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3.小さい頃のお兄様は天使です!

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 お父様が産声を聞いて入ってきたわ。
「メリーよく頑張ってくれた。」
「・・・・・・・・。」
 お母様は頷くのみね。相変わらず冷めた会話ね。会話にもなってないわ。
 本当に私、祝福されて生まれてきたの?お父様とお母様は、貴族では珍しくない政略結婚だったと聞いているし、私の前でも十五年間ずっと必要最低限の会話しかしていないから、想定内ですけど、ちょっと残念ね。もうお父様は出て行っちゃうのね。冷たすぎないかしら。よく離婚しないわね。ゲームの中のマリーが悪役令嬢になるのも、少し分かる気がするわ。私はなりませんけどね。

 あれ、お母様の顔が真っ赤だわ。大丈夫かしら。
「ねぇ聞いた?私の可愛い赤ちゃん。頑張ってくれたですって!私、褒められちゃったわ。嬉しい…。今日のクライムもカッコよかったわね。素敵すぎてくらくらしちゃう。あれがあなたのお父様よ。素敵でしょ。」
 え~~~~~!!!!今日一番のびっくりいただきました。くらくらって貧血じゃありません?!

 これが前世ならどっきり大成功なんだろうけど、お母様、いくら何でも、もう少しアピールしてください。たぶんお父様に全く伝わってないですよ。あ~、お父様に教えてあげたい。あれ、廊下にいるお父様の顔も真っ赤じゃない。なんだか嫌な予感がしてきたわ。

「・・・メリーが可愛すぎる…やばい。子供を産んですぐとは思えん、私の言葉に頷いてくれたぞ。赤ちゃんもメリーに似て可愛かったな。」
 ・・・やっぱり、両片思いだったのね。二人とも、赤ちゃんや壁に向かって話すのをやめて直接お話しください。それ、絶対に十五年間伝わりませんから!私は今、自分のことでいっぱいいっぱいなので、自分たちで何とかしてください!って、無理よね。

 私を連れて乳母のケイトがお父様の部屋に向かっているみたい。お母様も休みたいものね。赤ちゃんの私も寝ているみたいみたいだけど、誰かお父様の部屋にもう一人いるわね。わぁ、可愛い!!お兄様だわ。ゲームをプレイしていた時はマリーにお兄様がいるって知らなかったのよね。お兄様は私の二つ年上。アーサーと同じ年。お兄様は髪や瞳の色はお母様や私と一緒で水色だけど、私とお母様がクールな感じなのに対して、顔のパーツはお父様に似ていて甘い感じ。ちなみに、お父様は黒髪、黒瞳。自分で言うのもなんだけど、美男美女です。

 だけど、私と違ってお兄様は貴族とは思えないくらい心が綺麗で優しい人。お兄様を見ると、ここがゲームの世界ではなくて、現実に生きている世界なんだって実感できるわ。
 ちなみにアーサーも黒髪黒瞳で、この色は私の生まれたブラックリリー公爵家では珍しくないの。そして、黒髪黒瞳は魔力量の多い人に多いと言われているんだけど、実際どうなのかしら?魔力の量だけなら私もお兄様も相当多いはずだから。

 ただ、お兄様は魔力のコントロールが苦手だと言っていたから、お父様と同じ魔術師騎士団は無理かも。
 お父様はそこの団長なんだけど、仕方ないわよね。優しいお兄様が魔獣討伐なんて想像できないもの。それに、お兄様はとっても賢くて魔道具作りの天才らしいから、魔法省辺りには入れるでしょう。そういう私も魔力量だけはお父様より多いかもしれないわ。だってさっきお父様の独り言聞いちゃった。
「メリーに似て本当に可愛かった。でも魔力は私に似てしまったか。いや、私以上かもしれないな。もう少し、魔力暴走の結界を強めておくか。」
 はい、言質取りました。

 ブラックリリー公爵家はそもそも魔力の多い子が生まれてくるから子供の頃の魔力暴走は当たり前、だから暴走させないように邸内の魔力をコントロールするのは代々公爵の務めの一つ。今この邸はお父様の優しい魔力に守られているの。お兄様も私もそしてもう一人…。そんなことを考えていたら乳母のケイトがお父様の部屋についたみたい。

「旦那様、マリー様をお連れしました。」
「ああ、ケイト入ってくれ。」
「わぁー、かわいい。おとうさま、このこがマリーなの?」
「ああそうだよ。天使の様だろう。」
「うん、マリー、おにいちゃまだよ。」
 ・・・お兄様こそ天使です。

「まだ寝ているようだから、私のベッドにそのまま寝かせてくれるかい?それから、マルクに菓子と飲み物を用意してやってくれ。」
「かしこまりました。では、マルク様の好きなジャムの入ったクッキーと、リンゴジュースをご用意しますね。」
 ジャムの入ったクッキーとリンゴジュース…お兄様の好きな物って二歳から変わってないのね。
 何だかお父様の顔が真剣で怖いわ。

「なぁマルク、アーサーはどうしてこなかったんだい?」
「マリーがね、こわがるって…。アーサーが…いかないって…。」
 お兄様泣きそうね。泣かしたらお父様でも許さないから。
「そうか…。マルク教えてくれてありがとう。お父様にとってはね、アーサーもマルクと同じように、大切な子供なんだよ。マルクも、マリーも、アーサーも、とても大切なんだ。わかるかな?」
「うん、アーサーも、マリーも、とうさまも、かあさまも、みんなすき…。」
「そうだな。マルクの言う通りだ。」
 お兄様が尊すぎてやばいわ。

「これを見てくれるかい。」
 水晶だけど、水色だから記憶の水晶ね。誰の記憶かしら?これ、アーサー?カッコよすぎでしょ!二歳とは思えないわ。でも何処かしら?見たことないわね?
「どこ?」
「これは、アーサーのお家のブルサンダー公爵家だよ。」
「アーサーのおうちはここでしょ?あれ?アーサーがプレゼントをもらってる。このあいだのぼくといっしょ?」

「そうだよ。アーサーの誕生日会だよ。」
「アーサーうれしそう。でもみんなこわいかお。」
「そうだね。みんな魔力暴走が怖いんだろうね。」
「まりょくぼうそう?」
「うん、見ててごらん。」

 そんなもの二歳の子供に見せて大丈夫ですか?お兄様は小さい頃から大人顔負けの天才児と呼ばれていたようですけど、トラウマになったらどうするんですか!!というか、実際もうお兄様は見てしまったんですね。
 だからお兄様はブルサンダー公爵家が大っ嫌いだったのね。

「わんわんのひも?アーサー、いやいやしてる。あのひと、いや、こわい。」
「そうだね。あれは、人の心を奪う首輪だ。おしゃべりも、笑うことも怒ることもできなくなる。…自分の…息子なのに…。」
 水晶の中の女の人を指さして、一生懸命お兄様が話している。お父様の呟きから、たぶんあの人が、アーサーのお母様らしい。

 次の瞬間、アーサーの周りの人が吹き飛ばされた。アーサーが呆然と立ち尽くしている。アーサーが魔力暴走を起こしたのね。
「アーサーわるくない、あのひとわるい。でもあのひともいたい、かわいそう。いたい、いたい、だいじょうぶ?」
「そうだね。あの女の人たちは大丈夫だよ。マルクはアーサーのこと、怖くないかい?」
「どうしてこわいの?アーサーはやさしいよ。」
 そうよ。アーサーは優しい人よ!

「流石、私の息子だ。お父様はね、アーサーのお父様と親友なんだ。それでアーサーのお父様に頼まれてアーサーを連れてきたんだ。難しいことは分からないだろうけど、アーサーはここに来て一ヵ月経つけど、お父様のこともお母様のこともまだ怖がっているよね。だけどマルクにだけは普通にお話できているだろう?今日はマリーが生まれて家族が増えたんだ。その気持ちをアーサーにも分けてあげたいんだよ。家族だよってね。分かるかな?」
 お父様、いくらなんでも二歳の子にそれは無理だと思いますよ。

「うん!はんぶんこ、はんぶんこ。わけっこ、わかる。えほんでよんでもらった。いいこでちょっとまっててね。」
 お兄様に頭を撫でられて、お父様が真っ赤になっているわ。いいもの見ちゃった。



    
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