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77.ブルサンダー公爵家次男リックside ~ブルサンダー公爵家の人たち~①

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【リックside】

僕はアーサーが生まれてくるのを本当に楽しみにしていた。なぜなら、兄上はとても明るくて優しい方なのだが、八歳も年が離れていたせいで勉強や剣術の稽古が忙しくあまり遊んでもらえなかった。僕とアーサーも五歳離れているけど、僕はアーサーが生まれてきたら沢山お世話をしてあげるんだと張り切っていた。

だから、生まれたと聞いた時は嬉しくて、一番にアーサーに会いに行ったんだ。赤ちゃんのアーサーは眠っていたけどとても小さくて可愛かった。僕はアーサーに起きて欲しくて、父上と同じ綺麗な黒髪を軽く引っ張ってしまった。いま思うとなんでそんなことをしてしまったんだろう。いまでもこの時のことを思い出しては後悔している。僕に髪の毛を引っ張られたアーサーはびっくりして、ものすごく大きな声で泣き出した。

その声に反応するように部屋中の物が飛び交い、僕はアーサーの兄上だからアーサーを守ろうと思い、アーサーの上に覆い被さったんだけど飛んできた花瓶が僕の頭に当たって血が出てしまった。傷なんて大したことなかったのに、それを見た母上付きの侍女が魔獣の子と大騒ぎしてそれ以来、一度もアーサーの部屋には入れなかった。アーサーは悪くないのに、僕が髪を引っ張ったからアーサーはびっくりしただけなのに。母上に話しても、あれは魔獣の子、化け物なの、黒目黒髪がその証拠なのとしか言ってくれなかった。仕方なく、お仕事で滅多に帰ってこない父上に話をしたら、僕の頭を優しく撫でてアーサーを守ってくれてありがとうと言ってくれた。

その時初めて僕と兄上の母上が違うことを知った。兄上は前妻の子供だった。偶然僕と同じ金色の髪に緑の瞳だったからずっとなにも疑わなかった。兄上は母上に最近虐められていたようで、嫡子なのに家は継がないと決め、もうすぐ、ブラックリリー公爵家に行く予定だったらしい。しかしこのままでは、アーサーが危険と判断した父上は、このままブルサンダー公爵家の別邸で、兄上にアーサーと信頼のおける侍従と使用人だけを連れて住むように言った。兄上も納得していた。僕はアーサーとも兄上とも会えなくなって淋しかった。

僕にはあんなに優しい母上が兄上やアーサーには冷たいなんてなにかの間違いじゃないかと最初はなかなか信じられなかった。兄上も、お母上から虐められるようになったのはここ半年ほどだと言っていたから、初めは妊娠のせいなのではと父上もそう思ってみえたそうだ。結局生まれてからもその態度が変わることはなく、日に日に母上
が口にする言葉も酷くなり、全く兄上とアーサーに会いに行かない母上を見て、僕の大好きな母上は本当は冷たい人だったんだと思うようになり、心がどんどん押しつぶされていった。

そして迎えたアーサーの二歳の誕生日の日。思い出すのも嫌だ。母上がアーサーに誕生日プレゼントだと言って、嫌がるアーサーに犬の首輪のようなものをつけようとした。アーサーは必死に抵抗して、僕も兄上も父上もみんなでアーサーを助けようとしたけれど、一瞬結界のようなものに阻まれて助けるのが遅れてしまった。アーサーは魔力暴走をおこした。アーサーは悪くないよ。誰だってあんなことされたら嫌だよ。不思議なことに母上とお付きの侍女だけがそれは見事にふっとんだけど、打ち身程度の怪我だった。そして周りの人にはなんの被害もなかった。

後日記録の水晶をブラックリリー公爵様に見てもらったら、二歳にしてすでにある程度の魔力のコントロールができている天才だと言っていた。それでも母上を吹き飛ばしたことに変わりはなく、母上が許すわけもなく、アーサーは二歳の誕生日の日にそのままブラックリリー公爵家に行ってしまった。その方がアーサーも伸び伸び暮らせるだろうからと…。僕も連れて行って欲しかったな。本来ブラックリリー公爵家に行くはずだった兄上は、僕と一緒に暮らすことになった。

兄上は十五歳になっていて、もうすぐ学園に入学するけど、すでに大人顔負けの魔法を使い、百年に一度の逸材なんて言われている。もう、母上なんて怖くないと言っていた。父上もものすごく怒っていて、母上は別邸で暮らしている。別邸から出たら、追い出すと言われたらしい。僕は母上のことが好きではなくなった。だって僕からしたら母上の方が化け物に思えたから。でも、完全に嫌いにもなれなかった。

やっぱり優しい頃の母上も知っているからだと思う。父上も、最初は急にどうしたんだと戸惑っていた。僕だって、熱を出すと一生懸命看病してくれたのは母上だったし、庭を散歩しながら色々な花の説明をしてくれたり、可愛らしい魔法を見せてくれたのも全部母上だったんだ。だから本当に始めは信じられなかった。いや、信じたくなかった。

僕は兄上と過ごすようになって、毎日が楽しかった。兄上は学園には最低限しか行かずに、僕と過ごしてくれた。色々な魔法のことも聞けて、将来は魔法学の先生になりたいと思うようになった。


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