農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじまりの夏

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 夜の闇が迫る海は、真っ暗で何も見えなくなる。

 煌めく星たちが徐々に顔を出し始める中、僕とオードちゃんはふたりでぼんやりと桟橋に立ち尽くしていた。

「……えっと、とりあえず戻る?」
「…………」
 気まずい空気の中勇気を出してそう言えば、返ってきたのは沈黙で。
 これはまずいと本格的に思い始めた時、ちょいと服の裾をオードちゃんが引っ張って。
「こっち」
 そうして引っ張られるままに、僕らは二人で桟橋の一番先まで歩いていく。
「ここ、穴場なんだ。去年までは、キョウと二人で座ってみてた」
 そうしてオードちゃんは桟橋の先の方に座り込むと、ちょいちょいと隣を指差す。
 それに促されるままに僕も座ってみると、おもったよりも狭くてオードちゃんとの距離がすごく近い。具体的には、拳ひとつ分くらいの距離しかない。
「そんなにちっちゃくならなくていいよ」
 精一杯ちっちゃくなろうと頑張っていると、オードちゃんがクスクスと笑いながらそう言ってくる。
「で、でもすごく近いから……ぼ、僕多分汗臭いし……」
「大丈夫、気にならないから」
 そう言ってくれるならと身体から力を抜くと、こつんとオードちゃんの肩と僕の肩がぶつかって。
 どくんどくんと高鳴る胸が、周りの音を聞こえなくさせてしまう。
「ノルズくん」
「は、はい!」
 それなのに、オードちゃんの声はしっかりと聞こえて。
「最近、変な態度とってごめんなさい」
「へ? あ、いや、そ、そんなに気にしてないよ!?」
  あ、嘘だってこれはバレてる。
 なら、本当のことを言っておいたほうがいいかもしれない……。
「あ、いや……本当はちょっとだけ嫌われたかなぁって思ってたかもだけど……」
「嫌ってないよ!」
「わわっ! お、オードちゃん落ち着いて! 落ちちゃうから!」
「あ、ご、ごめん」
 それからしんと、会話が途切れる。
 間をもたせられなくて、僕はただ花火が始まるのを待っていた。
「……その、ね」
「え? あ、うん」
 それでもオードちゃんの方は違ったようで、一生懸命に何かを伝えようとしてくれてたことだけは伝わってきて。
「例の、気になる人の話なんだけど」
 まさかのここで聞きたくもない恋バナでしたかぁ!
 思わず叫びたくなるけれども、オードちゃんの声がすごく弱々しくてそんな事をしてる場合ではなくて。
「う……ん……」
 どうにか声を出して、続きを聞こうと覚悟を決めた。
「その人と、上手く話せなくなっちゃって」
「うん」
「どう接していいか、わかんなくなっちゃってさ」
「うん。……うん?」
「だから最近、全然うまくできなくて!」
 うぅ~ん? 何か、すごく都合のいいように聞こえてきたぞ?
 気のせいか、オードちゃんの僕への態度のような気がしてくる。
 多分気のせいだけど、おそらく気のせいだけど。
「だから、ごめんね。今更言っても、仕方ないことかもしれないけれど」
「…………うんー!?」
 え、これってやっぱり僕のことですか!? 僕のことでいいんでしょうか!?
「ノ、ノルズくん?」
「え、待って。僕今すごく混乱してて。だってなんか、それってなんか、僕のことみたいに聞こえちゃう都合の良い耳を僕手に入れちゃったみたいで、おかしくなちゃっててー」
「ノ、ノルズくん一気にそんなにしゃべんなくても」
「だってそれだとなんか、なんかおかしいというかまさか本当に!? みたいな気持ちになっちゃうから! って、あ、そっか。冗談か。冗談だよね、ごめんね、本気にしちゃって変なこと言って!」
「じょ、冗談じゃないよ!」
「へ?」
「冗談じゃないんだよ、ノルズくん。だから、私、その……」
 えっと、つまり。
 これは、つまり?

 多分、両思いだってことで合ってるよね!?

「す、好きです!!!」

 目を瞑って、思いのたけを叫ぶ。
 今までずっと心の中で叫んでいたことを、声に出して。

「出会った瞬間から好きだって思ってました! 一目惚れでした! 僕と付き合ってくださいぃぃ!」

 夜空に響くほどに、大きな声で。

 それから恐る恐る、オードちゃんの方を向いて。
 目を合わせるのが怖くて、胸元から上へ順に上を向いていって、目を開ければ。
 真っ赤に染まったオードちゃんの顔がそこには合って、目が合って。

「……はい」

 そう、オードちゃんの唇が動くのをきちんと確認できて。

 思いが届くって、こんなにすごい事なんだって初めて思った。
 胸がギュンギュン締め付けられて、そこから涙が溢れてきそうで。
 それを必死にこらえていたら、バーンっと大きく花火が夜の海に咲く。

 おめでとうって言われてるみたいな気がして、やっぱりもう我慢できなくなって。
 馬鹿みたいに唇をかみしめて涙をこらえていたら、オードちゃんがゆっくりと微笑んだ。
 それでもう限界で、涙がぼろぼろと出てきて、止まらなくなって。

「ノルズくん、そこ、泣くとこ?」
「だ、だってまさか本当に好きになってもらえるだなんて思ってなくて……。つ、付き合ってくれるだなんてそんなの夢みたいで……って、そうか、これ夢?」
「夢じゃないなよ。だって、ほら」
 そう言って、オードちゃんは僕の手を握ってくれて。

「こんなに、あったかいもの」

 そう言って、ぽすんっと、僕に身体を預けてくれた。

「あれ?」
 そうして幸せを噛み締めていると、オードちゃんが首を傾げる。
「じゃあ、さっきのキョウのことって……」
「キョウちゃん? ああ、新築祝いをくれたんだよ。だから、ありがとうって」
「……そっか。そっかー。そういうことかぁ……」
 そうして一人で納得して、オードちゃんは僕の腕にすり寄ってくる。
 え、心臓飛び出しそうなんだけど!!!
「オ、オードちゃん!?」
「ごめんね、今はちょっと腕を貸して」
「す、好きなだけどうぞ!」
 そう言ってからしばらくそうしていたけれど、じんわりとあたたかくというか冷たくなっていく服の感触。
 なんで泣いているのかわからないけれども、ここは抱きしめてあげるべきなのかなとなんとなく心の中の手がワキワキと動き出す。
 でもなんかそれは違う気がして、今はただ黙って花火を見ていよう。
 オードちゃんの気の済むまでそうしてから、手を繋いで帰ろうってそう思うんだ。
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