幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

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第11章 夏のはじまり

第39話 VRヘッドセットとキャラ作り

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「おはようございます」
「おはよう」

 部室に二人そろって入ると、

「おお。いいところに来た二人とも」

 中条こと中条悠馬なかじょうゆうまが声をかけてきた。
 長身でがっしりした体つきだが妙に童顔というアンバランスさがある。
 ちなみに、本人的にはやっぱりそこを少し気にしているとか。

「どうしたんだ、中条?」

 何があったんだと聞こうとして、共有机の上に何やら奇怪なデバイスが。
 ソードアートオンラインとかで似たようなものを見た気がするけど。

「Oculus Quest2ですよね。前から欲しかったんですよ」

 百合はまだ演技続けるのか。ま、いいけど。
 しかし言われて思い出した。
 確かに比較的安く買えるVRヘッドセットにそんなのがあった。
 今の俺たちには新婚旅行その他加味すると少し高い買い物だけど、
 3万円台とバイトすれば買えるレベルだ。

「というわけで、早速百合さんやってみなよ」
「なんで百合優先なんだよ」
「いやー深い意図はないけど、修二がどういう反応するかなと」
「気にしないけど……先でも後でも」
「私は修ちゃん優先で大丈夫ですから。ほら」

 どうぞ、と穏やかな微笑みでVRヘッドセットを渡される。
 奔放系少女な百合が清楚系美少女を完全に演じてる様は……よかったりする。
 しかし、これバレたら「なんでそんなお芝居を」と呆れられそうだ。

「旦那を立てる理想のお嫁さんって感じだよねー」

 やっぱり八杉やすぎがなんだかうらやましそうだ。
 しかし、八杉だって百合にはかなわないけど(俺主観)美人だ。
 胸が比較的小さいバランスが取れた体型で和服が似合いそう。
 のんびりとしていて、こっちの方がお嫁さんぽい感じすら。

「ちょい聞きたいんだけどさ。八杉も綺麗だと思うけどそこまで羨ましいか?」
「修ちゃん、浮気ですか?」

 こいつ……わかってて話を脱線させようとしてやがる。

「ほらー。お嫁さんの前で別の女子口説いちゃダメだよ」

 八杉にやんわり諭されるものの。

「いやその……」

 と言おうとして百合がクスクスと笑ってる。
 お前のせいだろときっと視線を向ける。

「もういいや。話が脱線した。百合、浮気じゃないからな?」
「わかってます。修ちゃんのことですから」

 クスっと笑って冗談である事を皆に明かす。
 そういう話の納め方か。

「百合ちゃん、意外とお茶目なところあるんだね」
「そんなに真面目一辺倒じゃないですよー」

 真面目と言えば真面目だろうけど今はふざけまくってるだろう。

「話が脱線したけど、使っていいんだな?」
「ああ。部費で購入したものだし」

 それなら遠慮なく、と説明書きを見つつVRゴーグルを装着する。
 なんか近未来を感じさせるフォルムで男心をくすぐる。
 まずはVRリズムゲームに挑戦。

「おお。ほお。意外に、身体、使うな」

 奥から手前に飛んでくるブロックが来るタイミングで、
 VR棒を使ってブロックを叩かないといけない。
 両手を前後左右と動かす必要があってせわしない。

「だろ。俺もさっき初めてやって驚いた」

 中条の声が飛んでくるが、空間の外から声がする感じだ。
 部屋にいるはずなのに外から声をかけられている不思議な感覚。

「これがVRか。って……頭下げるのとかもあるのかよ!」

 頭上をブロックが飛んできたのでおもわず回避したら点数加算。
 結構身体を使う。

「がんばってください、修ちゃん」

 相変わらず穏やかな声で応援されてしまう。

「修ちゃん・・・。お嫁さんが応援してるんだから頑張らないと」

 おまけに八杉までからかってくる始末。
 また後でこの分は仕返ししないとな。

 そんなこんなで、なんとも奇妙な数分が終わり。

「まあ、初めてにしてはいけた方か?」
「初めてなのに点数高いなオイ」
「普通にやってたつもりだが」
「動きがすっごく綺麗なカンジ。百合ちゃんはどう思う?」
「修ちゃんはリズムゲームも得意ですから。そんなところもかっこいいんですよ」

 皆にべた褒めされてしまった。
 特に百合の誉め方が……半分くらい本音入ってそうで悔しいけど嬉しい。

「とりあえず、百合、次やれ。次」
「修ちゃんはこういうところ照れ屋さんですよね」

 それを見ていた二人は、

「修二君、照れちゃって。意外とカワイイところあるんだー」

 八杉が「これは推しカプかも」とかなんか言ってるが気にしない。

「嫁さんに誉められてデレデレしてんじゃねーよ」
「デレデレはしてないっつーの」

 しかし、今は三人だからいいけど。
 他の部員の前だったらきっと恥ずかしさがやばいな。

「つか、また話脱線してる。いいから次やれ、百合」
「はーい」

 ごめんね、と少しだけ頭を下げられたけど、本当に後で仕返しするからな。

「は……ほ……結構、難しいです、ね」

 ちなみに、百合は大体どんな類のゲームでも得意だ。
 特にこういう反射神経が必要なものならなおさら。

 しかし、ゲームに夢中な百合を見て一つ悪戯を思いついた。

「がんばれー。百合ゆりちゃん」
「……!」

 ぷぷぷ。動揺してる。動揺してる。
 ヘッドマウントディスプレイの中の顔はきっと赤くなってるだろう。
 なんせ、いきなり大昔のあだ名を使ったのだ。

 その後も調子は回復せず。

「残念です……修ちゃんも変な意地悪をするんですから」
「悪いな。ちょっと悪戯がしてみたくなって」
「こんな感じで修ちゃんはよくからかってくるんですよ。子どもっぽいですよね」

 あくまでそっち路線でまとめる気か。

「ちょっと意外な夫婦の関係を覗いたカンジ」
「だな。百合さんが修二を手玉に取ってる部分があるっていうか……」
「二人に聞きたいんだけど、その前はどう思ってたんだ?」
「ちょっとだらしない夫と支える妻?」
「俺もそんな感じだな」
「まあ、百合もこういうお茶目なところがあるんだよ」

 本当はこの程度でも生温いけど。
 
 お昼休みのこと。

「で、微妙に路線転換した理由は?」

 学食でご飯を食べながら聞いてみる。

「敬語はいいんだけど、普段のキャラに寄せた方がいいかなって」
「普通に普段のキャラでいけよ」
「そこはトレーニングというか?」
「なんのトレーニングだよ」
「結婚式で修ちゃんをいい感じで紹介するときの」
「別にそこまでこだわらんでも」
「結婚式くらい「理想の花嫁さん」をやりたいの」
「まあいいけどさ。でも、からかった分はあとでやり返すからな」
「修ちゃんも「百合ちゃん」とか言って来たからおあいこ」

 やはり百合なりに根に持ってるらしい。
 でも……。

「時々はよくないか?」
「なんか愛でられてる気分になるから恥ずかしい」

 ああ、そういうノリ。

「じゃあ、時々恥ずかしがらせたい時に使おう」
「やめてー」

 こうして、時々使う愛称をゲットした俺だった。
 ここ一番というところで使おうなどと邪悪な事を考えていたところ。

「妙な場面で使わないでね?」

 そう釘を刺されたのだった。
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