幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

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第3章 幼馴染と初々しい事をしてみたい!

第7話 修ちゃんと初々しい恋人っぽいことをしてみたら

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「了解。では、お待ちしております!」

 照れくさくて何故だか敬礼のポーズ。

「ま、それじゃあ、近い内に」
「う、うん。準備、しとくから……」
「じゃあ、待っといてくれ」

 ボソっとしゅうちゃんから返事が返ってきた。
 なんとなく、そう来るんじゃないかと思ってた。
 一瞬、その様子を想像してしまう。
 それはなんだかとても恥ずかしい事のようで。
 慌てて頭から想像を追い出す。

「あー、余助よすけは今日もいい子だねー」

 幸い、いいところに老猫の与助が寄ってきた。
 撫で撫でしていると、徐々に平常心を取り戻すのを感じる。
 やっぱりこの子を撫でていると癒やされる。
 でも、どことなく動きが前よりも鈍くなっている気がして。
 この子とお別れするまでそう長くないのかもしれない。
 そう考えると少ししんみりしてしまう。

「うん?考え事でもしてたか?」

 気がつくと、側には少し心配そうな顔の修ちゃん。

「与助、前より元気がないよね。ちょっと心配で」

 だからと言って私たちが出来る事は何もないのだけど。

「そうだな。この分だと……いや」

 言いかけて止めた言葉は嫌でもわかってしまう。
 
「濁さなくてもわかってる。お別れは遠くないのかも」

 たぶん、それは変えようの無いこと。

「そうだな。これからはいつもより構ってやろうか」

 私の少し感傷的な気持ちに黙って寄り添ってくれるのが嬉しい。
 他の誰でもこうは行かなかったと思う。  
 だから……。

「……」
「うん。どうかしたか?
「修ちゃんが一緒に居てくれて良かった。それだけ!」
「そうか。俺も同じ」

 少しの間、私たちはしんみりしていた。
 でも、いずれ来る別れなら、笑って見送ってあげたい。

「よし!もう湿っぽい話はなし!」
「別に無理しないでも」
「いいの。後の事はまた後で考えれば」
「そうだな。行くか」

 そっと繋がれた手の温もりを感じる。
 本当に一緒で良かった。

◇◇◇◇

 さて、初々しい恋人っぽい事。
 というわけで、まずは一緒に教室に顔を出す。
 
「おはよー」
「おはよう、皆!」

 Aクラの教室から一緒に入ってみる。
 どんな反応がかえってくるかな。
 からかわれるだろうか。流されるだろうか。

池波いけなみ、どういう風の吹き回しだ?」

 高校入学以来の修ちゃんの友人、川村かわむら君だ。
 なんだか怪訝な顔をしている。
 早速、獲物が釣れた?

「いや、別に恋人と一緒に来ても、いいだろ?」

 修ちゃんもわかってて、ぎこちない演技をするものだから。
 思わず噴きそうになってしまう。

「お前なー。妙に平然としてたと思ったけど……」
「あ、ああ」
「やっぱり恥ずかしかっただけだったんだな」
「ま、まあ、そういうこと」

 うりうりと肘を当てて嬉しそうに川村君が絡んでいる。
 私達を弄くりたくて仕方がなかったんだろう。
 修ちゃんも意外と演技が上手い。

「初日以降、堀川ほりかわさん、こっちに来なかったけど」

 修ちゃんのクラスメートの女の子が興味深そうに見つめてくる。

「う、うん。ちょっと恥ずかしくて」
「なーんだ。二人とも、ただの照れ隠しって奴だったのね」
「見栄張っちゃてごめんね」
「いいのよ。気持ちはわかるし」

 二人で初々しいカップルごっこ。何故だか楽しくなってくる。

「こ、これからは毎日お邪魔するかも」

 本当はお弁当を作るのが面倒くさくなっただけ。
 これからは一緒に食べるのも楽しいかもしれない。

「はい。こっちが修ちゃんのおべんと」

 楕円形のシンプルなお弁当箱をポンと手渡す。

「手作り弁当。だいたい、一ヶ月ぶりか?」
「たぶん」

 そのやり取りを聞いた周りは、

「一ヶ月ぶりかー」
「私達が冷やかしたから、照れくさかったのかな?」
「きっとそうだって。さっきは二人とも照れてたし」
「堀川さんも修二君も可愛いところあるよね」
「そうかな。なーんか、白々しいのよね」

 一人だけよく見ている子が居た。
 やっぱり、お芝居なことが見えちゃうのかな。

「お味噌汁も持って来てるからね。どうぞ」

 水筒からトクトクとお味噌汁を注いで手渡す。
 頑張って出汁からとってみた一品だ。

「用意がいいな。朝はそんな暇なかった気がするんだけど」

 それに気づいちゃうかー。
 良い言い訳は……言い訳は……。

「ゲーム中断した後、時間が余ったからついでに、だよ」

 苦しい言い訳だと私自身感じる。通じるか否か。

「……どうも、ゲームで完徹にしては元気があると思ってたんだよな」

 ああ。すぐに気づかれてしまうなんて。

「完徹しても、こんなものだと思うよ?」

 苦しい言い訳を重ねる。

「完徹「しても」「思うよ?」」
「な、なによう」
「完徹したのなら、そんな言い方はしないと思うけど」

 修ちゃん相手に嘘をつくのは罪悪感がある。
 だから、つい微妙な言い方になったのを見抜かれたらしい。

「そ、それは勘ぐり過ぎだよ」
「じゃあ、放課後。そのゲームのセーブデータ見せてもらえるか?」

 駄目だ。修ちゃんは確信している。

「なんで疑うの?」
「もうバレバレだろ。ゲームで徹夜ってのは誤魔化しだったか」
「もう、わかったよ。朝、早起きしてお弁当作ってたの」

 小さい声で真相を白状する。

「普通に嬉しいんだけど、誤魔化す必要があったか?」

 うう。無いと言えば無いんだけど。

「だって。健気アピールとか柄じゃないもん」

 だから流したかったのに。

「お前がそういうの好きじゃないのはわかってるし、今更隠さんでも」

 仕方ないなあと微笑まれてしまうけど、それはそれ。

「私としては、もっとスマートに行きたいわけですよ。ええ」

 元々、私はとてもものぐさだ。
 昨夜の内に作って冷蔵庫に入れておけるならそうしたかった。
 冷蔵庫に入れて味が落ちないか心配だった。それだけの話。
 早起きして苦労アピールとか、私の柄じゃないのだ。

「ありがたく頂くよ。ああ、なるほど。手間暇かかってるな」

 お弁当箱にはブリの煮付けに肉じゃがにほうれん草のおひたし。
 あとはきんぴらごぼう。全体的に煮たり茹でたりしたものだ。

「はい、あーん」

 機先を制して、修ちゃんに「あーん」されてしまう。
 きんぴらごぼうをもぐもぐと咀嚼する。

「うん。美味しい。さすが私」

 早起きして調理を始めた甲斐があった。
 少し眠いけど。

「自画自賛か」
「別にいいでしょ?」
「いいけどな」
「じゃあ、修ちゃんも「あーん」」

 ブリの身を一切れ彼の口に運ぶ。

「美味いな。嫁に来てくれないか?」
「結婚したら修ちゃんもご飯作ってね」 
「今度は俺が美味いお弁当作って来てやるから」
「くう。修ちゃん、その返しはずるい!」

 胸の内に幸せが広がる。
 冬の日差しが差し込んできてとっても気持ちがいい。

「結局さ。昨夜RPGはどこまで本当だったんだ?」

 そこ聞いてきますか。

「積みゲーはやってたけど……早めに寝ちゃった」
「やっぱりな。目ぼしい新作なかったから変だと思ったんだ」

 それはバレるよね。
 
「しかし、なんでまた紛らわしい言い訳を」 
「付き合って一ヶ月でしょ。気分変えてみようかなって」

 でも、正直に言うのが少し照れくさかっただけ。

「お前、記念日の類こだわるもんなあ」

 なんていうかわかったように言うけど、当たっているから反論出来ない。

「普段はずぼらですけど、そういうのだけこだわりますよ。私は」

 少し拗ねてみる。ちらちらと反応を覗いながら。

「拗ねるなよ。今日の放課後はお返し買いたいし。デート行こうぜ」

 こういう事をさらっと言えるのはやっぱり修ちゃんだ。
 昔からそうだった。
 
「じゃあ、放課後はペアリング買いたいから、付き合って?」
「ペアリング……百合が?」
「なんで意外そうな顔してるの?」
「いや、てっきりゲームショップ行こうとか言うものだと」
「私も乙女なんですけど?」
「じゃあ、行くか。ところで、高いのは勘弁な」
「わかってる。3000円とかのあるから。それなら大丈夫でしょ?」
「まあ、ゲームソフト一本とあんまり変わらないか」

 ふと、クラスの皆の反応が気になった。
 初々しいとか思ってくれるだろうか。

「お前らさー。やっぱり付き合って一ヶ月とは思えないぞ」

 川村君は嘆息しながら、そんなお言葉。

「やり取りが慣れすぎてるよね」
「私達が見てても、全然動じてないし」
「さっきは少し初々しく見えたけど……」
「謎だよねー」

 私達は初々しいと思ってもらえないらしい。
 付き合って一ヶ月。
 気合いを入れてみたけど何がまずかったんだろうか? 

 放課後。ペアリングを買いに行く道すがら。

「百合とも付き合って一ヶ月か」

 隣を歩く修ちゃんは感慨深げだ。

「付き合ってみてどう?」

 今更聞くものじゃないかもしれない。
 でも少しだけ聞いてみたかった。

「大きくは変わらないけど」
「けど?」
「前より愛しくなったかもしれない」

 ぎゅっと抱き寄せてくれる。

「うん。私も。もっと好きになった」

 頭を寄せてみたりする。
 目と目があえば、ちゅっと軽い口づけ。

「キス出来るようになったのも付き合ったおかげだし」

 唇を重ね合わせるともっと愛情を感じられるから好きだ。

「最初は恥ずかしかったけどな」

 今となってはキスは時折するようになってしまった。

「クラスの奴らの反応は期待と違ったな」
「もっと、初々しいねーとかそういうのを期待してたのに」
「あーんとか、恥ずかしいつもりだったんだけどな」
「なんでだろうね」

 二人で頭を捻りながらの放課後デートとなった。
 初々しいカップルごっこは失敗だったらしい。
 一体何が足りなかったのかな?
 首をひねる私達だった。
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