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はじまりの夏
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キョウちゃんに連れられてやってきた海岸で、僕はただぼーっとお立ち尽くしていた。
連れてきた本人であるキョウちゃんは漁師の人となにか話があるらしく、僕のことは放りっぱなしである。
ぼんやりと青い海を眺めていると、桟橋が目に入る。
そこには見覚えのある影があって、僕は思わず目を見開いた。
あの影は、オードちゃんだ。
「気になる?」
「え?」
後ろからかかった声は、いつのまに戻ってきたのか、キョウちゃんの声だった。
「めったに海に来ないオードはね、この日になると午前中はぼーっとああしてあそこに座ってるのよ。……気になる?」
「そりゃ、気になるけど……」
「教えてあげようか?」
その言葉に思わず後ろを振り返る。
キョウちゃんは酷く真面目な顔をしていて、僕に問う。
「オードがあそこにいる理由。私が教えてあげようか?」
それに僕はごくりとつばを飲み込んで、教えてと言いかけて、やめた。
「止めておく」
「なんで?」
なんでって?
だって、なにか酷く重要なことな気がするから。
前にグロウも、本人から聞けって、そう言ってた気がする。
「聞くなら、本人から聞かなきゃ」
それになにより、僕がオードちゃんの口から聞きたかったんだと思う。
「……だからノルズはいいんだよなぁ」
それを聞いたキョウちゃんは俯いて、何事かを呟く。
「え?」
小さすぎて聞こえなかったその声が聞き取れなくて聞き返せば、キョウちゃんは首を振った。
「んーん。なんでもない。ほら、聞きたいならいかなきゃ。私は用事が終わったからもう行くねー! じゃあねん!」
そう言い置くと、キョウちゃんはそのまま走り去ってしまって。
海を眺めるオードちゃんと、それを眺める僕だけが海岸に残された。
聞きたい、と思う。
だから足を一歩、前に出して。
桟橋の方へと歩いていって、オードちゃんの後ろに立った。
「海、綺麗だね」
「……ぇ?」
声をかけられるとは思っていなかったのか、オードちゃんの表情はぼんやりとしていて。
あの山から降りてきた日の時のような表情を、もっと酷くしたような表情で。
教えてくれないかもしれない。
きっと、教えてと言って教えてくれるようなことでもない気もする。
けれど、僕が聞きたいから。
オードちゃんの横まで行くと、その横に陣取って座り込む。
それをぼんやりと見ていたオードちゃんは、特に何も言わずにまた海の向こう側へと視線を戻した。
「潮風、気持ちいいね」
「うん」
「ここ、海の底まで見えるんだね。すどく、綺麗だ」
「うん」
そうして、沈黙。
僕はゆらゆらと揺れる海面を見ていた。
じっと、ただそれだけを見てオードちゃんの気配を感じていた。
「……聞かないの?」
先に口を開いたのは、オードちゃんの方。
「聞いてほしいなら」
それに応えるのは、僕の静かな声だ。
「聞きたくないの?」
「聞かせてくれるなら」
「……私のこと、最低だって思うかもしれないよ?」
「オードちゃんのことなら、そんな風に思わないよ」
そうして、また沈黙が落ちて。
ゆらゆらと揺れる水面お向革に、赤や緑の海藻が見えた。
本当に、綺麗な海だとそう思う。
「……私のお母さん、あの海の向こうに居るんだ」
「うん」
「もう、戻ってこないんだ」
「うん」
「あのお父さんが、泣いて、泣いて。驚くほど泣いて、私にごめんなって言ったの。お母さんは、もともと向こうの人だから。この町が合わなかったんだって、そう言って」
「……うん」
「だからね、私は恋なんてしないんだって思ったの。こんなに辛い思いをするのなら、この町に来る人にもこの町にいる人にも。だって、いつか出ていってしまうかもしれない。いつか、お父さん達みたいな別れが来るのかもしれないから」
「うん」
これが、オードちゃんがヒロインじゃなかった理由だったんだ。
そう思うと、すごく腑に落ちた気がする。
とってもいい子で、なんで嫁に出来ないのかっていうバグだなんて言われていたのに、それでも結婚できなかった子。
こんな理由があるのなら、きっと恋はできなかったんだろう。
「よく、恋は落ちるものっていうじゃない?」
「うん」
「あれ、最近少しわかる気がしてきたの」
「うん……うん!?」
「私、気になる人ができたみたい」
「え。えぇええ!」
待って、まさかの恋愛相談!?
やめてください、死んでしまいます。
僕、君のことが大好きなんです。そんな人から恋愛相談とかされたら、僕はどうしていいのかわからないというか死んでしまいますぅ!!!
「その人ね、すごく優しい人で」
「ま、まって」
「毎日一生懸命働いてて、私も見ててすごいなぁって」
「ま、待って! ストップ! これ以上はキョウちゃんに相談したほうがいいよ!」
「え」
「ぼ、僕恋愛経験とか皆無だから! それにそういうのは女の子同士でしたほうが良いと思うから!」
「……ぷっ」
「ふぇ?」
必死に言い訳を並べていると、オードちゃんは急に笑いだして。
ひとしきり笑った後、僕の身体にポスンと身体を預けてくる。
「じゃあ、相談は別の人にする」
「ぜ、是非お願いします……」
その気になる人ってのが誰なのか非常に気になるけど、聞く勇気はないので。
「ノルズくんってさ」
「うん?」
「どーんかん」
そう言ってくすくすと笑われる意味がわからなくて、混乱していると、よいしょと言ってオードちゃんは立ち上がる。
そうして僕の方に手を差し出して、
「さ、そろそろ時間だよ!」
そう言って笑った顔は、とっても眩しかった。
連れてきた本人であるキョウちゃんは漁師の人となにか話があるらしく、僕のことは放りっぱなしである。
ぼんやりと青い海を眺めていると、桟橋が目に入る。
そこには見覚えのある影があって、僕は思わず目を見開いた。
あの影は、オードちゃんだ。
「気になる?」
「え?」
後ろからかかった声は、いつのまに戻ってきたのか、キョウちゃんの声だった。
「めったに海に来ないオードはね、この日になると午前中はぼーっとああしてあそこに座ってるのよ。……気になる?」
「そりゃ、気になるけど……」
「教えてあげようか?」
その言葉に思わず後ろを振り返る。
キョウちゃんは酷く真面目な顔をしていて、僕に問う。
「オードがあそこにいる理由。私が教えてあげようか?」
それに僕はごくりとつばを飲み込んで、教えてと言いかけて、やめた。
「止めておく」
「なんで?」
なんでって?
だって、なにか酷く重要なことな気がするから。
前にグロウも、本人から聞けって、そう言ってた気がする。
「聞くなら、本人から聞かなきゃ」
それになにより、僕がオードちゃんの口から聞きたかったんだと思う。
「……だからノルズはいいんだよなぁ」
それを聞いたキョウちゃんは俯いて、何事かを呟く。
「え?」
小さすぎて聞こえなかったその声が聞き取れなくて聞き返せば、キョウちゃんは首を振った。
「んーん。なんでもない。ほら、聞きたいならいかなきゃ。私は用事が終わったからもう行くねー! じゃあねん!」
そう言い置くと、キョウちゃんはそのまま走り去ってしまって。
海を眺めるオードちゃんと、それを眺める僕だけが海岸に残された。
聞きたい、と思う。
だから足を一歩、前に出して。
桟橋の方へと歩いていって、オードちゃんの後ろに立った。
「海、綺麗だね」
「……ぇ?」
声をかけられるとは思っていなかったのか、オードちゃんの表情はぼんやりとしていて。
あの山から降りてきた日の時のような表情を、もっと酷くしたような表情で。
教えてくれないかもしれない。
きっと、教えてと言って教えてくれるようなことでもない気もする。
けれど、僕が聞きたいから。
オードちゃんの横まで行くと、その横に陣取って座り込む。
それをぼんやりと見ていたオードちゃんは、特に何も言わずにまた海の向こう側へと視線を戻した。
「潮風、気持ちいいね」
「うん」
「ここ、海の底まで見えるんだね。すどく、綺麗だ」
「うん」
そうして、沈黙。
僕はゆらゆらと揺れる海面を見ていた。
じっと、ただそれだけを見てオードちゃんの気配を感じていた。
「……聞かないの?」
先に口を開いたのは、オードちゃんの方。
「聞いてほしいなら」
それに応えるのは、僕の静かな声だ。
「聞きたくないの?」
「聞かせてくれるなら」
「……私のこと、最低だって思うかもしれないよ?」
「オードちゃんのことなら、そんな風に思わないよ」
そうして、また沈黙が落ちて。
ゆらゆらと揺れる水面お向革に、赤や緑の海藻が見えた。
本当に、綺麗な海だとそう思う。
「……私のお母さん、あの海の向こうに居るんだ」
「うん」
「もう、戻ってこないんだ」
「うん」
「あのお父さんが、泣いて、泣いて。驚くほど泣いて、私にごめんなって言ったの。お母さんは、もともと向こうの人だから。この町が合わなかったんだって、そう言って」
「……うん」
「だからね、私は恋なんてしないんだって思ったの。こんなに辛い思いをするのなら、この町に来る人にもこの町にいる人にも。だって、いつか出ていってしまうかもしれない。いつか、お父さん達みたいな別れが来るのかもしれないから」
「うん」
これが、オードちゃんがヒロインじゃなかった理由だったんだ。
そう思うと、すごく腑に落ちた気がする。
とってもいい子で、なんで嫁に出来ないのかっていうバグだなんて言われていたのに、それでも結婚できなかった子。
こんな理由があるのなら、きっと恋はできなかったんだろう。
「よく、恋は落ちるものっていうじゃない?」
「うん」
「あれ、最近少しわかる気がしてきたの」
「うん……うん!?」
「私、気になる人ができたみたい」
「え。えぇええ!」
待って、まさかの恋愛相談!?
やめてください、死んでしまいます。
僕、君のことが大好きなんです。そんな人から恋愛相談とかされたら、僕はどうしていいのかわからないというか死んでしまいますぅ!!!
「その人ね、すごく優しい人で」
「ま、まって」
「毎日一生懸命働いてて、私も見ててすごいなぁって」
「ま、待って! ストップ! これ以上はキョウちゃんに相談したほうがいいよ!」
「え」
「ぼ、僕恋愛経験とか皆無だから! それにそういうのは女の子同士でしたほうが良いと思うから!」
「……ぷっ」
「ふぇ?」
必死に言い訳を並べていると、オードちゃんは急に笑いだして。
ひとしきり笑った後、僕の身体にポスンと身体を預けてくる。
「じゃあ、相談は別の人にする」
「ぜ、是非お願いします……」
その気になる人ってのが誰なのか非常に気になるけど、聞く勇気はないので。
「ノルズくんってさ」
「うん?」
「どーんかん」
そう言ってくすくすと笑われる意味がわからなくて、混乱していると、よいしょと言ってオードちゃんは立ち上がる。
そうして僕の方に手を差し出して、
「さ、そろそろ時間だよ!」
そう言って笑った顔は、とっても眩しかった。
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