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はじめての秋

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 次の日、温泉卵デートが終わってから牧場に戻ると、グロウが立っていた。

「グロウ!」
「よう!」
「よう! じゃないよ! グロウがいない間大変だったんだからね!」
「なんだ? オードと喧嘩でもしたか?」
「うぐっ」
「図星かよ」
 そんなやり取りをしながら、グロウの持ってきた鉱石類を家の中に詰める。
「取ってきすぎじゃない?」
「これは倉庫の増設が必要な量だな」
 悪気もなく家の四分の一くらいが埋まったところを見て、グロウがそう言う。
「というかもう、グロウの作業用の家の一つでも作っちゃったらいいんじゃないの?」
 何の気なしにそう言えば、それだと言わんばかりにグロウは目を輝かせる。
「鶏小屋を増築するだろう? で、その横にはスペースが余る。そこに俺の作業部屋を建てちまえばいいんだ!」
「鶏小屋の増築は前からお願いしてたけど……本気?! いったいどのくらいかかるのさ!」
「俺が本気でやれば三日で出来る」
「またそういう大口を叩く……」
 あきれつつも僕は作業に戻っていって、グロウはそのまま家で設計図を書き始めた様子だった。
 いやまあ、別にいいんだけどね。

  作業をしているとオードちゃんがお弁当を持ってやってきた。
 シートを敷いていつものお昼タイム。
「え、グロウが帰ってきたの? グロウの分までお弁当持ってきてないや」
「てことは酒場には戻らずまっすぐうちに来たんだね。グロウの奴のお昼は別にいいよ。バタタールでも食べさせておくから」
「ごめんねー。明日からは用意するから」
 そんなやり取りをして昼食を終えると、丁度グロウが出てくるところだった。

「グロウ! 帰ってきたなら酒場に顔だしてよー。こっちは料金貰ってるんだから、お弁当持ってこなくちゃだったじゃない」
「あー、すまんすまん。忘れてたわ。まあ明日からはまた頼むわ」
「了解。部屋はいつでも使えるようにしてあるから、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
 そんな二人の会話はなにか夫婦っぽくて妬けてくる。ちゃんと帰ってくるんだよ、なんて僕も言われてみたいんだけどなぁ……。

「にしても、お前らも進展あったみたいだな。付き合うってなんだろー? とか言ってた頃が懐かしいレベルだぜ」
 そう言って僕らの恋人繋ぎをした手を見ると、にやにやとグロウは茶化してくる。
「そ、そういうとこばっか気づく! ああもう、んじゃ納品に行ってくるからね」
「ほいほい、んじゃいってらー」

「……なんだかグロウ、様子がおかしくない?」
「え? 何が?」
 酒場への道中、オードちゃんのその言葉に僕は首をかしげる。
 はて、何かいつもと違うことなんてあっただろうか?
「僕にはいつも通りに見えたけれども」
「そう? なら、いいんだけど……」
 そうして僕らはそれきりグロウの話題をやめ、いつも通り酒場へと向かうのだった。
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