカに見られたくない。そう思っていると、腕の中でルカが身じろぎした。慌てて顔を覗き込むが、まだ起きる気配はなさそうだ。
ルカの頬には涙の跡がある。なんともいじらしい。俺のせいだ。俺のせいでこの涙は流れたのだ。ふとルカの睫毛を見ると、左目に溜まった涙が今にも溢れ落ちそうだ。
「もったいない」
無意識に動いていた。まるで引き寄せられるかのように俺はルカの眦に口付けた。
俺は何を?慌てて顔を離すと、ルカが安心しきったかのように表情を緩ませた。その姿に、涙が出そうになった。腕の中にいる存在が愛おしくてたまらない。
この子は俺の宝だ。温かくて柔らかくて泣きたくなるほど美しい俺だけの宝物。誰の目にも入れたくない、許されるならずっと腕の中に閉じ込めておきたい。
全てに絶望したあの日、必死で俺を救ってくれた。幼子のように泣いて縋りついたあの日、俺に生きる意味を与えてくれた。大事な大事な一生の相棒。
俺が不甲斐ないばかりに不安にさせてしまった。俺はもう二度と間違えない。
「俺が昔言ったことを覚えているか?俺はルカがいらないと言うまで一生ついていくと言ったな。撤回する——俺はルカに一生ついていく。死ぬまで、いや死んでも一緒だ」
腕の中の宝物が壊れないように優しくそっと包み込むと、胸元に引き寄せて抱き直す。
そこでやっと気がついた。ここはダンジョンの隠し部屋だ。辺りを見回すと、何もない空間の端に魔法陣が輝いている。俺はルカを起こさないように静かに立ち上がると、魔法陣に向かい歩き出した。
あまりの衝撃に一歩も動けなかった。身体が勝手にブルブルと小刻みに動く。自分では止められない。そうか、俺は震えているのか。立っていられなくなったので地面に膝をつく。
この震えは恐怖からきたものではない。そう、歓喜だ。腹の底からマグマのように噴き上がるそれはまさしく歓喜だった。
「ハッ、ハハッ………アハッ、アッハッハッハッハッハッ!」
頭がどうにかなりそうだ。笑いが止まらない。腕の中にルカがいなかったら俺は意味もなくこの部屋を走り回っていただろう。この衝動はしばらく抑えられそうにない。
ルカは何と言った?
『そんなこと言わないで!兄さんにだけはそんなこと言われたくない!不気味だとか、怖いだとか世界中から言われてもいい。でも兄さんだけは言わないで!!嫌だ嫌だ嫌だ。僕を嫌いにならないで。拒絶しないで。兄さんだけは……兄さんだけはだめなんだ……きらいになっちゃやだ』
いつも穏やかな笑みを浮かべるルカが、俺をずっと優しく励ましてくれるルカが、ニコニコと人好きのする笑顔をしてるのになかなか自分を曝け出さないルカが、どこか他人と一線を引いていて絶対に心の内側に踏み込ませないルカが!
俺に!俺にだけは嫌われたくないと言った!俺にだけは拒絶されたくないと泣いていたのか?ああ、ああ、ああ
ああ……最っ高の気分だ
顔の筋肉が引き攣りそうなほど口角が上がっている。この顔をルカに見られたくない。そう思っていると、腕の中でルカが身じろぎした。慌てて顔を覗き込むが、まだ起きる気配はなさそうだ。
ルカの頬には涙の跡がある。なんともいじらしい。俺のせいだ。俺のせいでこの涙は流れたのだ。ふとルカの睫毛を見ると、左目に溜まった涙が今にも溢れ落ちそうだ。
「もったいない」
無意識に動いていた。まるで引き寄せられるかのように俺はルカの眦に口付けた。
俺は何を?慌てて顔を離すと、ルカが安心しきったかのように表情を緩ませた。その姿に、涙が出そうになった。腕の中にいる存在が愛おしくてたまらない。
この子は俺の宝だ。温かくて柔らかくて泣きたくなるほど美しい俺だけの宝物。誰の目にも入れたくない、許されるならずっと腕の中に閉じ込めておきたい。
全てに絶望したあの日、必死で俺を救ってくれた。幼子のように泣いて縋りついたあの日、俺に生きる意味を与えてくれた。大事な大事な一生の相棒。
俺が不甲斐ないばかりに不安にさせてしまった。俺はもう二度と間違えない。
「俺が昔言ったことを覚えているか?俺はルカがいらないと言うまで一生ついていくと言ったな。撤回する——俺はルカに一生ついていく。死ぬまで、いや死んでも一緒だ」
腕の中の宝物が壊れないように優しくそっと包み込むと、胸元に引き寄せて抱き直す。
そこでやっと気がついた。ここはダンジョンの隠し部屋だ。辺りを見回すと、何もない空間の端に魔法陣が輝いている。俺はルカを起こさないように静かに立ち上がると、魔法陣に向かい歩き出した。
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