異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

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♯2

二度あることは、三度ある

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「……ごめんカイト。その、着替えるから、少しの間だけ、部屋の外に出ててくれない?」

 食事のあと、部屋に戻ったイズナは、ほんの少し腹休めをして、すぐに風呂へと向かった。

 しばらくして部屋に戻ってきたイズナだが、入浴前と衣服は替わっておらず、先ほどの発言に繋がる。

「それは構わないが、なぜ脱衣所で着替えてこなかったんだ?」

 海斗を部屋の外に追い出すくらいなら、そのほうが手っ取り早いと思うのだが。

「そ、それは…………と、とにかく! すぐに終わるから、しばらくの間だけ部屋を出てってくれないかな!」

「? まぁ、いいが」


 そうして部屋の外に追い出されて、扉を背にして待つこと数分。


「――カイト、もういいよ」

 という声が部屋の中から聞こえてきた。
 すぐさま扉を開けて、部屋に入る。

「まったく、次はもっと効率よく――」

 一言文句でも言ってやろうとしたが、イズナの格好を目の当たりにした瞬間、海斗は言葉に詰まってしまった。

「ごめんね。さすがにこの格好に着替えて廊下を歩くのは、恥ずかしかったから……」

 そう口にしたイズナの姿は、白いワイシャツ一枚しか羽織っていなかった。

 これは、そう、あれだ――裸ワイシャツ。

 海斗は開いた口が塞がらず、扉を開けた格好のまま固まってしまった。

 シャツの丈が長いため致命的な箇所までは見えていない。だが、あの大きな尻尾のせいで後ろの裾が捲くり上がっている。
 ほんの少しの動きで、色々と見えてしまいかねない危険な状態であった。

「お、おまっ、なんて格好してるんだ!!」

 バンッ! と勢いよく扉を閉め、声を上げる海斗。

「あ、あまりこっち見ないで、ね」

 恥らうイズナ。湯上りで上気した肌は非常に扇情的で、目の毒である。

 ――というか、そこまで恥ずかしがるなら先ほどの服のままでよかったのではないか?

「いや、男と一緒の部屋でその服はどうなんだ? 下手をすれば、誘っていると勘違いされても文句は言えないぞ」
「さそっ!? そ、そんなつもりはないってば! た、ただあたし、この格好じゃないと落ち着いて寝られなくてっ――!」

 顔を真っ赤に染めてシャツの裾を引っ張り、恥らうその姿は、なんとも艶かしい。
 大きく開いた胸元のせいで、目のやり場に困る。

 大きいとは思っていたが、まさかここまでとは。
 
 ボタンがほんのちょっとの衝撃で弾けそうになっている。

「ええいっ、ならさっさと寝るぞ!」

 時刻は夜の十時すぎ。時計、時間の概念も海斗のいた世界と変わりはない。
 普段なら深夜すぎまで起きている海斗だが、今日はいささか疲れが溜まっていた。少々早いが、別に起きていてもやることもない。

 それに、やはり年頃の少年には、今のイズナの格好は刺激が強すぎる。

「はぁ~……それじゃ俺はこっちのソファに寝かせてもらうから、お前はベッドで寝ろ」

 部屋のソファに身体を向ける。しかし、その間にイズナが割って入ってきた。

「ちょっと待って。そういうわけにはいかないでしょ? だって、カイトも今日は疲れてると思うし、ちゃんとベッドで寝て疲労を取らないと……今日はあたしがそっちで寝るから、カイトがベッドを使って」

 イズナは、海斗に気を遣ってそんなことを言ってくれたのだろう。
 が、海斗にも男としての意地がある。
 いくらなんでも、女性のイズナをソファ、海斗がベッド、というわけにはいかない。

 疲れているのはお互い様だ。

 なら、

「俺はいいから、ベッドはお前が使え。一度は倒れているんだ。疲労はお前のほうがよっぽど溜まっているはずだ」

 そう、イズナはヴァイスリザードとの逃走劇のあとに気絶してしまっていた。

 慣れない環境で海斗にも疲労があるのは認めるところではある。

 しかし、ここはこのケモノ耳の少女に譲るべきだろう。

「でも、それじゃ海斗が――」

 と、ふいにイズナが海斗に近づこうと前に出た瞬間である。
 動いた衝撃で、胸元のボタンが、ピンという音ともに弾け飛んだ。
 そして、連鎖的に他のボタンまでが数個、同じ末路をたどる。

 そうなると、必然的に彼女のシャツの前は、ばっちり開いてしまうわけで、

「「……………………………………………………………………」」

 イズナは無言。

 海斗ももちろん声など出てこない。

 突然の出来事に気をとられながらも、彼女の胸を凝視してしまう。丸い曲線を帯びたお椀形の乳房。その頂点では、淡い桜色の蕾までもが見えてしまっていた。

 幸いボタンが弾けたのは胸元だけで、一番危険な箇所までは、その長い丈がしっかりとガードしてくれいている。だが、

 ――まずい!

 呆気にとられていたのは、ほんの数秒。すぐに思考を引き戻した海斗は、打開策を思案する。しかし、目を隠さず、イズナの胸を注視してしまっているのは男の悲しいさがか。
 
 イズナはゆっくりと自分の胸元に視線を落とし、先程よりもさらに全身を朱に染め、目尻には涙が溜まっていく。

 その瞳が海斗に向けられ、両手はシャツの裾をギュッと握り締めていた。
 今にも泣き出す一歩手前まできているイズナの表情に、いたたまれなくなった海斗は、一言、こんなことを口走った。


「いい加減、隠しらいいんじゃないか……と俺は思うんだが?」

「――――っ!!」

 途端、イズナの目が釣りあがり、バッと胸を両手に抱くようにして隠す。
 しかしその大きさのせいで、腕か胸がはみ出してしまっており、かえっていかがわしく見えてしまう。

「み、み……」
 
 イズナは、顔を俯かせたかと思えば、身体を小刻みに振るわせ始めた。

 瞬間、海斗の脳裏に、目覚めて一発目にお見舞いされた、イズナの鉄拳制裁を思い出す。

「ま、待て! 別に今のは俺、なにも悪くな――」
「見ないでよっ、バカ~~~~~~~~~~~~~!!」

 結局、海斗は最後まで言い訳を口にすることは許されなかった。
 大きな声をあげながら、イズナは胸を腕で隠したまま、大きく足を振り上げる。

 それは、つまり、

「いや、待て! その格好でそれは――」
「問答、無用!」

 ばっきゃぁぁぁぁぁぁん!
 
 海斗の頭部めがけて、強力な上段蹴りが炸裂した。

 ――り、理不尽だ……。

 もはや悲鳴すら上げられず、意識が朦朧とする。

 気を失う一瞬、海斗の視界には、捲れたシャツの隙間から、イズナの見えてはいけない部分までもが、見えてしまった、気がした。

 本日二度目。
 またしても、海斗はイズナによって意識を刈り取られたのだった。
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